シンミトロア物語【異世界転生ビルダーの紀行】

山月 春舞《やまづき はるま》

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予期せぬ来訪者達

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 遠くから聞こえる虫の鳴き声に目が覚めた。
 隣のソファーで眠りにつくレイメイを一瞥するとゼンは、起こさぬ様に外へ出ていく。
 玄関先をぬけて階段へ座ると冷たく乾いた風が頬を切る。
 ついこの間までの暑さが嘘の様に秋の夜風へと変わっていた。
 パイプに火をつけて一口吸うと後ろから柔らかい風が吹いた。
 ゼンは、それに振り返る事なくゆっくりと夜空を見上げた。
 空には、月がゆったりと佇んでいる。
 周りを囲う雲もそれを避ける様に泳いでいる。

『昼間は、ありがとうございました。なんとか無事でした』

 ゼンがそう声をかけると風を起こした当人が銀髪の長い髪を靡かせながら横に座った。

『本当は、あの蛇を引き裂いてやろうかとも思ったんだがな、シャリオに邪魔された』

 銀髪の長い髪のアスは、どこか悔しそうな表情でそう応えた。

『シャリオさんに?』

『うん、妙な気配を感じるから慎重に行動しろと言われた、しかし蓋を開けてみたらなんとやら、ゼンよ、シャリオから伝言だ、明日はあの少女の話に我々も同席をするから露払いを頼むとのことだ』

 少女の話にシャリオが?
 思わぬ申し出にゼンが戸惑っているとアスは、優しく笑った。

『大丈夫、何も起こりはしない』

 そう言うと、フワリと飛ぶ様に夜空へと去っていった。
 何も起こりはしないと言われても、もはや何かが起き始めているのは間違いなく、ゼンは少しだけ溜息を漏らしながら再び月を見上げた。

 次の日、朝食を済ませ、ゼンの部屋にゼン、セリーナ、クリフ、レイメイ、そして少女の5人を集めた。
 しかし、テーブルには、8個のカップが並び、それをみたレイメイが不思議そうな顔をした。

「なんか、妙に飲み物多くないか?」

 ゼンは、ベランダの硝子戸を開けながらゆっくりと振り返った。

「これから3人のお客様も来るので」

「3人?」

 レイメイが疑問を口にしたと同時にゼンの背後から強く風吹いた。

「ワシらだよ、バカタレ」

 そう言いながら杖をついた、エルフの老婆、シャリオがゼンの横へ立ち、ゼンや周りに向かいゆっくりと頭を下げた。
 セリーナやクリフはシャリオの登場に驚きながらもゆっくりと挨拶を返し、少女は昨日、レイメイにしたと同じ様に立ち上がると深々とシャリオに頭を下げた。

「レイメイ▪️ショリュ、今はそう名乗っている様だね、コウキョウ」

 次に現れたのは、長髪の壮年のエルフ、ハリートレイだ。
 彼もまたシャリオに習う様にゼン達に挨拶し、最後に入ってくるのは、銀の髪を靡かせるアスだった。

「これは、これはトレイにバァサンにそれに御方までとは…流石に予想外の登場で」

 レイメイは、明らかに顔をひきつらせながら立ち上がると恭しく頭を下げた。

「白々しい、40年前に出てった出来損ないの弟子がどの面を下げて帰ってきたと思ったら、こっちには挨拶無しとは、ね」

 弟子、挨拶?
 シャリオの口から出る言葉にゼンが戸惑う事しか出来ずにいた。

「挨拶は、しにいこうとは、思っていましたよ。しかし不肖の弟子の様子を見てからじゃないと立場上おいそれと里には帰れないんですよ」

「蜥蜴が竜を産むとは、まさにこの事か、お前にしては、本当に良い弟子を育てたなそこだけは誉めてやるよ」

 蜥蜴が竜とは、トンビが鷹の様な比喩だろうと察するがまさかレイメイがシャリオの弟子であり、そしてここの出だとは、思ってもみなかった。
 だが、振り返ってみればこの土地で起きた事に異様に詳しかったのは、納得がいく。
 ハリーホーンの事は、どの文献にも怪しい妖術師としてか記載は、なかった。
 しかし、レイメイはハリーホーンが亜人族達の解放の為に動いていた事を知っており、その際に禁忌の力に手を出したのだと教えてくれた。
 そんな歴史を書いた書物は、何処にも無かったのにだ。
 そんな事実を繋げれば彼は、書物で見たのではなくその目で見たのだと知れば辻褄は合う…のだが…

