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異様な魔力
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足に風の魔力を纏わせても人1人を担ぎながらだと流石に速度は、大きく落ちる、それに対する苛立ちを感じながらも今はそれに意識を持っていくわけにもいかない。
緑肌大猿から感じる魔力は、徐々に拡大すると意識をこちらへと向けてきた。
来る!
スリングは、咄嗟にそう感じると魔導銃を背後に向けた。
しかし、それよりも早く、緑肌大猿は、跳躍するとその巨躯を木々の中に隠した。闇雲に撃っても当たらない、ここで弾を無駄には出来ずに正面を向いて再度走り出した。
あと少し、タイロンの罠の領域が目の前に見え少しだけ安堵すると緑肌大猿の気配が真上に移動した。
速度も上がってる?いや違う、ドアールを担いでいる分、此方が遅いんだ。
スリングは、舌打ちをしながらドアールの体を投げて罠の領域に居れるが緑肌大猿の標的は、スリングに代わっていたのか落下と同時にスリングの頭部を狙って大きな拳が振り落とされた。
ドアールの重さから解放されたスリングは、その一撃をギリギリ躱す事が出来たが衝撃波までは、回避出来ずに後方に飛んだ勢いに上乗せされた衝撃波で着地が上手くできずにそのまま後方に転がってしまった。
緑肌大猿がその隙を逃す事はなく、スリングは一気にその距離を詰めて来た。
クソが!心の中で悪態を付きながらスリングは、腕に風の魔力を纏わせて近くに木に放出させてその反動で体を横にスライドさせた。
スリングが倒れていた場所に土を撒き散らしながら緑肌大猿の巨躯が佇んでいた。
そこで改めてその巨躯を改めてみたが、その変化は、異様なモノだった。
全身を黒い管が根の様に全身に広がり、禍々しい魔力を放ち、スリングの左目がそれの正体を直感的に教えてきた。
水の魔力を感じるがその中に土の魔力も含まれ逆に先程まで感じていた風の魔力が一切感じる事が出来なかった。
属性変化?聞いた事も見た事もない事象にスリングは、少し混乱しながら今の現状に思考を戻した。
タイロンの罠の領域まで目と鼻の先だがそれは、スリングだけではなく緑肌大猿も同じでその為か先程までの猛攻が鳴りを潜め、此方を観察しながらゆっくりと距離を詰めて来た。
攻撃を躱して、領域に逃げる。道はそれしかないが、緑肌大猿もそれをわかっているのか下手な動きは、見せずスリングの選択肢を潰す様にゆっくりと距離を詰めて来る、それに応じてスリングも下がるがそれは同時に少しずつ罠の領域から離れて行く事になった。
しかし、スリングには一つの希望があった、もう少し下がれば、逃げれる切っ掛けが出来る。
そう確信しながら緑肌大猿が迫るのを待った。
その足が、その域に入ったと同時にスリングは、罠の領域の方へ走り出すと緑肌大猿も走り出した、それと同時に銃声が鳴り響き緑肌大猿の頭部に当たった。硬化していて撃ち抜く事が出来なかったがその衝撃で動きを一瞬止める事が出来た。
その間にスリングは、罠の領域に逃げ込み、一拍遅れて緑肌大猿も入って来るが入ると同時に木々の中に隠されていた小型地雷が炸裂音と共に弾け、その顔に噴射された赤い粉が振りかけられた。鼻を掠める匂いでスリングの顔が熱を帯びる。
辛味球か、範囲の外のスリングでこれだけの効果を感じるのであればそれを直接被った緑肌大猿は、もっと悲惨な効果を発揮する。それを体現する様に目と鼻と口から体液を巻き散らかすとその場で顔を擦りながらその場でのたうち回っていた。
「分隊長!!!」
ハセルの声が聞こえスリングは、反射的に手を伸ばしていた。
