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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199908《執悪の種》

不気味な支配者 2

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   護送車は、ゆったりと走り出すと国道に出ると東京外環自動車道に乗り、大泉学園から関越自動車道に乗り換えた。

   出発が朝7時半だと言うこともあり高速道路の通勤ラッシュにぶつかり本来の時間より30分以上オーバーをしていた。
   運転席の警護官も少し苛立ちながら溜息や貧乏揺すりをしている。
   縁はそんな警護官を横目に小さな欠伸を漏らしながら外に目を向けた。

「随分呑気なもんだな」

   聞き慣れない声に視線を前に向けるとバックミラー越しで運転席の警護官がこちらを見ていた。

「八つ当たりなら他を当たってくれ」

   縁は、そう言いながら視線を再び外へ向けた。

「気を抜きすぎだと注意してるだけだ、もしここで襲撃されるかもしれないとか思わないのか?」

「思わない、もしして来るなら敵が馬鹿だ」

   警護官の問いに間髪入れずに縁が応えると表情を歪めながら振り向いてきた。

「何でだ?俺ならバイクで抜けていけば襲えるだろっと考えるが?」

「バイクって事は、1人か、数台で来たとしても自然に溶け込むなら4人が限界だ、銃や爆弾を持っていたとして殺すには、向こうもこっちも走ってる中を狙って殺すなんて、まずほぼ不可能、助けるなら車を止めて俺達を威嚇してって色々やってれば最悪10分近くかかる、そうするとその間に応援は呼ばれるは最悪高速道路の出入口は封鎖され、もし上手く逃げ遂せてもその頃にはヘリが飛び何百人の警察官による警戒網が引かれる、可能性的に逃げ切れない方が高いとなる、それでもここを狙うと思うか?」

   縁がそう応えると警護官は、口を閉ざすと再び前を向いた。
   素人だとカマをかけたのだろう。つまり何処までいこうがただの八つ当たりだった。
   フト、隣のハルを見ると完全に目は閉じられ、口も半開きで明らかに眠っていた。

   呑気なやつだな、っと縁が溜息をついていると車に備え付けられていた無線機がなった。

『01から各車、一部ルート変更の通達、マルガイより3番の進言にあり、よって次のサービスエリアに一時退避する、各警護官は駐車の折り、護送車に集合せよ』
 
   3番の進言、トイレか。
   縁は、ハルの肩を叩くとハルは目を開けた。

「大丈夫、聞いてるよ」

   恨めしいそうな横目で縁を一瞥するとハルはそう言いながら再び目を閉じた。
   呑気な奴だな…
   縁は溜息を漏らしながらバックミラーに目を向けると運転席の警護官は、無線に返事をしながらハルを睨みつけていた。
   護送車は、無線の通りにサービスエリアに入り、縁達の車もそれに習う様に入っていく、平日のサービスエリアは通勤ラッシュの余波があるとは、いえどやはり空いており、駐車場にも空きが目立っていた。
   縁は、周囲に目を配りながら車が駐車すると後部座席から降りてその場で立っていた。
   ハルもまた後部座席から降りて体を伸ばし、そのままトイレ付近の物陰へと歩いていってしまった。
   タバコでも吸いにいったのだろう。
   縁は、そう思いながら視線を近くに止まった護送車へと向けた。
   警護官が護送車に背を向けて固めると護送車のドアが開き、ゆったりと千条が警護官に引き連れられて出てきた。
   トイレまで約100mあるかないかの距離だ。
   警護官達が千条を取り囲みながら移動しトイレへと向かう。
   縁は、それを離れた位置から見守りながら千条を改めて観察していた。
   ヨタヨタと俯き加減で歩きながら時折、顔を上げては首を横に傾ける。
   あれが日本を一時でも震撼させた宗教の親玉なのかとやはり疑問に思ってしまっていた。
   千条達の姿がトイレに消えると欠伸をしながらハルが帰ってきた。