「なんで教えてくれなかったんですか?」

 ゼンが徐にそう言うと、レイメイは小さく肩を竦めた。

「お前までそんな事言うなよ、俺は神様じゃないまさかお前がこの土地の領主になるとは、思ってもみなかったのさ」

 それも確かにそうだ。特にレイメイが知っているあの時の状態を考えれば尚更だ。

「それで、コウキュウ、お前は何しにここに来た?お前もキンレイから連絡が?」

 キンレイ、その言葉に少女の顔が一瞬、明るくなった。

「キンレイ様をご存知なんですか!?」

 少女のその応えにシャリオがゆっくりと頷いた。

「勿論さ、あの子に頼まれて、我々はお嬢さんを迎えに来たんだからね」

「なら、【ソメイの枝】は存在するんですか!?」

 少女がそう言うとシャリオとハリートレイの表情が微かに曇った。

「ソメイの枝って何すか?」

 ゼンがそっと近づいてレイメイに聞くとその表情もまた曇った。

「聖遺物だが、並の聖遺物じゃない、創造されたモノだ」

「創造された聖遺物って…」

 ふと、ゼンの視線がシャリオ達と並ぶアスに向いていた。

「かの御方が創造されたのは、4つある、3つ種に1つの木だ、しかしそれは葉も実も付けない枯れ枝でな、本来は花を咲かせる筈なんだが…な…」

 妙な含みを込めて話す、レイメイに再度質問しようとしたが、それをシャリオの杖が床を叩く音で止められた。

「申し訳ないが、あれは渡せん、まずあれは我々にとって大事な方の生きた証であり、象徴であり、そして封印でもある。キンレイも知っていよう」

 そのシャリオの返事に少女は、その場で跪くと頭を床につけた。

「お願いします!!兄を…大事な人を救いたいんです!!それがあれば助かるんです!!」

 セリーナが慌てて少女の肩に触れるが少女はテコでも動くことは、無くその頭を床につけている。
 微かに揺れる肩に泣いているのも見て取れた。

「気持ちは分かるが、呪毒をあれで払えるかも怪しい、申し訳ないが…」

「ちょっと待ってください、ならそれが呪毒に効力があったら、譲ってもらえるんですか?」

 ふと、した疑問をゼンが問うとシャリオは困った表情を浮かべながら小さな溜息を漏らした。

「もし、あるなら少し位ならな、本来なら渡したくない、だが…」

 シャリオは、一瞬アスに向かい視線を向けたが当の本人は、何処吹く風の様に呆けた表情をしていた。

「大事なモノを救う為なら、と許されている」

 シャリオにしては、どうも歯切れが悪い。
 いつもなら高潔に冷静に判断するであろうシャリオがどうも困惑している。
 ゼンは、それの大元が何のか漠然と理解していた。
 そして、その根源はまるで素知らぬ顔でことの成り行きを見守っている始末だ。
 さすがにアステマラだとこの少女に名乗るわけにもいなかないのだろうからそういう立ち位置に収まっているのだろうが…

「ならば、私に鑑定させて貰えないでしょうか?もし効力があれば少しだけわけて頂けないでしょうか?」

 ゼンが再度、念を押すと諦めた様にシャリオが溜息を漏らした。

「ヤマダル殿は、この少女が何者でどうしてそれを必要としているか理解しておられないのでしょ?」

 シャリオの問いにゼンは、ゆっくりと頷いた。

「それなのにどうして、この子を助け様と思うのです?貴方にとって亜人は敵部族でしょうに?」

「困った人を助けるのに理由は必要ですか?大人が子供助けないで誰が助けるのです?」

「しかし、敵部族ですよ?」

「それは、それです。確かに隣国であり、友好的な関係を築けていないのは、事実ですが一概に敵というのは、いささか乱暴では?」

「なら、この子の兄がゴレッドの王様でもですか?」

「関係ありません」

 ゼンは、迷わず即答で答えるとシャリオの目が少しだけ丸々と広がったと思うと少しだけ優しい顔に変わっていた。

「本当に蜥蜴が竜を産んだようですね、わかりました、もし貴方が取れて、効力があるなら少し譲りましょう」

 シャリオは、そう言うとゆっくりとソファーに腰を落とした。
 少女もまたシャリオの言葉に頭を上げるとゼンに向かい再度頭を下げ様としたがそれをセリーナが逸早く止めて、ソファーに座る様に促した。