「刀をくれ!!!」
その声にハセルは、何が何だかわからない様子だったがスリングに向かい鞘に収まった刀を投げ、それは、スリングから少し離れた位置に転げ落ち、スリングは迷いなく取りに向かうとその音に反応したのか緑肌大猿の太い腕が振り落とされた。
当たるか当たらないかの寸前の所で刀を拾い上げながら回避したスリングは、迷わず刀を抜くと刀身に火を身体に風の魔力を纏わせた。
緑肌大猿は、その魔力を感じたのか片手で顔を覆いながら空いた手を周囲に振り回し、体を少しずつ後退させていく。
「タイロン!!痺れ薬!!」
スリングがそう言うとゴム銃で撃たれた球が緑肌大猿の顔に当たって弾けた。
けたたましい悲鳴が森の中に響き、その音に少しだけ足が竦んだがスリングは、痺れて立ったまま固まる緑肌大猿の喉元を狙うとそこに刀を横一線に走らせた。
首元から血液の様にドロリとした黒い液体が流れ出すとその巨躯が見る見る萎んでいき最後には、ミイラの様な状態になった。
スリングは、緑肌大猿だったそれの首元に手を入れると指先に当たるそれを引き抜いた。
八角形の魔導回路の基盤、中央には魔鉱石と同じ質をもった黒い半円の球が埋め込まれていた。
「分隊長?」
スリングが、それを観察しているとハセルとタイロンが警戒しながら近づいてきたがスリングの様子に不思議そうな表情をしていた。スリングは、2人の視線に応える様に首を横に振ると八角形のそれをポケットにしまった。
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然、怒声を上げながら数発の銃声が響く。
音のした方向を見ると覚醒したドアールが上に銃口を向けながら大声で威嚇していた。
今更かよ、スリングは溜息を漏らしながらドアールに近づこうとするが我を忘れているのかドアールは、近づくスリングに向けて銃口を向けた。
呆れながら銃口を躱しながらゆっくり近づくと。
「アン…」
「アブナーイ」
何かを言おうとしたドアールの言葉を遮り、明らかな棒読みの声がドアールの顔面を殴り飛ばした。
殴り飛ばされたドアールは、2m程飛んだかと思うと太い木に衝突して再び気絶した。
「イヤァ、分隊長ドノ、オ怪我ハ、アリマセンカ?」
棒読みの主であるシエルは、一仕事終えた様な顔でスリングに訊ねた。
「よく言う、こっちが大丈夫だと思ったから出て来たんだろお前」
「当たり前だろ、お前がこの程度で怪我しないのは、わかってるからな」
スリングの言葉にシエルは、態度をいつもの様子に戻るとゆっくりとドアールに近づいた。
今回の作戦でスリングの予想外な状況だったのは、二つあった、一つはニーナとルミスが入れ替わっていた事とシエルの同行だった。
しかし、それは同時に状況によって功をそうしてもいた。もし緑肌大猿が出て来なければドアールは、スリングを銃撃する可能性があると踏んでい。
殺される心配は、なかったが万が一も考えられる。その為にドアールを止める要員としてシエルに隠れて着いて来る様に合図を送っていたのだ。
だが、蓋を開ければドアールの戦力は乏しく、足も遅い。
本当だったら緑肌大猿に既に殺されていてもおかしくなかったが殺されなかった。それはドアールの近くで風の魔力に探知されないシエルの気配を感じていたからだろう。
恐らく動物的な勘なのだろうがその位置も戦力もわからなかったからこそ緑肌大猿は、ドアールを殺す事が出来ずにスリングは、距離を取りながらもドアールとここまで来ることが出来た。
「それで、分隊長、コイツにとどめ刺して良いよな?」
気絶するドアールに近づくと足蹴にすると止めを刺す様に拳を振り上げていた。
「だめに決まってんだろ!!」
