第18分隊イロリ《ワケあり分隊長と個性だらけの部隊員達》

山月 春舞《やまづき はるま》

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拠点整理

内部調査

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「あっハゲ分隊長おはようございます」

 シエルのその一言にニーナの顔が過ぎった。
 それと同時に前日に落とされたルミスの拳骨の痛みが蘇る。
 あれは、俺も悪かったのか?
 そんな疑問が過ぎったが何よりも先に優先すべきは、目の前の事象が先決だ。

「あのバカがそう呼んでるのか?」

 スリングがそう確認するとシエルは、口元を歪めて鼻で笑った。

「えぇ、朝からあのハゲのせいでルミスさんから拳骨落とされたといってました」

 あのヤロー、それはこっちのセリフだろ?
 唐突の訳の分からん悪口に応対した結果がこれだろうに。
 もはや、言い返す気が起きずに溜息を漏らすといつぞやのシエルの視線を思い出した。

「そういや、シエル、お前さん俺に対して嫌悪感の睨みを見せてたな?」

 スリングがそう聞くとシエルの片眉が上がった。

「えぇ、分隊長殿は、ニーナさんをバカにしてる様なので」

「バカにはしてない、馬鹿だろあれは」

 その返しにシエルの目付きが鋭くなった。

「それをニーナさん自身にぶつけるならば私とも戦うと言う事になりますが?」

「なら、逆に問うがあれは、馬鹿じゃないと?」

「馬鹿です」

 シエルの間髪入れない返しにシエルの人となりがわかって気がしてきた。

「だけど、バカにするなら別です、あれをバカにしていいのは、私だけです」

「俺は、やられたらやり返すタイプだ、俺がアイツをバカにしてるならアイツが先にバカにしてきたか、馬鹿をしているかだけの話だ」

「あのさ、人を馬鹿呼ばわりする話を部屋の目の前でするのやめてもらっていい?」

 シエルとのやり取りにニーナが加わる。
 そりゃあ、ドア開っぱなしの部屋の目の前で自分を馬鹿呼ばわりしてれば嫌でも出て来ざる得なくなる。

「うっせ、バカ、てめぇが悪いだろ」

「はぁ、黙れよハゲ、何しに来たんだよ」

「そうだ、ハゲ、邪魔だハゲ」

「テメェの引越しの進捗状況を見て来いって姐さんに言われたから来たんだよ、バカ」

 ニーナの返答に追随するシエルの言葉を無視して返すとルミスの名前にニーナは一瞬、口を噤んだ。

「ならルミスさんに伝えて下さい、ハゲ分隊長殿、コイツの引っ越し作業は私の監視下で行っているので安心して下さいと」

 そんなニーナに代わってシエルが応え、スリングはその態度と状況に納得した様に肩を竦めた。

「それと、ニーナに頼みがある」

 スリングの声のトーンの変化にニーナの顔つきが少しだけ変化する。

「作業が空き次第で構わないが、なる早で麻痺薬を準備してほしい」

「人、怪物?」

「もち怪物、ってか人用なんて誰に使う気だよ?」

「チダル」

 そっと恐ろしい事を真面目な顔つきで応えるニーナにスリングが苦笑で応えるとニーナは小さく鼻を一つ鳴らした。

「お仕置き用で必要かと思ってね」

 それなら、自分よりルミスが欲しがるかと思い。

「なら、一つだけ用意しておいてくれ」

 っと答えると自分の部屋に向かった。
 朝食を終えて、その会議の場で引っ越しの話をして、部隊員達は、了承して、各々が部屋に戻ると準備を始めた。
 異動してまだ2週間足らずの現在ならそこまで荷物も多くなっていない為、隊員達の引っ越しは概ね片付いた。
 かくいうスリングも資料をまとめる程度で済み、朝食から1時間後には荷物整理を終えていた。
 これが1ヶ月過ぎていたらスリングもニーナの事を言えない立場になっていただろうと思うと少しだけゾッとした。
 肝心のニーナはやはり思ったより荷物を多くを広げていたらしく片付けが難航していた、しかしそれはニーナだけの話ではない。チーノの部屋も同じ様な状況になり、そこはマミナスとルミスが手伝いをしていた。
 こればかりは専門科目によるものなのでしょうがない話だ。
 とりあえず、スリングは、準備が済んだ者を連れて先に洋館に向かうと直ぐに荷物を置きに自室になる部屋へっと向かった。
 流石は、ルミスだっと部屋に入ると同時に感嘆した。一昨日見た時は埃まみれだった部屋は綺麗にされていた。
 スリングは、荷物を置くと直ぐに寝室用に考えていた部屋へと向かった。
 一昨日見た時に机と本棚がその部屋にあるのを確認していたスリングは、もしかした何かのヒントがあるかもしれないっと思っていたのだ。ルミスが捨ててなければだが、この場合のルミスは余計な行動はしない、しているとすれば…

