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【PW】AD199909《箱庭の狂騒》
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上福岡から池袋に出る頃には、時刻は既に夜中の11時を迎えようとしていた。
暁達は、終始無言のまま事務所に到着すると中には、既に灯りが着いていた。
暁がドアを開けると呆れた表情をした崇央が奥から出てきた。
「わりぃな」
暁がそう言うと崇央は、少し肩を竦めた。
「別にまだ帰ってなかったから大丈夫だけど、そんなに緊急を要するものなの?」
「門脇が西端を殺すと予告してきた」
「それは、さっき聞いた、だけど原因は何?」
「それを聞く為に稗田さんを呼んだんだよ」
「なら、この2人がいるのは何故?」
崇央は、そう言いながら星見と藤に視線を向けた。
「暴走防止だ」
暁は、そう言いながら奥に入ると3人ともそれに続いた。
それから少しして稗田とマツが事務所にやってきた。
マツのその青白い顔に暁は、なんと声をかけたら良いのかわからず隣に立つ稗田に目を向けると稗田もまた明らかな疲労の色を見せていた。
とりあえず、2人を奥の応接室へ通し、ソファーに座らせると気を利かせた藤と星見が人数分の紅茶を持ってきた。
目の前に出された紅茶に手も付けずマツは、俯きながら稗田は、その様子を心配そうに見ていたが暁に視線を向けると小さく頭を下げた。
「テツの所在は、いつから?」
「先週です、前日まで普通だったのに次の日には、手紙と共に姿を消しました」
「それを三本には?」
「泰野さんには、報告して、コチラで探すとの事でした」
「それから何か進展は?」
暁の問いによどみなく応えていた稗田だったがその問いにゆっくりと首を横に振り応えると押し黙ってしまった。
「手紙と言いましたけど、差し支えなければどんな内容が?」
「私や妻への感謝の言葉と一言、何が起きても私達は、関係ない、自分の独断でやったことなのだと記され、それと一緒に退職届も入っていました…」
「その内容って…」
「恐らく、遺書のつもりなのだと思います」
テツが死ぬつもり、西端を殺すと宣言しておきながら死ぬつもりだとは、どういう事なのだろうか?
暁は、テツの行動の意味が理解できなかったが稗田の隣に座る、マツが肩を揺らしているのが目に入った。
膝の上に置かれた手の甲に水滴が落ちているのが見える。
泣いている。
「マツ、何か知っているんだな?」
暁がそう訊くとマツは、ゆっくりと顔を上げた。
「多分、私が…見た映像の話をしたからだと思います」
「映像?」
暁がそう応えるとマツの弱々しい視線が星見へと向いた。
「恐らくですけど、星見さんの結び読みが見た映像だと思うんですけど、燃え盛る病院の正面玄関でハルちゃんと向き合うも男の映像を見たんです、爆発直前に…」
その話は、さっき星見からも訊いた。
「確か向き合っていたのが西端くんだったてあれか、だが、それでどうして彼を殺すという形になる?」
マツは、ゆっくりと深呼吸をする。
「結び読みは、従来それを象る形の魂を見せます。もしあのマルクトがかつてのその形を自分の形だと思っているのだとしたらそれに近い存在として映し出される筈です」
「つまり、マルクトが西端の形をしていたと言う事は」
「恐らく、西端くんを器にしていた可能性があるんです」
「いつ?少なくとも俺達が接触している西端にそんな雰囲気はなかった…」
「私もそれを感じる事は、出来ませんでした。だけどさっきも言った通り象る形の魂で見せます、だけどもし星見さんが今の16歳の彼しか知らなければその形として見せているだけなんです」
「つまり、西端はそれ以前にマルクトの器になっていたと?」
「そうです、そう考えるなら彼がコチラの世界来る前に、もしマルクトの器になっていたと考えられるんです」
「だけど、それだけでテツが西端を殺す理由になるとは…」
「なるんです…彼はマルクトにとってきっと最適合者だから…」
マツは、そう言いながら肩を震わせてゆっくりと俯いた。
最適合者、本当にそれだけの理由なのだろうか?
