第18分隊イロリ《ワケあり分隊長と個性だらけの部隊員達》

山月 春舞《やまづき はるま》

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イトでの日常

オーバーテクノロジー

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 肌に当たる風がゆったりと温かく感じて煙草を燻らせながらスリングは、空を見上げ、春らしい空気にゆっくりと背伸びをした。

「おい、さぼってんじゃねぇよ」

 背後から聞こえるルミスの声にスリングの背筋が凍る。

「いや、終わらせたよ、掃除」

 スリングは、そう言いながら洋館内の廊下を指差すとルミスは、奥へと消えて行くと暫くしてから戻ってきた。

「少し、甘い部分がある気がするが?」

「いや、それは怪我で上手くできな部分もあるでしょうよ」

 そう言いながらスリングは腕つりを指差すとルミスは、静かに睨んできた。

「はい、やり直します」

 その視線に耐えられずスリングは、煙草を消すともモップを持ち直して廊下へと向かった。

「それ終わったら、チールさんの所に行け、どうもあれの事で話があるんだって」

 ルミスのその言葉に直ぐに向かいたいと思ったがここを投げ出しては、次にどんな事が待っているかと想像すると後が怖いのでとりあえず先に洋館内の掃除を終わらせるのを最優先にした。
 鉱洞探索から1週間が過ぎた。
 あの一件でスリングは、全治1ヶ月の怪我を負い、2週間はベッドの上で療養するしかなかったが最大の負傷である右腕の骨折以外の傷が癒えると、ルミスから洋館内の掃除を
 無論、その助言を無視または、拒否をすれば、上下関係無視の強制へと切り替わるだけの話なのでスリングは、受け入れる一択しか準備されてなかった。
 とりあえず、掃除を終えてからスリングは、チールのいる鍛冶場に向かうとそこには、装甲が剝がされた岩人形ストーンゴーレムの中身が中央の台に寝そべっていた。
 首のない人型骨格、それがスリングの第一印象だった。

「分隊長、これやばいよ」

 チールは、目を爛々っと光らせながら早口で話し始めた。
 その説明には、現在こちらの保有する、魔導機よりもこの岩人形ストーンゴーレムの方が機動性、汎用性が高い、と言う事だった。

「それは、根本的な構造が違うからではないのか?」

「いんや、むしろ同じ構造だよ、違うのはここ」

 チールは、そう言いながら岩人形ストーンゴーレムの胸部を指差した。

「ここに操縦席を着けるのが魔導機で魔鉱石の依代で作るのがゴーレム」

「って言われても実際のゴーレムは、見た事ないからな」

 ゴーレムの存在は、各地で報告されるもののその姿を見る事は、余りにも稀である。
 考古学も研究所もその再現を試みるが鈍臭い動きのゴーレムを数歩動かすのがやっとというのが今の現状だ。
 スリング自身、これを岩人形ストーンゴーレムだと呼称したがそれは、あくまでも簡潔に報告する為だ。
 今のこれを見ていると岩人形ストーンゴーレムと呼ぶよりロボットと呼ぶ方が正解だとさえ思えた。

「とか何とか言っても一番ヤバイのは、これだよね~」

 チールは、そう言いながら天井からぶら下がる2つの腕の装甲へ向かうと勢い良く叩き始めた。
 火と風の魔術を発射するそれをチールは、火の砲台、風の砲台と呼んでいた。

「コイツが凄いのは、ミスリルと鋼の混合板の装甲に隠れたこの袖の部分が1番の味噌という、隠してる割には、凶暴な破壊力!!オマケに燃費もかなりいいと来たもんだ!」

 興奮して語るチールにその破壊力を体感したスリングからすれば改めて言われても正直その反応に困るのが本音だった。しかしそんなスリングの反応など気にしていないチールは語り続けた。