「まぁ姐さんならそうするわな」

 目の前の状況にスリングは一息つくと机の上に積まれた本の山に手を付けた。
 どうやら、机に全ての荷物をまとめて置いており、無言の断捨離をしろっと圧力を掛けられている様に感じた。
 だが、それのお陰でスリングは、直ぐにそれを見つける事が出来た。
 各種設備の設計図に周辺の情報が書かれた地図が出てきたのだ、今現在のイトが昔の名前がナカル村と呼ばれ、その他に2か所、サザレ村とナガレ村っというのがあったという事とそこから色んな物資がこの村に集められていたっという事だった。
 サザレからは、鉱石類をナガレからは、塩や海産物を入手していたらしい、それ隣街であったネクという街に卸していた。
 ネクは、現在の中隊がある都市に近いネックカタという街と一致した。
 もしこれが本当の話ならもしかしたらまだ埋蔵資産がある可能性が高いっという話だ。
 もしこれを発掘出来れば部隊の雀の涙の資材だけに頼らなくても済むかもしれない。しかし今部隊をここに割く余裕もなければ整備も終わっていない。
 まずは、人手に個々の能力向上からだ、しかしこの情報を有益なものとして頭に片隅に留めて置いた。

「分隊長」

 資料をチェックをしているとクロバルが部屋を訪ねてきた。

「丁度良い、これをチールとシエルに渡しておいてくれ」

 そう言いながら見つけた設計図を渡すとクロバルは敬礼しながらそれを受け取った。

「それで、なんの用だ?」

 次に部屋を訪ねた事を訊ねるっと設計図に目を落としていたクロバルが慌てて顔を上げた。

「調査探索歩兵班、引っ越し完了いたしました」

「そうか、なら、他の班が到着するまで待機、洋館内で自由に過ごしておいてくれ」

 スリングの命令にクロバルは敬礼をして部屋を後にした、それと同時に下の階から雄叫びに近い歓声が聞こえ、チダルに麻痺薬が使われるのは、そう遠くないっと感じながら再び周辺の地図を見直した。
 次に目に付いたのは、森の方に幾つかのポイントがマーキングされていた。
 それが何の為のマークかわからないが使われている文字には、懐かしさを感じた。
 その文字はこの世界には存在していない、本来ならば、しかしとある文献には、頻繁に出てきている。ゼン・ヤマダル関係の文献だ、これは各地の歴史研究家達もこのマークを何かの暗号だとして解こうとしているがそれはどれも的外れな答えばかりだ。
 何故、スリングがそれが的外れだとわかるのか、それは、スリングはその文字の意味を知って居るからだ。
 そして、それはイト周辺の地図にも書かれていた。

「桜、狼…灯…」

 並ぶその文字にスリングは、確かめたくてどうしようもない感覚に襲われるが今の立場でそんな事は出来ない。
 だが、これを見る度にスリングは彼はどんな人物だったのか知りたくなる。
 暫く、スリングはその地図を眺めていると下の階からルミスの声が聞こえ、地図を閉じて下の階に向かった。
 階段を降りきる直前に馴染みのある魔力の気配を感じてそれが自分の方に向いているのを感じると手に魔力を集中させて掲げた。
 バチンっという音と共に背中が階段を降りきったスリングの方に飛んできた、それを手に集めた魔力を使って受け止めた。

「この短時間でこうも姐さんを何回も怒らせるのはある意味、才能だな」

 飛んできた背中の主にそう言うと頬に赤い手形をつけたチダルは苦笑いを浮かべた。
 今度は、水浴びで遊んでルミスの荷物に水をぶかっけて逆鱗に触れたらしい。

「これは、本当に人用の薬必要かもね」

 ニーナが横を通り過ぎる時に呟き、スリングは大きな溜息を漏らした。
 ルミス達の荷解きを終えてから昼食を済ませて、各班に分ける命令をした。
 ルミスを中心にダーナ、マミナス、ムステル、ミツリは、台所の整備の再度確認、次に貯水タンク班にチール、シエル、クロバル、フルーテル、そして畑の再開拓と周辺の調査をニーナ、タイロン、ハセル、チダルに分けた。
 スリングは班分けを終えると部屋に戻った、再度資料に目を通そうかとが考えたがやめておいた。
 今調べればそれが気になって他の仕事が手につかなくなるのが目に見えているからだ、逆に今わかっている情報を整理しようかと思い自分の荷物を解くとドアがノックされて目を向けた。

