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【PW】AD199909《箱庭の狂騒》
暗闇の登楼
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炸裂音に悲鳴と怒声、ここはもはや見慣れた風景ではなく、帰りたくなくても帰ってきてしまった場所なのだと縁は改めて認識した。
少し後ろをビクビクしながら着いてくる鍋島は周囲をひっきりなしに見渡していた。
サンシャインビルの中は、最早戦場と言っても過言では、なかった。
通路側の灯り、そこには不気味な程の静けさが漂い、店舗やオフィス内から微かな気配と殺気を感じた。
今は、26階に入ったところだろうか。
明らかに幾つかの部隊がその場に潜んでいる、縁の培われた経験と能力がそれを教えていた。
サンシャイン内に入った当初は感じられなかったが階数を上がる度にその気配は強まり、そして10階を過ぎた辺りから微かな銃声と誰かが死んだ感覚を覚え、縁はより一層、気を引き締めた。
縁にあるのは、肉体と能力、恐らく敵は銃やそれ相応の装備をしている可能性が高い。
流石の縁でもそれらと正面から向かって勝てはしない。
せめて非能力者ならまだ勝てる可能性は、充分高いのだが上から漂う気配から接続者が何人も居る事は、嫌でも理解できた。
それに外の結界の事も考えればそれなりの経験者と接続者がいる筈、そう踏んでいた。
だが、この状況と何よりも部隊の仲間であったテツをこのまま見過ごす事は、出来なかった。
「本当に、西端を助けるつもりなのかよ…」
鍋島は、か細い声で訊いてくるが縁はそれに対して鼻ひとつ鳴らすだけだった。
「そもそもこの状況を作ったのは、お前だろ?」
「それは、違う!俺はちゃんと忠告した!奴の近くには、マルクトが居るって!それだけだ!」
「それを誰に忠告したんだよ?」
縁がそう訊くと鍋島は、口を閉ざした。
肝心な話に入るとこれで埒が明かない。
コイツの事だ、多分まだ三本に幾つかのパイプを残してそれらに流したのだろう。
もしそうだとしても、これ程の部隊を動かすとなれば人は、限られていく。
小、大部隊の隊長クラスでは、こんな真似ができるとは、思えない。
並ば指揮官クラスかそれよりも上の人物が動いていると考える方が妥当だ。
それなら、上にいる部隊も生半可な奴等じゃないのも想定できる。
縁は、出来るだけ集中を切らずに再び上へと歩みを進めた。
空気が変わったのは、25階を過ぎた辺りからだった。
数発の銃声と共にけたたましい物音、争っている。
縁は、龍を具現化すると周囲の壁の中へと走らせた。
このフロアーに8人の部隊が2つ、どちらも濃い色の服を着た連中だった。
縁には、どっちがマルクト側でどっちが三本側なのか検討もつかず正直、相手にしたくないというのが本音だった。
そして、そう願っても上手くいかないのが戦場という場所でもある。
27階付近の階段を登っていた時だった。
上階のドアが開く音が聞こえて縁は、慌ててフロアーへと入り込んだ。
オフィスフロアーには、ロの字型の階段が広がり身を屈めて素早く開いている部屋へと滑り込んだ。
足音は、4人分で歩く音は、3と1で分かれている。
縁は、意識を集中して相手の方向と位置を把握した。
階段に3人、1人が今、縁達と同じフロアーに入った。
足音が遠ざかり、縁達のいる部屋とは、逆方向へと向かった様だ。それと同時に3人の気配もフロアーへ辿り着いた。
それと同時に縁は、後ろにいる鍋島に静止の合図を出した。
出来るだけ、息と気配を殺し、空間へと馴染む様に意識する。
暫くすると3人の気配と足音が遠くへ行くのを感じて縁は、静止の合図を解いた。
「おい、どうすんだよ?」
鍋島が小声で言ってきた。
