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街のはずれの老夫婦
気付いた疑念
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「それで今度は何を調べてんだお前は?」
ダイニングキッチンで説教を受けてから、分隊本部のある3階に連れて来られるとルミスは腕を組みながらスリングとニーナを椅子に座らせて訊いた。
「私は、よくわからないので、被害者なんですけど?」
「却下」
ニーナの往生際の悪い言い訳は、ルミスにバッサリと切り捨てられた。
こういう場合は、素直に話すべきだとわかっているので正直に事の顛末を話した。
「つまり、ハセル君が気づいたチダルの違和感が切っ掛けだったと、それで今何がわかったのさね?」
「これは、あくまで俺の見た事での予測になるけど、恐らくハセルは、チダルの魔力の変異に反応したのだと思う」
「魔力の変異?」
「ここ数日、アイツの纏う魔力に元素を感じる変化があった、俺も言われるまで気づかなかったけど、ハセルはそれに気づいた」
「アンタが気づけなかったのを何でハセル君が気づいたのさ?」
「まずは、単純な接触回数だとは思うけど、ハセル自体が風の元素の繋がりが生まれてきているのだと思う」
スリングの応えにルミスの眉がピクリと動いた。
「風の感知で気づいたのは、わかった、だけどチダルの件は、調べる理由は?」
「念の為てのもあるけど、土の元素てのが気になってね、もし体内で何らかの土の元素の魔力を取り入れたとしてもそれが体から漏れるのは、少しだけ異様に感じたから」
スリングの応えにルミスは次に隣に座るニーナに視線を向けた。
その視線にまだ少し不満が残るニーナは不服そうに溜息を一つ付いた。
「そこで私に調べさせたのよ、まぁ今説明されるまで詳しくは聞かされてなかったら何をさせたいのかわからなかったけど、着いてすぐにわかったよ」
「どういうこと?」
「あの家の畑や取れた物、見えた物だけでも土の元素が感知が出来たんだけど 、少し気になるのがあったんだよね」
「お茶か?」
スリングがそう訊くとニーナは、ゆっくりと頷いた。
カップに入っていたお茶は、茶葉の他に幾つかのハーブが入れられたいわゆるハーブティーだった。
飲んだ時に少しだけ魔力を感じたが体内に大した変化がなかったから気に留めなかった。
「正確には、お茶の中のハーブなんだけど」
「どういう事?」
「味だけの判断になるけど、フリアンジュの可能性が高いの」
フリアンジュ、スリングはその名前にわからず首を傾げたがルミスの表情は、険しくなった。
「ニーナさん、前から訊こうと思ってたんだけど、それで効能に何らかの変異をさせる事が出来るの?」
「元の効能からの変化はできないけど、その効能の強さは変化させることが出来る」
「つまり、リラックス程度の効能を酩酊状態にまで持っていくことが出来ると?」
「出来る」
2人の会話の意図が掴めずに呆然として聞いているとルミスは何かを考える様に黙り込んでしまった。スリングは、とりあえず恐る恐る手を上げると2人から鋭い視線が向けられた。
「フリアンジュて何?」
その質問と同時に2人同時に盛大な溜息を吐いてきた。
「アンタ、軍警報とか読まないのかね?」
軍警報、軍警部の情報調査室から発行される多発している犯罪や起きた事件の調査報告などを知らせる新聞の事だ。
1週間に1回発行され、それは各部署隊へと発行されている。
「それは、一応読んではいるけど、それが何?」
スリングの返答に2人から再度大きな溜息が吐かれた。
「GTの原材料の一部だと言われているのがフリアンジュてハーブなの」
GTの名前は、警護官時代に何度か聞いたことがある。
