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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199908《純真の騎士》

少年の白昼夢 2

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「まさか、本当に出会うとは…」

  暁から漏れる本音に藤は、少しだけ首を傾けながら苦笑いをしていた。

「もしかして、私を探していたんですか?」

   藤の言葉に暁は頷きながらそっと対面に座っていいか確認を取ると彼女はゆっくりと頷いた。

「もしかして、ハルに用ですか?」

  同じ席に座るとそっと藤が目的を言い当て、暁は困惑しながら頷いた。

「どうして、わかったんです?」

「だって、ちょっと前からハルに言われたので、直ぐに大浦さんから接触あるからそのつもりでって」

   直ぐにとは…ここまでバレているとなるとこれもリンクの力の一端なのかと疑いたくもなる。
   暁が藤の言葉にどう返していいものかと思案していると藤はそっと1台の携帯電話をテーブルへ置いた。

「かけるなら、どうぞ」

   四の五の言っても何も変わらないと思った暁は、その一言に促される様に暁はそっと携帯電話に手を伸ばした。
   画面には、携帯電話が表示されていて後は、コールボタンを押せば直ぐに電話はかかった。

『はい』

   数回のコール音の後にあっけらかんとしたハルの声が聞こえた。

「大浦です、わかりますか?」

『えぇ、わかりますよ、それで今回はどの様なご要件で?』

   ハルにそう問われ暁は素直に星見が使用する念話について聞いた。

『あぁ~念話かぁ~どう説明したらわかりやすいかなぁ~』

   ハルは、そんな風に悩みながら唸るとあっそうだっと言ってから唐突に電話を切った。

「あっ、切れた?」

   暁は、慌ててかけ直そうとすると唐突に耳鳴りが聞こえた。

《これの事ですよね?》

   耳鳴りの後にハルの声が頭の中で響き、慌てて周囲に目を向けた。

《周囲を探しても無駄ですよ、そんな近くにいないので俺》

《つまり、これは念話?でも星見さんは周囲200mぐらいじゃないと使えないと》

《あぁ~アイツはまだ目覚めたばかりだし居る場所は浅瀬と中間程度なのでそれが限界でしょうしね、少なくとも俺でも1人ならそれが限界でしょうけど、パスによっては、余裕で数10kmは余裕で範囲ですよ》

《パス?》

《要は、リンクの特性ってやつですよね。みんながみんな同じ能力を使う訳では無いんで》

   ハルにそう言われて西端と熊切、車木と星見の能力の違いが頭をよぎった。

《大雑把に分けて、3種類に分けれますけど》

《3種類?》

《えぇ、外に影響を与えるか内に影響を与えるかどちらにも影響を与えられるかの3種類ですかね》

   それで言うなら西端の人を飛ばす力と熊切の人を縛る力が外に影響を与える力。
   車木の感覚の時間を広げる力と星見の予言の様な力が内に影響を与える力だと言う事か。

   そして、どちらにも影響を与える力とは、どんなものなのか、ハルの言葉に暁は少しだけ背筋が寒くなった。

《星見は、あくまでもキッカケを拾い集めて繋ぐ力なので、そこまで潜る力は持ってないっす。アイツが出来るのはあくまで見える感じる事を繋げるだけなので、例えば大浦さんの昨日の記憶とかは、読めないです。そこで突発的に考えてしまった事は、読まれる可能性があるんですけどね》

《つまり、思考の使い方も考えないといけないと言うことか…》

《そこは、否めないですかね、でも上手く使えば捜査には便利な能力じゃないですか?連携取りやすいし》

《そうなんだが…何故こんなに唐突に能力を開花させてのか気になったのをどう処理するか…》

「ゴメンなさい、それは私のせいです」

   暁の念話の返事は、思わなぬ目の前の藤から返ってきた。

「君が?」

   そう聞くと藤は、夏休みに入ってから星見に力の使い方を教えてくれと頼まれ、潜り方と一緒に数回潜ったという事を教えてくれた。
   しかし、暁にとって潜るとは、一体何なのかよくわからないっと言うのが正直な答えだったがこれを彼等に聞いて説明されてもしっかりと理解出来ない事は、わかりきっている事なのであえて聞かない事にした。