「たかだかトイレに仰々しいね~」

「大物だからな、お前はアイツをどう見てる?」

  縁の問いにハルは、ゆっくりと頬をかいた、何を聞いているのかわからないのでは、なく、恐らく言葉を吟味しているのだろう。

「恐らく、造られたか、阿呆を装ってるか」

「造られた?」

「そっ、アイツは、文字通りただの象徴で、本体は別にある可能性があるって話」

「本体?つまり別の人物が操ってると?」

「人物か、はたまた集団的な何かか」

   またコイツは、小難しい事を言う。
   縁は、呆れた様に溜息を漏らすとハルは、大きな欠伸をした。

「流行と同じと考えればいい、これが流行ってるって言われたら、大半の人間はそれが何かわからないまま、飛びつき、二束三文の物に数十万の値打ちをつける、それが物か人物かの違いなだけさ」

「つまり、アイツは信者達によって造られた虚像でこんな事になったてのか?」

「信者達なのか、幹部なのかまでは、知らん、だけど宗教や集団ってのは、目的があるからこそ結束される。アイツの場合、それが宗教で変革論者が多かったんだろうよ」

   そう考えるとある意味、あの男も被害者だと言うのか?
   縁がそう言いそうになるがそれを唐突に感じた異様な感覚に遮られた。
   ドロリとした生暖かい感触が剥き出しの肌に触れている、そんな感覚に縁の表情は険しくなった。
   ハルも同じものを感じているのだろう、明らかにその表情には、先程までの呑気さはなくなり、緊張感が走っていた。

   その感覚の出処に視線を向けるとそこは、警護官達に囲まれたトイレから発せられ、その元凶はゆっくりと姿を現した。
   動きも表情もさっきと何も変わらない、しかし先程まで無かった体を包み込む様に流れる翡翠の煙が立ち込めている。

「抜け殻だったて事か…」

   ハルが呟いた。
   その煙が何を表すのかハル、そして縁は嫌でも知っていた。

「だが、あれが抜け殻とは、思えなかった、魂だって確かにあったろ?」

   確かにそれは、確認できた。
   自らの意思で歩いてもいたし、何かを感じていた筈だ。もし魂が抜けていたとしたらその目は何処までも深い穴である筈だ、しかしあの時の千条の目には確実に光があった。

「だとしたら、アイツ自身の能力が器だって事だろ?」

   縁の言葉にハルは、少し肩を竦めながら応える。

「口寄せって事か?」

「わからん、その可能性が高いけど…」

   ハルの応えにしては、かなり歯切れが悪い。恐らくハル自身もこの状況をまとめきれていないのだろう。
   そんな2人の戸惑いをわかっているのか千条に入ったそれはゆっくりとコチラを見ると警護官に何かを告げていた。
   警護官達は、その言葉に戸惑いながら全員の視線が縁達へ向け始めた。

「俺達をここへ置いていけ、とか言ってんのかな?」

   ハルが冗談交じりで言ってくる。
   縁は、鼻をひとつならしながら体ごとそちらに向けると不遜な表情で千条を睨みつけた。
   一人の警護官がこちらに向かい小走りで向かってくる。
   縁達の車を運転していた警護官だ。
   その表情は明らかに困惑していた。

「千条はなんて?」

   そんな警護官に訊ねたのは、ハルだった。

「お前達を病院まで自分の車両に乗せろって言っている」

   その言葉に縁は、ゆっくりと視線を千条へと向ける。
   千条の中にあるソレは、静かな笑みを浮かべていた。

「思いもよらぬ招待だな」

   ハルは、軽口を叩きながらゆっくりと護送車へ向かい歩き出した。
   まぁそっちの方が手っ取り早いよな。
   縁もまた、その背中を追う様に護送車へ向かいだす。

「据え膳食わぬは男の恥ってか、古いな」

   縁がそう呟くとハルは、首だけ振り返り肩を竦めた。

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