界隈では、沼と呼ばれた合成麻薬で、多くは首都付近の歓楽街でよく聞いていた、それを戦争でトラウマを抱えた軍人達が手を出す傾向が高くなり、重く見た軍部は、注意喚起を呼びかけると共に軍警を使って売買組織を潰しにかかった。
幾つかのマフィア組織を検挙する事は、出来たが未だに少ない数でも出回っており、最近では、名ばかりの粗悪品の方が多く出回っている。
「だけど、フリアンジュ自体にそこまでの効力はない、でも使用者は、重度の中毒症状が見られるの」
「でも、もしそれを土の元素で強くしていたら話は別だと、だけど国家は、それをどうして野放しに?」
「元々がリラックス効果しかない食品だからよ、下手に制限できなかったし何よりもそれ程までの確証も持てなかった」
「なら、他の成分に何かないの?」
スリングの問いにニーナは、小さく溜息を漏らした。
「ないってわけでもない、それなりの刺激成分や幻覚成分も入ってるからね」
「刺激成分?」
「簡単に言えば、全身を少しだけ麻痺させて、その効力によって立ってもいられなくなる、痛みと言うよりくすぐったい位の効果だけど」
「それを酩酊状態の時に感じる?」
「みたいね、私も飲んでないからわからないけど、飲んだ人の話だと全身に痺れが走った後に次に微睡みの世界へ連れてかれるんだって」
痛みも痒みもくすぐりも、紐解けば皮膚が感じる触覚だ、それを微睡みで和らげればやんわりとした居心地のいい刺激になる。それが快楽へと代わり中毒性が増す。
その結果、思考力、判断力、自立性等を失わせて壊していく。
そして、最後に残るのは、全てを失い、食欲だけが残った生ける屍。
それを生み出す錠剤だからGTと呼ばれている。
スリングは、全ての話を聞いて何か頭の奥底で引っかかっているのを感じた。
思い出せない、ゴルガンとGTこの2つに何らかの覚えがある筈なのに肝心な事が思い出せない、だがそれと関係があるのかわからないが、ある風景がスリングの頭の中を過ぎっていた。
「それで、これからどうするのさ?捜査するの?」
ルミスがスリングに対して訊くとスリングは、首を横に傾けた。
「正直、それだけでゴルガン夫妻が製造しているて確定したわけではないから、何とも言えないってのだが本音だけど、気になる」
「何が気になるのさ?」
「それがわからんのよ、だから少し調べに行きたいんだよね」
「調べに。どこに行く気?」
「ユーランド」
スリングの応えにルミスとニーナは呆気に取られた声を上げた。
「首都に行くって何を藪から棒に」
ルミスでもスリングの真意がわからないのか驚きながら訊くとそれに対してスリングは、肩を竦めった。
「多分そこに答えがある気がするから調べに行きたいんだ」
「それは、勘?」
「勘」
スリングがそう言い切るとルミスは、暫く考えたかと思うと納得した様に溜息を漏らして頷いた。
「えっじゃ私も」
「なんの為に行く気なのさ?」
「本屋巡り」
「却下」
ルミスの間髪入れない返答にニーナは不満の声を上げるが片手に集約した魔力に黙らされた。
それから話し合いが終わってからスリングは、自分の部屋に戻ると明後日からの任務に支障がないように作戦資料などを作成を始めた。
しかし、スリングの頭の中は、ゴルガン夫妻に感じた不信感だった。愛想もよく、スリングの訪問を戸惑いながらも受け入れた。本当なら断る事も出来た筈なのに、正直断られればここまでの不信感は抱かなかったかもしれない、薬剤師でこの街の薬屋を営んでもいる、だから土の魔術が使えても何の不思議ではない。気にはなるが脅威になるような事が見つからないのならそれ以上は、探る切っ掛けはなかった。だがあの夫妻は、受け入れた。何の為に、誤魔化す為かそれとも本当に親切だったのか、スリングはどうしてもそれが何かの合図の様な気がしてならない。
考えすぎなのか?