暁は、フト体を背もたれに預けるとゆっくりと天井を見上げた。
何かが頭の中でモヤを描いている。
思い出さないといけない何か…
だが、それが出てこないもどかしさに襲われる。
「テツにとってその時のマルクトに殺されて一番最悪な記憶として残るのは、誰だ?」
フトした疑問が過ぎり口から自然と盛れる。
その言葉に俯いていたマツがゆっくりと顔を上げて、天井を見上げていた暁は、ゆっくりと降ろすとマツの顔を見つめた。
マツは、そんな暁を見つめるだけで何も答えない、それで暁は、理解した。
「俺か」
暁がそう言うとマツは、再び俯く様に頷いた。
「正確には、リンクを使った自爆でした、マルクトのリンク全てを燃やし尽くす為に自らの魂もまた燃やし尽くしたんです」
しかし、マルクトは、生きていた。
正確には、マルクトのもう1人が生きていて新しく作り上げたというのが正確なのだろう。
テツからすればそれは、どれだけ絶望的だったのだろうか、上司が自らの命を賭して葬った存在が生きていた。
それが再びその肉体を手に入れ様としている。
もし、それを遮る事が出来れば遮りたいのだろう。
だとしても、何も知らない未成年を殺すのは、違う。
暁は、溜息をひとつ漏らすと再びマツを見つめた。
「マツは、本当にテツの居所がわからないのか?」
その問いにマツは、ゆっくりと首を横に振った。
やはり、マツは迷っているのだ。
稗田もマツのその告白に戸惑い、どんな風に訊いたら良いのかわからずにその肩にそっと手を添える事しか出来ずにいた。
「マツ、いいか、これは間違ってる。今の俺が言うだけじゃない、かつての俺でもこれは間違ってると絶対に言うだろう、だから教えてくれ、今テツはどこに居る?」
「正確には、テツの居所はわかりません。でも西端くんの居場所ならわかります。そしてその近くにテツの気配もあります…だけどそれだけじゃないんです…」
「どういう事だ?」
暁がそう訊くと「えっ」と反応したのは、星見だった。
その反応に暁の背筋に冷たいのが走ると同時に遠くから衝撃音と共に震える様に窓が音を鳴らし始めた。
暁は、慌てて窓に近づくと遠くから赤黒い煙が空へと不気味に昇っていくのが見えた。
「何を見た?」
暁がそう訊くと星見は、顔を真っ青にしながら暁を見つめる。
「東堂さんと西端、それを囲む様に大勢の武器を持った人が取り囲んでました…」
縁と西端?
なんで縁が?
そう考えると同時に頭に過ぎったのは、鍋島の顔だった。
あのペテン師、やっぱり隠してやがった。
暁は、悪態をつきながら携帯を取り出すと縁の番号に電話をかけたが繋がらずマツを改めて見た。
「縁と繋げられるか?」
「恐らく、でも安定はしません。恐らく結界が張られてるのかと」
「結界?それもリンクか?」
「正確には、媒体を使ったモノですけど《抑制者》が作ったものかと思います」
「抑制者?つまり、無線で言うジャミングみたいのがかかってるって事か?」
暁の問いにマツは、ゆっくり頷いた。
「とりあえず、繋げてくれるか?」
暁がそう言うとマツは、ゆっくりと目を瞑る、暁の感覚にも伝わるそれは、マツがリンクを使っている証拠だった。
「捕まりました」
『縁小隊長聞こえますか?』
『マツか?大丈夫か?』
繋がると同時にマツを気遣う縁の声にマツは苦笑いを零した。
『大丈夫です、なんか変に心配かけてすいません、それよりそっちはどんな状況ですか?』
時折入る砂嵐の様な音に暁は顔を歪めてしまった。
『こっちは、怪我は無い、だが結界を張られている、恐らく道具を使った種類だ、数時間はここから出られない可能性がある』
道具、その言葉に以前ハルから貰った木刀を思い出した。
リンクに接続してからわかったがアレには、蘇我の力と同じ様な作用があるのを感じるを知った。
どういう方法で作られたかわからないがそれと同じ様に別の力もまた使用出来る様になっても別段おかしくない話だ。
「それよりも結界って縁達は、そこから出られないのか?」
暁がそう訊くとマツは、眉間に皺を寄せて首を横に振った。
「リンクと接続できてない人とかには、無意識の壁として出るという感覚がないから出て来れないでしょうけど、私達は特に縁小隊長ならリンクを使えば出れます… けど…」
『それをやったら奴等が何をするかわかったもんじゃないな』
縁がそれに応え、暁はこちらの声が聞こえてるのだとそこで理解した。
「奴等って誰だ?」
『俺にも詳しくはわかりません、ですけど鍋島が声をかけたって言うなら恐らく俺達側の帰還者の可能性があります、だけど気配的に別なのも感じます』
別な気配?