「どうするもこうするもない、ハッキリ言えばどっちも敵だ、接触しないのが一番だろ」
縁は、身を屈めた状態で部屋の出入り口まで行くと静かにドアを開けると廊下を確認した。
「本気か!?政府軍の人間だぞ!?」
「それは、前の話だ」
「だが今もお前は政府側だろ」
「あくまでも代打、本選手が戻ったらまた野良になるだけで俺自身は、どちらでもない」
縁の応えに鍋島は、苦々しい表情を浮かべていた。
「お前の目的は、政府側と同じ、西端を始末する事だろ?助けたいなら目的が同じなお前が助けろ、俺はアイツを生かす側だ」
「アルファ側か?」
「なんでそうなる?どちらかと言えば第3勢力だろ、まっ勢力って程の力は無いがな」
「アイツを助けてお前になんのメリットがある?」
「メリットが無いと救っちゃいけないのか?」
縁の応えに鍋島は、言葉を詰まらせた。
廊下内の安全を確認すると縁は、素早く階段前へと移動しドアを開けた。
「お前本当に…」
階段に出ると後ろから鍋島が言ってきた。縁はその声に振り返ると同時に悪寒が走り、反射的にその胸倉を掴むと階段へと引き入れた。
それと同時に炸裂音が響き、壁に弾丸が火花と共に埋まった。
「走って階段降りろ」
縁は、鍋島の胸倉を引っ張りながら階段下へと送ると自分は、直ぐさまドア横の壁に体を隠した。
鍋島は、小さな悲鳴と共に階段を駆け下り、縁は迫る足元に耳を傾けた。
足音は、1つ、迷いなく縁の反対側の壁に付くとゆっくりとドアを開けた。
鍋島が階段を駆け下りる音に反射して素早くドアを抜ける男の人影が現れた。手すりから下を見下ろして急いで階段を降り様とした瞬間に縁は、背後からその足を引っ掛けると人影は、階段を転げ落ち、縁もまた転げ落ちた先に素早く降りると銃を持った右腕を折りながら銃を奪い取った。
「あか……」
人影が口をパクパク開きながら左手で縁を掴もうとするが縁は直ぐさま左膝を銃で撃つとコメカミに向かい拳を叩きつけた。
「容赦ねぇな」
縁が男の体から残りの弾を探している時に下からゆっくりと上がってきた鍋島が声を掛けてきた。
「戦場にいて殺されてねぇんだ、まだましだろ」
男のポケットから2つのマガジンを取り出し、銃の薬室と残りの弾数を確認しながら縁は、再度周囲に意識を向けた。
銃は、グロック、馴染みのある自動拳銃で残りの残弾数は、36発。
相手は、現状3人だが1人は、味方に出来るかもしれない。しかし情報が足りない。
それにここでこの男を残りの2人に見つかるのは、出来るだけ遅らせたい。
最悪3人を相手にするハメになるが元より味方は、誰もいない、鍋島ですら政府側と合流すれば裏切る可能性もある。
「くっそ、時間かけたくねぇのに」
縁は、小さく悪態をつくと階段を駆け上がりフロアーへとゆっくり入っていった。
チラチラとした気配がこっちへ向けられる。
恐らく階段で倒れてる男の仲間が今の物音に判断を迷っているのだろう。
つまり、もう1人は、まだ2人に見つかってないか制圧されていない。
叩くなら今がチャンスか…
縁は、壁に手を当てると頭の中で龍を形成するとそれを壁の中を走らせた。
壁の向こうの情報が頭の中に入り込み、周囲の状況を把握する。
壁向こうの部屋に3人がいる。
1人は、机を遮蔽物に倒れている。
2人は、1人を探す為に出入り口からゆっくりと部屋に入る途中だ。
先頭を行く1人は、恐らく探知能力が低い方なのだろう、目の前の獲物へと足を向けているが後方の1人は、意識の半分をコチラへと向けている。
それに出来るだけ気配を殺している龍の出現にすら気づき警戒を強めている。
縁は、情報を整理しながら廊下の角に立つとゆっくりと息を整えた。
曲がった先には、後方の男が立っている出入り口があり、そこまで向かうには、30m程の遮蔽物のない廊下を一気に駆け抜けるしかない。
「おい」
縁が鍋島に声を掛けると何を言おうとしているのか察したのか眉間に皺を寄せた。