スリングがそう考えると同時に以前にツィンブリアから言われた言葉を思い出した。
「その直感を信じなさい、それはその目がもたらす、力の顕現」
その言葉は妙に頭の中に残り、今でも何かの行動する時の指標の一つにしている。
とりあえず、今は動くしかないのだ。
資料を作り合えると陽は、傾き夕飯の時間になり食堂に降りると階段降りたところでチダルとばったりと顔を合わせる事になった。
スリングが一声かけてから食堂に向かおうとするとチダルが何かを思い出したかの様にアッと声を上げ、スリングは反射的に振り返った。
「どうした?」
「いや、分隊長、この前ゴルガンさん家に行ったらしいですね」
その問いにスリングは、どう応えるか一瞬どう応えるか考えたが少しだけ何かを
思い出すかの様に視線を少しだけ上に向けた素振りを見せてからさも今思い出したかの様に声を上げた。
「あぁ確か奥さんが車椅子の老夫婦のお宅だよな」
その応えにチダルは、にこやかな笑顔を浮かべた。
「はい、良い人だったですよね」
「そうだな、朗らかな夫妻だったな」
スリングがそう答えるとチダルは、にこやかな笑顔で語り始めた。
チダルは、この街に来た時にモリスンが出かけている時に庭で車椅子が倒れて困っていたマリーを救った事が出会いだったらしい。
それを切っ掛けにモリスンが出掛ける時に何か事故がない様にチダルが車椅子のマリーの面倒を見るようになったらしい。
「モリスンさんが夜に?」
「はい、店は休業をしていますが薬剤師として夜に動く時があるんですよ」
「それは、本来医者の仕事だろ?」
「それでも薬が足りないとか配合させなきゃいけないとか色々あるらしいんですよね」
「そうなんだ」
スリングは、疑問を持ちながらもあえてそこの疑問を口にする事は、せずに食堂に向かった。
食事を終えてからの報告の時間でスリングが明後日から4日間休暇を取る事を知らせて、その日は解散となった。その後にダーナに声を掛け、チダルが夕飯を取らなかった日を覚えている限り教えてくれと頼むとダーナは、帳簿を取り出して教えてくれた。
日にち的には感覚が疎らで4日間の週もあれば1日もない週もあったりした。
しかし、おかしい事があるとすれば遅くても前日には、いらないという報告があったというのだ。
つまり、モリスンの夜を動く事が遅くても前日にはわかっていた事になる。
当番か何かで動いているならばもっと規則的な動きになるのだがそうでもない、つまり何らかの突発性の動きだ。
スリングは、ダーナに礼を告げてから自分の部屋に戻ると分隊本部の前に部屋の様子を伺う様に出入り口に立っているチールがいた。
「何してんだ?」
スリングが背後からそう声を掛けるとチールは肩をビクつかせながら振り返った。
「お疲れ様です、あの分隊長、4日間の休みにユーランドに行くって本当ですか?」
「どこからその話を聞いた?」
スリングがそう訊くとチールは何かを誤魔化す様に首を横に傾けた。
「まさか、お前盗聴器をここの通信機にも…」
そう訊くとチールは、慌てて首を横に振った。
「ニーナ副分隊長が鍛冶場で愚痴ってたんですよ~!!」
その返答にスリングは、あのバカと漏れそうになるのを溜息に変えて肩を竦めた。
「それで、それが何だ?」
「私も付いて行ってもいいですか?」
思いも寄らぬ申し出にスリングが、呆気に取られた声を上げるとチールは両手を合わせながら拝んできた。
「目的は、なんだ?」
「新作の魔導回路の40型の魔導機が出るんだよ」
40型の魔導機、それは手持ち武器の魔導機だ。
「それは、魔導銃か?」
「違う、近接武器」
「お前は、兵装班だろ」
「それは、それ、これはこれ、それにその基盤が改ゾ…改良に役に立つかもしれないじゃないですか~」
今確実に改造て行ったよなコイツ?
ドアールの一件以降、スリングに気を許したのかチールは、徐々にわがままを言う回数が増えてきている。
それに魔導機、魔導回路関連の腕前は、確かだ。それを踏まえるとこの話を無下に断るのも少し躊躇われる、実際のところで仕事と趣味が兼ね備えたそれは任務等で役に立っているのも事実だ。
