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森の中の模擬戦
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信号弾を上げてからスリングはもう少し休めば良かったかもと後悔したがそれは、もう後の祭りだ。
これは、ツィンブリアからの挑発でもあり教えでもある。
それを承知しているから30分と言う時間経過での休憩を捨てた。
これが実際の戦場なら休憩時間など存在しない、シエルとの訓練で多少の疲弊しているのもまた、逃走戦ならよくある展開だ。
しかも敵の能力は新兵でありながらも中々の実力を持っているメンツときたもんだ。
スリングもその真意を知って居るのは、タイロンぐらいだろうか、その中で警戒すべきなのは、近接で言うならフルーテル、チダル、遠距離で言うならハセル、ムステル、出口周囲でいうならクロバル、タイロンといった所だろうと予測した。
結界の範囲は、横300m、縦300mと正方形でそれは、スリングの魔力感知が届く範囲内でもある。
呼吸を整えてから魔力感知を張り巡らせるとそこで奇妙な感覚を覚えた。
感じる気配が1人分足りない。
それと先行しているのにも違和感がある、1人は、フルーテルで間違いないがもう1人は、クロバルだ。
それも、迷うこと無くスリングの方向へと足を向けている。
偶然か?
だとしても向かうスピードに迷いがない。
フト、スリングは、空を見上げた。
上げた信号弾から位置を特定したのだろうかだとしても迷いが無いのが気になる。
本来ならばもっと迷う筈だ。なのに迷いも淀みもない。
それは、つまりスリングの位置がわかっているという事だ。
だが、向こうに魔力感知を使える者は、いない筈。
なのに、気配を消しているスリングの位置を概ねとは、言えわかっているのはおかしい。
何か種がある筈だが、それよりも今は、気配を殺してフルーテルとクロバルをやり過ごすか沈黙させる事を考えないとならない。
木の上か下か、どちらを選ぶ。
従来なら下だろう、遮蔽物を使って隠れる方が得策なのだが妙だ。
これがもしフルーテルとチダルなら迷わず選んだだろう。しかし、もう1人は、クロバル。
こちらの心理を誤魔化す為だけに使ったとしたら杜撰すぎるしクロバル自身もその程度の能力ではない。
つまり、この布陣には、何らかの意図が隠されている。
スリングは、出来るだけ大きな木を見つけると魔力を使わず、腕力で木を上り枝に隠れて周囲に目を向けた。
一連の流れが余りにも奇妙だからだ。
1つ目の応えは直ぐにわかった。
フルーテルとクロバルの姿を見つけると同時に2人の動きがちゃんと噛み合っているのがわかった。
フルーテルが空気銃を構え、クロバルが近接防御として小さな盾を持っていたのだ。
なるほど、コチラの攻撃は、刀での近接、正面から向かえば2人の空気銃から集中砲火を食らい、背後から狙えばクロバルの盾で一撃は弾かれ、その間にフルーテルから空気銃の攻撃を食らってしまうだろう。
なるほど、上手い組み合わせだ。スリングは、少しの間だけ2人の行動を観察した。2人の視線は時折、背後の上の方に向けて何かを確認している。
少しすると木肌に白い何かが激しく動いているのが見えた。
それが反射した光だとわかり、今までの不思議だと思っていた事の答えが出てきた。
スリングは、試しに地上に降りると出口方向から隠れない位置で姿を見せるとその気配を感じた。
直ぐに木影に姿を隠すとフルーテルとクロバルがこちらに向かって動き出した。
「なるほどね」
自然と感心の声が漏れた。
向こうには、魔力感知という選択肢はない。
