第18分隊イロリ《ワケあり分隊長と個性だらけの部隊員達》

山月 春舞《やまづき はるま》

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鉱洞整備

デンシアと食材

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 デンシアの話を訊けたのは、次の日の夜の話だ。
 昼間にデンシアの使いが洋館を訊ねてきてスリングに夜にギルドに来る様に言伝を貰い、そこにルミスとニーナの同席を願い出た。
 使いは、デンシアからどんな条件でも飲むと伝えていたらしくそれは、直ぐに了承された。
 その事を2人に告げた時にニーナだけは、表情を顰めたがこの話を訊かないと後になって拗ねるのがわかっているのでそこは、強引に話を進めた。
 夕食を済ませ、2人を連れてスリングは、ギルドに向かった。

「何の話かわかんないけどアタシ必要?」

 その道中もニーナはぶつぶつっと言いながら昨日の鉱洞調査の事が気になっている様だった。

「俺の予想が正しいなら、お前が一番食いつく」

「どうだか、ハゲだしな~」

「ハゲてねぇ」

 ルミスの咳払いが響き、会話の応酬が終わる頃にギルドへと着いていた。
 デンシアの部屋へ通されるとそこにはデンシアともう1人フードを被った男が立っていた。

「こんばんわ、此方はあの森に住むあの子達の里の長、スリングさん達にお礼をしたいって来たんだ」

 デンシアがそう紹介するとフードの男は、ゆっくりと頭を下げた。
 スリング達は、デンシアに促されてソファーに座ると対面に2人が座った。

「それで、昨日聞けなかった話を訊かせて貰ってもいいかな?」

 スリングがそう口火を切るとデンシアは、フードの男に視線を向けると男は、フードをゆっくりと脱いだ。
 黒い短髪がそれをより強調させた、ルミスとニーナは、驚きながらスリングに目を向けるがスリングは、静かにその顔を見つめていた。

「驚かれないんですね」

 スリングの態度に壮年の男は、静かに笑みを浮かべた。

「予想は、していたので、まさか実在しているっとは思ってなかったですが」

 スリングのその返答に壮年の男は、ゆっくりと立ち上がるとスリング達に頭を下げた。

「私は、エイハブ、エルフ族の里の長をしている者です、昨日は我々の子達を人攫いから助けていただき感謝を申します」

 壮年の男、エイハブに言葉にルミスとニーナは、その顔を凝視していた。
 疑うのも無理は、ない。御伽噺でしか聞いて来なかった存在が目の前に居るのだ、一見その姿は、人と同じ姿をしているがその耳は、人にしては尖っていた。
 スリングがそれの存在に気付いたのは、姿ではなく、慧眼が見せたその魔力の質が人と違ったからだ。
 似ているが人よりも穏やかでスリングがそれを感じるのは人と言うよりも木々や植物等から感じるそれに似ていたのだ。

「何かを勘違いされているようなので、我々は彼等を救ったわけでは、ありません」

 スリングのその一言にエイハブは、顔を上げてスリングの顔を凝視した。

「拠点整備中に脅威を排除しただけですので、そこに子供が居た等の記録もございません」

 スリングの返しにエイハブは、目を丸々とすると再び頭を深く下げた。

「いつから気づいてたのさ?」

 ルミスが未だに目の前の事を信じられない様にスリングに訊ねた。
 スリングは、自分の左目を指差した。

「俺も確信は、なかった、だけど単なる人攫いが元軍人を使って魔導機まで導入して来た事を踏まえると希少な人種の可能性が高い、そう考えた、そしてこの地に眠るゼン・ヤマダルの遺産…」

 スリングの応えにルミスは、軽く頷いた。
 ルミスは、歴史好きだ、だからこそゼン・ヤマダルの話に明るい、ゼン・ヤマダルには幾つもの伝説がある中で有名なのが彼に付き従う者に銀髪の麗人とエルフがいたという逸話だ。
 御伽噺のエルフの魔術知識は、人よりも高く、ゼン・ヤマダルに魔術の基本を教えたのもエルフだとの伝説もあるぐらいだ。
 そして今回、スリングは、その魔術で出し抜かれていた、もしこんな事態にならなければ気づきもしなかっただろう。
 だが、それによって消去法だが導き出されたのそれもスリングの中で半信半疑でもあった。

