第18分隊イロリ《ワケあり分隊長と個性だらけの部隊員達》

山月 春舞《やまづき はるま》

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鉱洞調査

炎の巨大人形戦

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「退避ーーー!!!」

 ライゼスが吠えると同時に爆炎がその身を飲み込んだ。
 目の前の出来事にスリングは、その場で足を止めてしまった。

「スリング!!」

 ニーナの雄叫びが聞こえると同時に真横で爆発が起きてスリングは、吹き飛ばされた。
 衝撃波が全身を駆け抜け、視界がぼやける。
 何が起きた?揺れる視界に定まらない思考を必死で立て直そうとしながら目の前のそれを見た。二足歩行の戦車、魔導機と呼ばれるそれは、ゆっくりと歩きながらスリングに迫っていた。
 迫る影にスリングは、刀を抜き、構える。
 土煙と焦げた臭いが支配するその世界でスリングの思考はクリアになっていく。
 暗い瞳の様な砲門がこちらを向き、スリングは、左目に魔力を集中させる。
 頭の中に多くの情報が流れると共に相手の先の動きを教えてくれる。

 慧眼けいがんと呼ばれるそれは、スリングが持つ特殊な力だった。
 その時にスリングの思考にあったのは、たった1つだった。
 ぶった斬る。
 そして、ゆっくりと腰を落とし目の前の鉄塊を睨みつけた。

『スリング!!!』

 耳いっぱいに聞こえるルミスの怒声にスリングの意識が過去の残像フラッシュバックから現実世界へと引き戻された。
 それと同時に背中から全身へと走る痛みで体が思う様に動けず悶える、視界も歪んでいる。
 大きな振動が絶えず世界を揺らしているのを認知した時に漸く今の現状を思い出した。

「生きてる…」

 スリングは、その一言を通信機に告げると痛みを堪えながらゆっくりと体を起こした。
 少しずつ目の前の世界がクリアになり、目の前の現状に何が起きたのかと漸く理解が出来た。
 床に散らばっていた廃材達が所々で燃え、その近くには、黒焦げの巨大蜥蜴の死体が何体も転がっていた。
 恐らくこれは鉱石蜥蜴ストーンリザードンだろう。鉱洞で見られる怪物で鉱石を主食にしているからそう呼ばれている。
 鱗などは、固いが生物にあるのは、変わりなく火系系統の攻撃に弱い。
 基本的に群れ行動をする鉱石蜥蜴ストーンリザードンは、1体入れば確実に10体は、現れる。
 それを一掃する為に岩人形ストーンゴーレムは、あの一撃を放った。
 あれは、凝縮した火種を真空にした玉に入れた所謂バックドラフト現象を利用した魔術だ。
 どういう仕組みになっているのかわからないが岩人形ストーンゴーレムは、左手に炎系の魔術をそして右手に風系の魔術を放てる構造になっている様だ。
 しかし、近接になればその魔術は、使えないのか、今は、鉱石蜥蜴ストーンリザードン2体を相手に拳と足で戦っていた。
 何度も部屋を揺らす振動の正体は、その場で地団駄を踏むそれだった。
 しかし、その反射力と機動力は、その巨躯に似合わず素早く自身の体を這いずり回るそれを掴み地面に叩きつけ1体を排除するとその光景に怯え逃げ様とするもう1体を踏みつけ潰した。
 本当なら逃げの一手しかこの場を生き残る道は残っていない。しかしスリングは、どうしてもその手を素直に打つ気には、なれなかった。
 現状的にそれを打つのが難しいのもあるが何よりも思い出させられた過去の嫌な記憶に頭に血が上っていたからだ。

