七人の魔族と森の小さな家

サイカ

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 ミア…………?


フワリ……と目の前の空気が揺れて……

「ミア? ミアなのか!?」

王様が立ち上がり喜んでいる。

「ミア! こちらを向いてくれ! 成長していてもわかるよ! 私のミア!」

ミアは王様の言葉を無視して……

私の目の前で微笑んで……私の頬を両手で優しく包む。

「ミア……私っ……何もできなくて……」

ミアが私の涙にそっと触れる。

「みんなが……ここに閉じ込められるなら……私も一緒にいるっ……」

悔しいけれど……私にはこれしか……

それなのにミアは目を見開いてから頬を染めて嬉しそうに笑う。

「ハル……大好き」

そう言って私の頬に口付けを……

ミアの後ろから王様が何か言いながらこちらへ向かってきているのが見えるけれど……ミアはずっと無視をしている。

「ハル」

今度は背中にそっと触れられ……後ろから抱き締められる。

ルウ……ルウに包み込まれると安心する……
ホッとして涙が溢れて……

「ルウッ……ごめんなさい……私……何も知らなくて……」

謝らないで、と私を抱き締めたまま優しく囁く……

「今まで何も……私……みんなにちゃんと聞かなかった……」

ルウの腕に少しだけ力が入る。

「ハルと出会う前のことだ。それに……何も知らなくてもハルは僕達を救ってくれたんだよ」

だから……

「泣かないで……ごめん。こんなはずじゃ……」

と……ルウが謝ることなんて何もないのに……

「だからね、ハル……」

温かいルウの魔力が流れてくる……

「今は眠って……目が覚めたら全て片付いているから」

片……付い……て……

ルウが流す魔力の温かさと抱き締められる安心感……

そしてルウのその言葉を聞いて……


私はゆっくりと目を閉じた…………



-- ミア --


 死ぬはずだった……

搾取され続け身体も汚され……
それだけが生きている限り続いていくものだと思っていた。

やめて 助けて 痛い 苦しい 殺して……

私達の言葉が誰かに届いたことはない。
本当にもう耐えられないと涙を流せば彼らを余計に興奮させる。


ルシエルの片方のマカラシャをみんなで壊して彼が出ていった後は酷いものだった……

乱暴に尋問され凌辱され……みんなもう出ないと思っていた悲鳴が出たほどだ……

私のところへくるこの国の王子だという男は、ルシエルがいなくなってから毎晩、私に口移しで酒を飲ませるようになった。

「あぁミア、可愛いね。ほら……私が流し込んだ酒で肌が染まっていく」 

小さな身体には強すぎる酒……

「ミアの全ては私のものだよ」

好きにすればいい……
汚いこの身体は汚いこの男にお似合いだ。

何度も酒を流し込まれ何度もルシエルがどうやって出ていったのか……どこにいるのかと聞かれた。

知らない 知らない 知らない どうでもいい

吐き気のするこの時間を人形のようにやり過ごす。

「……ミア……大丈夫……?」

全てが終わり人間がいなくなるとロゼッタが私の側へくる。

自分も酷い目にあっているのにいつも……
私がみんなより身体が小さいからか……同性だからか……

私は毎回ただ頷くだけ……

大丈夫なわけはないのに毎回そう聞いてくるロゼッタと頷く私。

これが私の日常だった……死ぬまで続くはずだった日常……

あの日、ルシエルが戻ってくるまでは。

険しい表情で何の説明もなく私達を城から連れ出して……

もうボロボロの私達を連れ出して何の意味があるのだろうと思ったけれど……ここ以外で死ねるのならどこへ連れていかれようとどうでもいいと思った。

連れてこられたのは森の中の小さな家で……中には人間の女が一人……

ルシエルがその人を助けてくれ、と。

確かに具合が悪そうで……
信じられないことに治癒魔法が効かないと……それなら私達にできることはない。

けれどもルシエルは必死で……
彼女がマカラシャを外したと……彼女を助けて試してみろと言った。

ルシエルのマカラシャが外れているのを見たけれど、みんなは半信半疑だった。

もしレトの作った薬草で彼女が回復をしても、マカラシャを外せなかったら彼女は私達に殺されて私達も死ぬだけ……

そうなる前に私が死ぬかもしれない……

「私……もう……もたないかも……」

私の言葉に彼女が目を覚ます……

「大……丈夫……?」

驚いた……私に言ったの……?

