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【PW】AD199909《箱庭の狂騒》
悔念行脚降路(かいねんあんぎゃこうろ)
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いつまで続く?
遅々として進まない道程に西端の焦り始めていた。
1階下っては、その先に立ち塞がる奴等がいて再度道を変えては、再びそれらと出会うという、まるでタチの悪いモグラ叩きをしている気分にすらなっていた。
見つかっては、ならない、それだけは嫌でも理解していたがこれならいっその事、力技で押し通るのもいいのでは、無いかとさえ思っていた。
しかし、今現在自らの体を使っている者は、それを良しとしなかった。
出来るだけ隠れて尚且つ迅速にこの建物を降りる事だけを考えていた。
そして、その度に過ぎるのは、見た事のある男の横顔と最後まで見送っていた彼女の笑顔だった。
1人は、才田晴人、西端自身もよく知っている男でもう1人は、馴染みのない女性の百合のモノだった。
この男は、伸治は、それを何らかの原動力として生きているだと理解した。
無駄の無い、静かで素早い動きで戦場をすり抜けていくその判断力と行動力には、西端はあらためて彼もまた戦場を生き抜いてきた人間なのだと改めて知りながら成り行きを見守っていると伸治の足が止まった。
それは、39階へと降りた時だった。
その気配の異様さに伸治は、迷う事無くそれを避ける為にトイレへとその身を隠した。
行き止まりで危険なのでは?
ふと、西端が思うと伸治は、小さく首を横に振った。
「恐らく今は、あっちにここを探す余裕はない」
伸治は、そう言いながらゆっくりと息を潜めながら続けた。
「エリア分けがされてる、ここから向こうが敵でコチラ側は、味方って感じでね、その分エリア内の警戒心が下がっているんだけど…」
だけど?
「有り得ないんだ、同じフロアーでエリア分けなんて、考えてくれ、敵陣が隣にあったらどうする?」
倒す、だってそうすればこの戦いは終わりだろ?
「そうだ、なのに同じフロアーに存在し、警戒するだけで戦おうとすらしてない…」
伸治の推測に西端は何が起きているのか全く理解できなかったが今目の前にある現状が余りにも不可解だという事だけは、理解した。
視界が素早く動く、流石は、経験者と言うべきなのだろうか素早い判断力に無駄の無い動きですり抜けていくと次の階段へと進んでいた。
順調、その一言に限るが伸治の感覚は進む程により鋭くなっていた。
西端は、何故なのかわからずにそれを見守るだけに留めていおいた。
35階のフロアーへと着いた時だった。
「西端か?」
聞き覚えのある声に呼び止められ、伸治は声のした方へゆっくりと銃口を向けた。
「待て、俺だ落ち着けよ」
どの階でも同じ様な廊下にオフィスのドア、そのドアの影から1人の男が両手を上げて現れた。
「車木?」
「よぉ、西端、助けに来たぞ」
コチラの警戒心を下げたいって思惑を隠す事ないニコニコ顔の車木がコチラへゆっくりと近づいてくる。
「助けだと、お前がそれを俺に言うのか?」
伸治は、銃口を下げる事無く、近づいてくる車木から距離を取った。
「なんで、俺が言ったら変か?」
「変だな、それにどうやって俺がここに来る事を知る事が出来たのも聞きたいな」
「どうやってって…」
聞かれたくなかった事なのだろう、明らかにその表情はひくついた。
ギリギリでニコニコ顔をキープしているが明らかに限界が来ているのだけは、察しがつく。
伸治は、間合いをとりながら周囲に目を向けるが廊下で遮蔽物はない。もし避けるならば車木を押しのけてオフィスフロアへ入るか、階段フロアーへ逆戻りするしかない。
しかし、物音が聞かれて下から増援が来るともっと逃げるのが難しくなるのは、明白だった。
「袋小路か…」
伸治は、そう言いながら階段フロアーへと背中を向けて後退る。
「落ち着けって、なぁ、とりあえず銃を下ろせよ」
「悪い冗談だな、お前にそんな事言われるってのは」
「何がだよ?」
「高3の夏休み、お前らサッカー部が何をしてどんな報復を受けた?これを言えばわかるだろ?」
伸治のその言葉にニコニコ顔だった車木の表情が無に変わった。
その表情の変化と同時に伸治は、踵を返すと一気に階段を駆け下りだした。
それと同時に幾つもの足音がそれに続き、1階降りてもう1階降りると次にオフィスフロアーへと入り、廊下から見える部屋と滑り込んだ。
そのまま奥の方へ走り出すと後ろから銃声が響き、振り返るがそこには、しまったドアしかなかった。
次第に銃声は増え、次に誰かの叫び声も聞こえてきた。
何が起きた!?