「アステマラ様の言う通りの人だね、スリングさん」

 デンシアがそう呟き、スリングは首を横に傾けた。
 アステマラ、きっとそれはあの白狼を差しているのはわかったが何故それが自分をそう言う人物だとわかったのだろうか?魔力の質から何かを読んだのだろうか、そればかりは、次元が違うので理解が出来ない。

「デンシア、君は何者で、何故エルフと知り合った?」

 スリングが訊ねるとデンシアは、今でも立っている、エイハブに座る様に促して、隣に座らせると背筋を伸ばしてスリングの目を見つめた。

「ボクは、エルフと人のハーフ、エルフとは知り合ったんじゃない、その里で生まれたんだ」

 その応えにスリングは、デンシアにあった疑問が腑に落ちる感じがした。
 見た目は小柄な若い女性だがその佇まいは壮年のそれに見え、どこか噛み合わない感じを見せていたが見た目を年齢が違うのなら納得がいく。
 エルフだからこそ聖霊獣と繋がる事ができ、人としてギルドのマスターになってこの街に住んでいる。

「君達にとってゼン・ヤマダルはどんな存在なんだ?」

「彼は、この街、イト、いやこのアシノ領の領主だ」

 アシノ領、それはまだこのイトがユーランド共和国に統治される前の時代に呼ばれていたこの地域の名称だ。

「エルフは、長命種という事だが、君達は今いくつなんだ? 」

「ボクは、120歳、エイハブは77歳というところかな」

「お前の方が年上かい!」

 スリングが思わずつっこんでしまうとルミスの肘が脇腹に刺さる。

「見た目は、魔力への順応性の違いが出るからね、特にエイハブの場合は、魔力よりも肉体派でね、それによってかな」

 つまり見た目は、なんの意味を持たない種族とも言えた。

「なら、君達は、ゼン・ヤマダルにあった事がないのに、彼をこの地の領主だと呼べるのは、何故だ?」

「それは、アステマラ様がそう言われてるからって言うのもあるけどボク達は、彼に会ったことがある」

「何を言っている?ゼン・ヤマダルは、人間で300年以上前に居た人物だぞ?会えるわけがない」

「彼は、もう人間じゃない」

 デンシアのその一言にスリングは、言葉を詰まらせた。

「彼は、今や半人半霊の存在であり、人と呼ぶ枠の中にいない者なんだ、だから寿命もなく、今も何処かに存在している、それは物理の世界かもしれないし、魔力の世界かもしれない、それはボクらにもわからない、だが彼は、現れたい時に現れる」

 デンシアは、そう言いながらエイハブに何かを合図を送るとエイハブは、会釈をして立ち上がり、部屋を出ると4つの大袋と1つの木箱、そした一升瓶を持ってきた。

「彼からスリングさん、貴方へ今回のお礼で渡してくれとお告げがあった」

 テーブルに並べられたそれらの中身をスリングは、一つ一つ確認すると言葉を詰まらせた。
 直感でわかっていても思考は、それを否定していた、だが目の前に並べられたそれらは、直感が正解だと教えてくれた。
 だが、それは同時に彼がどれだけ苦しい世界を生き抜いてきたのかと想像させ、スリングをより苦しめる事にも繋がった。
 自分達の世界でも絶望を味わい、希望を見いだせぬままに生を終わらせ、そしてこの世界に記憶を残したまま来たのだ。

「ふざけんなよ…」

 気づくとスリングは、呻く様に呟き、頬を涙が伝った。
 せめて、せめて記憶がなかったらまだ希望はあった。
 彼は、スリングを誰かとわかり、そしてこれを渡してきた。
 これを渡すと言う事は、彼に記憶がある。
 それがどれだけ残酷な話なのか、スリング自身が嫌という程に理解出来る。それでも理解出来ないとすれば彼の苦しみはスリングの味わったそれよりもより深く苦しいものだと言うことだ。
 それを思えば思う程にスリングは、その現実に言葉を詰まらせる事しか出来なかった。
 もし、この場に彼をここまで苦しめた存在が現れたのならばスリングはその者を確実に殴っていた、例えそれが貴族や王、たとえ神であったとしても、それで自分死ぬ事になっても微塵の後悔は、ないだろう、そう思っていた。

「もし、スリングさんがこれを見て感情を昂らせたら伝えて欲しい、3つの文字は繋がっている、あれを持っていけば分かる、そう彼は言っていたよ」

 デンシアのその言葉にスリングの頭の中に3つの漢字が頭を過ぎった。
 それは、引越しの日にみたゼン・ヤマダルの資料の中にあった3つの漢字、桜、狼、灯の3文字。
 狼は、恐らくアステマラを差しているのだろうが他の2文字は、別なもの差している。
 それが繋がっている、何を言っているのだろうか?