「合図が出す、そのタイミングで幕をよこせ」
縁が念押しでそう言うと鍋島は、視線を逸らしながら頷いた。
縁は、龍に意識を向けると壁に埋めていたその姿を現すと同時に先頭に立つ1人の体を縛る様に絡みついた。
それと同時に縁は、角を低い態勢のまま曲がると一気に駆け抜けた。
何かがその体を包むのを感じ、鍋島が幕を張ったのを感じた。
縁の動きはそこから一切の迷いも躊躇いもなかった。
出入り口に近づき、突然の出来事に慌てて下がる後方の1人の体が見えると見えた順番から撃った。
左腿、そして銃を持つ右腕に弾丸が埋まり、突然の衝撃に後方の1人は、悲鳴をあげながら仰向けに倒れ、その無防備な顔面を踏みつけて意識を絶った。
そして、直ぐ様に部屋へと入っていく。
先頭の男は、龍に絞め落とされその場で崩れ落ち、残りは、机に隠れている逃げている1人だった。
「まだ続けるか?怪我してんだろ?」
声をかけながら縁はゆっくりと近づいていく。
殺気は、消えていない、だがさっきよりそれは弱々しくなっている。
それらを踏まえながらも縁は警戒を解く事なくゆっくりと横から覗き込むと肩から血を流して倒れている女が銃口を構えながらこちらを睨みつけていた。
壁に体をもたれかかせて漸く上半身を起こしているとこらから察するにもう限界がきているのは、一目瞭然だった。
縁がゆっくりと両手をあげると女は、銃をおろして天を仰ぎながら一息吐いた。
「まさか、こんなところで孤高の英雄に会えるなんてね」
女は、そう言いながら口元だけで笑みを浮かべた。
縁は、少しだけ振り返り出入り口に立つ鍋島に目を向けると後方に倒れている男を指さした。
「そいつの腰元に救護用セットが入ってるから取ってくれ」
縁がそう言うと鍋島は、慌てて動き出して縁にそれを手渡した。
女の目が鍋島は、捉えると何処か安堵に近い溜息を漏らした。
「教、アンタも居たんだ」
「知り合いか?」
「元カレ」
その応えに縁は、今までの鍋島の不可解な行動の答えがわかり、溜息を漏れてしまった。
何故助け様と仕向けていたのか、どうして階段出入口で鍋島が見つかり撃たれそうになったのか、それらの全てが彼女を助ける為に鍋島が動いた結果だった。
そもそも、戦場でいくら元仲間だと言っても知らぬ相手を助けるのは、デメリットがデカすぎる。
ましてや今の縁からすればどちらも敵であり、そんな縁と行動を共にする鍋島もまた同じになる。
次に先程まで使っていた鍋島の能力である、隠れ蓑が外れ、階段出入口付近で敵にその姿を察知されて撃たれたのもその力を彼女を守る為に使っていたとすれば説明がつく。
そして、縁がそれらを察したと気づいた鍋島は、そそくさと出入り口へと歩き出した。
「まだ怒ってるんだ」
ふと女が呟き、縁は応急処置をしながら肩を竦めた。
「最後の戦いの時に、喧嘩したんです、アイツは私は逃げろって言って私は、それを断った」
フト、縁は出入り口で周囲を見る鍋島を一瞥した。
「それで、別れたと」
「私は、そのつもりでした」
だけど、鍋島は、そう思ってなかった。いや別れたとわかっていても放っておけなかったが正確なのだろう。
「それよりも、君に聞きたいことがある」
縁は、そう切り出すと女からいくつかの情報を探った。
そこでわかったのは、少なくとも17人の能力者がサンシャイン内には、居るという事とアルファとの見分け方だった。
「恐らく、敵も間違わない様に右腕に白い腕章を付けています、それが味方だというサインかと」
縁は、そう言われて倒れる男達に目を向けると全員右腕に腕章をつけていた。
「逆にそっちには、見分け方は無いのか?」
「私達は、指輪ですね」
彼女は、そう言いながら縁に向かって右手を見せた。
中指にハマるそれは、エンゲージリングの様なシンバーのシンプルな指輪だが縁の目には、それを覆う様に翡翠の靄がかかって見えていた。
