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【PW】AD199908《執悪の種》
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《ハル、対象、そろそろ人通りの少ない方へ向かいます》
東上線の川越駅西口付近は、乗り換え客や近隣のデパートに向かう客なので平日の昼間だと言うのに人でごった返している。
だからこそ、騒がれなければ人目につきにくい、木を隠すなら森の中とは、よく言ったものだ。
テツは、そう思いながら1人の男の背中を追っていた。
黒髪の一見すれば何処にでもいる中年の男、年齢は資料に30歳と記載されていた。
山田 智昭、独身、一人暮らしの中年だ。
そんな男の横には手を繋いで1人の女児が歩いている。
傍から見れば夏休みの家族サービスに見えるだろうが実際は違う。
山田独身である以上、女児を連れているのがおかしいし、何よりもここら辺で最近、妙な痴漢騒ぎも起きていた。
対象は小学生ばかりを狙っている以外、目星情報があるとすれば被害者の女児が犯人の人着を話そうとすると全員喋れなくなるという事象が起きる事だ。
その話をテツが聞かされたのは、前日の夜の事だった。
いつもの様に事務次官室で稗田の秘書としての仕事をしていると1本の電話が鳴った。
最初にそれをとったのは、テツだった。
「はい、事務次官の部屋です」
『やぁ、その声は、門脇くんかな』
受話器から聞こえてきたのは、丁寧な若い男の声、テツはそれが直ぐに泰野だとわかり、迷い無く稗田に繋げた。
暫く、話しているウチに稗田の表情が曇り、チラチラとテツの顔を伺っている事から直ぐに事態を察した。
能力者による案件がこちらに流れていきた。
テツは、そうわかるとゆっくりと話を聞く姿勢をとり、そのタイミングで稗田の部屋のドアが開いた。
若い男、中肉中背だが、鍛えている雰囲気は無いにしろ、その動きには相変わらず無駄がなく、ゆったりと入って来たかと思うと来客用のソファーに腰を下ろした。
《ハル、少しは行儀よく》
若い男、ハルに念話で窘めたが効き目はなく、ハルは背もたれに体を預けながらテツの方を見た。
《どうせ、嫌な案件でも回ってくるんだろ?察して手間を省いた事を褒めて欲しいんだが?》
《それと、これは話は別です、それに稗田さんが受けない可能性だってある》
《それはない、俺の予想が確かなら、被害者が小学生女児だから》
ハルの言葉にテツの眉間に皺が寄る。
「随分タイミング良いな、ハル、何かしてってるのか?」
稗田が電話を終え、受話器を置いたと同時に溜息混じりに口を開いた。
「予想はある、まぁここら辺で住んでるし、情報だって漁ってる、恐らくだけど川越の女児痴漢事件じゃないですか?」
ハルがそう答えると稗田は、軽く頷いた。
「お前の情報網はどうなってるんだか、その通りだよ」
「高校生となれば流行と仲間内の話題に事欠かない、ホラー系とかミステリー系とか尚更、まぁそれだけ相手が派手にやってるって事ですけど」
ハルが飄々と応えると稗田は、小さな溜息を漏らし、泰野から伝えられた情報を話し始めた。
4月から川越駅周辺で女児ばかりを狙った痴漢事件が起きているらしいが被害者は被害を訴えるが犯人の容姿となると全員喋れなくなり、肝心な情報は掴めずじまい。
事件のショックからなのかと医者にも診せたがそれらしい反応とは、また違うらしい。
警察としても警邏を増やしているらしいのだがそれらしい犯人はまだ見つかっても居なかった。
しかし、警察庁の帳簿に寄ると1人の近隣に住む未調査の接続者が居るらしく関わっている可能性が高いと踏んでいるらしい。