スリングが慌てて止めに入り、その間にハセルとタイロンにドアールを拠点まで運ばせた。
拠点に戻ると無事なドアールを見てルミスは、あからさまな溜息を漏らし、スリングは苦笑いを零した。
それから通信で呼ばれた分隊と小隊の歩兵達と共に洋館まで戻った。
ドアールが意識を戻したのは、それから暫くしてからだった。
デンシアに頼んで近くの宿屋に調査班用の部屋を取って貰い、スリングは、今後の為に意識を戻すのを待っていた。
意識を戻したドアールは、スリングの顔を見るなり微かに顔を引き攣らせた。
「お目覚めですか、小隊長殿」
スリングがそう声を掛けるとドアール微かに頷いた。
「気分などは、如何でしょうか?」
「大丈夫だ」
漸く口を開いたかと思うとドアールは、部屋を見渡した。
「ここは、我々が最初に拠点にしていた街の宿屋です、今日はもう日が傾き、帰るには危険なので今日はここでお休み下さい」
スリングがそう言うとドアールは、静かに頷いた。
「それと、今日の報告書ですが此方で処理しておくので了承の印だけお願いしますね」
再びドアールは、頷く。
正直、ごねると踏んでいたスリングからしたら余りにも素直な反応に肩透かしを食らった気分だったがそれはそれで都合が良かったのでそれ以上余計な事を言うまい思い部屋を後にしようとして会釈をして部屋を後にしようとしたがそれをドアールに呼び止められた。
「アンタ…クイブヘア拠点の時に何処にいた?」
その問いにスリングは、肩を竦める。
「何年前の話をされているのでしょうか?」
スリングが何となしに応えるがドアールの表情は、凍りついた様に強ばっていた。
「2年前だ、3年間続いたティク国との小競り合いが終わったきっかけの戦争だ」
「その頃なら軍部局の本隊で訓練兵でしたかね」
スリングのその答えにドアールは、笑いながら首を横に振った。
「四元素を使えるのにか?ありえない!」
「これが本当なんですよ、記録上は、本隊に居ましたよ?」
スリングのその言い方に何かを察したのか顔を強ばらせ、俯いた。
「ここからは、独り言だ…あの時、俺は敵の拠点が騒がしくなってチャンスだと思った…そして乗り込んだ時に俺は、見た…敵兵達を無慈悲に斬り捨てる人影を…」
スリングは、ドアールの言葉に促される様にその時の光景を思い出していた。
出来るだけ、無力化を考えて刀を振るったつもりだったが拠点内の兵士達の殆どは、たった1人の敵であるスリングに逃げるや降伏するよりも戦う事を選び、その為に斬り続けるしかなかった。
地獄という言葉を体現する様なその光景を思い出すとスリングは、首を横に振り、目の前の男に集中した。
「申し訳ないんですが小隊長殿、何が仰りたいのかよく分からないのですが?」
スリングがそう訊くとドアールは、震える手を見せた。
「あの時、アンタを見てから、戦線や怪物退治に出る度に俺の震えは止まらなくなった…どうすればいい?俺は、アイツより上に居ないと駄目んなんだ!中級貴族が田舎者の下級貴族の女に負ける訳には、いかないんだよ!!このままだったらアイツは、また俺よりも先に上に行く!」
「なんで、それがダメなんですか?」
「駄目だろ!俺がアイツより下だと!?許されない!」
「許されないって誰が許さないんですか?」
「俺だよ!俺自身だ!!俺が許せないんだよ!!」
「何故?」
スリングの問いにドアールが言葉を詰まらせた。
「なんで、アンタは彼女が自分より上に行く事を許せないんだ?」
言葉を詰まらせるドアールにスリングは、再度問いながら詰め寄った。
「俺は戦っているんだ、なのになんで戦いもしない奴が上に行くんだ、おかしいだろ…」
「おかしくないさ、何故なら彼女もまた戦っているからだ、俺達の様に敵や脅威と立ち向かうだけが戦いじゃない、俺達のサポートする為に道具の調整や準備をする、それもまた立派な戦い方だ」