その代わりに目を使ったのだ。
それも見ているのは、1人じゃない、2人だ。
恐らく残る2人は、その下で周囲警戒している筈だ。
気配から察するに上にいるのは、1人はハセル、だがもう1人は、気配を感じない。
しかし、先程スリングの視野に入れた光は2つあった。
つまり、1人は何らかの方法で魔力感知を断っているんだ。
その技術を持っているのは、デンシアやエルフだ。
だが、それを盗賊の1件の時に使用してスリングの目を掻い潜ったヤツが1人いる。
もしスリングに一泡吹かせる事が出来ると分かれば簡単に手を貸しそうな人物。
シエルだ。
そう考えると気配を感じない1人が上に登っている人物だと察しがつく。
「ムステルか」
ハセルとムステルこの2人は、射撃訓練の時から高い命中率をもっていた。
それだけ、目が良いと言える。
その2人が双眼鏡で周囲警戒して、敵に悟られない様に鏡か何かで太陽の光を反射させて敵のいる方向を先行している2人に伝えているんだ。
2人は、それに合わせて動き、こちらに向かっている。
上手い、配陣だ。
恐らく、ムステルの計画なのだろう。
今は、歩兵だが元々指揮官向きだと言えるタイプだ。
この手の策は、組めるだろう。
そこまで分かるとスリングは、どう動くか思案しながら森の中をあえて目立つ様に動いた。
ムステルは、恐らくスリングが全員を倒すと想定した様に計画している筈だ。
逆にゴールをしようとすれば恐らく単純なタイロンの罠が周辺に仕掛けられているだろう。
複雑な罠をタイロン1人で仕掛けるには、時間が少ない。
それなら簡単で単純な罠を数個、仕掛ける筈だ。
恐らく、それは今なお現在進行形で行われている筈だ。
しかし、タイロンの気配は、ムステルやハセル達の近くにある。
その近くにはチダルの気配も感じる。
つまり、ゴール付近の罠は、少ない。
恐らくあえて少なくしている筈だ、ここでもしスリングが誰も倒さずにゴールをしようとすればその罠が発動して、集中砲火を食らう。
つまり、単純な当たるが早いか着くのが早いかのレースでしかなくなる。
まぁ模擬戦なのだからそれでも何ら問題はない。
だが、これは上官による、訓練である。
そんなつまらない、終わり方はよろしくない。
なら、その策の危険性を教えるのも上官としての勤めでもある。
それなら、こちらから攻める相手は自然と決まる。
このメンツの中で1番危険性を孕み、1番影が薄い相手から潰すのが相手を効率的に混乱へと落とせる。
スリングは、そう決めると次に動きが悟られない様に姿を隠しながら移動をはじめ、小石を拾うと風の魔力を帯びさせて、自分とは、逆方向に1個投げた。
ここから、ムステルと読み合いの勝負でもある。
この部隊の中で単純な洞察力や判断力で言えば、ムステル、ハセル、タイロンは、スリングのそれと同等かそれ以上だと踏んでいた。
つまり、スリングのその行動で相手がスリングの考えをどこまで推測してどう判断出来るかが勝敗の分かれ目でもあった。
スリングは、気配を頼りに進むとその背中を見つけると周囲に魔力感知と警戒を怠らなかった。
敵影なし、罠、数個。
上の枝には、ハセルの姿を確認し、次に少し離れた位置で隠れようとしているチダルの姿を発見した。
ムステルだけ、姿がない。
忍び足でその背中に近づくとスリングは、背後から腕と口元を拘束するとその首元に木刀の刃の部分を首元に当てた。
「これで死亡な」
スリングがそう言うと背後から拘束された、タイロンは静かに両手をあげた。
そのまま、タイロンは仰向けで両手を上げながら寝転ぶとスリングはタイロンから空気銃と持っていた罠一式の入ったバックを借りるぞと言って借りると再び森の中に隠れた。
まだ気づかれてない?
