第18分隊イロリ《ワケあり分隊長と個性だらけの部隊員達》

山月 春舞《やまづき はるま》

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辺鄙の地イトへ

地走竜討伐作戦

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 ハセル達から作戦が決まったと連絡が来たのは、それから5時間後の21時だった。
 再び、作戦会議室に全員呼ぶが兵装科はチールのみでその手には、通信機の発信機があった。
 会議は、ラジオ方式で聞けるって訳か。
 スリングは、兵装課の機転に感心しながら作戦内容をわかり易い様に地図に大雑把な枠取りと自身で点けたマークの付近に番号を振った。
 ハセル達の作戦は、いたってシンプルな誘き出しの作戦だった。
 まずは、ハセルが地走竜ティラノスを狙撃する、向こうは竜型、その威力にもよるが一般歩兵であるハセルの魔導銃の攻撃は掠り傷が良いところだ、本番はそこからだ、多少の狡猾さを持ち合わせているからこそ獲物である筈の者から攻撃を食らえば地走竜ティラノスは怒りと本能でハセルを追い掛ける、誘導だと気付かずに。行先は街から西に3km離れた地点、そこには鬱蒼とした森に隠れた沼地があり、そこに穴を掘って、その下に爆弾を地雷式に仕掛け、二重の意味で機動力を奪い、討伐するという内容だった。

「一ついいか?」

 作戦を聞き終えてスリングは手を上げた。

「どうぞ」

 答えるのはムステルだった。

「沼地の穴に爆弾を仕掛ける話だが不発に終わる可能性はどれぐらいだ?」

 いくら、鋼鉄の外殻で収めているとはいえ、中身は火薬、水気で不発になる可能性の方が十分に高い。
 その問いにムステルは、自然と視線をシエルに向けてその視線に応える様に立ち上がった。

「大きく見積もって10%、確実に爆破させてやります」

 コイツは生まれてくる性別を間違えてないかっと思わせる程に漢らしく応えた。

「仕組みは?火薬を使えばそれだけの%ですまないだろ?」

「だから、魔導金属式でいきます」

 魔導金属式、つまり火薬の中に魔導金属を粉にした物を混ぜて従来の発火式ではなく、魔力による遠隔の爆発を試みると言う事だ。
 しかし、ここで1つの疑問がスリングの頭を過ぎった。
 肝心な魔導金属の出処だった。

「魔導金属?もしかして魔導銃を壊すのか?」

「はい、もう壊して、火薬に混ぜて爆弾は作ってあります」

「それを作る前に許可っとって欲しかったが、何を壊した?」

「許可は、レイン副隊長から貰いました、壊したのはライフル型の魔導銃と剣を一本、どちらも私用に準備された物です」

 スリングは、シエルの発言にニーナを睨むがニーナは目を丸くすると天井を見上げた。
 普通に言うの忘れてたなコイツ。

「許可の一件はこちらの伝達ミスだった様だ、すまない。話はわかった、次にマジル」

 スリングに声を掛けられるとハセルは、慌てて立ち上がった。

「お前は、本当に逃げ切れるんだよな?」

 そう改めて確認するとハセルは真っすぐにスリングを見ながら迷う事無く頷いた。

「そういう場合は、大丈夫ですって言うんだよ」

 スリングの言葉にハセルは、はっとした表情をしたかっと思うと少しだけ赤い顔して大きな声で大丈夫です!っと答えた。

「次に穴は、どれぐらいかかる?」

「そこまで深くは掘らないので2時間程あれば行けるかと思います」

 ムステルは淀みなく答えた。

「次にチール、兵装はどれぐらいで出来る?」

 その問いにチールは、手を耳に当てると少しだけ頷いたかと思うとスリングの方を向いた。

「残り、2か所で2時間で行けるだそうです」

 その報告を受けて少しだけ考えてから、口を開いた。

「作戦は、0600に開始する、それまでに討伐隊は、マゼル以外の人物は、0200頃に町を出て穴掘りを開始、この際、竜型に動きがあった場合は、即座に作戦を中止にする、其れまでに準備を整えとけ、以上」