「恐らく、向こうは向こうで戦闘を始めたんだ」
戦闘!?誰と誰が?
「マルクト奴等と元政府軍ってところかな」
政府軍?伸治が何を言っているのか西端には理解できなかった。
しかし、その答えを教えてくれないまま伸治は、部屋を駆けると逆側の出入り口のドアを開けて部屋を出た。
「西端!!」
後ろから怒声が響き振り返ると車木が必死の形相でこちらへと向かってきていた。
伸治は、それを一瞥したかと思うと廊下に出て再び階段に向かい走り出した。
もう少しで階段だと思った矢先、その足は、唐突に止まり、それと同時に炸裂音と近くの真横の壁に弾が埋まった。
もし足を止めてなければその弾丸は、間違いなく西端の頭に埋まっていた。
それと同時に伸治は、身を屈めながら後方に見えるドアから部屋へと入り、デスクを遮蔽物に身を隠した。
今のは、完全に殺す気だった。
なんの躊躇いも迷いもなく、間違いなく西端のその頭を撃ち抜いて殺す気だった。
そう考えれば考える程に西端は、怯えたが伸治は、冷静に息を整えると周囲に気を配った。
少しして荒い足音が部屋へと入ってくる。
息遣いも少し荒くなり、口々に何処だと言っている。
その声から察するに車木だとわかった伸治は、その足音が近づいてくると同時に一気に体を腕を巻き付けると顔面に1発肘を当てて制圧した。
「テメェ…」
「喋んな」
何かを言いそうになる車木の額に銃口を当てて黙らせると腕を決めたまま、その背後に立ち、車木の体を盾にして部屋の出入り口を睨みつけた。
「出てこい」
伸治の一言が伽藍のフロアーに響き、それは、ゆっくりと銃を構えながら出入り口に姿を現した。
坊主頭から少しだけ伸びた髪は、ボサボサで無精髭も生えている。
西端は、似ている誰かと一瞬勘違いしそうだったがそれが正解だと教えてくれたのは、伸治だった。
「門脇徹、そうかアンタも確かハルの仲間だったな」
伸治の口調にテツは、怪訝な表情を浮かべたかと思うと何かを納得した様に軽く頷いた。
「そうか、君もアキさんと同じ様に欠片があったのかな?」
テツは、そう言いながらゆっくりと部屋へと足を踏み入れる。
「入ってくるな」
銃口を車木の後頭部に付けて背筋を伸ばさせると車木は、小さな悲鳴をあげる。しかしテツはその表情を一切変えることなく部屋へと入ってきた。
最初の頃の礼儀正しく、何処か朗らかで、周りを気遣う人、そんな印象とは、全く違うテツの姿に西端は、不気味さと恐怖を覚えた。
だが、伸治はそんな西端とは違う印象をもっていたのかその雰囲気を知っていたかの様に彼を睨みつけていた。
「毒炎の毒蛇」
毒炎、その名前に池袋で有名なカラーギャングを西端は、思い出した。
「久しぶりに聞いたな、その名前、だけどその名前になる前に今回の俺は抜けているが?」
「俺は、知ってるんだよ、なんせその頃のアンタにボコボコにされたからな」
伸治の応えにテツは、冷たい視線を送る。
「そうか、なら惜しい事をした、その時にお前を…」
テツの言葉が不自然に途切れる。何かと思っていると硬い何かが床を転げる音が聞こえたかと思うと唐突に煙を部屋全体へと撒き散らかし始めた。
それと同時に幾つかの発砲音が響き、伸治は車木の体を壁に叩きつけると身を屈めて一気にテツの居る出入り口へと走り抜け、その横を素早く駆け抜けた。
「クッソ!」
その声と共に発砲音が数発鳴り響き、1発頬を掠めるが伸治は、それを意に介さなで階段へと走り抜けた。
階段へ辿り着くと下の階から登る幾つかの足音が聞こえ、伸治はすぐ横にあるエレベーターのボタンを押した。