それは、おかしいと感じたスリングは、上を向くと近くの木に何かが破裂する音が聞こえ、咄嗟に体を伏せた。
「くっそ!タイロンさんがやられた!」
チダルの声が響くとそれに反応して、フルーテルとクロバルの気配がコチラへと向く。
スリングは、インク弾が当たった木を見上げて確認すると自分との距離を確認した。
方向は、わかっているが位置までは、把握出来てない。それがわかると空気銃を持ち、遮蔽物に隠れた。
気配と足音がスリングに近づく。
ハセルもまた、枝から枝へと移動しながらこちらに迫って来ていた。
このままだと囲まれる。しかしムステルがどこにいるかまだ判断がつかない以上下手に動くわけにはいかない。
スリングは、タイロンから拝借した罠一式を確認するとそこには細く長い紐と3本の小瓶に小さな箱と長方形の金属の板があった。
ラッキー、そう思うと小瓶1本を手に取った。
小瓶の蓋を開けてそれが粉末状だと確認すると蓋を閉めた。チダルの足音と気配が直ぐ近くに近づいたと息を止めて瓶の蓋を開け手に粉末を乗せると手に風の魔力を纏わせてチダルの方向に向けて振り撒いた。
「ぐぎゃぁぁぁぁ」
チダルが間抜けな悲鳴を上げ、その場に倒れのたうち回り、その間にスリングは、場所を移動しようとするが上からの気配に咄嗟に横に躱すとスリングが移動しようと場所の地面にペイント弾が直撃していた。
スリングは、そのまま体を捻り反転させるとインク弾が飛んできた方向に目を向けると同時に空気銃の引鉄を引いた。
「いってぇ!!」
バチンという音共に木々の奥からムステル悲鳴が聞こえた。
これで、2人は、完全沈黙。
残るは、ハセル、フルーテル、クロバル、チダルの4人だがチダルは、タイロンの薬瓶で行動不能中、気をつけるべきは、残る3人と時間だ。
開始から10分は、経過しただろうか。
当初の目的はあくまでも全員沈黙の上でのゴールだったが流石に残り5分でこの3人同時は、危うい。
それなら出来るだけ、素早くゴールに向かうのが吉。
幸いしてかタイロンが出入口付近に貼っている罠は、全部で3つ、それもどれもが遠隔式の小型地雷だ。
そしてそのスイッチは、スリングが持っている鞄の中に入っている。
その気配を辿れば地雷の位置もわかるし近くを通っても爆破をされる心配もない。
逆に向こうを爆破に巻き込んで戦闘不能にする事も可能だ。
しかし、油断はまだ出来ない。
スリングは、木々の中を縫う様に出口に向かい走り出す。
その間にも横からフルーテルとクロバルがスリングに対しての距離を詰めている。
気配を感じるがその姿を掴めていない、背後の上から枝の上を駆け抜けるハセルの気配。
しかし、その気配の中で妙な空間があるのを感じた。
人数が減ったと考えるならその通りだが、それをあえて作っている様な違和感だ。
これは、あくまでも模擬戦だが、実践だと想定するとスリングは、自分の確認不足を少しだけ呆れた。
残り4分、もう時間も余力もない。
スリングは、足に魔力を集めると一気にゴールへと走り出した。
もし、スリングの勘が予想通りなら、これはムステルの予想の範囲内の可能性がある。
そもそも、周囲警戒しているとはいえ、タイロンを沈黙させた際にチダルが一番最初に気づいた事が違和感がある。
次にハセルの位置だ、確かに背後からスリングへと近づいているがその詰めた方は、一直線と言うより曲線を描く様に迫ってきている。
それでは、スリングまで辿り着くより先にスリングが出入口を抜ける。
そして、その逆側からフルーテルとクロバルが迫ってくる。
そうする事で妙にガラ空きになったスリングの背後。
その後ろに居たのがムステル。
確かにペイント弾に当たった音と悲鳴は聞こえたがその姿を確認出来なかった。
もし、あれがブラフだとしたら、今この背後は、隙だらけで狙い易い。
しかし、狙われている気配はない。
機会を伺っているとしたら何処で狙う?
ハセルの動き、そしてフルーテル、クロバルの動きから察する箇所に地雷罠に挟まれた箇所がある。
しかし、起爆するには遠隔操作するか踏むしかない。
だけど、もしそれを踏まないで起爆させるとしたら?