「スリング、君ならそれで何を作るかもわかっている筈だ、それを作ってその場に行けばあの方にも会える筈だよ、ボク等がわかるのはそれぐらいなんだ」

 これで自分が作れる物…
 恐らく桜の一文字がヒントだとすればあれだろうと察しは付いたが…
 スリングは、何も言えぬままその場はお開きとなった。
 荷物が増えた事もあり帰りはデンシアが車を用意してくれたがその車内は終始無言だった。
 ルミスもニーナもスリングの心情を察したのだろう何も深くは聞いて来なかった。
 その日の夜、スリングは眠りにつくことが出来ず、ベランダで煙草を燻らせていた。
 何を考えるわけでもなく、静かに月を眺めていた。
 ふと、思うのはアイツは何を思ってこの地に居たのだろ、どうして各地で道具を作る様に旅をしていたのだろう。
 スリングが知る、彼は確かに好奇心が旺盛だったのは、間違いないがそこまで外に旅に出るという性質ではなく、どちらかと言えば黙々と家で創作活動に精を出しているタイプだった。
 それが旅に出て各地を巡っていた、それはどちらかと言えば違うヤツを思い出す。
 灯、その名前が差すのは、灯火かそれとも人名か…
 もし、人名なら彼に何かの救いがあったのかもしれない。
 3つの文字は、繋がり、持っていけば分かる。
 デンシアの言伝の意味を考えながらスリングは、そのまま眠ること無く気づけば時刻は、午前4時を回っていた。
 スリングは、気づくと部屋を出て台所に立っていた。
 鍋を2つとすり鉢を準備して、デンシアから貰った4つの内の3つをキッチンテーブルに乗せた。
 中身は、餅米、小豆、大豆。もう1つの袋には、米が入っていた。
 一升瓶の中身は、醤油が入っていて、木箱の中身は味噌が入っていた。
 どれもこれもがこの世界は、見た事のないがスリングにとって懐かしいものばかりだった。
 餅米と小豆を洗い、餅米の方は餅米を布で包んでから水の張った鍋に入れるとそのまま蓋をして煮る、小豆もまた水で浸した鍋に入れるとひと煮立ちさせてから、ザルに上げて一度休ませてから煮込んだ。煮立たせている間に大豆をすり鉢で粉にする。

