異世界転移の……説明なし!

サイカ

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36 ノシュカト


 寒い 

いや……熱いのか……

雨が降り続いている

どれくらい気を失っていたのか辺りは暗くなっている

痛みが増している

恐らく熱が出始めているのだろう

動く事が出来ない

僕はここまでなのだろうか

悔しい

こんな密猟者の罠で

動物達の本当の気持ちが今ならわかる

こんな…………


涙が溢れるが拭うことも出来ない


また意識が遠のく…………


………………………………


再び意識が戻った時、雨は降り続いていたが周りが見えるほど明るくなっていた。

穴の入口で何かが動いている。
声を出そうとしたが出ない。

喉が渇いた。


ポトリ ポトリ


何かが顔の近くに落ちてきた。

よく見ると木の実と果実だ。

そうか……キツネ達が持って来てくれたのか。

人間が仕掛けた罠で痛い目にあったのに……

その純粋さにまた涙がでる。

木の実の他に、麻酔作用のあるムカの葉も数枚ある。

どうにか顔を動かし近くに落ちた木苺をいくつか口に含む。

ジュワリと果汁が口に広がる。

泥も口に含んでしまったが美味しかった。

しばらくすると少しだけ腕を動かせるようになった。
ムカの葉を手に取り槍の刺さった太ももの上で握りしめると葉っぱから液体が流れ太ももにかかる。

痛みが引いていく。

また少し木の実を口にする。食べなければ。

身体を起こせるようになったので足首にもムカの葉の液をかける。
足首は腫れ上がっていた……やはり折れているらしい。

ムカの葉数枚の液ではそう長い時間効き目はないだろうが今はとりあえず、痛みは引いた……

少し楽になると再び強い眠気が襲ってくる。

太ももからの出血もあるので眠ってはいけない気がするが目を開けていられない。

キツネ達の気配がする。心配してくれているのか。

少しだけ眠ろう…………少しだけ…………


………………………………


 熱い

雨は相変わらず降り続いている。

穴に落ちてからどれくらい経っているのだろう。
どれだけ意識を失っているかわからないから数時間なのか数日経っているのかもわからない。

穴には木の実とムカの葉が増えている。

意識を失う感覚が早くなっている気がする。

僕の右足……感覚が失くなってきた。色も黒っぽくなってきている。右足は恐らく失う事になりそうだ。

皆心配しているだろうな……迷惑をかけてしまい申し訳ない。

ノヴァルト兄上は冷静に指示を出してくれるだろう。

ノクト兄上は少し無茶をするかもしれないが、ノヴァルト兄上の指示に従うだろう。
無茶をしてケガ人を出すと僕が気に病むこともノクト兄上はわかってくれているから。

家族はいつもちゃんと言葉で僕に伝えてくれていた。
誉めてくれた時は本当は嬉しかったのに、僕は素直になれないから素っ気ない態度をとってしまっていた。

素直にありがとうと言っておけば良かった。

ノヴァルト兄上にだけは僕の感じている負い目や焦りを見透かされているような気がする。

だからか僕がそんな態度を取ってもどこか微笑ましげに見ていたように思う。
そんな兄上に甘えていたのかもしれない。

帰ったらもう少し素直になれるように頑張ってみよう。


両親にはまだ誰も孫を抱かせてあげていない。
母上は少し焦り始めたみたいだから、僕が結婚を考えてもいいかもしれない…………いや……こればかりは相手がいない事にはどうしようもない。

父上と母上のような出逢いは奇跡のように思える。
一生を添い遂げたいと思える出会いなどこの先あるのだろうか。

母上には申し訳ないが帰ってもここだけは変えられなさそうだ。


騎士団長のオリバーも恐らく探しに来てくれるだろう。
幼い頃から私が付いて回っても媚もせず嫌がりもせず側に居させてくれた。
もう一人の兄のような存在だ。


みんなに会いたい

こんな穴の中で一人で死んでいくのは

こわい……

また涙が溢れる。


そして意識が暗闇へと沈んでいく…………


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