「そんなのは、詭弁だ!」
「詭弁じゃない、もし魔導銃が稼働しなかったら?兵装が作動しなかったら?俺達はどうなると思う?」
スリングの問いにドアールは、押し黙り、睨みつけるだけになった。
「役割が違うだけだ、そしてそこで成果を生んだからこそ、彼女は出世しただけだ、何もおかしいことじゃない、おかしいとすればアンタのその肥大化した自尊心だ」
スリングがそう言うとドアールは、何も言うことなく俯くだけだった。
「最後に付け加えておく、もしこれ以上、彼女やこの分隊に余計な手出しをするならば俺は、容赦はしない、忘れるな」
スリングは、それだけ告げると敬礼をして部屋を後にした。
宿屋を出ると同時に脇腹を小突かれ、気配のない一撃に慌てて身構えるとツィンブリアがクスクスと笑いながら立っていた。
「似合わないセリフを吐きましたなぁ~スリング~」
「師匠…相変わらずの地獄耳で…」
そう応えるとツィンブリアは、ニヤニヤと笑いながらその背中を叩いた。
「まぁ~これは、少し前の君にも言える事なんだがね~」
「俺は、あそこまで自尊心高くないでしょ?」
「負けてないよ~なんせ自分が強いから前に出る方式だったじゃない?」
「強いとかじゃないっすよ、一応それ相応のスキルがあると思って前に出てるだけです」
「そう?そこら辺は、ルミちゃんの方が高いんじゃない?」
その返しにスリングは、もっともだと思い口を噤んでしまった。
「人を殺すって事がどんな事なのか、物理的な死もそうだけど、精神的な死も恐れているよね?でもねスリング、私達は軍人だよ、人を殺す事もしないといけないお仕事、そして君が仲間の死を恐れる様に仲間もまた君の死を恐れるんだよ」
ツィンブリアのその言葉にスリングは、ゆっくりと頷く。
「さぁ帰ろ、晩飯はなんだろね~」
ツィンブリアは、そう言うとスキップする様に歩き出し、スリングは、その背中を見ながらゆっくりと煙草を燻らせた。
緑肌大猿から感じる魔力は、徐々に拡大すると意識をこちらへと向けてきた。
来る!
スリングは、咄嗟にそう感じると魔導銃を背後に向けた。
しかし、それよりも早く、緑肌大猿は、跳躍するとその巨躯を木々の中に隠した。闇雲に撃っても当たらない、ここで弾を無駄には出来ずに正面を向いて再度走り出した。
あと少し、タイロンの罠の領域が目の前に見え少しだけ安堵すると緑肌大猿の気配が真上に移動した。
速度も上がってる?いや違う、ドアールを担いでいる分、此方が遅いんだ。
スリングは、舌打ちをしながらドアールの体を投げて罠の領域に居れるが緑肌大猿の標的は、スリングに代わっていたのか落下と同時にスリングの頭部を狙って大きな拳が振り落とされた。
ドアールの重さから解放されたスリングは、その一撃をギリギリ躱す事が出来たが衝撃波までは、回避出来ずに後方に飛んだ勢いに上乗せされた衝撃波で着地が上手くできずにそのまま後方に転がってしまった。
緑肌大猿がその隙を逃す事はなく、スリングは一気にその距離を詰めて来た。
クソが!心の中で悪態を付きながらスリングは、腕に風の魔力を纏わせて近くに木に放出させてその反動で体を横にスライドさせた。
スリングが倒れていた場所に土を撒き散らしながら緑肌大猿の巨躯が佇んでいた。
そこで改めてその巨躯を改めてみたが、その変化は、異様なモノだった。
全身を黒い管が根の様に全身に広がり、禍々しい魔力を放ち、スリングの左目がそれの正体を直感的に教えてきた。
水の魔力を感じるがその中に土の魔力も含まれ逆に先程まで感じていた風の魔力が一切感じる事が出来なかった。
属性変化?聞いた事も見た事もない事象にスリングは、少し混乱しながら今の現状に思考を戻した。
