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シャーロット王妃様が涙を流しながら首を振る。
違う……違うのです、と。
「私は……生まれてきた我が子が可愛くて愛おしくて」
優しい眼差しで三人の王子達を見る。
「この気持ちをわかっていながら……民の為には行動を起こせなかったのです」
我が子を守ることしか考えられなかった、と。
当時のシャーロット王妃様はいくつだったのだろう……もしかしたら十代だったのかもしれない。
一度に三人の子を……それこそ命懸けで出産して三人目の子は殺すと言われたら……
今話しをした感じでもわかる。
マシュー陛下の考えを変えることは難しい。
そんな悠長なことはしていられないし自分の子供を守るのに必死だったのだろう。
「何かあったときにジョシュアとヨシュアの代わりになると言って隠して生かしておくのが精一杯だった……」
けれどもシャーロット王妃様の苦しみはここから始まる。
「民には自分の子供だけを生かしているという罪悪感を抱え、あの時エイベル様に言われたように私の代から変える勇気がなかった後悔を抱え……こんな風習のあるこの国を呪いながらこれまで過ごしてきました……」
マシュー陛下が驚いてシャーロット王妃様を見る。
シャーロット王妃様はマシュー陛下を見ない。
その罪悪感から結局子供達にも優しく出来なくなってしまったと……
「辛く当たってしまってごめんなさい……」
ジョシュア達に頭を下げるシャーロット王妃様。
「ジョシュア、貴方はいつもイシュマの立場がどうにかならないか考えてくれていたわね。そんな貴方に私も救われていたわ」
ありがとう……
「ヨシュア、貴方も最初はジョシュアについていくだけだったけれどイシュマにたくさん外のことを教えてくれてありがとう」
自信無さげなシャーロット王妃様の表情が変わった気がした。
あの時出来なかったことを……と立ち上がり
「陛下、王座をジョシュアにお譲りください」
シャーロット王妃様がマシュー陛下に頭を下げる。
「何を勝手なことをっ! そんなこと出来るわけがないだろう!」
「いいえ、していただきます」
陛下は……と顔を上げたシャーロット王妃様の表情が冷たくなる……
「わかっていらっしゃらないのですね。陛下の命なんて優しい子供達は一度も奪おうとはしていないし、そんなことは考えてすらいないことを」
むしろ……
「一番それに近いことを考えていたのは私です」
マシュー陛下が驚きに目を見開いたことに驚く私。
あれだけ酷い態度を取っておいて?
「陛下には城から離れて私と暮らしていただきます」
あんなことを言った後で一緒に……そうか……これから大変なのはマシュー陛下か。
殺したいと思っていた、と言われた相手と一緒にお茶を飲み食事をして……これまではボンヤリとしていた殺意が明確になったのだ。
「お……お前っ私は王だぞ! お前などっ」
「父上、それ以上母上を侮辱することは許しません」
それまで黙って話しを聞いていたジョシュアが口を開く。
表情は……わかりにくいな……怒っているのかな?