「ぶった斬ってやるよ」

 スリングは、そう呟くと刀を抜き、岩人形ストーンゴーレムへと駆け出した。
 幸いにも左手は、オレンジ色に染まり、魔力が流れる気配がない。恐らくオーバーヒートを起こして多少のクールタイムが必要なのだろうと察した。
 しかし、右手の風は別で、迫るスリングに岩人形ストーンゴーレムは、右手を突き出した。
 放たれるまで2秒、そのタイミングで足の兵装に魔力を込めてサイドステップを踏み射程範囲から外れる。
 スリングの突然の方向転換に岩人形ストーンゴーレムも上半身を動かして対応するが放つまでに間に合わず、スリングから大きく外れた位置に風の柱は着弾し、燃える廃材を空間に撒き散らしただけだった。
 その間にスリングは、岩人形ストーンゴーレムに接近すると股をすり抜けながら右腿との接続部分を斬り付けてそのまま背後に回った。
 スリングを追う様に岩人形ストーンゴーレムが振り向こうとするがそのまま右方向へ崩れ倒れた。スリングはそのまま追撃をしようと岩人形ストーンゴーレムへ迫ろうとしたが振り落とされた左手にそれは、阻まれた。
 衝撃波っと土煙がスリングの体を後退させた。崩された体勢を戻した時には、岩人形ストーンゴーレムが両手で体を起こすと縦回転して体勢を戻したが自然と右足が地面に落ちた。
 スリングがその光景に動きを躊躇っていると、岩人形ストーンゴーレムが右手を支柱に体勢を変えて風の魔力を体に纏い、独楽の様に回転した。
 竜巻が巻き起こり、スリングは、その竜巻の風に吹き飛ばされ。体を地面に叩きつけられた。
 ギリギリで兵装に魔力を纏わせて衝撃を和らげたが無傷とはいかなかった。
 打撲、捻挫、最悪なのは今の攻撃で右腕に骨にダメージを食らっていることだった。
 順応性が高過ぎる。
 この岩人形ストーンゴーレムは、土の魔術で作られたいわばロボットだ、全身に魔力を循環さる事で動いている、だから機動力を落とす為に右腿の股関節部分の魔力回路を断ち切った。
 なのに、武器として扱っていた、風の砲台を足に置き換えてその体を武器として攻撃してきた。
 それはまるでコチラの武器に合わせて攻撃の方法を変えている様だった。
 いや、変えているのだ。今考えれば、最初からそうだった空間の明かりを点け、目眩しにしてから炎の攻撃を仕掛けてきた。
 どんな仕組みになっているかわからないが、その行動は明らかにスリングを人間っと認知していての攻撃だ。次に鉱石蜥蜴ストーンリザードンの時は、風と火の混合魔術を使い爆破を起こした。
 あれは、数で攻めてくるのを予めわかっていたからだ。
 つまり、岩人形ストーンゴーレムには、知性がある、それもかなり高い知性だ。

「出し惜しみは、無しか」

 慧眼けいがんには、3段階の解放がある。
 今は、まだ第1段階だが、解放をすれば飛躍的に使える魔力が増大し、見える世界も変わる。
 しかし、それをするには、スリングの兵装が枷になっていた。
 もし、魔力を解放した戦いをすれば、兵装がその魔力に耐え切れなくなり爆破を起こす可能性が高いのだ。
 だが、このまま戦っていても今のスリングの状態では、勝ち目は無い。
 魔力を解放し、尚且つ兵装の爆破を防いで戦う方法、それは籠手の兵装を脱いで、刀に魔力を集中させて戦うということだ。
 刀は、唯一スリングの魔力に相応した道具だ。
 スリングの刀の四元素エレメントは、火と土。
 火は、純粋なエネルギーであり。本来は火の力でエネルギーによる破壊力を上げて土の変化の力で刀の硬度を変化させ壊れない様にする。
 つまり、火、土の力で一気に破壊する、ということだが刀は、あくまでも近接武器であり岩人形ストーンゴーレムに下手に近づけば巨大な一撃で簡単に潰されてしまう。
 そこで慧眼けいがんの力を使って掻い潜るのがスリングの本来の戦い方なのだが、岩人形ストーンゴーレムの順応性とその速度にどこまでこの兵装がついてこれるかが勝負になるのだ。
 それでも、この場から生き残るには、もうそれしか残っていない。
 スリングは、一息吐くと腕の兵装を解いて左目に魔力を集中させる。
 その間に岩人形ストーンゴーレムは、左手に魔力を集中させる拳をスリングに向ける。
 発射まで約5秒、第1段階から第2段階へ、全身に流れる魔力が変化し、兵装もまた悲鳴を上げる。
 出来るだけ、魔力を刀に集中させる。その時だったスリングの左目は、奥から感じる気配の変化を捉えた。
 そうかと、思った次の瞬間、背後からの爆撃で岩人形ストーンゴーレムの体が大きく前のめりになり、構えられた左手は、地面へと向いた。
 何が起きた?目の前の出来事にスリングが言葉を失っていると岩人形ストーンゴーレムの背後から数本の矢が飛び出すと天井や壁に突き刺さる。
 あれは、ニーナの魔導弓、よく見れば矢に風の紐が結びついている。
 その確認を終えると複数の人影がその紐を伝って部屋の中に飛び込んできた。
 風の紐は、風の魔力で形成されたもので掴んだ者の意思によって紐の間を素早く移動する事が出来る物だがそれを作れるのは、1人に限られる。
 その事実に気付くとスリングは、そっと息を飲んだ。