「《統率者》か」
縁がそう言うと彼女は、ゆっくりと頷きながら指輪を外して縁に差し出した。
「これがあればコチラ側の人間の位置がわかります」
しかし、縁はそれを受け取ろうとせずに首を横に振った。
「悪いが、俺はお前達側でもない、勿論あちら側でも無いがな」
縁の言葉に彼女は、怪訝な表情を浮かべた。
「俺は、アイツを生かそうと思ってる、無論マルクトに渡す気もない、彼には彼の人生を歩んでもらう、それが俺が選んだ選択だ」
縁がそう言うと、彼女は、フッと笑みを浮かべて再び指輪を差し出した。
「甘いんですね、でも貴方ならそれを選んでもなんの不思議もない」
今度は、縁が不思議そうな表情で彼女を見た。
「出来るなら私もそうしたい、だけど私には、それを選ぶ事は出来なかった、弱いから、だから…」
そう言いながら彼女は、ゆっくりと指輪を握った手を縁の胸に当てた。
その先の言葉は、なかった。
託したい、縁は彼女がそう言いたいのだと悟ると指輪を受け取り、その指にはめた。
頭の中に仲間の位置がハッキリと見え、時折耳の奥から幾つかの声が聞こえた。
「お願いします」
彼女にそう言われて縁は立ち上がり、部屋の出入り口へと向かった。
出入り口では、鍋島と目が合うと縁は中の彼女へと目を向けた。
「安全圏までフォローしてやれ」
「良いのか?」
鍋島にそう言われると縁はゆっくりと指輪を見せた。
「今のお前より、コイツの方が信用出来る、戻ってくるかどうかは好きにしろ」
そう言うと縁は、出入り口で倒れている男から白い腕章を奪うとそれをポケットにしまった。
微かに感じていた感覚から察するにこれもまた指輪と同じ様に仲間の位置を知らせるモノで間違いなく、これでアルファ側の位置も把握出来る様になった。
統率者は、2人、そのどちらもが縁の位置を知る事になる。
縁は、ゆっくりと息を吐いて階段のフロアーへと向かい再びサンシャインを登り始めた。
少し後ろをビクビクしながら着いてくる鍋島は周囲をひっきりなしに見渡していた。
サンシャインビルの中は、最早戦場と言っても過言では、なかった。
通路側の灯り、そこには不気味な程の静けさが漂い、店舗やオフィス内から微かな気配と殺気を感じた。
今は、26階に入ったところだろうか。
明らかに幾つかの部隊がその場に潜んでいる、縁の培われた経験と能力がそれを教えていた。
サンシャイン内に入った当初は感じられなかったが階数を上がる度にその気配は強まり、そして10階を過ぎた辺りから微かな銃声と誰かが死んだ感覚を覚え、縁はより一層、気を引き締めた。
縁にあるのは、肉体と能力、恐らく敵は銃やそれ相応の装備をしている可能性が高い。
流石の縁でもそれらと正面から向かって勝てはしない。
せめて非能力者ならまだ勝てる可能性は、充分高いのだが上から漂う気配から接続者が何人も居る事は、嫌でも理解できた。
それに外の結界の事も考えればそれなりの経験者と接続者がいる筈、そう踏んでいた。
だが、この状況と何よりも部隊の仲間であったテツをこのまま見過ごす事は、出来なかった。
「本当に、西端を助けるつもりなのかよ…」
鍋島は、か細い声で訊いてくるが縁はそれに対して鼻ひとつ鳴らすだけだった。
「そもそもこの状況を作ったのは、お前だろ?」
「それは、違う!俺はちゃんと忠告した!奴の近くには、マルクトが居るって!それだけだ!」
「それを誰に忠告したんだよ?」
縁がそう訊くと鍋島は、口を閉ざした。
肝心な話に入るとこれで埒が明かない。
コイツの事だ、多分まだ三本に幾つかのパイプを残してそれらに流したのだろう。
もしそうだとしても、これ程の部隊を動かすとなれば人は、限られていく。
小、大部隊の隊長クラスでは、こんな真似ができるとは、思えない。
並ば指揮官クラスかそれよりも上の人物が動いていると考える方が妥当だ。