かといって素直に連れて行くのもどうなのかとも考えている、ここで特別扱いすれば他の隊員達の指揮にも関わって来る。
こういう場合の判断は、自分で行うより信頼できる人物に委託と言う名の丸投げする方が正解を導いてくれる。
「とりあえず、姐さんに訊いてみろ、許可貰えたら好きにしろ」
恐らく反対するだろうと判断しての提案だったがチールは、目を光らせて普段見せる事のない速さでルミスの部屋に向かっていった。
スリングは、自室に戻ると再びチールが部屋を訪れてきた。
てっきり反対されたとの報告に来たのだと思っていたが満面の笑みでOKを貰えたと伝えてきた。
思いも寄らぬ応えにスリングが驚いたが姐さんがOK出した以上、もう何も言える事無くスリングは、諦めて頷く事しか出来なかった。
次の日、概ね何も問題なく仕事を済ませているとムステルが分隊本部に顔を出してきた。
「分隊長、明日からユーランドに向かうて本当ですか?」
「今度は誰から聞いた?」
スリングが呆れながら応えるとどうもチールの話をクロバル経由で訊いたらしい。
こうなれば毒を食らわば皿までだ、ムステルもまた休暇を取れるなら付いて来てもいいと伝えるとムステルもまた直ぐに向かうと満面の笑みで帰ってきた。
その表情だけで了承を貰えてのだけは理解できた。
おかしな事があったのは、それだけじゃない、任務後の模擬戦の訓練の相手が今日はニーナが名乗りを上げてきた事だった。
「どういう風の吹き回しだ?」
スリングの言葉に弦の張りを確認しながらニーナは一睨みを向けてきた。
「向こうで遊べねぇ体にしてやる」
「だから、遊びに行くんじゃねぇって言ってんだろ」
完全な逆恨みだ。
呆れるが纏っている魔力は本気でやる気満々なのが良く分かった。
審判には、ルミスが名乗りを上げ、他の隊員達は、見学となっていた。
ルールは、いたってシンプルだ、スリングは木刀、ニーナは木製の弓に練習用の矢を使用するタイマン方式だ。
「2人共準備は、いいね?」
ルミスがそう問いかけるとスリングとニーナは軽く手を上げた。
2人の合図にルミスは、一息つくと目を瞑った。
「始め!!」
ルミスの合図と共に間髪い入れずに3本の矢がスリングに向かい走る。
風の魔力が纏われているそれは、普通の射撃よりも速い。
だが、スリングにとってそれは慣れた攻撃でもあった、2本は、躱す。その先に少し間を置いて放たれた3本目を木刀で弾く。
これは、全部陽動だ。本当のニーナの目的は、接近、スリングが躱していると同時に4本目、5本目の矢が放たれる。
躱して、弾く、ニーナの矢は、全部で20本、もう少しで半分に向かう本数は、問題じゃない。
5本目を弾いた、一瞬、スリングの視界からニーナが消えた。
来る!スリングは、反射的に全身から力を抜く。
気配は、上と下、速さ的に下から来る気なのは、わかる。なら、上の気配は?
思考を回すがそれを遮断する様に何かが足に絡む。
それが滑り込んできたニーナだと知った瞬間、スリングは、片膝を地面に落とされていた。
もう片方の足は、何とか踏ん張ったが確実に動きを封じられる。
コイツ、そういう事か。
スリングは、その場に寝転がるとグルグルと地面を転びながら絡みつく足を外して転んだ勢いのまま立ち上がると風の魔力をまとった刀身で空中を斬った。
スリングに向かい、落下してくる6本目の矢は、スリングが放った風の斬撃によって落とされ、体勢を戻したニーナは、弓を構えると弦を引いていた。
そこに矢は、ない。
「テメェ、マジかよ!!」
「くたばりな」
ニーナがそう言うと弦から指を外し、それと同時にスリングに向かい、風の渦が横方向に放たれた。
正面から当たればその渦がスリングの腹に埋まる。
外傷的ダメージは、ないが衝撃波による内部ダメージが大きく、以前何も知らずに受けた時は、それから3日間まともに飯を食べれない地獄を味わった。
そっちがその気ならこっちもやったる!