「やっべ…」

 先程まで昇っていた血の気が引き、冷静に現状を見渡すと、部屋に飛び込んできたのは、クロバル、ハセル、シエル、そして、最後の1人は、スリングの近くに着地するとこちらに向かい自然と手を合わせてきた。

「止めろよ」

 そう呟くとニーナは、大きな溜息を吐いた。

「そのなりで、止めろとか、よく言うよ」

「るっせ」

 そう言いながらスリングは、全員の配置を再度確認した。
 4人共程よく距離を取っているのを確認すると、次に岩人形ストーンゴーレムを見た。完全にその視線は、5人の飛び出してきた出入り口に向いて警戒をしている。
 こっちは、手負いに、脅威になる武器は持っていないっと言うので危険度が低いと判断したのだろがそれは練度の違いで大きく変化する事をわかっていないらしい。

「ニーナ、シエルはどれぐらい爆弾もってる?」

「さっき見せられた限りで言うなら、残り8発ぐらいかな」

「曲射で接続部狙えるな?」

「お前の頭を先に撃ち抜いてやろうか?ハゲ?」

「ハゲてねぇよ」

 相変わらずのニーナの減らず口にスリングは、少しだけ笑い、シエル、ハセルに目を向けた。

「いいか、下手に近づくな!そいつの近接が1発でも当たれば即死だ!ハセル、出来るだけ体の中央の赤い所を狙ってくれ、シエル、爆撃で支援、クロバル、2人のサポート」

 居るのに姿を現さないのがつまり何か手を持っているっと言う事だ。
 だが、この場で警戒されている事と岩人形ストーンゴーレムの機動力がネックになって実行出来ないのだろう。
 それなら、こちらの行動で気を逸すしかない。
 ハセルが、ライフル型の魔導銃を構えると同時に岩人形ストーンゴーレムはその体と腕をこちらに向けた。弾丸が発射した時にはその腕が防御体勢に入っていた。
 そのタイミングでニーナが動き、4本の矢を射る。
 矢は、曲線を描いて腕の接続部と足の接続部へと刺さり、岩人形ストーンゴーレムの動きを鈍らせた。
 しかし、それは何処までも鈍らせたに過ぎず、右手の支柱に独楽の様な動こうと予備動作をする。

「シエル、右手を狙え!!」

 スリングが吠えると同時にシエルが手榴弾を投げ、それを目掛けてニーナが弓を射る。
 無防備になった右手に爆撃がヒットして岩人形ストーンゴーレムの体が轟音と共に土煙を立ち昇らせながら仰向けに倒れた。
 しかし、スリングはその警戒を解くことがなく、痛みを堪えながら右手を握りの自身の顔まで上げる。待ての合図に全員の視線がスリングに向けられた。
 魔力の動きが一向に鈍らない、スリングの目に映る、岩人形ストーンゴーレムは、その体に魔力を溜めて循環させているのが見えていた。

「全員、防御体勢取れ!!!」

 来る、そう直感した同時にスリングが吠えると全員その場で伏せて兵装に魔力を注ぎ防御体勢を取ると岩人形ストーンゴーレムを中心に豪風が吹き荒れ、地面の廃材が壁に吹き飛ばされた。
 防御体勢を取ってなければ全員が吹き飛ばされていただろうが全員がそれに耐えきったが豪風の勢いを利用して岩人形ストーンゴーレムは体を起こしてこちらを見ていた。

「あんた、これを一人で相手してたの?」

 ニーナの呆れ声にスリングは、肩を竦めた。

「俺だってこのレベルだとわかってたら相手にしてねぇーよ」

 そう言いながら、岩人形ストーンゴーレムが自分が見ているのに気付いた。
 指揮官を自分だとわかって狙いをこちらに絞ったのだろうと察するとニーナに顎を動かした。
 その行動でスリングの言いたい事を理解した、ニーナはスリングから距離を取る。
 スリングは、人差し指で来いよっという様に曲げると岩人形ストーンゴーレムは、両手を支えに前屈みになり、両手に魔力を込めた。
 爆発エネルギーを推進力にスリングに突撃する気だ。
 本当にその順応性に脱帽する、的確な判断に素早い行動、ただでさえ巨体で防御力も身体的な能力も高い。
 スリングが1人なら勝ち目などほぼなかっただろう。
 だが、最後に間違えた。ここで自分1人に的を絞った事だ。
 両手に魔力を込め、それを放出するであろうタイミングで岩人形ストーンゴーレムに三つの攻撃が同時に仕掛けられた。
 一つは、無防備なった左足に粘着弾、それによってその足と地面がくっつき行動力を抑える、次に正面に手榴弾が飛びそれをニーナが矢を放ち、爆撃をして目を眩ます。
 その衝撃で体が微かに浮き、発射のタイミングを逃すと右手に風の紐が結び付き外に腕の着地位置を少しズラされ、そのズレで岩人形ストーンゴーレムのバランスが崩れ右側に傾く。
 それと同時にスリングの左足が風の紐に引っ張られて空中へ飛んだ。