それなら、上にいる部隊も生半可な奴等じゃないのも想定できる。
縁は、出来るだけ集中を切らずに再び上へと歩みを進めた。
空気が変わったのは、25階を過ぎた辺りからだった。
数発の銃声と共にけたたましい物音、争っている。
縁は、龍を具現化すると周囲の壁の中へと走らせた。
このフロアーに8人の部隊が2つ、どちらも濃い色の服を着た連中だった。
縁には、どっちがマルクト側でどっちが三本側なのか検討もつかず正直、相手にしたくないというのが本音だった。
そして、そう願っても上手くいかないのが戦場という場所でもある。
27階付近の階段を登っていた時だった。
上階のドアが開く音が聞こえて縁は、慌ててフロアーへと入り込んだ。
オフィスフロアーには、ロの字型の階段が広がり身を屈めて素早く開いている部屋へと滑り込んだ。
足音は、4人分で歩く音は、3と1で分かれている。
縁は、意識を集中して相手の方向と位置を把握した。
階段に3人、1人が今、縁達と同じフロアーに入った。
足音が遠ざかり、縁達のいる部屋とは、逆方向へと向かった様だ。それと同時に3人の気配もフロアーへ辿り着いた。
それと同時に縁は、後ろにいる鍋島に静止の合図を出した。
出来るだけ、息と気配を殺し、空間へと馴染む様に意識する。
暫くすると3人の気配と足音が遠くへ行くのを感じて縁は、静止の合図を解いた。
「おい、どうすんだよ?」
鍋島が小声で言ってきた。
「どうするもこうするもない、ハッキリ言えばどっちも敵だ、接触しないのが一番だろ」
縁は、身を屈めた状態で部屋の出入り口まで行くと静かにドアを開けると廊下を確認した。
「本気か!?政府軍の人間だぞ!?」
「それは、前の話だ」
「だが今もお前は政府側だろ」
「あくまでも代打、本選手が戻ったらまた野良になるだけで俺自身は、どちらでもない」
縁の応えに鍋島は、苦々しい表情を浮かべていた。
「お前の目的は、政府側と同じ、西端を始末する事だろ?助けたいなら目的が同じなお前が助けろ、俺はアイツを生かす側だ」
「アルファ側か?」
「なんでそうなる?どちらかと言えば第3勢力だろ、まっ勢力って程の力は無いがな」
「アイツを助けてお前になんのメリットがある?」
「メリットが無いと救っちゃいけないのか?」
縁の応えに鍋島は、言葉を詰まらせた。
廊下内の安全を確認すると縁は、素早く階段前へと移動しドアを開けた。
「お前本当に…」
階段に出ると後ろから鍋島が言ってきた。縁はその声に振り返ると同時に悪寒が走り、反射的にその胸倉を掴むと階段へと引き入れた。
それと同時に炸裂音が響き、壁に弾丸が火花と共に埋まった。
「走って階段降りろ」
縁は、鍋島の胸倉を引っ張りながら階段下へと送ると自分は、直ぐさまドア横の壁に体を隠した。
鍋島は、小さな悲鳴と共に階段を駆け下り、縁は迫る足元に耳を傾けた。
足音は、1つ、迷いなく縁の反対側の壁に付くとゆっくりとドアを開けた。
鍋島が階段を駆け下りる音に反射して素早くドアを抜ける男の人影が現れた。手すりから下を見下ろして急いで階段を降り様とした瞬間に縁は、背後からその足を引っ掛けると人影は、階段を転げ落ち、縁もまた転げ落ちた先に素早く降りると銃を持った右腕を折りながら銃を奪い取った。
「あか……」
人影が口をパクパク開きながら左手で縁を掴もうとするが縁は直ぐさま左膝を銃で撃つとコメカミに向かい拳を叩きつけた。
「容赦ねぇな」
縁が男の体から残りの弾を探している時に下からゆっくりと上がってきた鍋島が声を掛けてきた。
「戦場にいて殺されてねぇんだ、まだましだろ」
男のポケットから2つのマガジンを取り出し、銃の薬室と残りの弾数を確認しながら縁は、再度周囲に意識を向けた。
銃は、グロック、馴染みのある自動拳銃で残りの残弾数は、36発。
