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しおりを挟む魔王様とエイダンが……
みんなを差し出したの……?
魔王様とは魔王城では会ったことがなかったけれど、みんなとは親しいのではなかったの?
それほど王妃様のことを……
エイダンもさっきまで一緒にいたのに何も言っていなかった。
マカラシャを……魔道具の研究ってマカラシャのことだったの……
これは……悪い夢……?
「私が魔王国の王妃になったらこのくだらないやり取りも終わりね」
くだらないやり取り……
「これからは私が主導権を握るわよ」
王様は王妃様の言葉に驚くこともなく
「この国も民も好きにしてくれていいが、私とミアが住むあの土地にだけは手を出さず守るということだけは約束してくれ」
……王様がこんなにも簡単に国を……民を捨てるなんて……
「わかっているわ。これから忙しくなるわね」
あの……
「あのっ! お願いします……みんなをそっとしておいてください……」
王様と王妃様がこちらを見ている……
「どうして? ……あぁ……貴女、私が思っているよりも親しいのね」
今さらどうでもいいのだけれど、と王妃様が笑う。
「あの子供達は……あら? そういえばマカラシャが外れているということは成長しているのかしら」
そう……みんな優しくて素敵な大人の姿になっている……
王様が頷き
「そうだね。だがここにくればまた小さくて弱い、皆に愛される可愛い姿に戻るだろう」
王妃様が王様の言葉に理解できないわ、と顔をしかめる。
またみんなの魔力を無理矢理……
「お……お願いだから……そんなことしないで……くださいっ」
どうして……魔力は提供すると……提供するってルウは言っているのに……
「魔族が提供すると言っている魔力は貴族が節約をしてようやく平民が不自由なく暮らせる程度のものだ」
……そんなに……ルウ達は大丈夫なの……?
「だから足りないのだよ」
え?
「貴族の生活には金も魔力もかかる。私もいい加減彼らの不満を聞くのにはうんざりだからね」
貴族が贅沢に暮らすためにこんなことを……
王妃様がため息をつく。
「貴女、泣いてばかりね。何もできなくて悔しい? 仕方がないわよ、私とは違って貴女には何もないのだもの」
努力が足りないのよ、と呆れたように私を見てから微笑む王妃様。
「こんな話を聞きたくなければ、もう二度と私に嘘はつかないことね」
言っておくけど、と続けて
「これは私に嘘をついた罰ではないわ、忠告よ。貴女にはどうやって魔族を手懐けたのか聞きたいし、このお城からあの子達がどうやって逃げたのかも聞いておかないと」
そのために呼んだのだから、と私から王様に視線を移す。
「そうだね、教えてくれるかな?」
王様がこちらを見て微笑む。
「…………っ」
涙が止まらない……何か言わなくては……
魔族も人間も……今までこの世界にはみんなを思ってくれる人はいなかったの……?
「……私のことを……お……お話するので……みんなを閉じ込めたりしないでっ……ください……」
私の言葉に首を傾げる王様。
「君はわかっていないね。彼らにとってもここは安全な場所なのだよ」
そんなはずはない。
逃げ出したくなる場所だ……ここから離れても夜……うなされるような……
「魔力を抜かれると人間の子供のように弱くなるからね。外では生きていけない」
ここは彼らの家なのだよ、と……
違う……ここじゃない。
みんなの……私達の家は……こんなところじゃない。
森の中の古くて小さな家と新しくて大きな家。
どちらも行ったり来たり……ほとんど私が入り浸っているけれど……
庭にはアオが遊びにきたりして……
みんないつも温かく迎えてくれる。
「そうだ、君もしばらくはここに住むのはどうだろう。そうすれば彼らと一緒にいられるし、君も使用人達に可愛がってもらえるのではないかな」
冗談じゃない。
私はみんなと森の家に帰る。
王様が隣の部屋へ続くドアをみる。
「入っていいぞ」
そう言うと十数人の……使用人が入ってきた。
入ってきて……品定めをするように私を見ている……
「彼らは魔族に特に親切な者達だよ。彼らのことを知れば君も安心するだろうし……ずっとここにいたくなるかもしれないよ」
この人達が……
そんなことにはならない……ここはみんなを近づけたくない場所で……この人達にも近づいて欲しくない。
「陛下、彼女は一体……」
使用人の一人が聞く。
「彼女がいればあの子達が何でも言うことを聞いてくれるかもしれないよ」
と笑う王様……
そんな風に使われるのは絶対に嫌だ……
「陛下……それは……」
と戸惑いながら
「抵抗されるのがいいのではないですか。大人しくされてはつまらないですよ」
鳥肌の立つ言葉を吐きながらクスクスと上品に笑う使用人達にゾッとする……
「それにもしかして彼女は……バイドルフ侯爵家のエイダン様の……」
別の使用人が少し遠慮がちに口を開く……
「おっと、そうだったね」
と王様が……エイダンの……なに……?