そのワードに暁の頭の中にマルクトの顔が過ぎった。
「崇央、アルファの関連の接続者って居るのか?」
唐突の暁からの問いに崇央は、何を言いたのかっと言う様に首を横に傾けた。
「これだけの帰還者が居る中でアルファ関連に誰も帰還者が居ないとは、考えられないだろ」
「そうだけど、それはウチの管轄じゃない」
「なら誰の管轄だ?」
その問いに崇央は、首を横に振った。
恐らく情報漏洩しない為の手法なのだろうが肝心な事がわからないと真相究明は、出来ない。
いや、上からすれば真相究明よりも情報だけが欲しいって言うのが本音なのだろう。
「高岩さんは、知ってるのか?」
暁がそう訊くと崇央は、明らかな怪訝な表情を浮かべた。
「知ってるけど、何するつもり?」
「確認するんだよ、考えが間違ってたらそれで良いだけだ」
暁は、携帯電話を取り出すと、高岩の番号に電話をした。
コール音がなる最中、暁はゆっくりと思考を無くし全身の感覚に意識を持っていった。
繋がる、そう感じると同時に暁の世界がクリアになっていく感覚が全身に行き渡った。
『はい、高岩です』
「夜分申し訳ありません、大浦です、高岩局長にお聞きしたい事があります、応えられなかったら応えなくても大丈夫です」
聞きたいのに応えなくても大丈夫とは、何かのとんちかと思っているのだろう。そんな高岩の不信感を捉えると暁は、言葉を続けた。
「アルファの信者の中の接続者関連を調査しているのは、峰倉室長ですか?」
その問いに、高岩は何も答えないが、明らかな動揺と何が起きているのかと模索している高岩の感覚が暁に流れ込んできた。
無言でのYES、それだけは確実だと分かると暁は、高岩に礼を告げて電話を切った。
「ちょっ!先輩!流石にその先を説明しないと…」
崇央が慌てて暁を止め様とするが既に電話は切られ、携帯電話は、ポケットにしまわれていた。
「高岩さんは、頼んだ」
暁は、そう言いながら自分のデスクに向かうとハルから貰った木刀を持ち出しベルトに差し込むと事務所を出ようと出入口に向かい歩き出した。
「ちょい待ち!先輩何をするつもり!?」
崇央が空かさず、ドアの前に立ち暁の行く先を阻んだ。
「サンシャインに向かう」
「本気で言ってんの?馬鹿なの?今ここで先輩が行っても足でまといが増えるだけだと思わないの?」
「だけど、このままだと縁が危ないだろ」
「だとしても!そこにアンタまでいって死んだら意味ねぇだろって話をしてんだよ!」
崇央の返しに暁は、何も言えずに黙ってしまった。
「俺は、アンタに命令したよな?調べたければ調べればいい、だけど、死ぬなって言ったよな?」
崇央は、そう言いながら暁の肩を掴んだ。
「人想いなのは、アンタのいい所だよ、だけど、それで死なれたらこっちがどう思うか、もうちょっと冷静に考えてくれよ…」
何も言えない、だがここは、いかないといけない。
『俺もその人に同意見です、アキさん』
頭の中に縁の声が響いた。
『今のアキさんじゃ正直にこの場を切り抜けられると思いません、だけど、アキさんなら出来ることもあります』
「西端の居場所を探るのか?それならマツでも出来るだろ?」
『それだけじゃない、テツや他の奴等の居場所も同時に欲しいんです、それはアキさんじゃないと出来ない、それも遠距離からなんでかなり無茶させますけどね』
テツや他の奴等の居場所を自分が?