スリングは、刀身に風の魔力を纏わせると切っ先を地面に刺して、一気に振り上げる。
狙いは、中心より右側を当てて左側に逸らして躱す。
ニーナは、それもわかっている筈だ、スリングが横に躱すと同時に既に弓を構えていたが魔力の集約がまだ出来ていない。これならスリングの魔力集約の方が早い、スリングは再び刀身に風の魔力を纏わせるとニーナに向けて風の斬撃を飛ばした。ニーナはその斬撃をギリギリで躱すが大雑把に集約した風の斬撃は、斬り裂く鋭さよりも周辺を巻き込む突風でその衝撃にニーナの体幹が揺らぐ、その一瞬の隙でスリングは、足に風と火の魔力を集約させると一気に発散させる。
風の魔力で補強し足の裏にエネルギーの発散である火の魔力を集約し発散させる事で一気にその距離を詰めた。
ニーナは、弓術使い、下手な攻撃は命取りになる。
両手を前に鍔迫り合いの構えをしながら接近するとニーナは、握りの近くの弓幹で受けるがお互い考えている事が同じなのかお互いが風の魔力を武器に纏わせて相手に放出した。
お互いの魔力がぶつかり合い、吹き飛ばされる。
それは、ニーナの狙い通りだがスリングの狙いでもあった。ニーナの魔力はスリングと違い魔力の集約は精密でないと意味がなさない。そこが勝機だ、スリングは刀身に再び風の魔力を纏わせて風の斬撃を放った。ここでその風に乗るか耐えるかに寄って戦術が変わる。スリングの中での割合は、6対4で飛ぶだが、ニーナは飛ぶことを選ばず身を低くして耐えた。
そう来るか、スングは腰ひねり突きの構えを見せた。
ニーナは、弓に風の魔力を集約して風の矢を作り上げて、弦を引き、スリングに向かい照準を合わせていた。
弦から指が離され、風の矢がスリングに向けて放たれる、矢は周囲の風を纏いひとつの渦となってスリングに向かってくる。狙うは、中心の矢、スリングはその矢の動きに合わせて突きを放ち、風の刀身が真っ直ぐに飛ぶ。
「ったく、お前らは…」
呆れるルミスの声と共に風の矢と風の突きがぶつかる瞬間に空中に水玉が現れると矢と突きの軌道を反転させた。
ニーナには、風の矢がスリングには、風の突きが返ってきて、2人とも反射的にそれを躱した。
お互いが放ったそれは、木の表面を抉ると霧散して消えた。
「あっぶねぇ~」
スリングが間の抜けた声を上げるとニーナも同じ様な表情を浮かべながら水の玉を出した張本人のルミスへと抗議の視線を向けていた。
「もう少しぐらい大丈夫でしょ?」
ニーナがそう言うとルミスは、盛大な溜息を漏らし、顎を動かした。周りを見ろ、そう言っているのだろうと思って視線を向けると観戦者として見ていた全員が目の前の光景に呆気にとられていた。
「もうちょい、加減をしろ、これじゃあ刺激が強すぎでしょうが」
そう言われ、スリングとニーナは、苦笑いを零すしかなかった。
「すいません」
そんな3人の会話にハセルが手を挙げて割り込んだ。
スリングが首を傾けて応えると少しオドオドとしながら口を開いた。
「これまだ本気じゃないんですか?」
その問いに3人同時で頷き返すとハセルが表情を顰めた。
「これなら今までの怪物をもっと簡単に倒せなのでは……」
「いんや、無理よ」
その問いにスリングは、スッパリと応える。
「怪物の反射神経や魔力感知は、人より鋭敏に出来てる、それに関しては、緑肌大猿なんかがそうだし、次に体躯の大きな地走竜なんかは、暴れられたらそれこそ今の戦い方だとこっちがやり込められる」
そう説明しながらスリングは、木刀を腰元にしまい煙草を燻らせる。
「怪物討伐だけを目的としたら不可能ではないけど、街や森に甚大な被害が及んでしまうし、それを毎度できるほどの持続力もない、出来るだけ簡潔に被害少なく討伐するには、この戦い方は、向かないんだよ」
その答えにハセルは、あぁ、というと何度か頷いてから何かを考えているのか空を見たかと思うと再びコチラに視線を向けた。
「これが俺達も出来るようになったらどうでしょうか?」
「そりゃあ、よりやりやすくは、なるけど、それが出来るなら魔導師隊なんか組まれないからな」
「確かに、ここまでの能力は不可能かもしれないですけどもう少し抑えた形ならどうにかなるのでは?」
「不可能ではない。だけどハードルは、高い」
スリングがそう言い切るとハセルの視線は自然とルミスに向いた。
「姐さんと訓練すればどうにかなります?」
「ならん」
その発言にルミスは、スッパリと否定するとその視線は自然とスリングに戻った。