「依り代の魔力はそこまで必要なく、最大の効果を発揮すことが出来る仕組みになっていて…」

「それは、従来の魔鉱石で可能なのか?」

 チールの説明を遮って訊ねるとチールは明らかにコイツ馬鹿か?っと言わんばかりの視線をスリングに向けた。

「無理に決まってんじゃん、聖遺物だよ?」

 その答えにスリングは、盛大な溜息を漏らした。

「つまり、これは高知能の依り代に聖遺物を使った武器を所持していたって事だよな?」

 スリングが簡潔に答えをまとめるとチールは、大きく頷いた。

「ちなみにお前ならこれと同じものを作れるのか?」

「素材があればだけど、依り代は無理だよ」

「勿論、砲台と依り代を抜いたものだ、それ以外でもあの機動性は、今現在の魔導機の性能より上だろ?」

「それなら出来るよ、簡単とは、言わないけど、応用は出来る、ただ、エネルギーは食うけどね」

「それは、どっちを基準にしてだ?」

「勿論、これだよ」

 チールは、そう言いながら岩人形ストーンゴーレムの残骸を指差した。
 そっちかよ、そう突っ込みそうになるのをグッと堪えるとスリングは、煙草を取り出して燻らせた。

「研究もうちの魔導機を少し改造するのも認める、だがその技術を本部に伝達をするのは、禁止する」

 スリングがそう答えるとチールは、間抜けた表情を浮かべたが意を唱えたのは、黙って作業をしていたマミナスだった。

「ちょっと、分隊長それは、どういう意味でしょうか!?」

「言葉の通りだ、これはあくまでチールだけの持っている技術にしろっと言っている」

「だから、それが何故なんですか!?本来は軍部に共有するべきです!!」

「この命令が、不満なら上層部に報告してもらっても構わないが?」

 スリングのその言葉にマミナスは押し黙った。
 マミナスの懸念は、手に取る様にわかった。多分この2人は以前からの知り合いなのは、勿論、特別な関係なのだろというのが薄々は勘づいていた。
 恋人とかの情愛ではなく、母娘か飼い主とその猫の様な親愛の様な関係だ。
 そんな、存在に直属の上司であるスリングが怪しい命令を出している、それも男尊女卑が強く残る軍部でだ、それはよからなぬ事に巻き込まれているのでは、ないかと心配にもなる。
 下手な嘘は、得策では無い、だが全て話すのも今後の2人に良くない影を残すのもわかっている。
 スリングは、顎でマミナスを外に連れだすと気に食わない様子で着いてきた。
 煙草を差し出すとマミナスは、一本受け取り、火を点けた。

「今、うちとツィールとの間に起きている事は知ってるか?」

「噂で少し、ツィールが国境の戦線を上げてきているっという噂は耳にしました」

「もし、それが軍部で戦争を起こしたい奴らの情報操作だとしたらどう思う?」

 スリングの言葉にマミナスの表情が驚愕のモノへと変化した。

「信じるか信じないかは、判断はお前に任せるが、もしこの技術を今軍部に知られれば、戦争に一気に傾く、俺はそれを阻止したい」

「ちょっと待って下さい、どうしてそんな事を分隊長がご存じなんでしょうか?言っては何ですが一介の分隊長がそんな情報を得られるとは…」

「俺の階級は、知ってるだろ?」

 スリングの問いにマミナスは、口を噤んだ。
 歴が長いからこそわかるこの分隊の異様さには、マミナス自身も以前から気づいていたが変な藪蛇にならない様に口を噤んでいたのは、以前からスリングも察していた。

「これは、俺がその件で情報を聞いて報告するところを間違えて起きた左遷人事だ、お前がどうしてこっちに来たのかは、知らんが、姐さんとニーナは、その巻き添えだ」

「報告した先とは?」

「それは、訊くな、知らん方が身の為だ、それを知った上でそれでも報告が必要だと思うならして貰って構わない」

「そうなら、この分隊はどうなりますか?」

「解体か、俺の首が飛ぶだろうな」

「こっちのせいにしないんですか?」

 その問いにスリングは、苦笑いを零した。

「もし、俺がそう報告をして信じるのがどれぐらいいるんだろうな?」

 スリングのその一言にマミナスは、何も答える事はなかった。

「伝達するかしないかは、お前に任せる好きしろ、それと伝達したことの報告もいらないからな」

 スリングは、そう言うと鍛冶場を後にして中庭に出ると背後からの気配に振り返るとルミスが静かに立っていた。

「もしかして聞いてました?」

 スリングが恐る恐る訊くと盛大な溜息の返事が来た。

「ほんとにこれで良かったの?」

 ルミスの問いにスリングは、肩を竦めた。

「俺が階級や立場だけで偉そうにしているヤツ嫌いなの知ってるでしょ?」

「だけど、それで組織が成り立っているのは、アンタも知ってるでしょ?」

「それでも、不正を人に強いるのは違うだろ?」

「その不正で、左遷されたヤツが言うセリフとは、思えないけどね」

「それは、いずれやり返すからいいのさ」

 スリングは、そう言いながら自室へと向かい机に向かい書類整理を始めたが代わり映えのしない報告にばかりなので書類処理は直ぐに片付いてしまった。
 まだ時刻は昼過ぎで暇になったスリングは、木刀を持つと裏庭の先の森の中へと向かった。
 呼吸を整え、目を閉じる。ゆっくりと木刀を構えると音、匂い、風に感覚を研ぎ澄ませる。
 しかし、異様さを感じたのは、舌先でピリピリとした感覚にスリングは魔力感知を広げた。
 ここから、数100m先から人の気配を感じてそこに向かった。
 そこには、森の中で胡坐をかいて何かを思案している後ろ姿を見つけた。