タイロンの罠の領域まで目と鼻の先だがそれは、スリングだけではなく緑肌大猿も同じでその為か先程までの猛攻が鳴りを潜め、此方を観察しながらゆっくりと距離を詰めて来た。
攻撃を躱して、領域に逃げる。道はそれしかないが、緑肌大猿もそれをわかっているのか下手な動きは、見せずスリングの選択肢を潰す様にゆっくりと距離を詰めて来る、それに応じてスリングも下がるがそれは同時に少しずつ罠の領域から離れて行く事になった。
しかし、スリングには一つの希望があった、もう少し下がれば、逃げれる切っ掛けが出来る。
そう確信しながら緑肌大猿が迫るのを待った。
その足が、その域に入ったと同時にスリングは、罠の領域の方へ走り出すと緑肌大猿も走り出した、それと同時に銃声が鳴り響き緑肌大猿の頭部に当たった。硬化していて撃ち抜く事が出来なかったがその衝撃で動きを一瞬止める事が出来た。
その間にスリングは、罠の領域に逃げ込み、一拍遅れて緑肌大猿も入って来るが入ると同時に木々の中に隠されていた小型地雷が炸裂音と共に弾け、その顔に噴射された赤い粉が振りかけられた。鼻を掠める匂いでスリングの顔が熱を帯びる。
辛味球か、範囲の外のスリングでこれだけの効果を感じるのであればそれを直接被った緑肌大猿は、もっと悲惨な効果を発揮する。それを体現する様に目と鼻と口から体液を巻き散らかすとその場で顔を擦りながらその場でのたうち回っていた。
「分隊長!!!」
ハセルの声が聞こえスリングは、反射的に手を伸ばしていた。
「刀をくれ!!!」
その声にハセルは、何が何だかわからない様子だったがスリングに向かい鞘に収まった刀を投げ、それは、スリングから少し離れた位置に転げ落ち、スリングは迷いなく取りに向かうとその音に反応したのか緑肌大猿の太い腕が振り落とされた。
当たるか当たらないかの寸前の所で刀を拾い上げながら回避したスリングは、迷わず刀を抜くと刀身に火を身体に風の魔力を纏わせた。
緑肌大猿は、その魔力を感じたのか片手で顔を覆いながら空いた手を周囲に振り回し、体を少しずつ後退させていく。
「タイロン!!痺れ薬!!」
スリングがそう言うとゴム銃で撃たれた球が緑肌大猿の顔に当たって弾けた。
けたたましい悲鳴が森の中に響き、その音に少しだけ足が竦んだがスリングは、痺れて立ったまま固まる緑肌大猿の喉元を狙うとそこに刀を横一線に走らせた。
首元から血液の様にドロリとした黒い液体が流れ出すとその巨躯が見る見る萎んでいき最後には、ミイラの様な状態になった。
スリングは、緑肌大猿だったそれの首元に手を入れると指先に当たるそれを引き抜いた。
八角形の魔導回路の基盤、中央には魔鉱石と同じ質をもった黒い半円の球が埋め込まれていた。
「分隊長?」
スリングが、それを観察しているとハセルとタイロンが警戒しながら近づいてきたがスリングの様子に不思議そうな表情をしていた。スリングは、2人の視線に応える様に首を横に振ると八角形のそれをポケットにしまった。
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然、怒声を上げながら数発の銃声が響く。
音のした方向を見ると覚醒したドアールが上に銃口を向けながら大声で威嚇していた。
今更かよ、スリングは溜息を漏らしながらドアールに近づこうとするが我を忘れているのかドアールは、近づくスリングに向けて銃口を向けた。
呆れながら銃口を躱しながらゆっくり近づくと。
「アン…」
「アブナーイ」
何かを言おうとしたドアールの言葉を遮り、明らかな棒読みの声がドアールの顔面を殴り飛ばした。
殴り飛ばされたドアールは、2m程飛んだかと思うと太い木に衝突して再び気絶した。
