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山月 春舞《やまづき はるま》

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【PW】AD199909《箱庭の狂騒》

漂う欠片

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 いつもと同じだ。
 夜闇の中を藻掻く様に灯る街灯の下を行き交う人々、酔っ払いに客引き、行くあてのない放浪者に諦めて座り込んでいる浮浪者。
 池袋の街は、色んなモノが混ざり合いそれが妙なバランスを作っている。
 そんな街を見渡しながら縁は、煙草を咥えて街を眺めていた。
 いつもと同じだ。同じ筈だ。
 なのに妙な胸騒ぎがするのは、なんだ? 
 煙を吐きそんな街を不可解に思いながら見ていると雑居ビルの地下から出てきた女が縁向かって手を大きく振ってきた。
 青色のバストカットのドレスにウェーブのかかった金髪を靡かせる、ハイヒールの音を鳴らしながら近づいてくる。

「エニちゃん、ごめんね待たせて」

「いいえ、話はまとまりました?」

 縁がそう聞くとドレスの女は、ニッコリと笑った。

「んーやっぱりダメみたい」

 でしょうね、じゃないと俺は呼ばれないだろ。
 縁は、溜息を漏らすとドレスの女の手を引き大通りまで向かうと手を挙げて1台のタクシーを止めた。
 背後から男の怒声が響くがそれは、無視してドレスの女をタクシーに押し込むと運転手に行き先を告げて1万円を放り投げた。
 タクシーが発車すると同時に怒声を上げていた主が背後まで近づき、縁はゆっくりと振り返った。

「おい!アスカは、何処へ行った!?」

「言うわけないでしょ?それよりアンタ、街の掟を反故にするのは、良くないんじゃない?」

 縁は、そう言いながらゆっくりと首と肩を回しながら怒声の男を観察した。
 中肉中背、腕の筋肉と足の筋肉、バランス、それを見るからに格闘技か何かを齧っているであろう。
 それに表情や態度から伺えるのは、自分は強いと思い込んでいるナルシスト傾向も高い。

「うるせぇ、掟がなんだってんだ!アイツは俺に償う義務があるんだよ!」

「義務って言葉の意味わかるか?逮捕されて警察に尋問受けてそれを素直に応えただけだろ?お前のそういうのは、逆恨みっていうの?分かる?」

 縁がそう言い切ると怒声の男の拳が顔を目掛けて放たれるが縁はそれを難なく横にスライドしながら避けるとステップを踏んで男から間合いを取った。

「うっせぇな!他人のテメェに関係ねぇだろ!」

「俺だってお前みたいなのに仕事じゃないと関わりたくもねぇよ、俺はアスカの店の店長に頼まれたの、お前を説得するアスカを守ってやってくれって、最悪逃がしてくれってな」

「ざっけやがって!店がなんだってんだ!あぁ!そんなに偉いのかよ!」

「そっくりそのままお前に返すわカス」

 怒声の男の前蹴りが飛んでくる、それをバックステップで躱す。
 その行動がより苛立ったのだろう、無防備に間合いを詰めて縁の肩を掴もうとするが縁はその手を弾き、再度距離を取った。

「あと、付け加えておくけど、今回の件でお前は店のケツ持ちからマークされる事になったからな」

「あぁ!ケツ持ち!単なるチンピラだろうが!!」

「お前さぁ、池袋でトップ争いしてるキャバのケツ持ちがそこら辺のチンピラだと思う?沼田組だよ」

 沼田組、その名前を聞いた途端、怒声の男の動きが止まった。

「悪い事は言わねぇ、東京でろ、じゃないと地獄見るぞ?」

「はっ!沼田組が何だってんだ!ならアスカ連れて大阪に飛べば良いだけの話だろ!」

 ダメだ、こりゃ。
 いい加減呆れた縁は、溜息を漏らすと踵を返して一気に走り出した。

「あっテメェ!!」

 次に怒声の男が続いて走ってくる音も聞こえる。
 それを確認しながら縁は、離しすぎない様に注意をしながら街の中を駆け巡り、裏通りにある公園でその足を止めた。

「何逃げてんだ、コラーー!!」

 怒声を上げながら背後から迫る気配に合わせて膝を屈めて上半身を落としながら振り返った。
 頭上を男の拳が駆け抜ける、縁はステップを使い男との間合いを取ると上半身を戻した。