「こんな朝は早くから何してんの?」

 大豆や小豆に混ぜる為の砂糖を探しているとニーナが欠伸をしながら現れた。

「お前がこんな早くに起きてるとか珍しいな」

 スリングの返答にニーナは首を横に傾けるとキッチンテーブルの椅子に座った。

「お前と同じで寝てないんだよ、んで何してんの?」

「気づいてたのか?」

「タバコの匂いでわかるわ、んで何探してんの?」

「砂糖探してるんだが何処か知らんか?」

「それなら上の戸棚」

 次に聞こえたルミスの声にスリングとニーナは微かに肩を震わせて背後を見ると眠気眼のルミスがゆっくりとニーナの隣に座った。

「ついでに砂糖と同じ棚にあるから紅茶も入れて」

 ルミスのその要望にスリングは、ニーナに視線を送ると静かに頷かれて渋々3人分の紅茶を入れた。

「寝てないの言葉は、スルーしといてやる、それで何を作ってんのさ」

 紅茶を差し出したと同時にルミスにそう言われてスリングとニーナは微かに安堵の息を漏らした。

「甘味、おはぎって言うんだけど、俺とアイツの世界で有名な菓子」

 スリングがそう答えるとニーナがキッチンテーブルの袋を覗き込んだ。

「これってもしかして見つかった種と同じもの?」

「3つはな、その3つを使って今調理してる」

 スリングのその応えにニーナが頷くと今度はルミスが木箱や一升瓶を開けてみていた。

「こっちは?」

「調味料、醤油に味噌、どちらも大豆を加工して出来る物で、餅米と似ている米が主食でね、これがあれば俺の居た世界のご飯が出来る」

「一つの素材で二つの調味料が出来るのね~」

「それだけじゃない、この米も加工すれば、違う調味料が出来る」

 そう言いながらスリングは、餅米と米の袋と叩くとルミスは感心した様に頷いた。
 その間にもスリングは、粉状にした大豆と砂糖を混ぜ、次に煮ている小豆の灰汁を取る。
 小豆が柔らかくなったのを確認すると再びザルに上げるとお湯を捨て、鍋戻すと弱火で少量の水、砂糖と共にヘラで混ぜ合わせた。
 砂糖は、味を見ながら3度に分けて入れ、完成すると火を止めた。

「それで、どんな人だったのゼン・ヤマダルって?」

 餅米の炊き終わりを待っているとニーナが徐に訊いてきた。

「幼馴染で親友で俺の妹の旦那だよ」

 スリングの応えに2人共何も答えなかった。

「俺の妹さ、20代半ばで病気で死んじゃってさ、アイツは、妹の余命を知ってても結婚したんだ」

 炊きあがりまでまだ少し時間があると思ったスリングは、勝手口を開けると外を向いて煙草を燻らせた。

「妹が亡くなってから2年後にアイツは、車に轢かれて死んだ、俺が死ぬ3年前かな」

「家族だったんだね」

 ふいに告げたルミスの言葉にスリングは、苦笑いを零してしまった。

「俺が16の時にお袋が病気で死んでさ、あかり、妹はまだ13歳だってのにだらしない、兄貴と親父の面倒を見てくれてさ、アイツが高校通わないとか言った時は本当に焦ったよ」