エレベーターの扉は、すぐに開き、少し躊躇いながらも乗り込むとドアが閉まる直前に伸治に体当をしながらテツが乗り込んで来た。
体勢を倒されながらも反射的に伸治の銃口は、テツの頭を狙い、テツの銃口もまた伸治の頭を狙っていた。
ドアが閉まり、エレベーターがゆっくりと下の階へと向かっていく。
伸治は、それを横目で確認し、テツもまたそれを確認していた。
「アイツは、ハルはお前の過去を知ってるのか?」
伸治がそう聞くとテツは、ゆっくりと首を横に傾けた。
「知ってるけど、それがお前とどう関係ある?」
「俺が村井 武史を半身不随にしたといってもか?」
その応えにテツの目がピクリと動いたがそれ以上の変化は、なかった。
「アイツは、ただの猿だった、それで喧嘩で負けて半身不随になったんだろ?自業自得だ」
テツは、そう冷たく言い放つと伸治の引鉄にかける指に力が入った。
「それで、女子高生を1人自殺に追い込んでいたとしても同じことを言えるのか!?」
その問いにテツの意識が少しだけ外れた。
「それは、どういう意味だ?」
もうそれは、過去のこと、今では、まだ起きてない事だ。
今それを言い合っても仕方がない事だ。
そんな事は、伸治からしても100も承知だった。
だけど、この男さえ居なければ、自分はあんな決断をしなかった、あんな真似をしなかった、そう考えない時がなかったワケじゃない。
もし、あの決断をする時が無ければ、ハルともまだちゃんとした友人で居たかもしれないそう考えてしまう自分もいるのもまた事実だった。
「村井の後輩が車木達にサッカー部に絡んでボコられて、その報復に当時の女子マネージャーを輪姦した、それは俺の当時の彼女なんだよ」
伸治の言葉にテツの眉間に少しだけ皺がよるがその表情は変わらず静かに伸治の額を狙っていた。
「少しだけ思い出した、ウチをまとにかけてる高校生が居るって噂で俺が頭にボコる様に言われて…そうかお前あの時の高校生か」
テツがそう言うと伸治は、当時の苦しみを思い出し歯を食いしばった。
エレベーターがなり到着のベルの音が鳴り、反射的に2人の銃口がエレベーターの出入り口へと向けられるが開くよりも早くその手は、エレベーターの後ろの壁と引っ張られ貼り付いた。
「なんか、大事な話中申し訳ないが、続きは安全な場所でお願いしようか」
エレベーターのドアが開くと体格のいい長身の男が銃を構えながらゆっくりと乗り込んで来た。
西端は、一度だけだが伸治は、その顔を何度も見ていた。
そして伸治と同じ様に貼り付けられたテツもまたその顔を良くしているのか苦笑しながら溜息を漏らした。
「縁…お願いだから邪魔しないでください」
体格のいい長身の男、縁はテツのその申し出に肩を竦める。
「そうは、いかない、例え戦争だとしても何も分かってない子供を殺すのは、反対だ」
縁の言葉にテツは伸治に視線を送り、伸治は首を横に振った。
「まだ俺の中には、この世界の西端伸治がいる、彼は何もわかってないのも事実だ」
伸治がありまのままに応えると縁は、エレベーターに乗り込みドアを閉めた。
「とりあえず、下の階で色々話つけようか」
縁のその一言にテツも伸治もまた何も応えず、エレベーターは、静かにそして素早く下の階へと降りていった。
地下1階に到着すると縁は、2人から銃を取り上げてからその手を解放し、2人に降りる様に促した。
「何がしたいんです?このままだと上からの的ですよ?」