思考で思う本当にできるのかという疑問と本能で応える出来るという感覚が暁の中で入り交じり何とも気持ちの悪い感覚だった。
「恐らくここからじゃ無理だ、やはりサンシャインに向かう」
暁は、そう言いながら崇央を見た。
「崇央、近くに隠し部屋ないか?そこの部屋から一歩でないこれでどうだ?」
「わかった、ただし、警察の隠れ家はダメだ、峰倉に見つかる、馴染みの店を借りよう」
馴染み、崇央から訊く事は無かったであろう、ワードに暁が素っ頓狂な表情をしているとそれで察したのだろう崇央は、盛大な溜息をついた。
「そんなんじゃねぇから、とにかく準備しよ」
崇央のその言葉に暁は、小さく肩を竦める。
緊急事態の中での一拍に暁は、ゆっくりと自分らしさを整える。
これからもっと色んな事が起きるのだ、今ぐらいは多少だけでも気を抜いておきたい。
それが何よりの本音だった。
暁達は、終始無言のまま事務所に到着すると中には、既に灯りが着いていた。
暁がドアを開けると呆れた表情をした崇央が奥から出てきた。
「わりぃな」
暁がそう言うと崇央は、少し肩を竦めた。
「別にまだ帰ってなかったから大丈夫だけど、そんなに緊急を要するものなの?」
「門脇が西端を殺すと予告してきた」
「それは、さっき聞いた、だけど原因は何?」
「それを聞く為に稗田さんを呼んだんだよ」
「なら、この2人がいるのは何故?」
崇央は、そう言いながら星見と藤に視線を向けた。
「暴走防止だ」
暁は、そう言いながら奥に入ると3人ともそれに続いた。
それから少しして稗田とマツが事務所にやってきた。
マツのその青白い顔に暁は、なんと声をかけたら良いのかわからず隣に立つ稗田に目を向けると稗田もまた明らかな疲労の色を見せていた。
とりあえず、2人を奥の応接室へ通し、ソファーに座らせると気を利かせた藤と星見が人数分の紅茶を持ってきた。
目の前に出された紅茶に手も付けずマツは、俯きながら稗田は、その様子を心配そうに見ていたが暁に視線を向けると小さく頭を下げた。
「テツの所在は、いつから?」
「先週です、前日まで普通だったのに次の日には、手紙と共に姿を消しました」
「それを三本には?」
「泰野さんには、報告して、コチラで探すとの事でした」
「それから何か進展は?」
暁の問いによどみなく応えていた稗田だったがその問いにゆっくりと首を横に振り応えると押し黙ってしまった。
「手紙と言いましたけど、差し支えなければどんな内容が?」
「私や妻への感謝の言葉と一言、何が起きても私達は、関係ない、自分の独断でやったことなのだと記され、それと一緒に退職届も入っていました…」
「その内容って…」
「恐らく、遺書のつもりなのだと思います」
テツが死ぬつもり、西端を殺すと宣言しておきながら死ぬつもりだとは、どういう事なのだろうか?
暁は、テツの行動の意味が理解できなかったが稗田の隣に座る、マツが肩を揺らしているのが目に入った。
膝の上に置かれた手の甲に水滴が落ちているのが見える。
泣いている。
「マツ、何か知っているんだな?」
暁がそう訊くとマツは、ゆっくりと顔を上げた。
「多分、私が…見た映像の話をしたからだと思います」
「映像?」
暁がそう応えるとマツの弱々しい視線が星見へと向いた。
「恐らくですけど、星見さんの結び読みが見た映像だと思うんですけど、燃え盛る病院の正面玄関でハルちゃんと向き合うも男の映像を見たんです、爆発直前に…」
その話は、さっき星見からも訊いた。
「確か向き合っていたのが西端くんだったてあれか、だが、それでどうして彼を殺すという形になる?」
マツは、ゆっくりと深呼吸をする。
「結び読みは、従来それを象る形の魂を見せます。もしあのマルクトがかつてのその形を自分の形だと思っているのだとしたらそれに近い存在として映し出される筈です」
「つまり、マルクトが西端の形をしていたと言う事は」
「恐らく、西端くんを器にしていた可能性があるんです」
「いつ?少なくとも俺達が接触している西端にそんな雰囲気はなかった…」
「私もそれを感じる事は、出来ませんでした。だけどさっきも言った通り象る形の魂で見せます、だけどもし星見さんが今の16歳の彼しか知らなければその形として見せているだけなんです」
「つまり、西端はそれ以前にマルクトの器になっていたと?」
「そうです、そう考えるなら彼がコチラの世界来る前に、もしマルクトの器になっていたと考えられるんです」
「だけど、それだけでテツが西端を殺す理由になるとは…」
「なるんです…彼はマルクトにとってきっと最適合者だから…」
マツは、そう言いながら肩を震わせてゆっくりと俯いた。
最適合者、本当にそれだけの理由なのだろうか?