「それより前に、事態の話を聞いて頂けますかなゼン殿」

 シャリオが落ち着いた声で言い、ゼンはゆっくりと頷き、シャリオの対面に座った。左隣には少女、右隣には、何故かアスが座り、気づくとレイメイは、後ろで立たされていた。
 少女の名前は、ショウラン。
 彼女はゴレッドの現国王ハクレイの妹に当たる子だという。
 ハクレイは、2ヶ月前から病床に倒れており、その腹心であるレイメイの兄キンレイの診断によりそれが呪毒によって蝕まれいるのが発覚した事から話が始まった。
 そこでキンレイは、かつての師であるシャリオに手紙を寄越し助言を求めたらしいのだ。
 しかし、本来ならば呪毒は、返ししかできないのだが当のかけた本人が亡くなっており解呪も出来ないのだという。
 本来ならばお手上げなのだが、そこにもし聖霊の力で解呪ができるのではないかとキンレイは、考えつきシャリオに【ソメイの枝】を譲って欲しいと懇願してきたそうだ。
 しかし、シャリオは確かに解呪の力を備わっている可能性があるものの、何よりも大事なものであるそれを渡す事は、出来ないと拒んでいた。
 そこで業を煮やしたキンレイは、彼の王を連れて川を隔てた隣町へと来ているのだという。
 そこでまだ手紙のやり取りを続けていたのだがその手紙を見たショウランは、皆に内緒で街を抜け出し、渡し船に乗り、対岸の村のここへやってきたというのだ。
 しかし、道も分からず、エルフを探しに森に入ったが再び迷い途方に暮れていると森の果実を取りに来ていたカバルと出会った。
 カバルは、ショウランが亜人と知りながらも食糧を渡して、一緒にエルフ探しを助けていたらしい。
 しかし、2日目の昼に岩毒蛇ドラッシュバイパーと遭遇して今に至るという事だった。

「呪毒…かぁ…」

 事の顛末を聞き終えたゼンは、ふと気になった部分を口にしていた。
 ゼン事態、普通の毒の解毒は何度も立ち会った事があるが呪毒に関しては少し知識が足りないと言えた。
 基本的な知識で言うなら水魔術の陰の系譜にあたいすると知っていたが体感した事はなかった。
 それと聖遺物の対しての知識はそれなりだが、創造物の効果に対しては、まだ知識は浅いとも言えるが、この目で見ればそれが効果あるかどうかは判断がつくと自身はある。
 これは、知識と言うよりその眼の力だった。
 しかし、眼の力を使うのは、出来るだけ避けたいといのも事実である。
 実際、ゼンはこの村に来てから一度も慧眼けいがん世界の記録庫せかいのきろくこも使っていなかった。
    正確に言うなら使のだ、無意識に入ってきた物質に対する、効力程度の内容は、閃く様に入ってくるのは、その能力の上澄み程度は、何度か発現していたが意識的に使用すると場合によっては、暫くゼン自身が寝込んでしまう可能性があるから奥の手として残しておいたのだ。
 それだけのルンの消費が激しい能力だ。
 しかし、やると言った手前下がるわけにもいかない。
 それともう1つ、シャリオは確かに言った一言がゼンの中で引っかかっていた。
 《取れて 》そう明らかに言ったのだ。
 この言葉が表す結果を想像するとゼンは嫌な予感を覚えた。
 そして、その嫌な予感は見事に的中する事になる。

「絶壁の上?」

 ゼンは、シャリオの言葉を自然とオウム返しをしてまう。

「正確に言えば絶壁の中に少しだけ飛び出した崖でございます」

 絶壁の中に飛び出した崖?
 何を言っているのか良くわからず、ゼンは徐にアスに目を向けるとアスは、ゆっくりと首を横に傾けた。
 その返しに、今度はハリートレイの方へと目を向けると彼はゆっくりと首を横に振った。