「暇?」

 ニーナがドアを開けて開口一番に訊いてきたがスリングはそれに答える様に荷物から報告書の束を見せた。

「暇だな」

「お前の眼は節穴か?」

「だって、それ読んでサインするだけでしょ?」

「するだけって、お前な…」

 そこまで来て、漸くニーナの様子がおかしいのに気づいたスリングは、煙草を取り出して燻らせた。

「何があった?」

「多分これは、アンタにしか分からない事、これで理解してもらえる?」

 そのニーナの言葉に何かを見つけたと察したスリングは、顎を動かすとニーナは、何処かへと歩き出しスリングもそれに続いた。
 向かったのは、研究室で、1つの棚から種の様なものが入った瓶を3つ机に並べた。
 紙にラベルが貼られている。その文字を読んでスリングは、吸っていた煙草の煙を盛大に吐いた。

「これは、なんだと思う?」

「植物の種だ、小豆に大豆、それと餅米」

「それは、なに?」

「食い物だ、だがこの世界の食い物じゃない」

 そこまで説明するとニーナは、やっぱりと呟いた。

「これで決定的になったな」

 スリングは、そう言いながら椅子に座るとニーナは、どこか楽しそうにその種を見つめた。

「ここにゼン・ヤマダルがいた?」

 そう呟くニーナにスリングは、ゆっくりと頷いた。

「ちなみにその種は、生きてんのか?」

「生きてる、育てるつもりだけど、これで何が出来るの?」

「色々だが、主に甘味がメインになる」

 甘味、その響にニーナの目がより一層光る。

「どんな、甘味!?育てる際に気をつける事は!?」

 ニーナの怒涛の質問責めに、スリングは出来るだけの知識で応えると好奇心からかそこからのニーナの行動の速さに驚かされた。ダーナの元に向かうと自分が使っていい中庭の畑の場所などを打ち合わせ始めその行動を眺めているとルミスもそんな光景に驚いて中庭に出てくるなりスリングに近づいてきた。

「何が起きたん?」

 ニーナの滅多に見せない行動力に流石のルミスも圧倒されているのだろう、スリングが事の顛末を話すと呆れた笑いを漏らした。

「それで、その甘味はアンタ作れるん?」

 ルミスの何気ない問いにスリングは、肩を竦めた。

「ダチの得意料理でね、アイツよりは上手く作れないけど作れはする」

「そうか、なら楽しみにしておくは」

 ルミスは、そういうと洋館の中へ戻っていった。

「あの…分隊長」

 スリングも洋館に戻ろうっとすると今度は挙動不審なチダルに呼び止められた。
 スリングは、返事することなく首を横に傾けるとチダルはそそくさと近づいてきた。

「街の人から言われたんですが、どうやら森の奥に別型の怪物がいるらしいんですが…」

「討伐の依頼などは来ていないが?」

「えぇ、確かにギルドもそこまで問題視していないらしいんですが、どうも畑の近くまで降りてくるらしいんですよ」

「それをどうしろと言っているんだ?」

 要点が掴めないチダルの問いにスリングが痺れを切らして訊くとチダルは首を横に傾けた。

「どうしたらいいですかね?」

 いや、訊いてるのはこっちなんだが…
 そう言いたくなったがチダルをこれ以上、問い詰めても話にならないっと思い、こっちで処理するっと言って、自室に戻る前に台所にいるミツリに声を掛け町長に訊いといて欲しいっと頼んでおいた。
 そこかからは、溜まった書類整理を始め、次に明日からの作戦内容を考えた。
 イトに着いて2週間、大体の状態は掴めきたので次は整備をしなければならない、幸いと言うべきか森から感じられる気配に竜型以上の存在は感じられない。
 多少範囲を広げても問題ないだろうっと思い、周辺の地図と先ほど見つけた地図を同時に広げた。
 出来るだけマークしている個所を大きく外しておきたい、さもないとチダルやフルーテルがまた余計に調査をしてトラブルを起こす可能性も高い。
 それなら、そもそも其処に向かわない様に考えないとならない。
 しかし、このマーキングしている個所を調査したいのは本音だがそれをいくら能力を高いとは言え歩兵達だけで向かわせるのは、かなりの危険性を孕んでいる。
 なら、自分が動くかとも考えたがそれだとルミスやニーナからの制止が来るのは火を見るより明らかだった。
 そんなこんな考えていると外がオレンジ色に染まっている事に気が付いた。
 煙草に火を点けて燻らせる、しかし頭の中にはマーキングの箇所ばかりが気になってしょうがないのが本音だった。
 ドアがノックされスリングが返事をするとミツリが一人の小柄な女性を連れて現れた。