暁は、フト体を背もたれに預けるとゆっくりと天井を見上げた。
何かが頭の中でモヤを描いている。
思い出さないといけない何か…
だが、それが出てこないもどかしさに襲われる。
「テツにとってその時のマルクトに殺されて一番最悪な記憶として残るのは、誰だ?」
フトした疑問が過ぎり口から自然と盛れる。
その言葉に俯いていたマツがゆっくりと顔を上げて、天井を見上げていた暁は、ゆっくりと降ろすとマツの顔を見つめた。
マツは、そんな暁を見つめるだけで何も答えない、それで暁は、理解した。
「俺か」
暁がそう言うとマツは、再び俯く様に頷いた。
「正確には、リンクを使った自爆でした、マルクトのリンク全てを燃やし尽くす為に自らの魂もまた燃やし尽くしたんです」
しかし、マルクトは、生きていた。
正確には、マルクトのもう1人が生きていて新しく作り上げたというのが正確なのだろう。
テツからすればそれは、どれだけ絶望的だったのだろうか、上司が自らの命を賭して葬った存在が生きていた。
それが再びその肉体を手に入れ様としている。
もし、それを遮る事が出来れば遮りたいのだろう。
だとしても、何も知らない未成年を殺すのは、違う。
暁は、溜息をひとつ漏らすと再びマツを見つめた。
「マツは、本当にテツの居所がわからないのか?」
その問いにマツは、ゆっくりと首を横に振った。
やはり、マツは迷っているのだ。
稗田もマツのその告白に戸惑い、どんな風に訊いたら良いのかわからずにその肩にそっと手を添える事しか出来ずにいた。
「マツ、いいか、これは間違ってる。今の俺が言うだけじゃない、かつての俺でもこれは間違ってると絶対に言うだろう、だから教えてくれ、今テツはどこに居る?」
「正確には、テツの居所はわかりません。でも西端くんの居場所ならわかります。そしてその近くにテツの気配もあります…だけどそれだけじゃないんです…」
「どういう事だ?」
暁がそう訊くと「えっ」と反応したのは、星見だった。
その反応に暁の背筋に冷たいのが走ると同時に遠くから衝撃音と共に震える様に窓が音を鳴らし始めた。
暁は、慌てて窓に近づくと遠くから赤黒い煙が空へと不気味に昇っていくのが見えた。
「何を見た?」
暁がそう訊くと星見は、顔を真っ青にしながら暁を見つめる。
「東堂さんと西端、それを囲む様に大勢の武器を持った人が取り囲んでました…」
縁と西端?
なんで縁が?
そう考えると同時に頭に過ぎったのは、鍋島の顔だった。
あのペテン師、やっぱり隠してやがった。
暁は、悪態をつきながら携帯を取り出すと縁の番号に電話をかけたが繋がらずマツを改めて見た。
「縁と繋げられるか?」
「恐らく、でも安定はしません。恐らく結界が張られてるのかと」
「結界?それもリンクか?」
「正確には、媒体を使ったモノですけど《抑制者》が作ったものかと思います」
「抑制者?つまり、無線で言うジャミングみたいのがかかってるって事か?」
暁の問いにマツは、ゆっくり頷いた。
「とりあえず、繋げてくれるか?」
暁がそう言うとマツは、ゆっくりと目を瞑る、暁の感覚にも伝わるそれは、マツがリンクを使っている証拠だった。
「捕まりました」
『縁小隊長聞こえますか?』
『マツか?大丈夫か?』
繋がると同時にマツを気遣う縁の声にマツは苦笑いを零した。
『大丈夫です、なんか変に心配かけてすいません、それよりそっちはどんな状況ですか?』
時折入る砂嵐の様な音に暁は顔を歪めてしまった。
『こっちは、怪我は無い、だが結界を張られている、恐らく道具を使った種類だ、数時間はここから出られない可能性がある』
道具、その言葉に以前ハルから貰った木刀を思い出した。
リンクに接続してからわかったがアレには、蘇我の力と同じ様な作用があるのを感じるを知った。
どういう方法で作られたかわからないがそれと同じ様に別の力もまた使用出来る様になっても別段おかしくない話だ。
「それよりも結界って縁達は、そこから出られないのか?」
暁がそう訊くとマツは、眉間に皺を寄せて首を横に振った。
「リンクと接続できてない人とかには、無意識の壁として出るという感覚がないから出て来れないでしょうけど、私達は特に縁小隊長ならリンクを使えば出れます… けど…」
『それをやったら奴等が何をするかわかったもんじゃないな』
縁がそれに応え、暁はこちらの声が聞こえてるのだとそこで理解した。
「奴等って誰だ?」
『俺にも詳しくはわかりません、ですけど鍋島が声をかけたって言うなら恐らく俺達側の帰還者の可能性があります、だけど気配的に別なのも感じます』
別な気配?