相手は、現状3人だが1人は、味方に出来るかもしれない。しかし情報が足りない。
それにここでこの男を残りの2人に見つかるのは、出来るだけ遅らせたい。
最悪3人を相手にするハメになるが元より味方は、誰もいない、鍋島ですら政府側と合流すれば裏切る可能性もある。
「くっそ、時間かけたくねぇのに」
縁は、小さく悪態をつくと階段を駆け上がりフロアーへとゆっくり入っていった。
チラチラとした気配がこっちへ向けられる。
恐らく階段で倒れてる男の仲間が今の物音に判断を迷っているのだろう。
つまり、もう1人は、まだ2人に見つかってないか制圧されていない。
叩くなら今がチャンスか…
縁は、壁に手を当てると頭の中で龍を形成するとそれを壁の中を走らせた。
壁の向こうの情報が頭の中に入り込み、周囲の状況を把握する。
壁向こうの部屋に3人がいる。
1人は、机を遮蔽物に倒れている。
2人は、1人を探す為に出入り口からゆっくりと部屋に入る途中だ。
先頭を行く1人は、恐らく探知能力が低い方なのだろう、目の前の獲物へと足を向けているが後方の1人は、意識の半分をコチラへと向けている。
それに出来るだけ気配を殺している龍の出現にすら気づき警戒を強めている。
縁は、情報を整理しながら廊下の角に立つとゆっくりと息を整えた。
曲がった先には、後方の男が立っている出入り口があり、そこまで向かうには、30m程の遮蔽物のない廊下を一気に駆け抜けるしかない。
「おい」
縁が鍋島に声を掛けると何を言おうとしているのか察したのか眉間に皺を寄せた。
「合図が出す、そのタイミングで幕をよこせ」
縁が念押しでそう言うと鍋島は、視線を逸らしながら頷いた。
縁は、龍に意識を向けると壁に埋めていたその姿を現すと同時に先頭に立つ1人の体を縛る様に絡みついた。
それと同時に縁は、角を低い態勢のまま曲がると一気に駆け抜けた。
何かがその体を包むのを感じ、鍋島が幕を張ったのを感じた。
縁の動きはそこから一切の迷いも躊躇いもなかった。
出入り口に近づき、突然の出来事に慌てて下がる後方の1人の体が見えると見えた順番から撃った。
左腿、そして銃を持つ右腕に弾丸が埋まり、突然の衝撃に後方の1人は、悲鳴をあげながら仰向けに倒れ、その無防備な顔面を踏みつけて意識を絶った。
そして、直ぐ様に部屋へと入っていく。
先頭の男は、龍に絞め落とされその場で崩れ落ち、残りは、机に隠れている逃げている1人だった。
「まだ続けるか?怪我してんだろ?」
声をかけながら縁はゆっくりと近づいていく。
殺気は、消えていない、だがさっきよりそれは弱々しくなっている。
それらを踏まえながらも縁は警戒を解く事なくゆっくりと横から覗き込むと肩から血を流して倒れている女が銃口を構えながらこちらを睨みつけていた。
壁に体をもたれかかせて漸く上半身を起こしているとこらから察するにもう限界がきているのは、一目瞭然だった。
縁がゆっくりと両手をあげると女は、銃をおろして天を仰ぎながら一息吐いた。
「まさか、こんなところで孤高の英雄に会えるなんてね」
女は、そう言いながら口元だけで笑みを浮かべた。
縁は、少しだけ振り返り出入り口に立つ鍋島に目を向けると後方に倒れている男を指さした。
「そいつの腰元に救護用セットが入ってるから取ってくれ」
縁がそう言うと鍋島は、慌てて動き出して縁にそれを手渡した。
女の目が鍋島は、捉えると何処か安堵に近い溜息を漏らした。
「教、アンタも居たんだ」
「知り合いか?」
「元カレ」
その応えに縁は、今までの鍋島の不可解な行動の答えがわかり、溜息を漏れてしまった。
何故助け様と仕向けていたのか、どうして階段出入口で鍋島が見つかり撃たれそうになったのか、それらの全てが彼女を助ける為に鍋島が動いた結果だった。
そもそも、戦場でいくら元仲間だと言っても知らぬ相手を助けるのは、デメリットがデカすぎる。