だが、人員不足からそちらまで手が回せないのでコッチから人手を貸して欲しいとの事だった。
「別に俺は出ても構わないですけど、それは調査だけですか?」
ハルがそう聞くと稗田は、首を横に傾けた。
「もし、犯行を見つけても見守れって事ですか?」
改めてハルが聞き返すと稗田が険しい表情を浮かべた。
「向こうは、それが理想だろうが、ハル、どうするつもりなんだ?」
「ぶっ飛ばす、何ならタクシー使ってあの病院に直接投げてきますよ?」
ハルの応えに稗田は、丸々と目を広げると直ぐに口元に笑みを浮かべた。
「わかった、その旨、向こうに伝えておこう。頼めるか?」
稗田がそう言うとハルは、軽く頷いて、ゆっくりとテツに向かい目を向けた。
「お前の力も借りたい、良いか?」
「貴方のフォロー、俺以外誰が出来るんですか?」
「マツ」
「いや、それはそうですが、そうじゃないでしょ!?」
テツがそう言い返すとハルは、笑いながら立ち上がり、稗田も苦笑いをしながら肩を竦めていた。
調査は、次の日、つまり今日から始まった。
テツは、朝イチでパソコンに送られて来たメールの中に川越駅近辺に住む接続者の資料に目を通し、ハルの為に顔写真だけを印刷しておいた。
正午になり、ハルと川越駅の改札で待ち合わせをするとハルは慣れた足取りで改札のエントランスを見下ろすことの出来る、目の前の駅ビルにある2階のファミレスの中に入っていった。
迷うこと無く窓側の席につき、ハルに印刷した資料を見せるとハルは、それを一瞥するだけで直ぐにテツに返した。
「何時から調べてたんです?」
テツがそう聞くとハルは、タバコを咥えながら肩を竦めた。
「1週間前かな、その話を聞いてさ、気になってな」
「何故警察に情報を貰わなかったんです?」
「そうなると稗田さんに要らない貸しを作らせる事になる、遅かれ早かれ向こうから話が飛んでくると思ってたしな、それにその前に見つけられたら御の字だし」
「気を回し過ぎじゃないですか?」
「陽と華の人使いの荒さは、お前も知ってんだろ?下手に目立ってアイツらの良い道具になりたくない」
「そうですけど、それだと何の為の組織かわからないじゃないですか?」
テツのそう言い分にハルは、煙を吐きながら視線を逸らし、窓へ向けた。
「頼りないですか?」
「そうじゃない」
「また、失いたくないですか?」
その言葉に窓を見るハルの表情が苦いモノになった。
「すいません…出過ぎしました」
「謝ることじゃない、そうさな、怖いんだろうな、俺は」
「怖い…そうですよね…」
軽率だった、テツは安易に出した自分の言葉に大きな後悔をした。
あの時、多くのものを失くしたのは、自分も同じなのだが、ハルはそれ以上に多くのものを失った。
だからこそ、この世界で彼と再会した時のあの目を忘れられずに居る筈なのに…緩く暖かい平和に気が抜けているのだと改めて実感させられた。
「お前は、そうでいいのさ、温かさを味わうのも大事だ、だからこそ守ろうと思える、俺が必要以上に臆病になっているだけなのさ」
ハルは、そう言いながら少し肩を竦め、テツもその目を見ながら何処か安堵した。
フト、ハルの指先がテーブルを2回に叩いた。
その合図にテツもまた、窓に目を向けて改札を見下ろした。
人混みの中に紛れて、妙に視線を巡らせる男が目に止まった。
上からだと顔は見えない、しかし妙な動きをしている。
「糸は、掴めそうか?」
ハルが聞いてくる。
その問いにテツは、首を横に振った。
「出来なくはないですが、ここからだと確実とは言えません。人が多過ぎる」
平日の昼間の川越駅は本来のならもうちょっと人が少ない筈なのだが夏休みの影響もあるのだろう、多くの人が行き交っている。
テツは、立ち上がるとハルにピースサインを見せるとくるりと指先を回した。