4階まで吹き抜けのホールの様な空間の噴水広場まで近づくとテツが口を開き、それに対して縁は、銃をベルトにしまうとゆっくりとベンチに腰を下ろした。
「泰野が今別働隊を動かしてる、そいつらが到着するまで30分ぐらいかな、それまでの持久戦をここでするつもり、だけどその前に」
縁の視線がテツと伸治へと向けられる。
「お前らは、どうしたい?特にテツ」
縁のその問いにテツは鋭い目で伸治を睨んできた。
「殺したい、俺の考えに変わりは無いですよ」
「お前は?生きたいか?」
縁が次に伸治に問うが伸治は何も応えず静かに目を伏せた。
「俺は、どうなってもいい、問題は今の彼だ、俺自身は、俺の選択であぁなったんだ、恨み辛みはあれど罪までを言い訳して逃げるつもりは、ない。だけど彼は違う、まだ何もしてないし何も知らない、それを奴に渡したくもないし、ましてや殺させるなんて間違っているっと思っている」
伸治の紛れもない本音だった。
しかし、テツの表情は、その話を聞きより険しいものへと変わっていった。
「確かに、以前の彼ならそうだ、でも今はどうだ?確かにまだ混ざってない、だけど少しづつだが混ざっていないか?」
テツの指摘に伸治は言葉を詰まらせた。
「アンタがどうやってそうなったのかは、わからない。だけど結果は俺達の様に西端は、接続者から見識者へとなりつつある、つまりそれは帰還者を表し、結果アンタの記憶を共有する事になるんじゃないのか?」
その問いに、伸治は頷いた。
「その通りだ、だが、それは今俺が消えれば抑える事が出来る…」
「自分を消すだと?」
伸治の言葉に縁が反応し、テツの視線がより鋭くなる。
「まだ混ざり切ってない今だから出来る… 」
「大隊長がマルクトを消した時の要領でか?」
重く静かなテツの声に伸治は、声を詰まらせた。
遅々として進まない道程に西端の焦り始めていた。
1階下っては、その先に立ち塞がる奴等がいて再度道を変えては、再びそれらと出会うという、まるでタチの悪いモグラ叩きをしている気分にすらなっていた。
見つかっては、ならない、それだけは嫌でも理解していたがこれならいっその事、力技で押し通るのもいいのでは、無いかとさえ思っていた。
しかし、今現在自らの体を使っている者は、それを良しとしなかった。
出来るだけ隠れて尚且つ迅速にこの建物を降りる事だけを考えていた。
そして、その度に過ぎるのは、見た事のある男の横顔と最後まで見送っていた彼女の笑顔だった。
1人は、才田晴人、西端自身もよく知っている男でもう1人は、馴染みのない女性の百合のモノだった。
この男は、伸治は、それを何らかの原動力として生きているだと理解した。
無駄の無い、静かで素早い動きで戦場をすり抜けていくその判断力と行動力には、西端はあらためて彼もまた戦場を生き抜いてきた人間なのだと改めて知りながら成り行きを見守っていると伸治の足が止まった。
それは、39階へと降りた時だった。
その気配の異様さに伸治は、迷う事無くそれを避ける為にトイレへとその身を隠した。
行き止まりで危険なのでは?
ふと、西端が思うと伸治は、小さく首を横に振った。
「恐らく今は、あっちにここを探す余裕はない」
伸治は、そう言いながらゆっくりと息を潜めながら続けた。
「エリア分けがされてる、ここから向こうが敵でコチラ側は、味方って感じでね、その分エリア内の警戒心が下がっているんだけど…」
だけど?
「有り得ないんだ、同じフロアーでエリア分けなんて、考えてくれ、敵陣が隣にあったらどうする?」
倒す、だってそうすればこの戦いは終わりだろ?