そこからは驚きの連続で……本当に……本当にハルは私の両足首のマカラシャをまるでアクセサリーを外すかのようにあっさりと……

泣き出す私に……なんで!? と慌てるハルは、その後ロゼッタと他のみんなのマカラシャも外してくれた。

「綺麗な髪ね……」

髪を乾かしてもらったことなんてなかった。
本当は誰かに触られるのなんてもう嫌だったけれど……

暖かい暖炉の前のフカフカのラグに座って……

知らなかった……こんなに優しい時間があるなんて……

チラッとハルを見上げると……
なぜか抱き締められて……それが心地よくて……

優しい手……

髪にリボンを結んでくれたり
そっと抱き締めてくれたり
クリームを塗ってくれたり
おいしい食事とおやつを作ってくれたり

全部……全部初めてで……

私達が本当は子供じゃないと知っているはずなのにすごく優しくて……

夜……

誰かがうなされている声で目が覚めた。
目の前には柔らかい何か……

「大丈夫……大丈夫だよ……」

私を抱き締めて背中をトントンとしながらそう囁くハルの声が聞こえて……うなされていたのが自分だと気がついた。

ハルの柔らかい胸に顔を埋めてさっきの夢が現実ではなくてよかった……と涙が溢れる。

お城に閉じ込められていたときは現実の方が酷かったのに……


こうなってくるとみんなが邪魔に思えてくる。

ごめんね、ハル……

みんなも気づいているけれど、人間が思っている魔族に一番近いのは私。

けれどもハルと生活しているうちに変わったこともある。

ハルがいればいい、ハルをひとり占めしたい……

二人だけでどこかへ行くか周りを消して二人だけになるか……そういう衝動を押さえられるようになった。

ハルが大切に思っている人達には抑えがきくようになった。

だからみんなを消したりなんかしないし、エイダンだって……

エイダン……あの男……何度ハルのお陰で命拾いをしているかわからせた方がいいと思った。

ロゼッタには止められたけれど姿を消してエイダンの家に招かれたらしいハルの様子を見に行った。

見に行ってよかった……
すぐに人を信用してしまうハルがすごく可愛い……

ハルはそのままでいい、エイダンを変えなければ。
殺したりはしないけれど少しだけ怖がらせた。

気持ち良さそうに眠るハルを私のベッドに寝かせてくっついて眠った。

ハルは私が纏わりついても振りほどいたりすることはない。大人の姿に戻った今でも……

今はハルの方が身長が低いから私にくっつかれるとかなり動きにくいとわかってはいるのだけれど……ハルとは隙間なくくっついていたい。

「ハルは……何か欲しいものはないの?」

街へは何度か行っているのにいつまでもサイズの合っていない服を着ているハルに聞いたことがあった。

「欲しいもの? たくさんあるよ」

優先順位を決めないと、と……そんなにあるとは知らなかった……

「ドライフルーツとかナッツとかあればおやつのアレンジも増えるし、スパイスもあればなぁ」

食べ物…………みんなの……

「あとはみんなの服とかも、ちゃんと好みに合うものを揃えてあげたいし、何か足りないものとかない? 欲しいものもあったら教えてね」

ハルの欲しいものを聞いたのに結局みんなのためのもの……

ハルはいつも当たり前のように自分のことよりも私達を優先してくれる。

そして魔力のある私達をあまり頼ってはくれない。

「もともと魔力のない世界から来たからね。でもどうしようもない時は頼らせてもらっているし、助かっているよ」

ありがとう、とハルは笑うけれどもっともっと……
私なしではいられない……と思って欲しい。


「ミア! あぁ……私の可愛いミア! さぁ、抱き締めてあげるよ!」

後ろがうるさい。

さて……

ここ最近は過去のことなんてどうでもよくなっていたのに

……まったく……

もっとハルを見ていたいけれど仕方がなくゆっくりと振り返る。

私のハルを泣かせたこの人間達をどうしようかな。


人間が思っている魔族なんて優しいくらいかも……

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