「イヤァ、分隊長ドノ、オ怪我ハ、アリマセンカ?」
棒読みの主であるシエルは、一仕事終えた様な顔でスリングに訊ねた。
「よく言う、こっちが大丈夫だと思ったから出て来たんだろお前」
「当たり前だろ、お前がこの程度で怪我しないのは、わかってるからな」
スリングの言葉にシエルは、態度をいつもの様子に戻るとゆっくりとドアールに近づいた。
今回の作戦でスリングの予想外な状況だったのは、二つあった、一つはニーナとルミスが入れ替わっていた事とシエルの同行だった。
しかし、それは同時に状況によって功をそうしてもいた。もし緑肌大猿が出て来なければドアールは、スリングを銃撃する可能性があると踏んでい。
殺される心配は、なかったが万が一も考えられる。その為にドアールを止める要員としてシエルに隠れて着いて来る様に合図を送っていたのだ。
だが、蓋を開ければドアールの戦力は乏しく、足も遅い。
本当だったら緑肌大猿に既に殺されていてもおかしくなかったが殺されなかった。それはドアールの近くで風の魔力に探知されないシエルの気配を感じていたからだろう。
恐らく動物的な勘なのだろうがその位置も戦力もわからなかったからこそ緑肌大猿は、ドアールを殺す事が出来ずにスリングは、距離を取りながらもドアールとここまで来ることが出来た。
「それで、分隊長、コイツにとどめ刺して良いよな?」
気絶するドアールに近づくと足蹴にすると止めを刺す様に拳を振り上げていた。
「だめに決まってんだろ!!」
スリングが慌てて止めに入り、その間にハセルとタイロンにドアールを拠点まで運ばせた。
拠点に戻ると無事なドアールを見てルミスは、あからさまな溜息を漏らし、スリングは苦笑いを零した。
それから通信で呼ばれた分隊と小隊の歩兵達と共に洋館まで戻った。
ドアールが意識を戻したのは、それから暫くしてからだった。
デンシアに頼んで近くの宿屋に調査班用の部屋を取って貰い、スリングは、今後の為に意識を戻すのを待っていた。
意識を戻したドアールは、スリングの顔を見るなり微かに顔を引き攣らせた。
「お目覚めですか、小隊長殿」
スリングがそう声を掛けるとドアール微かに頷いた。
「気分などは、如何でしょうか?」
「大丈夫だ」
漸く口を開いたかと思うとドアールは、部屋を見渡した。
「ここは、我々が最初に拠点にしていた街の宿屋です、今日はもう日が傾き、帰るには危険なので今日はここでお休み下さい」
スリングがそう言うとドアールは、静かに頷いた。
「それと、今日の報告書ですが此方で処理しておくので了承の印だけお願いしますね」
再びドアールは、頷く。
正直、ごねると踏んでいたスリングからしたら余りにも素直な反応に肩透かしを食らった気分だったがそれはそれで都合が良かったのでそれ以上余計な事を言うまい思い部屋を後にしようとして会釈をして部屋を後にしようとしたがそれをドアールに呼び止められた。
「アンタ…クイブヘア拠点の時に何処にいた?」
その問いにスリングは、肩を竦める。
「何年前の話をされているのでしょうか?」
スリングが何となしに応えるがドアールの表情は、凍りついた様に強ばっていた。
「2年前だ、3年間続いたティク国との小競り合いが終わったきっかけの戦争だ」
「その頃なら軍部局の本隊で訓練兵でしたかね」
スリングのその答えにドアールは、笑いながら首を横に振った。
「四元素を使えるのにか?ありえない!」
「これが本当なんですよ、記録上は、本隊に居ましたよ?」
スリングのその言い方に何かを察したのか顔を強ばらせ、俯いた。
「ここからは、独り言だ…あの時、俺は敵の拠点が騒がしくなってチャンスだと思った…そして乗り込んだ時に俺は、見た…敵兵達を無慈悲に斬り捨てる人影を…」