 スリングの命令に全員が返事を返すとそれぞれが散っていった。
 スリングも武器課と兵装課に向かうと自分の武器を手に取った。
 魔導兵装、ユーランド共和国軍が開発した、身体能力と防御力を魔力の力を媒介に飛躍的に上げる事が出来る防具だ。
 そしてそれは、自身の持つ魔力に寄って兵装の機能も上がる。
 それは、魔導銃も近接武器も同じだ、魔鉱石の濃度に寄ってランクが変わり、ランクによって使用できる魔力の限界値も変わる。
 スリングの兵装はハセルや他の兵士達と同じランクだが、自身の魔力は違う。
 自身の魔力で兵装がどこまで使用できるか確認しないとそれ以上使えば下手したら兵装が壊れるか最悪、爆発の可能性もある、ここを間違えれば自爆の危険性もあるのだ。
 凡そで使える力を確認すると次に双眼鏡を使って地走竜ティラノスの方向を見た。
 しかし、付近に禍々しい魔力は感じるものの、その姿は確認出来なかった。
 出来れば作戦前に姿を確認しておきたかったがそれもかなわず、次に地図を広げると現在の地点と誘いポイント迄のルートを再度確認して幾つかのポイントをマークした。
 次に刀と銃の確認をした、銃は他の兵士達と同じだが、刀だけはスリングが頼んだ特別性だ。
 恐らくこれが今一番強力な武器だ。スリングは刀を抜くと刀身を確認してから一振りした。

「皮膚の硬度Cランク」

 いつの間にか入ってきていたルミスがふと告げた。
 ルミスの訪問にスリングが驚いているとルミスが呆れた溜息を漏らした。

「この兵装だといいとこでBランクが最大のダメージってところだけど行けると思うの?」

 それは彼等の攻撃力がBランク迄いけるのかどうか、その問いにはそんな意味も含まれているのだと察したスリングは、首を横に傾けた。

「肝は、皮膚よりも中への…あっ!!」

 そこでスリングは大事な内容を言うのを忘れていた事を思い出し、それに気づいていたルミスは、再び大きな溜息を漏らした。

「アイツら、もう出た?」

「まだ、さっさと行け!」

 その言葉にスリングは、慌てて部屋を飛び出すとまだ準備している、穴掘り班を見つけた。
 全員がスリングが慌てて現れたのを確認すると敬礼をした。

「休め!すまん、大事なことを言うのを忘れていた」

 スリングがそう言うと全員が何かとその言葉に真剣な眼差しになった。

「足を攻撃する際に言っておきたいことがあるんだ、いいか攻撃するときは腿や脹脛じゃなく関節を狙うんだ、足首、膝裏、指の関節」

 その言葉に全員の頭に?マークが浮かんだ。

「何故ですか?」

 ムステルが手を上げて聞いてきた、スリングは説明するより早いと思い銃を抜くとリボルバー式の接続部分を見せた。

「銃で言えばこういう部分が関節に当たる、もしこの部分がまともに動かなくなったらどうなる?」

「それは、動けなく…」

 ムステルがそこまで言うと皆がハッとした顔をしてお互いを見合った。

「そういう事だ、腿や脹脛は、鍛え固くなる事があるが、ここは鍛えても固くなる事はない、むしろ伸び為に柔らかくなる、そこを叩く事で壊しやすい、わかったか?」

「了解!」

 そう言いながら全員スリングに敬礼をした、伝わったのだとわかると次に向かったのはニーナの所だった。
 ニーナの部屋のドアをノックしスリングの顔を見るなりニーナはわかっていたのか1つの小瓶を投げてきた。

「どうせ、これで目を離させないつもりでしょ」

「サンキュ、助かる」

 スリングは、次に向かったのは、ハセルでニーナから受けとった小瓶をハセルに渡すと何が何だかわからずに困惑した。

「作戦時この小瓶の中身を数滴自分の体にかけておけ、兵装でもいい」

「これは、何でしょうか?」

「竜型からしたらお前がおいしそうに見える香水だ、だが気をつけろよ、これはかなり強力だ、一度つければ相手がくたばるまで、追ってくる。もし自信が無ければつけないことをお勧めする」