「大丈夫だと思うけど、気づかれるなよ」
ハルは、その合図に手を挙げて返しながら呟き、テツは苦笑しながら肩を竦めた。
東上線の川越駅西口付近は、乗り換え客や近隣のデパートに向かう客なので平日の昼間だと言うのに人でごった返している。
だからこそ、騒がれなければ人目につきにくい、木を隠すなら森の中とは、よく言ったものだ。
テツは、そう思いながら1人の男の背中を追っていた。
黒髪の一見すれば何処にでもいる中年の男、年齢は資料に30歳と記載されていた。
山田 智昭、独身、一人暮らしの中年だ。
そんな男の横には手を繋いで1人の女児が歩いている。
傍から見れば夏休みの家族サービスに見えるだろうが実際は違う。
山田独身である以上、女児を連れているのがおかしいし、何よりもここら辺で最近、妙な痴漢騒ぎも起きていた。
対象は小学生ばかりを狙っている以外、目星情報があるとすれば被害者の女児が犯人の人着を話そうとすると全員喋れなくなるという事象が起きる事だ。
その話をテツが聞かされたのは、前日の夜の事だった。
いつもの様に事務次官室で稗田の秘書としての仕事をしていると1本の電話が鳴った。
最初にそれをとったのは、テツだった。
「はい、事務次官の部屋です」
『やぁ、その声は、門脇くんかな』
受話器から聞こえてきたのは、丁寧な若い男の声、テツはそれが直ぐに泰野だとわかり、迷い無く稗田に繋げた。
暫く、話しているウチに稗田の表情が曇り、チラチラとテツの顔を伺っている事から直ぐに事態を察した。
能力者による案件がこちらに流れていきた。
テツは、そうわかるとゆっくりと話を聞く姿勢をとり、そのタイミングで稗田の部屋のドアが開いた。
若い男、中肉中背だが、鍛えている雰囲気は無いにしろ、その動きには相変わらず無駄がなく、ゆったりと入って来たかと思うと来客用のソファーに腰を下ろした。
《ハル、少しは行儀よく》
若い男、ハルに念話で窘めたが効き目はなく、ハルは背もたれに体を預けながらテツの方を見た。
《どうせ、嫌な案件でも回ってくるんだろ?察して手間を省いた事を褒めて欲しいんだが?》
《それと、これは話は別です、それに稗田さんが受けない可能性だってある》
《それはない、俺の予想が確かなら、被害者が小学生女児だから》
ハルの言葉にテツの眉間に皺が寄る。
「随分タイミング良いな、ハル、何かしてってるのか?」
稗田が電話を終え、受話器を置いたと同時に溜息混じりに口を開いた。
「予想はある、まぁここら辺で住んでるし、情報だって漁ってる、恐らくだけど川越の女児痴漢事件じゃないですか?」
ハルがそう答えると稗田は、軽く頷いた。
「お前の情報網はどうなってるんだか、その通りだよ」
「高校生となれば流行と仲間内の話題に事欠かない、ホラー系とかミステリー系とか尚更、まぁそれだけ相手が派手にやってるって事ですけど」
ハルが飄々と応えると稗田は、小さな溜息を漏らし、泰野から伝えられた情報を話し始めた。
4月から川越駅周辺で女児ばかりを狙った痴漢事件が起きているらしいが被害者は被害を訴えるが犯人の容姿となると全員喋れなくなり、肝心な情報は掴めずじまい。
事件のショックからなのかと医者にも診せたがそれらしい反応とは、また違うらしい。
警察としても警邏を増やしているらしいのだがそれらしい犯人はまだ見つかっても居なかった。
しかし、警察庁の帳簿に寄ると1人の近隣に住む未調査の接続者が居るらしく関わっている可能性が高いと踏んでいるらしい。
だが、人員不足からそちらまで手が回せないのでコッチから人手を貸して欲しいとの事だった。
「別に俺は出ても構わないですけど、それは調査だけですか?」
ハルがそう聞くと稗田は、首を横に傾けた。
「もし、犯行を見つけても見守れって事ですか?」
