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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199908《純真の騎士》

緩やかな狂人 2

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   これでは、煌佑のやった事が全て無意味にされてしまう。
   あの小さい体で、必死に守ったのに…

   暁は、いてもたっても居られずに車を降りると本郷がすぐ様に声をかけた。

「ブロッサムにカチコミでもするつもりか?」

「カチコミってヤクザじゃないんだから」

   暁は、それとなく苦笑いで返すが本郷の言っている事は、半分当たってもいる。
   今、暁に出来るのは、田中達の戦力を削ぐぐらいだろうか。

「そうかい?今のお前さんの顔、まさに鬼の形相って感じだぜ?」

   本郷の言葉に暁は、小さく肩を竦める。

「鏡無いからわかんないっすよ」

   暁は、そう言いながらゆっくりと駅に向かい歩き出そうとした。
   頭の中は、どう奴等の戦力を削ぎ、足止めをするか、そして、何より自分がやったとバレない様にする為には何が出来るかそれだけを考えていた。
   そんな暁の耳に冷たいくするどい針が刺さる様な感覚が襲い、顔を歪めて足を止めた。

   始めて感じるその感覚に戸惑いもあったが何よりもその感覚がある方向に嫌な気配を感じ、視線をそこ向けると、そこには何かを探す様に歩く1人の男が居た。

   黒髪の細身の男、白い半袖のワイシャツに半ズボンのジーンズ。足元はスニーカー、一見どこにでも居そうな爽やかなタイプの男だが、歩き方、仕草から一般人のそれとは違う何かを感じていた。

   ふと、細身の男と目が合った。
   その瞬間、暁の中に妙な感覚が入りこんだ。
   何も情報も確証も無い筈なのにその男が金髪達の仲間だという、一方的な思い込みだった。

   普段なら、それは無いと否定する考えが浮かぶ筈なのにそれは、一切起こらず。暁は、細身の男を見据えるとゆっくりとそちらに向かい歩き出した。

「たんま、たんま、なに急にそんな怖い顔で、どうしたんです?」

   細身の男は、迫る暁に対して両手を上げながらにこやかな笑顔を向けた。
   普通なら戸惑ったり、警戒するものだが、その男から何も感じない、恐らく自分が手を出さないと気づいているんだ。そう踏まえると細身の男は、相当な経験を積んできているとも言えた。

「お前、真練会のもんだろ?」

   暁が静かに聞くと細身の男はゆっくりと肩を竦めた。

「そういうアンタはマル暴かい?とてもじゃないがそういう匂いじゃないよな?」

「誰でもいいだろ、まだあの子を狙うつもりか?今朝の失敗を早くも取り返そうってか?」

「いやいや、この状況で誰でもいいわけないでしょ?まっその発言でデコ関連ってのは、わかるけど」

   細身の男は、そう言いながらゆったりと暁との距離をゆっくりと広げる。
   手を出さないとわかっていても警戒心はもっておくタイプだろうと判断しながら暁は、改めて細身の男の姿勢や仕草を観察した。

「デコ、警察をそう呼ぶのは、大抵ヤクザもんだと知ってるかい?」

「勿論、だから真練会だと言われても否定はしなかったろ?」

   その言葉に暁の警戒心が一気に高まり、それを察知した細身の男は、また1歩、暁から遠のいた。

「だから、待ちなって、確かに俺は元真練会だが、あの子を狙いに来たわけじゃねぇよ、その逆だ」

「どういう意味だ?」

「俺は、アイツらの依頼を止めに来たのさ、元とは、言え、こっち側の人間だ、堅気の中学生を依頼されたからと言え、的にかけるなんて恥晒しもいいところだろ?」

   恥晒し、コイツは何を言っているんだ?
   細身の男の言葉の意味がわからないでいると男の視線がフト暁の斜め後ろに向いた。

「つまり、お前は組のメンツを保つ為にここに来たって言いたいのか?槙島?」

   暁は、首だけで振り返るといつの間にか本郷が背後に立っていた。

「ようやく、話せる人が来たね、本郷さん」

   細身の男、槙島は本郷にそう言いながら両手を下げるとゆっくりと会釈をした。

「何が話せる人だ、真練会の元若頭が来て、その話を鵜呑みにしろってのか?」

「まぁ無理な話だろうね、だが取調べ中の大野に槙島から《ケジメつけろ》って言われたって言ってみな、直ぐに全部喋ってくれるぜ?俺はその間、この場でアンタらとお喋りしててやるから」

