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66 困った
しおりを挟む-- エリオット --
まったくなんなんだ!
調子が狂い始めたのはハルとの生活が始まってからだ。
兄様に纏わりつく女は皆、兄様を見ていない。
実際僕が近づくと侯爵家の跡取りである僕に乗り換える女ばかりだった。
兄様は顔がよくて頭が良く才能もありそれに見合ったかなりの額の報酬ももらっている。
ただ……侯爵家を継ぐことはない。
だから結婚相手の予備として近づく貴族の令嬢は多い。
兄様は仕事ばかりで結婚には興味が無さそうだからいざというときに僕が厳しく見極めないといけない。
贅沢にしか興味のないくだらない考えのくだらない令嬢と一緒にはさせられない。
まぁ、僕がふるいにかけると一人も残らないのだけれど。
ハルと生活をしている兄様は……幸せそうだ。
けれどもハルは得体の知れない人間の女だ。
魔族との繋がり……森での生活……隠していることは少なからずあるのだろう……
ただ……よくわからない……
貴族が腹の中で何を考えているのかはわかる。
試行錯誤して結局は自分の利益になることしか考えていないのだから。
ハルは……ハルに隠し事をされても……なんだろう……考えが浅い、というか深い意味がないような気がする。
本当にただ言いたくない……か、今は言えない、というようなただそれだけ……自分というより誰かのために黙っているような。
目の前でフラフラと酔っぱらいながら僕の頭を撫でるハルを睨む。
酒…………弱すぎだろう!?
酒は好きだと言っていなかったか?
兄様はグラスにほんの少ししか注いでいないし……それも飲みきってはいない。
酒で本性が現れる奴は多い。
ちょうどいいから様子を見て兄様を傷付けるようなことを言ったら……もうここへは来られないようにしよう。
そう思っていたのに……
ヘラヘラと笑いながら僕のことを可愛いと……兄様思いのいい弟だと……
他意のないその言葉に手を払えなくなる。
それどころか……兄様とハルとの生活をいつの間にか楽しく感じていることに気付かされる……
堪らず兄様に助けを求めると今度は兄様の元へ……
そして……これまで誰も兄様に掛けなかった言葉を……ハルはサラリと口にした。
それから僕のように……何だって?
思わず肩を掴もうとする僕の手とそれを止めようと伸ばした兄様の手を握るハル……
「うん、ごめんね。ただ……二人には幸せになって欲しぃ…………」
それだけ言うと身体の力が抜けて…………
兄様がハルを二階へ運んでいる間に考える。
一体どういう人間なんだハルは……
他の人間とは何かが違う気がするが……それがいいことなのかどうなのか……
魔族との繋がりはおそらくある。
僕達兄弟の秘密も知っているが誰にも話してはいないようだ。
それから……なぜか魔道具をあまり使わない……というか使い忘れている?
使った方が早いと言うとハッとしてそれから……そうだよね、と言い、でももう終わるから、と少し困ったように笑う。
同じようなことが何度かあり、その度に魔力の節約だとか身体を動かしたいからと言う。
別にハルが魔力を補充しているわけではないのに……
魔道具を使うことに少し抵抗があるように感じるのは気のせいか……
今日の茶会は……心底行きたくなさそうだったが……
帰り道ではメイドと友達になれたと喜んでいた。
思わず吹き出してしまったが……
王妃と話せただとか貴族の令嬢に名前を覚えてもらっただとかくだらない話をされるかと思っていたから予想外過ぎて笑ってしまった。
少し気を悪くしたようだが兄様にドレス姿を褒められて照れている……単純なヤツ……
と、また笑ってしまいそうになる。
僕は兄様と僕が安心して笑って暮らせる場所を作りたいと思っているが……
その中にハルを入れてやってもいいかもしれないと思い始めている……兄様が喜びそうだから。
これまで考えたことがなかった……というか、これまでそういう気配が兄様になかったから……
もし、兄様に大切に思えるような人が現れたら僕は……
困ったな……そんな人が兄様にできたら僕はどうすればいいのかわからない。
そんなことを考えていると……ふと二階へハルを運んでいった兄様の戻りが遅いことに気がついた。
まさかハルが兄様をっ……
立ち上がりかけたとき、兄様が階段を下りてきた。
何か考え事をしているのか様子が少し……
兄様はそのまま休むと言ってまた二階へ戻って言った。
気になったが…………仕方がないから僕も部屋へ戻り兄様から借りた本を読む。
最近少し趣味が変わった兄様の本を読みながら……
いつの間にか眠ってしまっていた……
-- ルウ --
困ったな…………
あの男には……ハルを閉じ込めるようなことはしないと言ったが…………
閉じ込めたい。
僕の腕の中でスヤスヤと眠るハルを見てついそう思ってしまう。
外では酒は飲まないようにと言ったのに……
楽しい夢を見ているのかときどきクスクスと笑うハル。
どんな酒かも知らずに口にするなんて……
この……警戒心の無さ……
ハルのいた世界に男はいなかったのか?
……いや、一緒に風呂に入るときに恥ずかしそうにしているし僕の身体も見ている。
自制心が強いとかその辺の違いはあるのかも知れないけれど……きっとハルは危険な目にあったことがないか、そういう心配のいらない世界だったのかもしれない。
今夜……帰ってくるのがいつもより遅いから様子を見に行ってよかった。
エイダン……僕のハルに……
イライラと胸のざわめきをハルの頬に触れて落ち着かせる。
エイダンは僕が止めなくてもハルから離れてはいたが……次はどうなるかわからない。
エイダンだけではない……他にもこういう奴は出てくるだろう。
閉じ込めて……甘やかして……僕無しではいられないほどの快楽に溺れさせ…………
クスクスと笑うハルに思考を遮られる。
僕がそんなことをしてもハルは今と同じように……
……笑ってはくれないだろうな。
ハルを守りたいはずなのに酷いことを考えてしまう自分が嫌になる。
今日みたいなことがあると特に……今だってほら……
眠っているハルに口付けをする……
耳たぶを食み首筋に舌を這わせると甘い声とともに唇が薄く開く。
そこへ舌を滑り込ませ深い口付けを何度もする。
ドレスを緩めあらわになった胸元に唇を這わせるとハルの身体が反応する。
めくれたドレスの裾から酒で火照った肌に触れ……
そのまま進み太ももに触れさらに進むと……
甘い声が大きくなる……
ここまでくるとハルが目を冷まして嫌がっても止めてあげられる自信はない。
そんな危険な妄想をしている男の隣で何も知らずに眠るハル。
まぁ、僕にはそのくらい警戒心がなくてもいいのだが、やはり他の……特に男にはもう少し警戒心を持って貰わないと……
ハルを守る魔法は完璧ではない……僕の治癒魔法だって効かない……それが怖い……僕は怖いんだよハル。
たったあれだけの傷で熱を出して寝込んでしまう……
警戒心がないから薬だって簡単に盛られてしまう……
他のみんなもそう思っているはずだから少し協力して貰おうか……
危機感を持つということをハルにわかってもらわないと……
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