「普通の魔導銃でも撃てるぐらいだから当たるとかなり痛いよ」
ツィンブリアの一言が頭を過ぎった。
ハセル、ムステルは、間違いなく射撃が上手い。
空気銃の飛ぶ範囲は、弾の重さにも寄るが100m程度は、飛ぶ。
そして、小型地雷が起動したらその範囲は確実にスリングを覆う。
「そういう事かよ」
スリングは、タイロンから奪った鞄から小型地雷とスイッチを取り出すと小型爆弾を背後の木の上の方に投げ、それと同時にスイッチで起動させた。
強烈な臭いが鼻を刺す、離れたこの位置ですらそれを感じるという事は。間近にいればよりキツイ。
木々から漏れ聞こえる咳払いと微かな悲鳴、やはりムステルは落とせてない。
だが、これで背後から狙われる事は無くなった。
あとは、出口に仕掛けられた罠だけだ。
スリングは、そのままのスピードを維持して迷わず走り抜ける。
右からハセル、左からフルーテルとクロバルがそれぞれ迫る。
そして、罠と罠の間を抜ける瞬間、破裂音と共に粉が巻き散らかされる。
その間をスリングは、一気に駆け抜ける。
顔を覆う様に風の魔力を纏わせて、出来るだけ臭いや刺激が鼻や目に入らない様に排除して。
そして、そのまま一気に出口まで駆け抜け通り過ぎた。
「くっそ…」
「あぁぁ」
「くぅ~」
背後からハセル、フルーテル、クロバルの悔しがる声が聞こえ、振り返ると3人には、その場に座り込んでいた。
「危ねぇ~~」
スリングもまたそう言いながらその場に座り込む。
本当ならこのまま3人とサドンデス戦をしたいところだがシエルとの模擬戦からの連戦で魔力の残存が少なくなり、全身が重りの様な倦怠感に襲われ余力は無くなっていた。
「お疲れさん」
ツィンブリアの声が聞こえ、視線を向けるとルミスを引き連れたツィンブリアが悠々と歩いてこちらに来ていた。
スリングは、立ち上がろうと思ったが倦怠感に負けて立ち上がる事が出来ずにいるとツィンブリアは、そっと手でそれを制した。
「とりあえず、今は体を休めて、1時間の休憩の後に歩兵隊は、さっきの模擬戦の反省会をスリングは、次の特訓ね」
次の特訓?
その言葉に嫌な予感がしてツィンブリアを見るとその後ろでルミスが不気味な笑顔を浮かべている。
それだけで十分だった。スリングは、首を横に振るがルミスもまた首を横に振った。
「逃げられると思うなよ?」
全力でお断りをしたい。
そう願うが、そんな願いが通る筈もなく、1時間の休憩きっかりにルミスの風の紐がスリングの足首を掴むと森の奥へと引き摺り込む。
「往生せーい!このバカタレ!!」
日頃のストレスだろうか、無数の風の紐が鞭となりスリングに襲いかかり、スリングは悲鳴と共にそれを避けるだけで必死だった。
そんな地獄が終わったのは、日が傾き、風景がオレンジ色に染まる頃だった。
全身に浴びた、風の鞭でスリングは動けなくなっていた。
あぁこのまま、今世も終わるのか…
そんな事を考えながら仰向けで空を見上げているスリングを見下ろす様にツィンブリアが現れた。
「それで、なにか掴めたかい?」
今それを聞きますかね?