「すいません、シャリオ様、その崖はここからどれくらい離れてますか?」

 ゼンがそう聞くとシャリオは、庭の方面を指差した。

「ここからそこまで離れていませんよ、今から行けば夕方には戻ってこれましょ、ただし、風の魔術を使える者の話ですが」

 つまり、そこそこの距離はあると思っていいだろう。
 ゼンは、案内役をシャリオに頼み、自分とクリフの3人だけで向かう事を提案しシャリオは、了承したがアスが明らかに不満そうな顔をしていたが人数が増えても騒ぎになるだけなので村の子供達のお守りをお願いして納得してもらった。
 ゼンは、部屋の棚から幾つかの道具を取りだし、鞄にしまうとシャリオ達と共に森の中を駆け抜けた。
 道中、ゼンはふと気になった事を口にした。

「今から向かうのは、3つのウチのどれなんでしょ?」

 シャリオは、その問いに少しだけ困った顔をした。

「従者の霊廟です」

 霊廟、生きた証と言っていた場所なのだろうと察するが。

「従者とは、誰の?」

 訊かなくてもわかっていた応えだが確認は必要だと思い問うとシャリオは、足を止めた。
 視線は、クリフに向けられ直ぐにゼンへと向けられる。

「コイツは、大丈夫です。下手な事をする奴じゃないので」

 ゼンは、その視線が疑惑と言うよりも懸念だと察して応えるとシャリオは、小さな溜息を漏らした。

「無論、アステマラ様のです、不思議だったのでしょ?」

「はい、事前にソメイの枝の事を知っていたとしても、アス、テマラ様の反応が余りにも無かった、長年生きている御身です、それなりの経験をしてきたと考えれば不思議でも無いんですが…それだとしても余りにも無垢というか…」

「無反応だった、ですよね?」

 シャリオの言葉にゼンが頷くとシャリオは、ゆったりと歩き出した。

「以前、あの方自身から聞いたんですが記憶が無いとか」

 ゼンの言葉にシャリオの足は、ついには止まった。

「えぇ、正確に言えば眠りにつく前の記憶が無いんです」

「眠りに?」

「はい、今のアステマラ様は、目覚めてからまだ50年程しか経っていません、それ以前は50年間眠っておられました」

「つまり100年前に眠りについたと…」

 100年前と言えばゴカン国末期で人間と亜人族との戦争が始まった時代でもある。
 ゴカン国の正統継承者である長男が亜人族との共存の道を辿り始め、それに意を唱えたのが次男でそこから内乱が起き始めたという。
 長男は、トライダム大陸の南側に彼等の領地を与え、それが後に今のゴレッドとなり、次男が統治していた北の高山地帯がのちのギブルとなった。
 そして、長男が統治していた中央がショグリンとなり以降100年このトライダム大陸は、この三国による三つ巴として成り立っていた。

「あの方は、以前に力を多く使い、それを回復する為に50年の眠りにつきました、多少は回復しましたが今のあの方の力は全盛期に比べれば1/4にも満たしていません」

 あれで1/4以下と言われてゼンは絶句した。

「話が逸れましたね、私が言いたいのは、今行く従者はアステマラ様がこの世界に顕現されてからの500年以上を共にした者の霊廟」

 500年、その途方もない時間の長さにゼンの頭にアステマラの顔が過ぎった。

「500年も共にした奴の記憶が無いってのも、切ないな」

 ふと、クリフが呟くとシャリオは小さく頷いた。

「もしかしたら幸いだったのかもしれません、あの者が亡くなってからのアステマラ様は、酷く落ち込まれておりまして、いつもあの崖から世界を眺めてお出てでした」

 シャリオがそう言うと何も返す事が出来ないのかクリフは、無言のままゼンに視線を向けた。

「ヤマダル殿、お気遣いありがとうございます」

 シャリオもまたゼンに向かい頭を下げる。
 バレていたか、最初から隠し通せるとも思っていなかったがこの場に向かう者達をゼンは、あえて選別していた。
 とりあえず、アステマラをこの場に連れてきては行けない事を前提に考えればハリートレイは連れて行けない。
 レイメイが居るからだ。
 どんな間柄なのかは、わからないが会話から旧友だと言うのは、察しがついたからだ。
 レイメイは、以ての外だ、ショグリンの宰相である者を勝手したる場所とは言え危険地帯においそれとは連れて行けないし、連れてくればアスの性格からすると自分も着いていくと騒ぎ出すだろうと思ったのだ。
 ならば、どうするか。
 風の魔術が使えて、連れて行って問題ないメンバーを算出すると、自分の護衛役としてのクリフが一番の無難な選択だった。
 それがここまでの壮大な話になるとは、夢にも思っていなかった。
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