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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199908《純真の騎士》

緩やかな狂人

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「本当に何やってんすか?」

   本当に何やってんだろうね?
   暁は、そう言いそうになりながら目の前で自分を睨みつける崇央をまじまじと見つめていた。

   本当に何がどうしてこうなったのか、自分でもよくわからない。
   それが暁の本当の応えだ。
   崇央には、ありのまま、起きたままを話した。夢の話も勿論忘れずに伝えた。
   返ってくるのが盛大な溜息だと言う事もわかっていた。

「なんか、ねっ…すまんな」

  暁が素直に謝ると呆れた溜息を漏らしながらデスクに倒れる様な勢いで座った。
  金髪達の襲撃事件は、制圧、拘束したすぐ後に近所から通報を受けたのだろうかパトカーが程なく到着したがハルと縁の2人は気づくとその場から姿を消していた。
   ほんの数秒、パトカーのサイレンに安堵が漏れフト、その音に目を向けた、そんな合間の時間だった。
   制服の警察官が到着し、身分を証明する物を持っていなかった為に暁は、そのまま富士見東署に事情聴取の為に任意同行されたが煌佑と里穂の証言のおかげでお咎めなかったがそれを聞いた崇央からお怒りの冷たい電話が入り、そのまま池袋の事務所に来る事になった。

「それで?結局先輩が拘束した奴等はなんなの?それもわかんないっすか?」

   デスクにもたれながら崇央が聞いて来たが暁は、この応えに満足しないと思っていた。

「厳密には、わからん、けど多分、真練会の奴等だとは思う」

「思うって何すか?」

「そもそも、俺も調査中だったんだよ、とりあえず、田中が未だに真練会の殺し屋だった奴等を飼ってるってとこまでしか掴んでなかったんだから」

   暁がそう言うと崇央は、大きな溜息をひとつ漏らした。

「それで夜明け前から乱闘騒ぎっすか?しかも相手は刃物を持った3人組で、謎の2人組が助けに入って、怪我したのは、3人組の1人だけ、先輩が公園に入れなかったってのが原因とも聞きましたけど?」

「その通り、3人組が公園を見てて嫌な予感がしたから入る前に止めた」

「なんで?」

「何となく」

   崇央は、暁の応えに今度は天を仰いだ。

「先輩、今回は相手が銃刀法違反だったのと1人から薬物反応でたからお咎め無しになってるけど、本来ならかなり問題ありなのわかりますよね?」

「わかってるよ、だけどしょうがねぇだろ、勘なんだから」

「それでも、公安の捜査員として目立つ行動はどうかと思いますけど?」

   崇央の言う通りだ、もしこれで煌佑や里穂が殺されたとしてもそれを情報として調査する事は、あっても介入する事は、本来やってはいけない事だ。
   そうは、言われても、体が勝手に動いてしまったのだからしょうがないってのは、余りにも雑な言い訳でもある。

   つまり、今の暁に出来るのは、平謝りを続ける事のみで、この後も崇央の小言に付き合い、漸く開放されたのは、時計の針が昼11時を差した頃だった。

   とりあえず、今回は真練会に繋がるかもしれない情報と人命を助けたと言う事で大目に見てもらえた。

   それと、今日の煌佑の調査はこの1件の為に中止となり、星見と西端は臨時の休暇となったらしい。
   太陽が天辺に鎮座する真夏のコンクリートジャグルに出た暁は、その暑さに辟易としながらそそくさと電車に乗るとそのまま自宅に帰る事になった。

   暁もまた今日は出来ることがないと言う事で休みを貰ったのだ。
   暁は、そのまま帰るのもなんだと思い、最寄り駅から少し下る鶴瀬駅に向かうと歩いて煌佑の家付近に向かった。
   閑静な住宅街の一角に3台の4tトラックが停まっているのが見えた。

   引越しなのだろう、タンスや色んな家具が家から運び出されている。
   夫婦と小さな女の子が引越し業者と共に荷物を運び出しているのが見えた。暁は、それを横目に目の前を通り過ぎると視線を感じ、周囲を軽く見渡した。