スリングは、そう言いたかったが疲労と痛みから何も言えなかった。
「まぁ最初からわかっていたんだろうけど、どうこれで色々確信持てたんじゃない?」
ツィンブリアは、そう言いながらスリングの肩に触れると体の痛みと疲労感が少しだけ和らいだ。
それで漸く上半身を起こすと一息ついた。
「お陰様で、色々学ぶ事はありましたよ」
その返答にツィンブリアは、スリングの背中を軽く叩くとそのまま洋館へと歩き出した。
スリングは、もう少しだけ休んでから立ち上がると溜息をひとつ吐いた。
いつの間にか背負い込んでいた。
ここまで追い込まれて気づくとは、我ながら本当に視野が狭いなと改めて反省をしながらスリングは、煙草をゆったりと燻らせながら洋館へヨタヨタと歩き出した。
これは、ツィンブリアからの挑発でもあり教えでもある。
それを承知しているから30分と言う時間経過での休憩を捨てた。
これが実際の戦場なら休憩時間など存在しない、シエルとの訓練で多少の疲弊しているのもまた、逃走戦ならよくある展開だ。
しかも敵の能力は新兵でありながらも中々の実力を持っているメンツときたもんだ。
スリングもその真意を知って居るのは、タイロンぐらいだろうか、その中で警戒すべきなのは、近接で言うならフルーテル、チダル、遠距離で言うならハセル、ムステル、出口周囲でいうならクロバル、タイロンといった所だろうと予測した。
結界の範囲は、横300m、縦300mと正方形でそれは、スリングの魔力感知が届く範囲内でもある。
呼吸を整えてから魔力感知を張り巡らせるとそこで奇妙な感覚を覚えた。
感じる気配が1人分足りない。
それと先行しているのにも違和感がある、1人は、フルーテルで間違いないがもう1人は、クロバルだ。
それも、迷うこと無くスリングの方向へと足を向けている。
偶然か?
だとしても向かうスピードに迷いがない。
フト、スリングは、空を見上げた。
上げた信号弾から位置を特定したのだろうかだとしても迷いが無いのが気になる。
本来ならばもっと迷う筈だ。なのに迷いも淀みもない。
それは、つまりスリングの位置がわかっているという事だ。
だが、向こうに魔力感知を使える者は、いない筈。
なのに、気配を消しているスリングの位置を概ねとは、言えわかっているのはおかしい。
何か種がある筈だが、それよりも今は、気配を殺してフルーテルとクロバルをやり過ごすか沈黙させる事を考えないとならない。
木の上か下か、どちらを選ぶ。
従来なら下だろう、遮蔽物を使って隠れる方が得策なのだが妙だ。
これがもしフルーテルとチダルなら迷わず選んだだろう。しかし、もう1人は、クロバル。
こちらの心理を誤魔化す為だけに使ったとしたら杜撰すぎるしクロバル自身もその程度の能力ではない。
つまり、この布陣には、何らかの意図が隠されている。
スリングは、出来るだけ大きな木を見つけると魔力を使わず、腕力で木を上り枝に隠れて周囲に目を向けた。
一連の流れが余りにも奇妙だからだ。
1つ目の応えは直ぐにわかった。
フルーテルとクロバルの姿を見つけると同時に2人の動きがちゃんと噛み合っているのがわかった。
フルーテルが空気銃を構え、クロバルが近接防御として小さな盾を持っていたのだ。
なるほど、コチラの攻撃は、刀での近接、正面から向かえば2人の空気銃から集中砲火を食らい、背後から狙えばクロバルの盾で一撃は弾かれ、その間にフルーテルから空気銃の攻撃を食らってしまうだろう。
なるほど、上手い組み合わせだ。スリングは、少しの間だけ2人の行動を観察した。2人の視線は時折、背後の上の方に向けて何かを確認している。
少しすると木肌に白い何かが激しく動いているのが見えた。
それが反射した光だとわかり、今までの不思議だと思っていた事の答えが出てきた。
スリングは、試しに地上に降りると出口方向から隠れない位置で姿を見せるとその気配を感じた。