 高校、この世界には存在しない単語に2人共何も言う事無く、静かにスリングの言葉に耳を傾けていた。

「俺も俺なりに出来る事はしてきたよ、料理だって、その時に覚えたし」

「掃除は、からっきしだけどな」

「それは、アイツにも言われたよ、兄は、いつになったら掃除できるの!!ってよく怒られては平謝りしてた」

「生きてたら、良い愚痴り相手になるな」

 ルミスの鼻を鳴らしながら言うとスリングは、肩を竦めて背後からは、息を潜めるニーナの気配を感じた。

「本当に苦労させたよ、周りは遊んでる中でアイツは、家の為にずっと働いてくれていた、だからアイツと結婚するってしった時には、本当にほっとしたのを覚えてる」

「ゼン・ヤマダルだね」

 ニーナの言葉にスリングは、頷いて返した。

多々見 維ただみ つなぐ、それが前の世界でのアイツの名前だ、アイツは、俺と違って器用でしっかりしててさ、よく俺も世話になってたわ」

 スリングがそう笑いながら言うとルミスの呆れた溜息が聞こえてきた。

「昔から引っ込み思案っというか外よりも中で遊んでいるタイプでさ、アイツは、家が向かい同士でよく遊んでた」

 そう言いながらスリングの脳裏には、幼い頃の2人の姿が思い出されていた。
 引っ込み思案で何をするにも灯と一緒にスリングの後を着いてきていた。
 絵や工作が上手くて、ゲームなんかは、年上のスリングより上手かった。
 あまり、喋らないがそれでもいつもニコニコしている穏やかな性格の男、それが小さい頃の維の印象だった。
 それが少し変わるのは、小学生の時だ。ひょんな事が切っ掛けで灯がいじめられ、維がそのイジメていた奴と喧嘩してボロボロにされて泣きながら自分に喧嘩の方法を教えて欲しいと言ってきた事があった。その時からだろうかスリングは、今まで引っ込み思案だと思っていた維に対しての見る目が変わった。
 本当なら自分に頼ればよかったのに維は、そうせずに自分で解決しようとしていた。それも自分より大きい相手に対してだ。
 年下ながらにも維との出会いは、スリングにとって大きなものであった。
 何かに負けそうな時は、その時の維の眼を思い出してよく自分を奮い立たせていた。
 灯のイジメの件を切っ掛けに維は、当時スリングが通っていた剣術の道場に一緒に通う様になっていた。
 多分その頃から維と灯は惹かれ合っていたのだろう。しかし、別れは突然に起きる。
 スリングが中学生になった時に父親の仕事をきっかけに遠くに引っ越す事になったのだ。
 そして、暫くは手紙や年に1、2回は会っていたのだがスリングが高校生になる頃に母親が亡くなり、時間の余裕がなくなってそれに伴い維と灯は、疎遠になっていた。
 スリングが大学に通い、やっとの思いで警察官として就職した頃に大学生になった灯から紹介したい人が居ると言われた時には初めての彼氏に少しだけ複雑な気持ちになったのを覚えている。
 繁華街の個人経営店の洒落た喫茶店だった、青年になった維が現れた時には、言葉を失い、笑いながら再会を喜んだ、維は精悍さを持ちながらも相変わらずの引っ込み思案の雰囲気を持っていて、その姿に安心して灯を任せられると思っていた。
 その頃の2人は、本当に幸せそうで母親が亡くなってから灯には、いらぬ苦労をさせてきた分、その姿に少し寂しさを感じながら微笑ましくも思ってもいた。
 本当に2人の姿は、仲睦まじく、このまま幸せなままでいてくれたらと何度も思っていた。
 しかし、それは辛くも壊れる事になる。
 灯が23の時に癌が見つかったのだ。
 社会に出て、金を稼ぎ、それなりの時間が出来て幸せの謳歌を始めた矢先の出来事だった。
 日に日に弱っていく灯を維は、懸命に支えていた。
 しかし、看病も虚しく灯は、26歳という若さでこの世を去ってしまった。
 灯を無くしてからの維は、パッと見は、普段通りに振る舞うものの、時折見せる虚空の瞳にその深い悲しみを嫌でも分かってしまった。
 時が解決してくれる。そう思っていたが灯が亡くなってから2年後、夜コンビニ買い物している途中で暴走する車に跳ねられて維も亡くなった。

「正直、俺は維が亡くなった時に少しだけホッとしたんだ」

 スリングは、煙草を消すと手を洗いながら呟いた。

「2年だ、2年もなのか、しかなのか、アイツの虚ろな眼はどれだけの月日が流れても変わらなかった」

 餅米の炊きあがりを確認して鍋をキッチンテーブルに乗せる。

「月命日に顔を合わせる度に、アイツの時が停まっている様に見えて辛かったよ…」

 鍋から布に包んだ餅米を取り出し大きなボールに移すと湯気がキッチンに広がった。

「生きていたら、違う幸せを見つけられたかもしれない、でも俺には、そうは思えなかった」

 布を剥がして、ボールに入った餅米をすり鉢の棒で何度も力強く衝いた。

「だから、このまま絶望して生きていくならいっその事、死んだ方がよかった、そう考えていた…」

 米粒が多少残りながらも餅米がくっついているのを確認すると衝くのをやめて、火傷しない様に手に風の魔力を纏わせると餅米を一握りサイズに分けていく。

「だが、蓋を開けたらどうだい、死んでからこっちの世界に居て、300年以上生きてるなんて…ふざけてんだろ…それも記憶がある状態でだ…」

 10個程に作り上げると5個を小豆の煮詰めた餡子に5個を大豆を粉状にして砂糖を混ぜたきな粉で包んで出来上がったそれをバットの中に並べた。

「これが」

 ルミスがそう訊ねるとスリングは、肩を竦めた。

「おはぎ、お彼岸ていう先祖に対して感謝を言う習慣があってその時にお供えされるお菓子」

「食べていいの?」

「一個ずつな」

 そう言うとニーナは。おはぎを食べ始め、ルミスもそれに習って食べ始めた。

「へぇ~なんか優しい味してんね」

 ニーナは頷きながら食し、ルミスは調理方法と何かできないかと想像しながら食べているのだろう目を丸々と広げたかと思うと何かを吟味する様に目を瞑って味わっていた。
 スリングは、残りの4個を弁当の木箱に詰める。

「アンタは、食わんの?」

 ルミスが訊ね、スリングはゆっくりと頷いた。

「今からこれを持って行きたい場所がある、多分夕方まで帰って来れないと思う」

「昨日、デンシアさんが言っていた場所?」

「そう、アイツがわざわざ俺にそんな事を告げるなんてどうしても気になってね」

 スリングのその言葉にルミスもニーナも静かに頷く。

「きぃつけて」

「怪我増やしてきたら説教な」

 そんな2人の返事にスリングは苦笑いを零した。
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