   すると数m離れた乗用車から鏡による陽光の反射が顔に当てたられた。
   合図だ、暁はそのまま視線を向けずに素知らぬ顔で乗用車に近づくとゆっくりと運転席の窓が空いた。

「よう、乗りな」

   運転席から顔を出したのは、本郷でその顔を確認すると会釈しながら後部座席へ乗り込んだ。

「お疲れ様です、どうしたんすか?」

   車内には、本郷の他に2人の捜査員が乗っていた。
   1人は、岩倉の時に見たことがある捜査員だったがもう1人は知らない壮年の男だった。

   暁は車に乗り込むなり本郷に切り込むと本郷は笑いながら吸っていたタバコの煙を窓から外へ吐いた。

「お前さんのお陰でな、真練会の元組員、しかも実行犯を捕まえる事が出来たんでな、少し欲をかいてみたんだよ」

「あれだけじゃ、真練会は諦めないと?」

「アイツらの信条は受けた依頼は確実にこなすってのがある。まぁ以前の奴等なら子供に手をかけるなんて真似はしないけどな」

   本郷は、そう言いながらゆっくりとバックミラー越しに暁を見た。

「何を掴んでる?何処からどうして、あの子が狙われてるって知った?」

   本郷のその問いに暁は、ゆっくりと肩を竦めて首を横に振った。
   これ以上、やらかしたら今度こそ崇央が過労死してしまう。

   本郷もダメ元だったのだろう、暁のその反応を見ると溜息を漏らしながら直ぐに視線を里穂の家に向けた。

「深山里穂、両親と妹の4人家族、そこまでは知ってるよな?」

   本郷は、眺めながら呟き、暁はその問いに頷いて応えた。

「なら、なんで引越しするか知ってるか?」

「親父さんの仕事の都合じゃ?」

「それもそうなんだが、深山の親父さん、先月いっぱいで会社を辞めたんだとよ」

   その情報に暁は、驚きを隠せずに表情を強ばらせてしまった。

「どうも、身元不明の嫌がらせを受けていたらしくてな、ほぼ毎日、会社に親父さん宛に嫌がらせの電話や手紙が届いていたそうだ」

「何時からそんなことが?」

「深山里穂が塾に通い始めて1ヶ月後ぐらいからだそうだから、去年の11月からかな」

   そんな前から、またなんでそんな事が…

「まぁ内容は根も葉もない、不正をしてるだの、社内で不倫をしているだの、直ぐに調べれば嘘だってわかる内容ばかりだった、それでも一応所轄署に相談があったんだがな、名誉毀損はあくまで民事だ、恐喝、脅迫なら出来たんだがな、捜査の結果、民事不介入で手出は出来なかった」

「だけど、その口振りからすると被疑者は掴んでるんですよね」

   暁がそう訊くと本郷は正解と言う様に人差し指を挙げた。

「だから、そいつに話を聞こうと思ったんだがな、さっき、遺体で発見されたよ」

「はっ!?」

   暁は、思わず大声を上げてしまい慌てて口を塞いだ。

「自室で首吊ってた、自筆の遺書付き」

「それは、間違いなく自殺なんですか?」

「まだわからん、今筆跡鑑定してる」

   多分、その身元不明の嫌がらせをしていたのは、黒原だろう、何が目的でどうして自殺したのか暁には、何が何だか正直分からなかった。

   しかし、頭の中で以前に仮説として立てた、黒原の性癖が妙に自己主張をし始めていた。

   もし、黒原が深山に対して執念に近い恋愛感情を抱いていたとしたら…

「黒原は、心中するのが目的だった?」

「やっぱり、黒原の事掴んでたな」

   漏れた言葉に本郷が間髪入れずに応え、暁は自分の脇の甘さに呆れながら背もたれに体を預けた。

   そんな暁の態度に本郷は楽しそうに肩を揺らしながらゆっくりと振り向いた。

「現状の情報で繋ぎ合わせるとそういう事だろうな」

   だとしたら、もう田中達の仕事を止めれる人物は、誰もいないという事だ。
   もし、そうなら自分達の管轄を離れた時に里穂の命は最も危険に晒さられるという事でもある。
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