直ぐに木影に姿を隠すとフルーテルとクロバルがこちらに向かって動き出した。
「なるほどね」
自然と感心の声が漏れた。
向こうには、魔力感知という選択肢はない。
その代わりに目を使ったのだ。
それも見ているのは、1人じゃない、2人だ。
恐らく残る2人は、その下で周囲警戒している筈だ。
気配から察するに上にいるのは、1人はハセル、だがもう1人は、気配を感じない。
しかし、先程スリングの視野に入れた光は2つあった。
つまり、1人は何らかの方法で魔力感知を断っているんだ。
その技術を持っているのは、デンシアやエルフだ。
だが、それを盗賊の1件の時に使用してスリングの目を掻い潜ったヤツが1人いる。
もしスリングに一泡吹かせる事が出来ると分かれば簡単に手を貸しそうな人物。
シエルだ。
そう考えると気配を感じない1人が上に登っている人物だと察しがつく。
「ムステルか」
ハセルとムステルこの2人は、射撃訓練の時から高い命中率をもっていた。
それだけ、目が良いと言える。
その2人が双眼鏡で周囲警戒して、敵に悟られない様に鏡か何かで太陽の光を反射させて敵のいる方向を先行している2人に伝えているんだ。
2人は、それに合わせて動き、こちらに向かっている。
上手い、配陣だ。
恐らく、ムステルの計画なのだろう。
今は、歩兵だが元々指揮官向きだと言えるタイプだ。
この手の策は、組めるだろう。
そこまで分かるとスリングは、どう動くか思案しながら森の中をあえて目立つ様に動いた。
ムステルは、恐らくスリングが全員を倒すと想定した様に計画している筈だ。
逆にゴールをしようとすれば恐らく単純なタイロンの罠が周辺に仕掛けられているだろう。
複雑な罠をタイロン1人で仕掛けるには、時間が少ない。
それなら簡単で単純な罠を数個、仕掛ける筈だ。
恐らく、それは今なお現在進行形で行われている筈だ。
しかし、タイロンの気配は、ムステルやハセル達の近くにある。
その近くにはチダルの気配も感じる。
つまり、ゴール付近の罠は、少ない。
恐らくあえて少なくしている筈だ、ここでもしスリングが誰も倒さずにゴールをしようとすればその罠が発動して、集中砲火を食らう。
つまり、単純な当たるが早いか着くのが早いかのレースでしかなくなる。
まぁ模擬戦なのだからそれでも何ら問題はない。
だが、これは上官による、訓練である。
そんなつまらない、終わり方はよろしくない。
なら、その策の危険性を教えるのも上官としての勤めでもある。
それなら、こちらから攻める相手は自然と決まる。
このメンツの中で1番危険性を孕み、1番影が薄い相手から潰すのが相手を効率的に混乱へと落とせる。
スリングは、そう決めると次に動きが悟られない様に姿を隠しながら移動をはじめ、小石を拾うと風の魔力を帯びさせて、自分とは、逆方向に1個投げた。
ここから、ムステルと読み合いの勝負でもある。
この部隊の中で単純な洞察力や判断力で言えば、ムステル、ハセル、タイロンは、スリングのそれと同等かそれ以上だと踏んでいた。
つまり、スリングのその行動で相手がスリングの考えをどこまで推測してどう判断出来るかが勝敗の分かれ目でもあった。
スリングは、気配を頼りに進むとその背中を見つけると周囲に魔力感知と警戒を怠らなかった。
敵影なし、罠、数個。
上の枝には、ハセルの姿を確認し、次に少し離れた位置で隠れようとしているチダルの姿を発見した。
ムステルだけ、姿がない。
忍び足でその背中に近づくとスリングは、背後から腕と口元を拘束するとその首元に木刀の刃の部分を首元に当てた。
「これで死亡な」
スリングがそう言うと背後から拘束された、タイロンは静かに両手をあげた。
そのまま、タイロンは仰向けで両手を上げながら寝転ぶとスリングはタイロンから空気銃と持っていた罠一式の入ったバックを借りるぞと言って借りると再び森の中に隠れた。
まだ気づかれてない?