「そうだ、なのに同じフロアーに存在し、警戒するだけで戦おうとすらしてない…」
伸治の推測に西端は何が起きているのか全く理解できなかったが今目の前にある現状が余りにも不可解だという事だけは、理解した。
視界が素早く動く、流石は、経験者と言うべきなのだろうか素早い判断力に無駄の無い動きですり抜けていくと次の階段へと進んでいた。
順調、その一言に限るが伸治の感覚は進む程により鋭くなっていた。
西端は、何故なのかわからずにそれを見守るだけに留めていおいた。
35階のフロアーへと着いた時だった。
「西端か?」
聞き覚えのある声に呼び止められ、伸治は声のした方へゆっくりと銃口を向けた。
「待て、俺だ落ち着けよ」
どの階でも同じ様な廊下にオフィスのドア、そのドアの影から1人の男が両手を上げて現れた。
「車木?」
「よぉ、西端、助けに来たぞ」
コチラの警戒心を下げたいって思惑を隠す事ないニコニコ顔の車木がコチラへゆっくりと近づいてくる。
「助けだと、お前がそれを俺に言うのか?」
伸治は、銃口を下げる事無く、近づいてくる車木から距離を取った。
「なんで、俺が言ったら変か?」
「変だな、それにどうやって俺がここに来る事を知る事が出来たのも聞きたいな」
「どうやってって…」
聞かれたくなかった事なのだろう、明らかにその表情はひくついた。
ギリギリでニコニコ顔をキープしているが明らかに限界が来ているのだけは、察しがつく。
伸治は、間合いをとりながら周囲に目を向けるが廊下で遮蔽物はない。もし避けるならば車木を押しのけてオフィスフロアへ入るか、階段フロアーへ逆戻りするしかない。
しかし、物音が聞かれて下から増援が来るともっと逃げるのが難しくなるのは、明白だった。
「袋小路か…」
伸治は、そう言いながら階段フロアーへと背中を向けて後退る。
「落ち着けって、なぁ、とりあえず銃を下ろせよ」
「悪い冗談だな、お前にそんな事言われるってのは」
「何がだよ?」
「高3の夏休み、お前らサッカー部が何をしてどんな報復を受けた?これを言えばわかるだろ?」
伸治のその言葉にニコニコ顔だった車木の表情が無に変わった。
その表情の変化と同時に伸治は、踵を返すと一気に階段を駆け下りだした。
それと同時に幾つもの足音がそれに続き、1階降りてもう1階降りると次にオフィスフロアーへと入り、廊下から見える部屋と滑り込んだ。
そのまま奥の方へ走り出すと後ろから銃声が響き、振り返るがそこには、しまったドアしかなかった。
次第に銃声は増え、次に誰かの叫び声も聞こえてきた。
何が起きた!?
「恐らく、向こうは向こうで戦闘を始めたんだ」
戦闘!?誰と誰が?
「マルクト奴等と元政府軍ってところかな」
政府軍?伸治が何を言っているのか西端には理解できなかった。
しかし、その答えを教えてくれないまま伸治は、部屋を駆けると逆側の出入り口のドアを開けて部屋を出た。
「西端!!」
後ろから怒声が響き振り返ると車木が必死の形相でこちらへと向かってきていた。
伸治は、それを一瞥したかと思うと廊下に出て再び階段に向かい走り出した。
もう少しで階段だと思った矢先、その足は、唐突に止まり、それと同時に炸裂音と近くの真横の壁に弾が埋まった。
もし足を止めてなければその弾丸は、間違いなく西端の頭に埋まっていた。
それと同時に伸治は、身を屈めながら後方に見えるドアから部屋へと入り、デスクを遮蔽物に身を隠した。
今のは、完全に殺す気だった。
なんの躊躇いも迷いもなく、間違いなく西端のその頭を撃ち抜いて殺す気だった。
そう考えれば考える程に西端は、怯えたが伸治は、冷静に息を整えると周囲に気を配った。
少しして荒い足音が部屋へと入ってくる。
息遣いも少し荒くなり、口々に何処だと言っている。
その声から察するに車木だとわかった伸治は、その足音が近づいてくると同時に一気に体を腕を巻き付けると顔面に1発肘を当てて制圧した。