そのワードに暁の頭の中にマルクトの顔が過ぎった。
「崇央、アルファの関連の接続者って居るのか?」
唐突の暁からの問いに崇央は、何を言いたのかっと言う様に首を横に傾けた。
「これだけの帰還者が居る中でアルファ関連に誰も帰還者が居ないとは、考えられないだろ」
「そうだけど、それはウチの管轄じゃない」
「なら誰の管轄だ?」
その問いに崇央は、首を横に振った。
恐らく情報漏洩しない為の手法なのだろうが肝心な事がわからないと真相究明は、出来ない。
いや、上からすれば真相究明よりも情報だけが欲しいって言うのが本音なのだろう。
「高岩さんは、知ってるのか?」
暁がそう訊くと崇央は、明らかな怪訝な表情を浮かべた。
「知ってるけど、何するつもり?」
「確認するんだよ、考えが間違ってたらそれで良いだけだ」
暁は、携帯電話を取り出すと、高岩の番号に電話をした。
コール音がなる最中、暁はゆっくりと思考を無くし全身の感覚に意識を持っていった。
繋がる、そう感じると同時に暁の世界がクリアになっていく感覚が全身に行き渡った。
『はい、高岩です』
「夜分申し訳ありません、大浦です、高岩局長にお聞きしたい事があります、応えられなかったら応えなくても大丈夫です」
聞きたいのに応えなくても大丈夫とは、何かのとんちかと思っているのだろう。そんな高岩の不信感を捉えると暁は、言葉を続けた。
「アルファの信者の中の接続者関連を調査しているのは、峰倉室長ですか?」
その問いに、高岩は何も答えないが、明らかな動揺と何が起きているのかと模索している高岩の感覚が暁に流れ込んできた。
無言でのYES、それだけは確実だと分かると暁は、高岩に礼を告げて電話を切った。
「ちょっ!先輩!流石にその先を説明しないと…」
崇央が慌てて暁を止め様とするが既に電話は切られ、携帯電話は、ポケットにしまわれていた。
「高岩さんは、頼んだ」
暁は、そう言いながら自分のデスクに向かうとハルから貰った木刀を持ち出しベルトに差し込むと事務所を出ようと出入口に向かい歩き出した。
「ちょい待ち!先輩何をするつもり!?」
崇央が空かさず、ドアの前に立ち暁の行く先を阻んだ。
「サンシャインに向かう」
「本気で言ってんの?馬鹿なの?今ここで先輩が行っても足でまといが増えるだけだと思わないの?」
「だけど、このままだと縁が危ないだろ」
「だとしても!そこにアンタまでいって死んだら意味ねぇだろって話をしてんだよ!」
崇央の返しに暁は、何も言えずに黙ってしまった。
「俺は、アンタに命令したよな?調べたければ調べればいい、だけど、死ぬなって言ったよな?」
崇央は、そう言いながら暁の肩を掴んだ。
「人想いなのは、アンタのいい所だよ、だけど、それで死なれたらこっちがどう思うか、もうちょっと冷静に考えてくれよ…」
何も言えない、だがここは、いかないといけない。
『俺もその人に同意見です、アキさん』
頭の中に縁の声が響いた。
『今のアキさんじゃ正直にこの場を切り抜けられると思いません、だけど、アキさんなら出来ることもあります』
「西端の居場所を探るのか?それならマツでも出来るだろ?」
『それだけじゃない、テツや他の奴等の居場所も同時に欲しいんです、それはアキさんじゃないと出来ない、それも遠距離からなんでかなり無茶させますけどね』
テツや他の奴等の居場所を自分が?
思考で思う本当にできるのかという疑問と本能で応える出来るという感覚が暁の中で入り交じり何とも気持ちの悪い感覚だった。
「恐らくここからじゃ無理だ、やはりサンシャインに向かう」
暁は、そう言いながら崇央を見た。
「崇央、近くに隠し部屋ないか?そこの部屋から一歩でないこれでどうだ?」
「わかった、ただし、警察の隠れ家はダメだ、峰倉に見つかる、馴染みの店を借りよう」
馴染み、崇央から訊く事は無かったであろう、ワードに暁が素っ頓狂な表情をしているとそれで察したのだろう崇央は、盛大な溜息をついた。
「そんなんじゃねぇから、とにかく準備しよ」
崇央のその言葉に暁は、小さく肩を竦める。
緊急事態の中での一拍に暁は、ゆっくりと自分らしさを整える。
これからもっと色んな事が起きるのだ、今ぐらいは多少だけでも気を抜いておきたい。
それが何よりの本音だった。
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