「父上、私に王位をお譲りください」
ハッとした表情でジョシュアを見つめるマシュー陛下。
逞しく父よりも大きく成長した息子を見てマシュー陛下は項垂れようやく諦めたようだった。
「ごめんなさい、ジョシュア。貴方の代にまでこんな問題を引き継いでしまって……あの時私が……」
「いいえ、母上。母上はイシュマを守ってくれました。母上の苦しみに気付いてあげられず申し訳ありませんでした」
あとはお任せください、とジョシュアが少しだけシャーロット王妃様に微笑んだ気がした。
シャーロット王妃様が涙を拭きリアザイアの王妃様に視線を移す。
「お話は纏まったようですね。それではイシュマ殿下」
突然名前を呼ばれて不安そうなイシュマ。
「無理矢理リアザイアに連れていくようなことはしないわ。今の話しを聞いた上で考えてくれればいいの」
王妃様が優しくイシュマに話す。
「ジョシュア殿下が王位を継ぎこの国は変わるでしょう」
悪習は無くなり生まれてくる子供達はみんな大切に育てられる。
人口が増えればこの国も様々な分野で発展していく。
王妃様が言っていたのはこういうことなのか。
これまで殺されてしまった子供達が生きていれば……
もしかしたら薬草に興味を持って新しい発見をした子もいたかもしれない。
この世界にはいない三色の猫をハンカチに刺繍するような想像力豊かな子がいたり。
未来があるってそういうこと……もしかしたらの未来。
「貴方のお兄様ならきっとより良い国にしてくれるでしょう」
ただ……と王妃様が続ける。
「イシュマ殿下はこれまで通り身を隠して生きていくことに……」
そう……この国で生きていくのなら。
きっと国が変わっていくには時間がかかる……
イシュマの存在は……どうしても国民の反感を買ってしまう……そしてイシュマも傷ついてしまうだろう。
「リアザイアに来たら二度とベゼドラ王国には帰ってこられないでしょう……」
実際はゲートでいくらでも帰れるし王妃様もきっと許してくれる……というか私がそうすることをわかって言っていると思う。
この提案はシャーロット王妃様への罰であり王妃様の償いなのだと言っていた……
そして、イシュマにもそれくらいの覚悟を決めてリアザイアに来て欲しいのだ……
「イシュマ、私達は大丈夫だ」
ジョシュア……
「イシュマが来られないなら俺達が会いに行けばいいしな。…………トーカもいるし」
ヨシュア……いいこと言う。
……最後余計な一言があったけれど……
「イシュマ……私の可愛い子。どうか……人を愛して愛される人生を……」
シャーロット王妃様……
マシュー陛下は俯いたまま何も言わない……
「僕は……」
イシュマが家族全員の顔を見て微笑む。
「ありがとう、僕はリアザイアへ行きます」
良かった……家族とは離れてしまうけれどイシュマにとってはリアザイアの方が安全なはず。
「私達は別室でジョシュアへの王位継承をいつにするか決めてきます。立ち合って頂きたいのでできればリアザイアの方々が滞在中に」
ということは一、二ヶ月以内には……?
シャーロット様がテキパキと話しを進める。
「そういうことでしたら私達も一緒に行きますわ」
と王妃様も別室に行くらしい。
リアザイアの王様が立ち上がりジョシュアの肩にそっと手を置く。
「ジョシュア殿、家族を大切に思う者は国民も大切にできる良い王になると私は思っている。一人で全てを背負う必要はない。頼りになる弟もいるのだからね」
ヨシュアを見て微笑む。
「私のことも頼って欲しい。息子達も力になるだろう」
王様が優しく微笑みノバルト達も頷く。
ジョシュア……そうか……早くに王位を継ぐことになるのだから不安だよね……
父王から奪うようにして王になるのだから頼るわけにもいかない……
「ありがとうございます……」
そう言って頭を下げうつむいたまま顔を上げないジョシュアの肩に優しくポンポンと手を置く王様。
なんとなくジョシュアなら大丈夫な気がしていたけれど家族の中でこれだけ大きな変化があって……今は支えがないように感じているかもしれない。
「さぁ、あなたも立って、別室へ行きましょう」
シャーロット王妃様……イシュマという人質がいなくなったからかもうマシュー陛下に怯えたような表情はしない。
むしろ……
「あ、あぁ……」
と、マシュー陛下の方がなんだか……
今まで思い通りになっていたはずのシャーロット王妃様と息子達に反抗されてショックを受けているのか、それともこれからの自分の身を案じているのか……
今はマシュー陛下がずいぶんと小さく見える。
シャーロット王妃様がドアへ向かい歩き出す。
その後ろを肩を落として付いていくマシュー陛下。
王様は王妃様の手を取り後に続く。
ロニーがドアを開け王様方が出ていくと私達……両国の王子とオリバーとロニーと三毛猫さんと私だけになる。
空いている椅子に座って私達の様子をみていた三毛猫さんがオリバーの足元へ行く。
そうか結界を張っているから私にしか見えていないのか。
そう気がついて何も考えずに結界を解いてしまった。
「わっ、ミケネコサン? 一緒に来ていたんだね」
そう言って三毛猫さんに手を伸ばし抱き上げるオリバー。
イシュマは首を傾げて一緒には来ていなかったけれど……と呟く。
そうだった……まだ私の力のことを説明していなかった……
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