   本郷は、槙島の言葉に従う様に携帯電話を取り出すとどこかへかけ始めた、その間も視線は槙島から離す事はなかった。

   それは、暁も同じだったが槙島もまたゆったりと暁を足元から上へと舐める様に観察していた。

「アンタ、普通のデコでもないし、マル暴でもないだろ?」

「どうしてそう思う?」

「動きと立ち姿が違う、これでも俺さ、人を見る目だけには自信があるんだよね~」

   槙島は、そう言いながらニヤニヤと暁に近づいてくる。

「良いのか?殴り掛かるかもしれないぞ?」

   暁がそう言うと槙島は肩を揺らして尚も近づいてきた。

「そういう風に言うってのは、逆にやらないって宣言してると思わないかい?」

   そう言いながら槙島は、ゆっくりと暁の周りをクルクルと回り始めた。

「場馴れしてるな、それも生きるか死ぬかの殺し合いを経験してる。だけど多分やりあってんのは、俺達みたいな奴等じゃないな、だとしたら動きに威嚇がない、どちらかと言えば、兵士と言うより工作員ってイメージが近いな~」

   槙島はどこが楽しそうに言いながらゆったりと暁を観察していた。

「なら、お前はどちからと言えば、タイマンの殺し合いを楽しむタイプかな?スタイルはヒットアンドアウェイって感じか?」

   暁がそう応えると槙島は、驚いた表情をしながら両手を胸元で叩き始めた。

「いい読みしてる~アンタ、ハムだろ?」

   その一言に気づくと暁は、槙島と面と向かい合った。
   その反応に満足したのか槙島は腕を組むとゆっくりと暁から離れた。

「俺は、真仁会(しんじんかい)会長、槙島 秀悟(まきしま しゅうご)、お巡りさんあんたは?」

「大浦暁」

   真仁会、聞き覚えのない名前だった。
   真練会との関わりを考えたら鋼和組系列なのは、間違いない。

「槙島、お前の言った通りだ、大野が自供を始めた、それでお前らの見返りはなんだ?」

   本郷が電話を終えると携帯電話をポケットにしまいながら槙島に訊いた。
   槙島は、その問いに肩を竦めながらゆっくりと周りを見渡した。

「今この現場にいる奴等は、見逃して貰えないかな?こっちとしても、これ以上恥晒しを増やしたくないんすよ」

「好きにしろ、まだそいつらは何もしてないんだからこっちも手の出しようがない」

   本郷は、そう言いながらゆっくりと暁の肩を叩いた。

   多分、これで納得しろっと言いたいのだろう。
   暁からしても里穂にこれ以上、手が伸びなければどんな応えでも構わなかった。
   それに、この程度の取引を違法だのと言って否定する程に青くもない。

   取引成立と分かった槙島は、手を振りながらゆっくりと住宅街を歩き、深山邸まで近づくと両手を挙げ、1つ頭上で手を叩いた。
   それが合図だったのか、2名の程の男達がゆっくりと槙島へと近づいてくると槙島はその2人に対して何かを聞くと顎で帰る様に促した。

   その間も本郷と暁は、槙島の様子を伺っていたが槙島は事を済ませると2人に対して会釈をして去っていった。

「真仁会、最近できた、鋼和組の三次団体だ、槙島はそこの頭で、アイツが創設した」

   その背中を見送りながら本郷がタバコに火をつけながら呟いた。

「さっきの話だと、元々は真練会の若頭なんですよね、アイツ?」

   暁がそう聞くと本郷は苦々しい表情を見ながらゆっくりと視線をこちらに向けた。

「初代の時にな、解散に追い込まれたのは2代目だ、アイツは代替わりする時にそこを抜けて真仁会を立ち上げた」

「そんなこと出来るですか?」

「本当ならかなり難しいが、デカイ後ろ盾をつけてそれを可能にした」

「デカイ後ろ盾?」

「沼田組組長、沼田 賢蔵(ぬまた けんぞう)直系の組の組長さんだよ、真練会の初代と兄弟分でな、アイツはそれを後ろ盾に真仁会を立ち上げた、こっちとしても、最近じゃ一番ヤバイ会としてマークしてるよ、下手したらそろそろ刻生会とぶつかりそうなんでな」

   本郷は、そう言うと頭を掻きながら暁に向かい手を振り、車へと戻っていった。
   暁は、槙島が消えた住宅街の道をただ静かに見つめていた。

   照りつける太陽と騒がしい蝉の鳴き声だけがその耳に響いていた。

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