「テメェ…」
「喋んな」
何かを言いそうになる車木の額に銃口を当てて黙らせると腕を決めたまま、その背後に立ち、車木の体を盾にして部屋の出入り口を睨みつけた。
「出てこい」
伸治の一言が伽藍のフロアーに響き、それは、ゆっくりと銃を構えながら出入り口に姿を現した。
坊主頭から少しだけ伸びた髪は、ボサボサで無精髭も生えている。
西端は、似ている誰かと一瞬勘違いしそうだったがそれが正解だと教えてくれたのは、伸治だった。
「門脇徹、そうかアンタも確かハルの仲間だったな」
伸治の口調にテツは、怪訝な表情を浮かべたかと思うと何かを納得した様に軽く頷いた。
「そうか、君もアキさんと同じ様に欠片があったのかな?」
テツは、そう言いながらゆっくりと部屋へと足を踏み入れる。
「入ってくるな」
銃口を車木の後頭部に付けて背筋を伸ばさせると車木は、小さな悲鳴をあげる。しかしテツはその表情を一切変えることなく部屋へと入ってきた。
最初の頃の礼儀正しく、何処か朗らかで、周りを気遣う人、そんな印象とは、全く違うテツの姿に西端は、不気味さと恐怖を覚えた。
だが、伸治はそんな西端とは違う印象をもっていたのかその雰囲気を知っていたかの様に彼を睨みつけていた。
「毒炎の毒蛇」
毒炎、その名前に池袋で有名なカラーギャングを西端は、思い出した。
「久しぶりに聞いたな、その名前、だけどその名前になる前に今回の俺は抜けているが?」
「俺は、知ってるんだよ、なんせその頃のアンタにボコボコにされたからな」
伸治の応えにテツは、冷たい視線を送る。
「そうか、なら惜しい事をした、その時にお前を…」
テツの言葉が不自然に途切れる。何かと思っていると硬い何かが床を転げる音が聞こえたかと思うと唐突に煙を部屋全体へと撒き散らかし始めた。
それと同時に幾つかの発砲音が響き、伸治は車木の体を壁に叩きつけると身を屈めて一気にテツの居る出入り口へと走り抜け、その横を素早く駆け抜けた。
「クッソ!」
その声と共に発砲音が数発鳴り響き、1発頬を掠めるが伸治は、それを意に介さなで階段へと走り抜けた。
階段へ辿り着くと下の階から登る幾つかの足音が聞こえ、伸治はすぐ横にあるエレベーターのボタンを押した。
エレベーターの扉は、すぐに開き、少し躊躇いながらも乗り込むとドアが閉まる直前に伸治に体当をしながらテツが乗り込んで来た。
体勢を倒されながらも反射的に伸治の銃口は、テツの頭を狙い、テツの銃口もまた伸治の頭を狙っていた。
ドアが閉まり、エレベーターがゆっくりと下の階へと向かっていく。
伸治は、それを横目で確認し、テツもまたそれを確認していた。
「アイツは、ハルはお前の過去を知ってるのか?」
伸治がそう聞くとテツは、ゆっくりと首を横に傾けた。
「知ってるけど、それがお前とどう関係ある?」
「俺が村井 武史を半身不随にしたといってもか?」
その応えにテツの目がピクリと動いたがそれ以上の変化は、なかった。
「アイツは、ただの猿だった、それで喧嘩で負けて半身不随になったんだろ?自業自得だ」
テツは、そう冷たく言い放つと伸治の引鉄にかける指に力が入った。
「それで、女子高生を1人自殺に追い込んでいたとしても同じことを言えるのか!?」
その問いにテツの意識が少しだけ外れた。
「それは、どういう意味だ?」
もうそれは、過去のこと、今では、まだ起きてない事だ。
今それを言い合っても仕方がない事だ。
そんな事は、伸治からしても100も承知だった。
だけど、この男さえ居なければ、自分はあんな決断をしなかった、あんな真似をしなかった、そう考えない時がなかったワケじゃない。
もし、あの決断をする時が無ければ、ハルともまだちゃんとした友人で居たかもしれないそう考えてしまう自分もいるのもまた事実だった。
「村井の後輩が車木達にサッカー部に絡んでボコられて、その報復に当時の女子マネージャーを輪姦した、それは俺の当時の彼女なんだよ」