それは、おかしいと感じたスリングは、上を向くと近くの木に何かが破裂する音が聞こえ、咄嗟に体を伏せた。
「くっそ!タイロンさんがやられた!」
チダルの声が響くとそれに反応して、フルーテルとクロバルの気配がコチラへと向く。
スリングは、インク弾が当たった木を見上げて確認すると自分との距離を確認した。
方向は、わかっているが位置までは、把握出来てない。それがわかると空気銃を持ち、遮蔽物に隠れた。
気配と足音がスリングに近づく。
ハセルもまた、枝から枝へと移動しながらこちらに迫って来ていた。
このままだと囲まれる。しかしムステルがどこにいるかまだ判断がつかない以上下手に動くわけにはいかない。
スリングは、タイロンから拝借した罠一式を確認するとそこには細く長い紐と3本の小瓶に小さな箱と長方形の金属の板があった。
ラッキー、そう思うと小瓶1本を手に取った。
小瓶の蓋を開けてそれが粉末状だと確認すると蓋を閉めた。チダルの足音と気配が直ぐ近くに近づいたと息を止めて瓶の蓋を開け手に粉末を乗せると手に風の魔力を纏わせてチダルの方向に向けて振り撒いた。
「ぐぎゃぁぁぁぁ」
チダルが間抜けな悲鳴を上げ、その場に倒れのたうち回り、その間にスリングは、場所を移動しようとするが上からの気配に咄嗟に横に躱すとスリングが移動しようと場所の地面にペイント弾が直撃していた。
スリングは、そのまま体を捻り反転させるとインク弾が飛んできた方向に目を向けると同時に空気銃の引鉄を引いた。
「いってぇ!!」
バチンという音共に木々の奥からムステル悲鳴が聞こえた。
これで、2人は、完全沈黙。
残るは、ハセル、フルーテル、クロバル、チダルの4人だがチダルは、タイロンの薬瓶で行動不能中、気をつけるべきは、残る3人と時間だ。
開始から10分は、経過しただろうか。
当初の目的はあくまでも全員沈黙の上でのゴールだったが流石に残り5分でこの3人同時は、危うい。
それなら出来るだけ、素早くゴールに向かうのが吉。
幸いしてかタイロンが出入口付近に貼っている罠は、全部で3つ、それもどれもが遠隔式の小型地雷だ。
そしてそのスイッチは、スリングが持っている鞄の中に入っている。
その気配を辿れば地雷の位置もわかるし近くを通っても爆破をされる心配もない。
逆に向こうを爆破に巻き込んで戦闘不能にする事も可能だ。
しかし、油断はまだ出来ない。
スリングは、木々の中を縫う様に出口に向かい走り出す。
その間にも横からフルーテルとクロバルがスリングに対しての距離を詰めている。
気配を感じるがその姿を掴めていない、背後の上から枝の上を駆け抜けるハセルの気配。
しかし、その気配の中で妙な空間があるのを感じた。
人数が減ったと考えるならその通りだが、それをあえて作っている様な違和感だ。
これは、あくまでも模擬戦だが、実践だと想定するとスリングは、自分の確認不足を少しだけ呆れた。
残り4分、もう時間も余力もない。
スリングは、足に魔力を集めると一気にゴールへと走り出した。
もし、スリングの勘が予想通りなら、これはムステルの予想の範囲内の可能性がある。
そもそも、周囲警戒しているとはいえ、タイロンを沈黙させた際にチダルが一番最初に気づいた事が違和感がある。
次にハセルの位置だ、確かに背後からスリングへと近づいているがその詰めた方は、一直線と言うより曲線を描く様に迫ってきている。
それでは、スリングまで辿り着くより先にスリングが出入口を抜ける。
そして、その逆側からフルーテルとクロバルが迫ってくる。
そうする事で妙にガラ空きになったスリングの背後。
その後ろに居たのがムステル。
確かにペイント弾に当たった音と悲鳴は聞こえたがその姿を確認出来なかった。
もし、あれがブラフだとしたら、今この背後は、隙だらけで狙い易い。
しかし、狙われている気配はない。
機会を伺っているとしたら何処で狙う?
ハセルの動き、そしてフルーテル、クロバルの動きから察する箇所に地雷罠に挟まれた箇所がある。
しかし、起爆するには遠隔操作するか踏むしかない。
だけど、もしそれを踏まないで起爆させるとしたら?