「チョコチョコ逃げやがって舐めてんのか!!?」

 舐めているわけでは、ない。
 舐めているなら観察もしないし間合いも取らない。
 動きは早い、多分冷静な足運びなら恐らく1発は、当たっていだろう。
 走って大声出して、スタミナも削れている。
 縁は、軽く呼吸を整えながら半身前に出して空手の構えをすると怒声の男は、ステップを踏みながらボクシングの構えする。
 距離は凡そ5m前後、2、3歩で射程圏内に入る。
 縁は、それを測ると摺り足の様に足をスレスレで上げながら間合いを取る。
 トン、トンとリズミカルな音ともに怒声の男が迫る。
 それと同時に前に出た拳を縁向かい走らせ様とするがそれよりも早く前方に出た横膝に向かい縁の足刀が走り、怒声の男は前方にバランスを崩した。
 縁は、無防備になった顔に向かいジャブを放つ。
 目と鼻の間に決まった衝撃に男の体を仰け反り、1歩後方に下がる。
 縁は、その間に近づきながら横にスライドすると男の顎に掌を当て、背後に足と体を滑り込ませると背負い投げの様に男の頭をそのまま地面に叩きつけた。
 これがコンクリートなら、死んでいるだろうが土であるのと落とす際にも衝撃が軽くなる様にもしている。
 しかし、衝撃は凄まじく脳震盪とむち打ちは、確定であった。
 焦点の定まらない視線とパックリと空いた口からは、微かな呻き声しか漏れでる。

「意外と難しいんだぜ、生かさず殺さずの手加減って」

 縁は、そう言いながら仰向けで倒れる怒声の男の体を反転させると後ろで手を組ませてそれを結束バンドで結んだ。

「えげつない、技使うね~縁ちゃーん」

 背後から訊こえた声に縁はゆったりと振り向くとそこには、細身の男が立っていた。灰色のベストにワイシャツ姿は、何処かのインテリなビジネスマンを連想させるがその実は武闘派ヤクザの組長でもあるこの男は、縁とって苦手な部類に入っている。