《大浦さん》

   頭の中に少し慌てた様子の星見の声が響き、慌てて暁の意識が記憶の世界から現実の今に引き戻された。
   視線を図書館内の星見に向けると星見は、煌祐がいる方向とは、全く違う方向へ指を差していた。
   視線をそちらに流すと1人の中年の男が煌祐と同じ様に大テーブルに座る中学生ぐらいの女子をチラチラと見ているのがわかった。
   若作りの格好に黒髪、年齢は暁ぐらいの20代後半から30代半ばぐらいだろうか、本を選ぶ振りをしているが明らかに大テーブルの中学生ぐらいの女子に近づいてい。

《あの男から異様な空気を感じます》

   異様な空気と言われても確かに変な雰囲気だがその男が何かをしないと暁達に何も出来ない。
   暁は若作りの男の行動を警戒しながら煌祐に視線を戻すと煌祐もまたその男の存在に気づいたのかその眼が鋭く、小学生には似つかわしくないモノへと歪んでいた。
   それに暁が気づいた時だった。
   唐突にザリッと言う砂を噛む様な音が頭の中に響いたかと思うと視野が砂嵐に襲われ咄嗟に目をつぶった。

《なっ、に…!?》

《つぅ!?》

   頭の中に星見と西端の悲鳴が聞こえる。

   タイル張りの床に流れる血、視線を上げると体から血を流して倒れる中学生ぐらいの女子、体には包丁が突き立てられていた。
   近くに太陽を背にした短髪の金髪のタンクトップを着た男が血まみれになりながら立ち尽くしていた。

   再び、砂嵐が視界を襲い、今度は目を開けた。
   そこには、図書館のタイル張りの床が広がっていた。

《ゴメンなさい、多分今の私の力の影響です》

   星見の声が頭に響き、暁はこれが繋ぐ力かと改めて認識した。

《大丈夫、それに今見えた映像は2人にも?》

   暁のその問いに2人は、はいっと返事をした。
   繋ぐ、つまり何かのキッカケなのだろう、つまり若作りの男が中学生の女子の死に関わっているっと言う事だ。
   暁は、煌祐の行確を2人に頼むと図書館を出て携帯電話で崇央にかけると応援を直ぐに2名を呼んで欲しいと頼むと再び図書館内へと入っていった。
   そこから、2人には煌祐をその男の行確を暁が受け持った。
   若作りの男は、暫くすると図書館を後にし、その足は一切迷うこと無く鶴瀬駅へと向かっていった。
   下り電車に乗り、川越駅に向かい、クレアモールの裏手にあるブロッサムというBARへと入っていった。
   暁もそれに着いて入ろうとしたが店の玄関にはCLOSEの看板が下げれていたので入るのを諦め、近くの喫茶店に入り、出入り口の様子を伺っていた。

   暫くすると頼んでいた応援の2人の捜査官が現れたので、男の特徴を伝えて星見達の所へ戻ろうと思い携帯電話をかけるとどうやら煌祐は自宅に戻り、後は別の捜査官に任せるタイミングだったらしくそのまま現地解散する事にした。

   暁は、一旦池袋の事務所に戻ると崇央から若作りの男と中学生ぐらいの女子の情報が上がってきた。

   黒原 敏也(くろはら としや)29歳、富士見市の鶴瀬駅の近くで塾の講師をしている。
   深山 里穂(みやま りほ)14歳、富士見市真山中学校に通う中学2年生、煌祐の近所に住んでいて、黒原の塾にも通っている。

「これが、牧原 煌祐の調査と何か関係あるのか?」

   暁が黒原達の情報を読んでいると崇央がそう聞いてきたが暁は、恐らくと言いながら肩を竦めることしか出来なかった。

「先輩?俺達の仕事はあくまで調査だぜ?」

「わかってるよ、だけど、もし目の前で誰かが殺されるかもしれないってのにそれを見て見ぬふりを出来ないだろ?」

   暁がそう応えると崇央は、呆れた溜息を漏らした。
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