 ハセルは、スリングのその言葉に息を飲みゆっくりと頷いた。
 これで大体の下準備は終わった、後は作戦の開始を待つだけだ、その間もスリングは周囲の警戒を怠る事はなく、空の色が微かに青く染まりだした時にマミナス達が出来上がった兵装を持ってハセルに着せた。
 性能をじっくりと確かめている時間はもうない、ムステル達からも穴の準備が出来た通信も入った。
 後は、作戦開始時刻を待つだけっとなった。時刻が5時50分になった時にハセルは所定位置に移動し、それに伴ってスリングもまた、ハセルの行動を見える位置に移動した。
 気配を消して、ハセルの様子を視野に収める。獲物までの距離が1kmを切った時、その気配は嫌でも全身に張り付く。スリングまでの距離は凡そで800m、其れよりも少し近いハセルは600m程だろうか、緊張からかハセルは何度も肩や首を回している。
 5時55分、ハセルが木に登ると森が動いた。
 ハセルの気配に地走竜ティラノスが反応したのだ。
 森が揺れ、緑の海から大きな岩山の様な地走竜ティラノスの頭が浮き出てきた。
 高さは4m前後かそれ以上、頭部の大きさから推測できる体躯もまた凡そ推測は出来た。
 ハセルがライフル型を構えた、向こうはまだ気配だけでその姿を認識していない、狙うなら行動を一旦は、抑えられる目が良いだろうがここからの距離で目を撃ち抜くのは至難の業だ。
 周囲のマナが動く、それを感じたと同時に轟音と共に地走竜ティラノスの頭が大きく揺れた。
 魔力は凡そCクラス、歩兵にしてはかなり高い威力だがそれよりもスリングを驚かせたのはその命中精度の高さだ。
 今の一撃は、間違いなく目を捉えていた。
 ハセルは、ライフルを肩にかけると木々の中を枝の間を飛び交う様に駆け抜けた。
 その音に地走竜ティラノスも走り出した、片目を失った為かその動きにはキレを感じなかった。木々を薙ぎ払い、音と匂いがする方向に駆け出す地走竜ティラノスを追いかけてスリングも駆け出した。
 そこで漸く、スリングは、地走竜ティラノスの全身を捉える事が出来た。巨躯を支える為に発達した足にそれに反比例するように短い手には鋭い爪だがやはり一番に目が行くのは頭部だった。
 岩山の洞窟の入り口、少しだけ違うとすれば入り口には鋭い歯が付いていて可動式だというところだろうか。下手に入り口に近づけば肉片になって洞窟から一生、出て来れない地獄の一本道だ。
 スリングは、地走竜ティラノスの足を視野に収めながら肩にかけるライフルのベルトを握りしめた。
 もし途中でハセルが捕まる様であれば援護射撃をするつもりだったからだ。
 しかし、ハセルは変な悲鳴を上げながらも3kmを走破すると今度は、罠のポイントでその足を止めた。
 地走竜ティラノスもまたハセルの行動に合わせる様にその足を止めた。警戒をしている。
 先程の一撃が原因だろう。肝心な罠まであと数歩足らない。
 どうする、恐らくハセルは、ニーナの小瓶を付けてる筈だ、それなのに理性を失わずここまで警戒すると言う事は地走竜ティラノスは、ハセルを獲物というより同等の敵として認知しているのだ。
 ハセルのポテンシャルが完全に裏目に出ている。あと数歩ならこっちでも押し出せるか、スリングはライフルを構えた。狙うのは首筋、引鉄を指を掛けたその時だった。
 木々に隠れていたハセルが姿を現したかと思うと地走竜ティラノスに向かって小踊りを始めたのだ。

「マジか」

 その行動に呆気にとられたスリングの口から言葉が漏れ、その姿を確認した地走竜ティラノスがハセルに向かって駆け出した。
 一瞬の間にハセルと地走竜ティラノスの距離が縮まる。今度こそ足を撃ち抜こうかと引鉄を引こうとした時だった。
 パンっという音と共に地走竜ティラノスの頭で強烈な光が瞬く。スリングもその光に一瞬だけ地走竜ティラノスから視線を外してしまった。
 轟音が鳴り響き、世界が揺れる。それが地走竜ティラノスの鳴き声と地団太っとわかった時は、巨躯はハセルの間近に迫っていた。
 しまった、そう思いながら足を標的に収めたが一瞬にして視界から消え、岩肌の様な体が視野いっぱいになったかと思うと再び轟音と地響き、そして砂煙と炎の柱が立ち昇った。
 罠に嵌ったのだ、なおも地走竜ティラノスは、鳴き声を上げながらその体を左右に大きく揺らした。