「普通の魔導銃でも撃てるぐらいだから当たるとかなり痛いよ」
ツィンブリアの一言が頭を過ぎった。
ハセル、ムステルは、間違いなく射撃が上手い。
空気銃の飛ぶ範囲は、弾の重さにも寄るが100m程度は、飛ぶ。
そして、小型地雷が起動したらその範囲は確実にスリングを覆う。
「そういう事かよ」
スリングは、タイロンから奪った鞄から小型地雷とスイッチを取り出すと小型爆弾を背後の木の上の方に投げ、それと同時にスイッチで起動させた。
強烈な臭いが鼻を刺す、離れたこの位置ですらそれを感じるという事は。間近にいればよりキツイ。
木々から漏れ聞こえる咳払いと微かな悲鳴、やはりムステルは落とせてない。
だが、これで背後から狙われる事は無くなった。
あとは、出口に仕掛けられた罠だけだ。
スリングは、そのままのスピードを維持して迷わず走り抜ける。
右からハセル、左からフルーテルとクロバルがそれぞれ迫る。
そして、罠と罠の間を抜ける瞬間、破裂音と共に粉が巻き散らかされる。
その間をスリングは、一気に駆け抜ける。
顔を覆う様に風の魔力を纏わせて、出来るだけ臭いや刺激が鼻や目に入らない様に排除して。
そして、そのまま一気に出口まで駆け抜け通り過ぎた。
「くっそ…」
「あぁぁ」
「くぅ~」
背後からハセル、フルーテル、クロバルの悔しがる声が聞こえ、振り返ると3人には、その場に座り込んでいた。
「危ねぇ~~」
スリングもまたそう言いながらその場に座り込む。
本当ならこのまま3人とサドンデス戦をしたいところだがシエルとの模擬戦からの連戦で魔力の残存が少なくなり、全身が重りの様な倦怠感に襲われ余力は無くなっていた。
「お疲れさん」
ツィンブリアの声が聞こえ、視線を向けるとルミスを引き連れたツィンブリアが悠々と歩いてこちらに来ていた。
スリングは、立ち上がろうと思ったが倦怠感に負けて立ち上がる事が出来ずにいるとツィンブリアは、そっと手でそれを制した。
「とりあえず、今は体を休めて、1時間の休憩の後に歩兵隊は、さっきの模擬戦の反省会をスリングは、次の特訓ね」
次の特訓?
その言葉に嫌な予感がしてツィンブリアを見るとその後ろでルミスが不気味な笑顔を浮かべている。
それだけで十分だった。スリングは、首を横に振るがルミスもまた首を横に振った。
「逃げられると思うなよ?」
全力でお断りをしたい。
そう願うが、そんな願いが通る筈もなく、1時間の休憩きっかりにルミスの風の紐がスリングの足首を掴むと森の奥へと引き摺り込む。
「往生せーい!このバカタレ!!」
日頃のストレスだろうか、無数の風の紐が鞭となりスリングに襲いかかり、スリングは悲鳴と共にそれを避けるだけで必死だった。
そんな地獄が終わったのは、日が傾き、風景がオレンジ色に染まる頃だった。
全身に浴びた、風の鞭でスリングは動けなくなっていた。
あぁこのまま、今世も終わるのか…
そんな事を考えながら仰向けで空を見上げているスリングを見下ろす様にツィンブリアが現れた。
「それで、なにか掴めたかい?」
今それを聞きますかね?
スリングは、そう言いたかったが疲労と痛みから何も言えなかった。
「まぁ最初からわかっていたんだろうけど、どうこれで色々確信持てたんじゃない?」
ツィンブリアは、そう言いながらスリングの肩に触れると体の痛みと疲労感が少しだけ和らいだ。
それで漸く上半身を起こすと一息ついた。
「お陰様で、色々学ぶ事はありましたよ」
その返答にツィンブリアは、スリングの背中を軽く叩くとそのまま洋館へと歩き出した。
スリングは、もう少しだけ休んでから立ち上がると溜息をひとつ吐いた。
いつの間にか背負い込んでいた。
ここまで追い込まれて気づくとは、我ながら本当に視野が狭いなと改めて反省をしながらスリングは、煙草をゆったりと燻らせながら洋館へヨタヨタと歩き出した。
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