「沼田さんのご依頼通りに、生かさず殺さずで捕まえましたよ、槙島さん」

 縁は、そう言いながら槙島に対して頭を下げながらゆっくりと怒声の男から離れる。

「ご苦労さん、叔父貴には俺から仕事を報告しておくよ」

 槙島は、そう言ってポケットから取り出した茶封筒を縁に渡し、縁はその中身を確認せずにポケットへ締まった。

「中身確認しなくてもいいのかい?」

 槙島は、怒声の男の上に座ると縁の方を見上げながら首を横に傾けた。

鋼和組こうわぐみの直系団体である沼田さんが中抜きなんてしないと思ってますからね」

 縁がそう言うと槙島は、楽しそうにジタバタし始める。

「くぅ~やっぱり、お前さんは漢らしいねぇ~いいよぉ~その感じ、やり合いたくなる」

「勘弁してくださいよ、俺は一般人ですよ、そっちの世界の住人じゃないんですよ」

「でも、やってる事は、こっちよりも尚プロフェショナル感を感じるけどな」

 相変わらず戦闘の事になると鋭い男だ。
 縁は、苦笑いを零しながら首を横に振ると一歩、槙島から距離を取った。

「安心しなよ、俺もあの人の顔に泥を塗るつもりなんてないさ」

 槙島は、ポケットから携帯電話を取り出しながらそう言うと何処かに電話をかけて「来い」っとだけ告げて電話を切った。

「じゃあ、後の事は、頼みます」

 縁は、槙島に頭を下げて立ち去ろうとするとそれを直ぐに槙島は、呼び止めた。
 縁が振りく向くと槙島は、空を見上げながら匂いを嗅いでいた。

「なんか、香ばしい匂いしないか?」

 何を言っているんだ?
 縁は、最初槙島が何を言っているのか理解出来ずに戸惑っていると槙島は無邪気な笑みで縁を見た。

「これは大きな事が起きる!間違いない!俺は昔からこの勘は、外さないのよ!」

 しかし、その意図を理解する迄にそうは、時間もかからなかった。

「クッソが!!」

 縁は、気づくと同時にポケットから携帯を取り出し、耀太に電話をかけながら駆け足で街に出る。

『おう、終わったか?』

「鍋島は、そこに居るか!?」

 業務終了報告だと思っていた耀太は、縁の返しに一瞬戸惑いながらも直ぐにたてなおした。

『いや、少し前に店を出ていった、行き先サンシャイン通りの方で、ちょっとまってろ、そうだなサンシャインの横の中央公園にいる』

 こういう時程に相方としての耀太を能力を心強く感じながら縁は礼を告げて電話を切った。

 あのクソペテン師、遠ざけたかった理由はこれか。
 縁が居るのは、南口の飲み屋がから程近く、サンシャイン通りまでもそこまで遠くない。
 10分もすればサンシャイン横の中央公園に辿り着いた。
 平日の夜といえど人は、多く、カップルやグループ等で賑わっていた。
 だからこそ、1人で公園中央にある池の淵の前に座っているその姿が目に入った。
 縁が駆け足で近づくと鍋島は、その気配を察したのか立ち上がるなり降参を示す様に両手を上げたが縁はそのガラ空きの腹に拳を埋めた。

「テメェ、今度は何をやらかしやがった?」

「お前…それ知る前に、殴るか普通?」

「お前が再三やからした結果だ、吐け!何が起きる!?」

 縁は、鍋島を無理矢理座らせると胸ぐらを掴み睨みつけた。

 縁は咄嗟に感じる気配に裏拳を走らせるが空を切る。
 裏拳と同時に振り返るとそこには、知っている筈見慣れない姿になった男が立っていた。

「落ち着いて下さい、縁さん」

「テツ…か?」

 つい1ヶ月前に会った筈なのに、その姿は明らかに縁の知るそれとは、違っていた。
 何がそこまでコイツを?っと一瞬考えたが直ぐに応えは出てきた。
 そうだ、逆だ、コイツからしたら今まで良く平常心を保っていられたのだと。
 縁のその表情を読み取ったのかテツは、苦笑いを零した。

「そんなに酷い格好です?」

「鏡見てみろよ」

 弱々しく笑う、テツを見ながら何と言えばいいのか正直言えば迷っていた。
 本当なら自分もあちら側に居てもおかしくない。
 だけど、それでは、納得出来ないことが自分には、ある。その違いが今この差を生んでいるのだ。

「気づいてるんですよね?彼がそうだって」

「それは、お前もだろ?それも俺よりも前に知ってただろ?」

「それがね、気づけなかったんですよ、ハルがあぁなるまで」

 なら、なぜ分かった?
 そんな疑問を持ちながら縁は、首元を捉えている鍋島の方へ目を向けた。

「俺じゃない、俺は見つかって記憶を無理矢理読まれた方だ」

 その視線の意味を察した鍋島が首を横に振りながら応える。

「鍋島じゃないですよ」

「なら、誰だ?確かお前、あの時意識を…」

 縁は、そこまで口をして直ぐに誰かを察した。
 そうか、アイツはあの時に近くに居て、一瞬何かを見た、だからそれを確認したくて…そうなれば全ての辻褄は、合うのか…

「誰か分かったようですね。戸惑ってました。どうやって、これから彼等に接すればいいのか」

 何も知らない、ましてやあの場に居なかった人間達には、到底理解は出来ないだろう、あの能力差。
 自分とハルは、対抗するだけの力を持っていた、だがそれを持ち合わせなかった2人からすればアレは絶望の象徴とも言える。