「え?」

 腕だろうと思ていたスリングは間抜けな声を上げながら10m程飛んだ空中から岩人形スートンゴーレムと出入り口でこちらを見ている2人の人影を見た。
 1人は、空中に飛ぶスリングを間抜けに口を開けながら見ているタイロンでもう1人は風の球の本当の形態の風の鞭にした状態でこちらを睨みつけているルミスだった。

「さっさと決めろ、この馬鹿垂れ」

 その言葉に後々の恐怖に背筋を凍らせるスリングの左足が再び引っ張られ今度は、岩人形ストーンゴーレムの方へと向けられた。
 このまま叩きつけるつもりなのかっと錯覚する程の力に慌てて体勢を整えると刀に出来るだけの魔力を込めた。
 岩人形スートンゴーレムも流石にあの場面から空中から来ると思ってなかったのかスリングの姿を見た時には、左手の攻撃も防御も間に合わず、スリングはそのスピードのままで突撃をその赤い宝石に刀を突きたてた。
 足の兵装を使って残る衝撃を上の方向に逃すとそれを助ける様に腰元に巻かれた風の紐がスリングの体を浮かせ、再び空中を少しだけ舞うとそのまま地面へと落ちていった。
 体の兵装に残った魔力を込めて衝撃を逃しながら落ちた。
 体が動かない、蓄積したダメージに魔力消費に寄る疲労感でもう指一本も動かせなくなっていた。
 そんなスリングをルミスが見下ろしながら近づいてきた。

「おい、馬鹿、何か言うことあるか?」

「何にもございません、土下座したいけどもう動く力が残ってません」

 スリングが素直に応えるとルミスは、溜息を漏らした。

「とりあえず、無事でよかった」

「これは、無事というのか些か疑問ですが?」

「死んでないんだから無事だろ」

 ルミスの冷静な一言にスリングは、から笑いをして、次第に強い眠気に誘われゆっくりと瞼を閉じそうになった。

「今は、休め、説教はその後だバカタレ」

 その一言に先に微かな恐怖に覚えながら暗闇へと落ちていった。


 暗闇が広がる世界。
 足元には、水が広がっている。
 スリングは、気づきとその場に立ち尽くし周囲に目を向けた。
 えっ死んだ?
 そう考えながら自身の体を見た。
 視界に光を感じて顔を上げるとそこには、光り輝く一匹の白い毛並を泳がせる額に翡翠色の宝石を持つ大きな狼が静かにスリングを見つめていた。
 その姿と周囲に纏う魔力に声を失い、その場で立ち尽くしてると白狼の後ろから白いコートに身を包んだ青年が姿を現した。
 20代前半ぐらいだろうか、見た目の姿とその佇まいは、洗練されていた。しかしそれよりもスリングの視線を引いたのは、その手に持っている刀だ。
 スリングの視線に気づいたのか青年は、刀を抜くっとスリングに切っ先を向けてきた。
 不思議とその気配に殺気は、感じなかった。
 どちらかと言えば純粋な好奇心の様な感覚だ。
 だが、こちらには刀は、ない。そう思って戸惑っていると腰元に刀がある事に気付いた。
 スリングは、そのまま自然と刀を抜くとゆっくりと構えると青年も構えるとゆっくりと蹲踞の姿勢をとり、スリングもそれに習った。
 白狼が青年とスリングの間に立つとお互い立ち上がる。
 白狼の遠吠えが合図だった。間合いを取りながら隙を探る。
 青年は、無表情だがその目は何処か楽しそうにスリングとの打ち合い。
 スリングは、その太刀筋や技を受ける程に全く違う顔を思い出していた。
 数度の打ち合いの果てにスリングの一太刀が青年の頭上で止まった。

「相変わらず、肝心なところが甘いな」

 気づくとスリングは、そう呟き、その言葉に青年は、先程の洗練された雰囲気を違う子供の様な笑顔を見せた。

「次は、勝つよ、しゅん兄」

 そう返す、青年にスリングは、声を詰まらせ、口を必死で噤んだ。
 そんなスリングをみて満足したかの様に青年は、ゆっくりと手を振る。

「待て!!お前には聞きたいことがあるんだ!」

 そうスリングが手を伸ばすがそれよりも白い閃光がその姿を飲み込んだ。
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