「君は」

「こんばんわ、先程ぶり」

 小柄な女性、デンシアは、そう言いながら笑顔で手を振ってきた。

「お知り合いでしたか?」

 デンシアとスリングの反応にミツリが驚いて訊ねてきた。

「先程、森でな、確かイトのギルドマスターだろ?」

「はい、ギルドマスターのデンシア・パレリアさんです」

 スリングの応えにミツリは、静かに頷きながら返してきた。

「それで要件は?」

 スリングは、そう言いながら隣の作戦本部室の方へ向かうと2人に椅子を準備した。

「勿論、怪物討伐です」

 デンシアは、そうに笑みを浮かべながら答え、スリングにはそれがどこか嘘くさく映っていた。

「確かに昼間に部下から畑に近づく怪物の話は聞いたがそれの事でよろしいかな?」

 スリングの返答にデンシアはゆっくりと首を横に振った。

「もっと奥にいる存在です」

「もっと奥?」

 スリングが訊ねるとデンシアは立ち上がり、壁に貼られた地図の前にたった。

「怪物退治してほしいのはここです」

 そう言いながら指差した場所は、ナカル村があった所だった。

「ここに洞窟があってそこで鉱石が取れるんです、だけどそこには岩の怪物が昔から居て、ここ数十年は掘れてない」

 デンシアの説明にスリングは、疑問しか出てこなかった。

「岩の怪物もそうだけど、なぜそこに鉱石があるとお判りになるんでしょうか?」

「それは、この洞窟に入った事があるからですよ、そこには岩肌に露出する程の鉱石が見つけられたのですが、岩の怪物に邪魔されて掘る事が出来ないんだ」

「それは攻撃をされたで間違いなんですか?」

 デンシアは深く頷くとそっと腕を見せてきた。
 腕を覆う様に広がる、火傷の古傷に微かにミツリが息を飲み。スリングは、冷静にその腕を見ていた。

「5年前、洞窟の調査で点けられた傷です、岩の怪物は炎の柱を撃ってきて、ギリギリで躱した筈なんですけど、掠ったのか気づいたらこんな火傷を負ってた」

「つまり、それから5年は放っておいたって事ですよね?なんで今更、そこの鉱物に興味を?」

「ギルドに依頼があったのさ、ストックしていた鉱物が切れるからこれ以上は鍛冶屋を続けられなくなる、だから隣街から鉱物を運んでくるか鉱洞を見つけて欲しいってね」

 ストック、つまりはこの街の鉱物系は輸入じゃなく遺産でやりくりしていたっと言う事だ。
 どれ程の遺産があったのか気になるところだが、それよりもこんなタイミングよく無くなるものだろうか?
 そんな疑問が頭を過りながらもデンシアの話す事には一定の筋が通っているのも事実だった。

「話は、分かりました。ただ直ぐにお受けするっというワケにもいかないので、こちらで調査してから、その後の話をさせて頂くっという形でよろしいでしょうか?」

 スリングの申し出にデンシアは、笑顔で頷いた。

「それでは、後日」

 そう言ってデンシアは、ミツリに連れられて部屋を出ていった。
 スリングは、その背中を見送ると背もたれに体を預けて煙草に火を点けると天井に向けて盛大に煙を吐いた。

「岩の怪物」

 元来、怪物っと呼ばれるのは生物の進化した形だ、鉱石の進化した先の怪物なんて聞いたことがない、そしてデンシアの言う炎の柱とは、なんなのか、もしスリングの頭を過ったモノだとしたらそれはやはり時代に合わない代物だった。

「めんどくせぇ~」

 スリングは、そう呟きながら隊員名簿に目を落とした。
 こればかりは、人選をミスれない、下手したら死ぬ可能性も否定できないからだ。
 だから一番安全な方式をとろうかと思っているがはたしてそれが通るのか不安でしかなかった。
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