スリングは、ドアールの言葉に促される様にその時の光景を思い出していた。
出来るだけ、無力化を考えて刀を振るったつもりだったが拠点内の兵士達の殆どは、たった1人の敵であるスリングに逃げるや降伏するよりも戦う事を選び、その為に斬り続けるしかなかった。
地獄という言葉を体現する様なその光景を思い出すとスリングは、首を横に振り、目の前の男に集中した。
「申し訳ないんですが小隊長殿、何が仰りたいのかよく分からないのですが?」
スリングがそう訊くとドアールは、震える手を見せた。
「あの時、アンタを見てから、戦線や怪物退治に出る度に俺の震えは止まらなくなった…どうすればいい?俺は、アイツより上に居ないと駄目んなんだ!中級貴族が田舎者の下級貴族の女に負ける訳には、いかないんだよ!!このままだったらアイツは、また俺よりも先に上に行く!」
「なんで、それがダメなんですか?」
「駄目だろ!俺がアイツより下だと!?許されない!」
「許されないって誰が許さないんですか?」
「俺だよ!俺自身だ!!俺が許せないんだよ!!」
「何故?」
スリングの問いにドアールが言葉を詰まらせた。
「なんで、アンタは彼女が自分より上に行く事を許せないんだ?」
言葉を詰まらせるドアールにスリングは、再度問いながら詰め寄った。
「俺は戦っているんだ、なのになんで戦いもしない奴が上に行くんだ、おかしいだろ…」
「おかしくないさ、何故なら彼女もまた戦っているからだ、俺達の様に敵や脅威と立ち向かうだけが戦いじゃない、俺達のサポートする為に道具の調整や準備をする、それもまた立派な戦い方だ」
「そんなのは、詭弁だ!」
「詭弁じゃない、もし魔導銃が稼働しなかったら?兵装が作動しなかったら?俺達はどうなると思う?」
スリングの問いにドアールは、押し黙り、睨みつけるだけになった。
「役割が違うだけだ、そしてそこで成果を生んだからこそ、彼女は出世しただけだ、何もおかしいことじゃない、おかしいとすればアンタのその肥大化した自尊心だ」
スリングがそう言うとドアールは、何も言うことなく俯くだけだった。
「最後に付け加えておく、もしこれ以上、彼女やこの分隊に余計な手出しをするならば俺は、容赦はしない、忘れるな」
スリングは、それだけ告げると敬礼をして部屋を後にした。
宿屋を出ると同時に脇腹を小突かれ、気配のない一撃に慌てて身構えるとツィンブリアがクスクスと笑いながら立っていた。
「似合わないセリフを吐きましたなぁ~スリング~」
「師匠…相変わらずの地獄耳で…」
そう応えるとツィンブリアは、ニヤニヤと笑いながらその背中を叩いた。
「まぁ~これは、少し前の君にも言える事なんだがね~」
「俺は、あそこまで自尊心高くないでしょ?」
「負けてないよ~なんせ自分が強いから前に出る方式だったじゃない?」
「強いとかじゃないっすよ、一応それ相応のスキルがあると思って前に出てるだけです」
「そう?そこら辺は、ルミちゃんの方が高いんじゃない?」
その返しにスリングは、もっともだと思い口を噤んでしまった。
「人を殺すって事がどんな事なのか、物理的な死もそうだけど、精神的な死も恐れているよね?でもねスリング、私達は軍人だよ、人を殺す事もしないといけないお仕事、そして君が仲間の死を恐れる様に仲間もまた君の死を恐れるんだよ」
ツィンブリアのその言葉にスリングは、ゆっくりと頷く。
「さぁ帰ろ、晩飯はなんだろね~」
ツィンブリアは、そう言うとスキップする様に歩き出し、スリングは、その背中を見ながらゆっくりと煙草を燻らせた。
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