ましてや今の縁からすればどちらも敵であり、そんな縁と行動を共にする鍋島もまた同じになる。
次に先程まで使っていた鍋島の能力である、隠れ蓑が外れ、階段出入口付近で敵にその姿を察知されて撃たれたのもその力を彼女を守る為に使っていたとすれば説明がつく。
そして、縁がそれらを察したと気づいた鍋島は、そそくさと出入り口へと歩き出した。
「まだ怒ってるんだ」
ふと女が呟き、縁は応急処置をしながら肩を竦めた。
「最後の戦いの時に、喧嘩したんです、アイツは私は逃げろって言って私は、それを断った」
フト、縁は出入り口で周囲を見る鍋島を一瞥した。
「それで、別れたと」
「私は、そのつもりでした」
だけど、鍋島は、そう思ってなかった。いや別れたとわかっていても放っておけなかったが正確なのだろう。
「それよりも、君に聞きたいことがある」
縁は、そう切り出すと女からいくつかの情報を探った。
そこでわかったのは、少なくとも17人の能力者がサンシャイン内には、居るという事とアルファとの見分け方だった。
「恐らく、敵も間違わない様に右腕に白い腕章を付けています、それが味方だというサインかと」
縁は、そう言われて倒れる男達に目を向けると全員右腕に腕章をつけていた。
「逆にそっちには、見分け方は無いのか?」
「私達は、指輪ですね」
彼女は、そう言いながら縁に向かって右手を見せた。
中指にハマるそれは、エンゲージリングの様なシンバーのシンプルな指輪だが縁の目には、それを覆う様に翡翠の靄がかかって見えていた。
「《統率者》か」
縁がそう言うと彼女は、ゆっくりと頷きながら指輪を外して縁に差し出した。
「これがあればコチラ側の人間の位置がわかります」
しかし、縁はそれを受け取ろうとせずに首を横に振った。
「悪いが、俺はお前達側でもない、勿論あちら側でも無いがな」
縁の言葉に彼女は、怪訝な表情を浮かべた。
「俺は、アイツを生かそうと思ってる、無論マルクトに渡す気もない、彼には彼の人生を歩んでもらう、それが俺が選んだ選択だ」
縁がそう言うと、彼女は、フッと笑みを浮かべて再び指輪を差し出した。
「甘いんですね、でも貴方ならそれを選んでもなんの不思議もない」
今度は、縁が不思議そうな表情で彼女を見た。
「出来るなら私もそうしたい、だけど私には、それを選ぶ事は出来なかった、弱いから、だから…」
そう言いながら彼女は、ゆっくりと指輪を握った手を縁の胸に当てた。
その先の言葉は、なかった。
託したい、縁は彼女がそう言いたいのだと悟ると指輪を受け取り、その指にはめた。
頭の中に仲間の位置がハッキリと見え、時折耳の奥から幾つかの声が聞こえた。
「お願いします」
彼女にそう言われて縁は立ち上がり、部屋の出入り口へと向かった。
出入り口では、鍋島と目が合うと縁は中の彼女へと目を向けた。
「安全圏までフォローしてやれ」
「良いのか?」
鍋島にそう言われると縁はゆっくりと指輪を見せた。
「今のお前より、コイツの方が信用出来る、戻ってくるかどうかは好きにしろ」
そう言うと縁は、出入り口で倒れている男から白い腕章を奪うとそれをポケットにしまった。
微かに感じていた感覚から察するにこれもまた指輪と同じ様に仲間の位置を知らせるモノで間違いなく、これでアルファ側の位置も把握出来る様になった。
統率者は、2人、そのどちらもが縁の位置を知る事になる。
縁は、ゆっくりと息を吐いて階段のフロアーへと向かい再びサンシャインを登り始めた。
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どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
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