改めてハルが聞き返すと稗田が険しい表情を浮かべた。
「向こうは、それが理想だろうが、ハル、どうするつもりなんだ?」
「ぶっ飛ばす、何ならタクシー使ってあの病院に直接投げてきますよ?」
ハルの応えに稗田は、丸々と目を広げると直ぐに口元に笑みを浮かべた。
「わかった、その旨、向こうに伝えておこう。頼めるか?」
稗田がそう言うとハルは、軽く頷いて、ゆっくりとテツに向かい目を向けた。
「お前の力も借りたい、良いか?」
「貴方のフォロー、俺以外誰が出来るんですか?」
「マツ」
「いや、それはそうですが、そうじゃないでしょ!?」
テツがそう言い返すとハルは、笑いながら立ち上がり、稗田も苦笑いをしながら肩を竦めていた。
調査は、次の日、つまり今日から始まった。
テツは、朝イチでパソコンに送られて来たメールの中に川越駅近辺に住む接続者の資料に目を通し、ハルの為に顔写真だけを印刷しておいた。
正午になり、ハルと川越駅の改札で待ち合わせをするとハルは慣れた足取りで改札のエントランスを見下ろすことの出来る、目の前の駅ビルにある2階のファミレスの中に入っていった。
迷うこと無く窓側の席につき、ハルに印刷した資料を見せるとハルは、それを一瞥するだけで直ぐにテツに返した。
「何時から調べてたんです?」
テツがそう聞くとハルは、タバコを咥えながら肩を竦めた。
「1週間前かな、その話を聞いてさ、気になってな」
「何故警察に情報を貰わなかったんです?」
「そうなると稗田さんに要らない貸しを作らせる事になる、遅かれ早かれ向こうから話が飛んでくると思ってたしな、それにその前に見つけられたら御の字だし」
「気を回し過ぎじゃないですか?」
「陽と華の人使いの荒さは、お前も知ってんだろ?下手に目立ってアイツらの良い道具になりたくない」
「そうですけど、それだと何の為の組織かわからないじゃないですか?」
テツのそう言い分にハルは、煙を吐きながら視線を逸らし、窓へ向けた。
「頼りないですか?」
「そうじゃない」
「また、失いたくないですか?」
その言葉に窓を見るハルの表情が苦いモノになった。
「すいません…出過ぎしました」
「謝ることじゃない、そうさな、怖いんだろうな、俺は」
「怖い…そうですよね…」
軽率だった、テツは安易に出した自分の言葉に大きな後悔をした。
あの時、多くのものを失くしたのは、自分も同じなのだが、ハルはそれ以上に多くのものを失った。
だからこそ、この世界で彼と再会した時のあの目を忘れられずに居る筈なのに…緩く暖かい平和に気が抜けているのだと改めて実感させられた。
「お前は、そうでいいのさ、温かさを味わうのも大事だ、だからこそ守ろうと思える、俺が必要以上に臆病になっているだけなのさ」
ハルは、そう言いながら少し肩を竦め、テツもその目を見ながら何処か安堵した。
フト、ハルの指先がテーブルを2回に叩いた。
その合図にテツもまた、窓に目を向けて改札を見下ろした。
人混みの中に紛れて、妙に視線を巡らせる男が目に止まった。
上からだと顔は見えない、しかし妙な動きをしている。
「糸は、掴めそうか?」
ハルが聞いてくる。
その問いにテツは、首を横に振った。
「出来なくはないですが、ここからだと確実とは言えません。人が多過ぎる」
平日の昼間の川越駅は本来のならもうちょっと人が少ない筈なのだが夏休みの影響もあるのだろう、多くの人が行き交っている。
テツは、立ち上がるとハルにピースサインを見せるとくるりと指先を回した。
「大丈夫だと思うけど、気づかれるなよ」
ハルは、その合図に手を挙げて返しながら呟き、テツは苦笑しながら肩を竦めた。
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