「でも今なら、ここで何をしても外には漏れない」
王様のこの言葉に……王妃様は欠伸をして興味がない様子……
この人達は……
「皆さんは……あの……もう……もう彼らに関わらないでください」
泣きながら何を言っているんだ、と誰かが笑う。
「お……お願い……お願いしますっ」
私はみんなに守られてばかりだった……こんなの酷すぎる……
これだけの人がいたのに誰も止めようと……おかしいと思わなかったの……
「私の大切な……大切な人達なんです、お願いだから……」
使用人達が顔を見合せる。
「そうだったのか……それは……申し訳ないことをした……それなら……」
と申し訳なさそうに言い……
「それなら……その大切な人達のために、君はどんなことをしてくれるのかな?」
そう言って吹き出す使用人達……
私が何を言っても変わってはくれないのだろう……
さぁ、どうなんだ? と私に手を伸ばしてくる……
怖い……っ
止めてくれる人は誰も……いない……
王様と王妃様は話をしていて……もうこちらを見てもいない……
私が後ずさりをすると下品に笑いながらゆっくりと近づいてくる。
こんな恐怖を何年も……そう思うとまた……涙が溢れる。
けれどもその涙はここにいる人達を喜ばせるだけで……やっぱり誰も止めようとはしなかった。
「わ、私に手を出す前に約束してくださいっ……みんなには……絶対にもう関わらないと」
近づいてきていた一人がため息をつく。
「申し訳ないが、君では彼らの代わりにはちょっと……足りないかな」
そう言うと別の誰かが
「いやいや、もちろん約束するよ。君がしっかりと頑張ってくれるならね」
その後に目の前で……と笑いながらコソコソと……
ダメだ……何を言っても……お願いしてもダメなのだ……
悲しい……自分の言葉が届かないことがこんなに悲しくて悔しいなんて……
ふと……視界の端で王様と王妃様がドアの方を向いた気がした。
恐怖でノックの音が聞こえなかったのか……突然ドアが開いたような気がした。
目の前の使用人達も一斉にそちらを見ている。
「失礼するよ」
髪をかき上げながら入ってきたのは……
「魔王……いいえ……アーデルハイト様っ」
王妃様が頬を染めて立ち上がる。
王様は座ったまま、表情は変わらない。
使用人達は驚いて後ろへ下がり魔王様は……
魔王様は私を見て眉をひそめる……
「ここで何をしている」
あぁ、と王様が口を開き
「彼女のことは気にしないでくれ」
と言い使用人に目配せをする。
「なぜ、泣いている」
王様の言葉を無視して魔王様が私に聞いてくる。
「アーデルハイト様、彼女のことは気になさらないで。それよりも私と」
「黙れ」
低く……静かに響く声……
私を見つめたまま王妃様の言葉を遮る魔王様……
「何にせよ、お前達が泣かせたのだな」
ようやく私から視線を外し全員を見て、バカなことをと呟き……
「あーあ……ミアを怒らせたな」
と、髪をかき上げながら……
ん? ミア…………?
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