「今だ!!撃て!!」

 ムステルの声が響き、その号令っと共に銃声の波が押し寄せた。
 微かに見える銃撃の弾道をみながら、各々の魔力を確認しながらスリングは彼等の能力に脱帽していた。
 一般の歩兵の魔導銃の力は良くてEランクにあればいい方だ、しかし、彼等のそれは平均でDランクだった。
 これは、確実に地走竜ティラノスにダメージを蓄積させていた。
 それは、同時に地走竜ティラノスに大量の魔力を蓄積させる結果にも繋がっていた。
 魔導銃は、弾丸に魔力を込める構造になっており、魔力の籠った弾丸は、通常よりも威力は上がるが使い切るより先に体内に埋まってしまうと弾丸に籠った魔力が相手の体内で変換されてしまうという得性を持っていた。
 それを少なくとも20発以上体内へと埋め込まれた地走竜ティラノスの身体が微かに発光し始める。
 大口を開けて、地走竜ティラノスが咆哮を上げる。普通なら木々が揺れる程度であろうそれは、大量の魔力を帯びているからか大地を揺らし、何よりもその衝撃は、スリングの兵装で身を固めている筈の体内も揺らしていた。単なる咆哮ではなく、魔力の籠った衝撃破だ。
 本当ならこうなる前に致命傷になるであろう、箇所に弾丸を撃ち込んでおくべきだったのだが、誰の弾丸も届かなかった。外装の硬さがCでも内臓は柔らかいの筈なのだがそれよりも固い骨に弾丸は止められいるのだ。
 魔力の集約を感じる、集中しているのは背骨に沿ってだ。
 火球が来る、流石にこれは不味い。スリングは銃口を地走竜ティラノスの後頭部目掛けた。

「タイロンさん!!」

 ムステルの声が響き。視線を向けるとそこには飄々としたタイロン・アルバルテがゴム銃を構えていた。そしてその合図と共に何かを球体を発射するとそれは地走竜ティラノスの口の中で弾け赤い煙を撒き散らした。
 鼻を刺す刺激臭に微かに体の熱が上がるのを感じる。それを口に放り込まれた地走竜ティラノスは、涎と悲鳴のに似た咆哮を上げながら全身を悶える様に地面へと叩きつけていた。

「辛み球成功!!よし!畳みかけろ!」

 ムステルのその合図に次に出てきたのはライフル片手のチダルとフルーテルだった。
 空いた手には手榴弾を握っていた。恐らくそれを地走竜ティラノスの口の中に放り込もうとしているのだろうがそれより早く体勢を立て直した地走竜ティラノスの口が2人の方を向いた。先程の背骨に集約していた魔力が口へと流れる、火球が来る。
 これは、間に合わない、それはわかっていたがそれでもスリングは、ライフルの引鉄にかけた指に力を込めた。
 それより早く爆撃と共に地走竜ティラノスの頭が顎から跳ね飛び天を仰ぐ、その衝撃で口に溜められていた火球が朝焼けの空へと上っていった。
 何が起きた!?スリングは、目の前の状況を不思議に思って視線を先程の地走竜ティラノスのいた場所に目を向けるとそこには魔導手甲を装備した拳を天に向けて立っているシエルの姿があった。

「汚ねぇな、涎撒き散らすんじゃねぇよ」

 淡々とした口調でそう言うと跳ね上がって返ってくる地走竜ティラノスの頬を殴り飛ばした。
 手甲と頬がぶつかる瞬間に爆裂が起き、再び地走竜ティラノス頭が横へと吹っ飛んだ。
 そして、地走竜ティラノスは、ピクリとも動かなくなった。
 だが、まだ死んだわけではない、魔力の流れからスリングはそれを察知していたがその光景に部隊の全員が勝利の雄叫びを上げてた。