「タイロンか、何してんだ?」

 スリングがそう声を掛けるとその気配に気づいてなかったタイロンは、間抜けた声を上げながら振り返った。

「なぁ~んだ、分隊長かぁ、どうしたんですこんなところで?」

「いや、それを訊いてんのは、こっちなんだが?」

 スリングがそう返すとタイロンは、ゆったりと笑顔を浮かべた。

「えぇ~あぁ新しい道具の性能を試してました」

 そう言うと、タイロンは小さな球をスリングに見せてきた。

「これは?」

「苦味球です」

「は?」

 タイロンの言葉にスリングは、間抜けな返事をしてしまった。

「これをゴム銃で撃って、敵の方で破裂させると苦い感覚が鼻や口に入って、それで悶絶さて隙を作るんです」

 そうニヤニヤしながら答えるタイロンの顔は、悪戯好きの子供の様な表情だった。
 確かにタイロンの攻撃方法はスリングの知っている戦法のそれとは違っていた。
 地走竜ティラノスの時には、閃光球に辛味球でその行動を制限していた。岩人形ストーンゴーレムの時は、粘着弾でその行動力を制限してもいた。

「そういや、この武器はどうなってんだ?」

 スリングがそう訊くとタイロンは、ニヤニヤしながら首を横に傾けた。

「それは、秘密ですよ~」

 そう返されスリングは仕方なくタイロンの持っている球を奪い取ると慧眼で観察をした。

「なるほどね、球の中に材料と衝撃で破裂する様に魔導金属でコーティングしてるのか」

 そう言いながら返すとタイロンは、驚いた顔を見せた。

「だけど、それだけだと効果範囲は10m程度ってところだろ」

「よくわかりましたね、一目見ただけなのに」

「まぁお前のこれに秘密がある様に俺にも秘密があるのさ」

 そう肩を竦めながら返すとタイロンは何かを考える様に球とスリングを見比べ始めた。

「分隊長、一つ訓練の手伝いをお願いできないですか?」

「なんだよ、藪から棒に」

「いや、一応これ以外にも色々出来る様にしているんですけど人用に通じるか試した事がなくて、分隊長ってそれなりの戦力じゃないですか~だから試させてほしいなって、思いまして」

「それは、俺と模擬戦したいってことでいいのか?」

「はい!」

「タイマンでか?」

「はい!」

 勢いよく応えるタイロンにどうするか考えたが、その戦い方を知るいい機会だと思い二つ返事をするとタイロンは準備を始めた。

「今からか?」

「勿論」

 きっぱりと応えられ、仕方なく準備運動を始めた。

「ルールは?」

「今から、森の中に潜るので私を捕まえて下さい」

「そっちの勝ちの条件は?」

 スリングがそう訊くとタイロンは5種類の球を取り出した。

「この色玉のどれかを分隊長に当てたら勝ちで」

「飛散範囲は、10mぐらいでそれに色を付けられた時点で俺の負けか?」

 スリングのその返しにタンロンは、頷いた。

「OKわかった、ならお前が隠れてからスタートの合図はどうする?」

 そう訊ねるとタイロンは、腕時計を確認した。

「今からきっかり15分後に開始でお願いします」

 スリングがその提案に頷くとタイロンは、森の中に消えて行った。
 スリングは、何処まで実践的に向き合うか少しだけ考えて通常的な状況を考えて攻撃系の魔術の使用は無しで、感知はありだと、自分に枷を課した。
 相手は、タイロン、正直ここまでの戦いの中で影が薄いのに決定打には、確実にいたその存在に興味があった。
 スタイル的には、正面から戦うっというより、サイドからのサポートがメインっという感じなのはわかっているがそれがどれぐらいのバリエーションを持っているのかわかっていない。
 それに、あの手のタイプは遊びの時に色んな閃きを起こすタイプでそういう意味ではニーナに似ている部分も持っている。
 なめてかかれば簡単に負けてしまう。
 スリングは、座ると煙草をゆっくりと燻らせた。
 その表情は少しだけ笑っていた。
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