伸治の言葉にテツの眉間に少しだけ皺がよるがその表情は変わらず静かに伸治の額を狙っていた。
「少しだけ思い出した、ウチをまとにかけてる高校生が居るって噂で俺が頭にボコる様に言われて…そうかお前あの時の高校生か」
テツがそう言うと伸治は、当時の苦しみを思い出し歯を食いしばった。
エレベーターがなり到着のベルの音が鳴り、反射的に2人の銃口がエレベーターの出入り口へと向けられるが開くよりも早くその手は、エレベーターの後ろの壁と引っ張られ貼り付いた。
「なんか、大事な話中申し訳ないが、続きは安全な場所でお願いしようか」
エレベーターのドアが開くと体格のいい長身の男が銃を構えながらゆっくりと乗り込んで来た。
西端は、一度だけだが伸治は、その顔を何度も見ていた。
そして伸治と同じ様に貼り付けられたテツもまたその顔を良くしているのか苦笑しながら溜息を漏らした。
「縁…お願いだから邪魔しないでください」
体格のいい長身の男、縁はテツのその申し出に肩を竦める。
「そうは、いかない、例え戦争だとしても何も分かってない子供を殺すのは、反対だ」
縁の言葉にテツは伸治に視線を送り、伸治は首を横に振った。
「まだ俺の中には、この世界の西端伸治がいる、彼は何もわかってないのも事実だ」
伸治がありまのままに応えると縁は、エレベーターに乗り込みドアを閉めた。
「とりあえず、下の階で色々話つけようか」
縁のその一言にテツも伸治もまた何も応えず、エレベーターは、静かにそして素早く下の階へと降りていった。
地下1階に到着すると縁は、2人から銃を取り上げてからその手を解放し、2人に降りる様に促した。
「何がしたいんです?このままだと上からの的ですよ?」
4階まで吹き抜けのホールの様な空間の噴水広場まで近づくとテツが口を開き、それに対して縁は、銃をベルトにしまうとゆっくりとベンチに腰を下ろした。
「泰野が今別働隊を動かしてる、そいつらが到着するまで30分ぐらいかな、それまでの持久戦をここでするつもり、だけどその前に」
縁の視線がテツと伸治へと向けられる。
「お前らは、どうしたい?特にテツ」
縁のその問いにテツは鋭い目で伸治を睨んできた。
「殺したい、俺の考えに変わりは無いですよ」
「お前は?生きたいか?」
縁が次に伸治に問うが伸治は何も応えず静かに目を伏せた。
「俺は、どうなってもいい、問題は今の彼だ、俺自身は、俺の選択であぁなったんだ、恨み辛みはあれど罪までを言い訳して逃げるつもりは、ない。だけど彼は違う、まだ何もしてないし何も知らない、それを奴に渡したくもないし、ましてや殺させるなんて間違っているっと思っている」
伸治の紛れもない本音だった。
しかし、テツの表情は、その話を聞きより険しいものへと変わっていった。
「確かに、以前の彼ならそうだ、でも今はどうだ?確かにまだ混ざってない、だけど少しづつだが混ざっていないか?」
テツの指摘に伸治は言葉を詰まらせた。
「アンタがどうやってそうなったのかは、わからない。だけど結果は俺達の様に西端は、接続者から見識者へとなりつつある、つまりそれは帰還者を表し、結果アンタの記憶を共有する事になるんじゃないのか?」
その問いに、伸治は頷いた。
「その通りだ、だが、それは今俺が消えれば抑える事が出来る…」
「自分を消すだと?」
伸治の言葉に縁が反応し、テツの視線がより鋭くなる。
「まだ混ざり切ってない今だから出来る… 」
「大隊長がマルクトを消した時の要領でか?」
重く静かなテツの声に伸治は、声を詰まらせた。
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どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
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