「とどめは、シエルさんか~やるね~」

 背後からのんびりっとした声が聞こえて振り返ると木の上で太い枝に兵装をしたニーナが座っていた。

「あれは、特別製か?」

「みたいね、なんか支給品がしっくりこないから自作したんだって」

「そういうのは、事前に報告しておけよ」

 スリングの言葉にニーナは生返事を返すだけだった。
 本当にこいつは…

「はいはい、それより本番が始まるよ」

 ルミスの声が聞こえ森の中に目を向けるとルミスもまた兵装した状態で立っていた。
 手には、野球ボールサイズの水晶球を持っていた。

「数は?」

「報告にあった中型5体、それと奥にもう1体」

 スリングの問いにルミスは簡潔に答える。

「今何体見えてる?」

 次にニーナに訊くとニーナは少しだけ目を細めた。

「3体ってところかな」

「どれぐらい止められる?」

「5分は余裕でいける」

 ニーナは、そう言いながら魔導弓を構えた。

「上等、行くぞ」

 スリングは、そう言うとライフルを捨てて刀を抜くと勝利の余韻に浸る、部隊員達の方へ向かい走り出した。
 その途中で森に変な気配にいち早く気づいたのは、ムステル、ハセル、シエル、タイロスだったが気を抜いたのと疲労感で判断が遅れた。
 突如、木々から飛び出してきた青爪熊ネイベアは、その鋭い爪をシエルの背中へ下ろすがそれより早く首後ろの脊椎をスリングの刃が斬っていた。
 そのまま、スリングは視線を森の中へ向けた、その間にニーナの放った矢が森の中へっと消えていく、3頭はこれでしばらく動かない、あと1頭は…
 魔力を左目に集中させると60m先に気配を消しながら此方に迫る感覚を覚えた。
 そして、奥にもう1体、大型の気配も感じた。

「姐さん!!」

 スリングがルミスの名前を呼びながら片手を上げると手足に風の補強魔術が纏われた。
 スリングは、手と足を軽く振って感覚を確認するとそのまま森の中へと入っていった。
 まずは、気配を消して迫る青爪熊ネイベアの首を狩り、殺すと次にニーナが動かなくした3体の青爪熊ネイベア達も首を狩った。
 そのまま森を抜けて部隊員達の元へ戻るとチダルからライフルを奪い取り、薬室を確認してから銃口を森へと向けた。
 スリングのその行動が合図だったかの様に奥の木々が揺れ始め、それは徐々に近づいてきた。

「見えてるよ」

 それが森を出るより早くスリングは引鉄を引いた。
 轟音と共に放たれた弾丸は。それの眉間から頭部を撃ち抜き、森から飛び出す時にはその運動機能を停止させていた。

山角猪マウントホーンボア…」

 森から現れた岩石の様な巨体を見ながらハセルが呟き、他は全員は言葉を失っていた。

「竜型の死体は、他の怪物とってご馳走だ。食せば力は勿論、魔力も爆発的に上がるからな、特殊個体が生まれる切っ掛けになるのは大体が竜型を仕留めたか竜型の死体を食べた時だ、こいつらもそれを本能で分かっているんだろうな、死体または…」

 スリングは、言いながら横たわる地走竜ティラノスに近づくとその頭部に向かって刀身を根元ま差し込んだ。

「瀕死、気絶してる時に集団で襲撃してくる」

 微かに地走竜ティラノスの呻き声が聞こえ、全員が微かに息を飲んだ。

「生きてたんだ…」

 その現状にムステルが呟くとスリングは、刀を抜いてポケットから取り出したハンカチで刀身の血を拭った。

「正直、無傷で地走竜ティラノスをここまで追い詰めるとは、凄いな」

 スリングは、刀をしまいながら正直な感想をいったが先程の浮かれ具合とは打って変わって全員が暗くなっていた。

「分隊長は、気づいていたんですか?」

 ムステルが暗い表情で呟いた。

「怪物達の襲撃に?」

 ムステルがゆっくりと頷いた。

「勿論、だから備えていた」

「どうして、話してもらえなかったのでしょうか?教えてくれてれば…」

 ムステルの言葉が終わるより先にその背後に近づいていた、ニーナがその肩を叩いた。
 その瞬間、ムステルはその場に膝から崩れ落ち、地面に尻もちをついていた。

「これが、その答え」

 ムステルも他の全員も何が起きているのか理解が出来ない様子でスリングに視線を向け、ニーナの行動に苦笑いをしながらスリングはムステルに手を差し出した。

「普段なら魔力管理出来てるだろうが、相手が強敵になると管理は難しい、無意識に全力を出して戦う、だがそうでなければ今回の討伐は、ここまで上手く運ぶ事は、なかった。もし下手に熊型やまだ発見されてなかった猪型の情報を与えてしまったら、こうも上手く事はいかなかっただろう、下手したら死人が出てもおかしくなかった」

 ムステルは、素直にスリングの手を取るとゆっくりと立ち上がった。

「誇れ、君達は凄い事をやり遂げた」

 スリングのその言葉にムステルは、まだ何処か満足していない様子だったがそれを一蹴したのは、ハセルだった。

「勝ったどぉーーー!!」

 両手を高々に掲げて吠えるハセルに一瞬の間が空いてから笑いが沸き起こる。
 その様子にもう大丈夫だと思ったスリングは、腰元のベルトから信号銃を取り出すと空へと撃ち上げた。
 こうして、初作戦は終わりを迎えた。
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