「俺も戸惑いましたよ、ハルはきっとまだ器でもなく見つかっても居ないから彼を生かしていた、でもこうなればそうもいかない。彼が器になる前に破壊しないと、あの時と同じ悲劇が起きる」

「殺す、というのか」

「えぇ、彼が器になる前に、その存在を」

「させないと、言ったら?」

 縁が鋭く睨むとテツは、再び弱々しい笑顔を向けた。

「だと思ってました、だけど俺も譲れないんですよ」

 唐突に街中を切り裂く悲鳴の様なブレーキ音と共に幾つもの衝突音が道路から鳴り響いた。
 その音に縁の視線が向くと遠くから爆発が起こり赤い炎と煙が立ち上り始めた。

「そして、動いているのは、俺だけじゃない、誰かが情報を回している。マルクトも動いているんです、もう一刻の猶予も無いんです」

 テツは、そう言いながらゆっくりと縁から距離を取り始めた。
 縁は、そんなテツの姿を捉え様としたが2人の間を何人もの人が行き交い、邪魔をした。
 直ぐに近づいて捕まえたいが鍋島を捕まえている手を離すワケにもいかず、縁は人波の中へ消えていくテツを見送る事しか出来なかった。
 その姿が消えてから直ぐに鍋島を立ち上がらせると再度その腹部に拳を埋めた。

「さっさと説明しろ、何が起きてる!?」

「説明するから…すぐに腹を…殴るな」

 鍋島は、蹲りながらその場にヘタレ込み、息を整えた。

「今、器の争奪戦が起きているんだよ。一方はアルファの理でマルクトの息がかかった信者達、もう一方は、もと元国軍の帰還者達だ」

「何で、元国軍の帰還者達が都合よく集まってんだよ!」

「飯坂病院の事件だよ!あそこは、以前から収容施設だったろうが!?」

「だとして、なんで器の情報が回ってんだ?」

「そこは……」

 鍋島が口篭り、縁は拳を固める。

「俺が流した…」

「テメェ!」

「だって!そうだろ!アイツを止めないとあの時の二の舞だ!」

「それで、何か?まだ何もしてないヤツを殺すってのか?それもガキを!正気か!?」

「ガキだからどうした?あの光景を見たのにそんな事は、些末な事だ!」

「ざっけんな!」

 遂に怒りが込み上げ、握った拳を放とうとするとそれと同時に背後から再び大きな爆発音が鳴り響きその手を止めた。
 今は、問答している暇は、ない。
 何が起きているか多少なり情報を集める必要がある。
 縁は、手で鍋島の額を覆うとリンクへと接続する。

「ここを動くな」

 そう言うと鍋島は、そのままの状態で体を硬直させ、縁もまた自分のリンクの支配に入ったのを確認すると次に長い胴体の龍をイメージする。
 丹田からゆっくりと沸き起こるリンクの本流が龍の姿を象るのを感じ、それを視認するとゆっくりと空へ翔ける様に念じた。
 頭の中に龍が見る深いの視界が入ってくる。
 サンシャインを中心に道路を封鎖する様に長方形の結界が張られているのがわかった。
 結界が張られているという事は、道具にそれを使用する人物、それに対象者を追うモノもいる。結界の規模もそこまで大きくないにしても使用時間も考えれば最低でも10人以上の接続者が居るという事は、わかる。

「クソが」

 これは、完全に後手に回っている。
 こちらは、縁1人だけ、オマケに対象の気配も掴めていない。
 今から無闇に探し回っても見つける前に消される可能性がある。
 どうする?アイツなら、ハルならこの場面をどう読む?
 縁は、静かに天を仰ぎながら自然と歯を食いしばった。
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