「訓練方法が違う、これは、そうだな~戦闘でどうこうなるのもいればそうじゃないのも居るし、人によって方法が変わる、とにかくまずは魔力の操作の基礎をしっかりする事だな、開花は人によって違うから」
スリングは、苦笑いをしながらそう応えるとハセルは、真っ直ぐに頷いた。
そして、訓練が終わり夕食を済ませ、ユーランドへと向かう朝が来た。
ダイニングキッチンで説教を受けてから、分隊本部のある3階に連れて来られるとルミスは腕を組みながらスリングとニーナを椅子に座らせて訊いた。
「私は、よくわからないので、被害者なんですけど?」
「却下」
ニーナの往生際の悪い言い訳は、ルミスにバッサリと切り捨てられた。
こういう場合は、素直に話すべきだとわかっているので正直に事の顛末を話した。
「つまり、ハセル君が気づいたチダルの違和感が切っ掛けだったと、それで今何がわかったのさね?」
「これは、あくまで俺の見た事での予測になるけど、恐らくハセルは、チダルの魔力の変異に反応したのだと思う」
「魔力の変異?」
「ここ数日、アイツの纏う魔力に元素を感じる変化があった、俺も言われるまで気づかなかったけど、ハセルはそれに気づいた」
「アンタが気づけなかったのを何でハセル君が気づいたのさ?」
「まずは、単純な接触回数だとは思うけど、ハセル自体が風の元素の繋がりが生まれてきているのだと思う」
スリングの応えにルミスの眉がピクリと動いた。
「風の感知で気づいたのは、わかった、だけどチダルの件は、調べる理由は?」
「念の為てのもあるけど、土の元素てのが気になってね、もし体内で何らかの土の元素の魔力を取り入れたとしてもそれが体から漏れるのは、少しだけ異様に感じたから」
スリングの応えにルミスは次に隣に座るニーナに視線を向けた。
その視線にまだ少し不満が残るニーナは不服そうに溜息を一つ付いた。
「そこで私に調べさせたのよ、まぁ今説明されるまで詳しくは聞かされてなかったら何をさせたいのかわからなかったけど、着いてすぐにわかったよ」
「どういうこと?」
「あの家の畑や取れた物、見えた物だけでも土の元素が感知が出来たんだけど 、少し気になるのがあったんだよね」
「お茶か?」
スリングがそう訊くとニーナは、ゆっくりと頷いた。
カップに入っていたお茶は、茶葉の他に幾つかのハーブが入れられたいわゆるハーブティーだった。
飲んだ時に少しだけ魔力を感じたが体内に大した変化がなかったから気に留めなかった。
「正確には、お茶の中のハーブなんだけど」
「どういう事?」
「味だけの判断になるけど、フリアンジュの可能性が高いの」
フリアンジュ、スリングはその名前にわからず首を傾げたがルミスの表情は、険しくなった。
「ニーナさん、前から訊こうと思ってたんだけど、それで効能に何らかの変異をさせる事が出来るの?」
「元の効能からの変化はできないけど、その効能の強さは変化させることが出来る」
「つまり、リラックス程度の効能を酩酊状態にまで持っていくことが出来ると?」
「出来る」
2人の会話の意図が掴めずに呆然として聞いているとルミスは何かを考える様に黙り込んでしまった。スリングは、とりあえず恐る恐る手を上げると2人から鋭い視線が向けられた。
「フリアンジュて何?」
その質問と同時に2人同時に盛大な溜息を吐いてきた。
「アンタ、軍警報とか読まないのかね?」
軍警報、軍警部の情報調査室から発行される多発している犯罪や起きた事件の調査報告などを知らせる新聞の事だ。
1週間に1回発行され、それは各部署隊へと発行されている。
「それは、一応読んではいるけど、それが何?」
スリングの返答に2人から再度大きな溜息が吐かれた。
「GTの原材料の一部だと言われているのがフリアンジュてハーブなの」
GTの名前は、警護官時代に何度か聞いたことがある。
界隈では、沼と呼ばれた合成麻薬で、多くは首都付近の歓楽街でよく聞いていた、それを戦争でトラウマを抱えた軍人達が手を出す傾向が高くなり、重く見た軍部は、注意喚起を呼びかけると共に軍警を使って売買組織を潰しにかかった。
幾つかのマフィア組織を検挙する事は、出来たが未だに少ない数でも出回っており、最近では、名ばかりの粗悪品の方が多く出回っている。
「だけど、フリアンジュ自体にそこまでの効力はない、でも使用者は、重度の中毒症状が見られるの」
「でも、もしそれを土の元素で強くしていたら話は別だと、だけど国家は、それをどうして野放しに?」
「元々がリラックス効果しかない食品だからよ、下手に制限できなかったし何よりもそれ程までの確証も持てなかった」
「なら、他の成分に何かないの?」
スリングの問いにニーナは、小さく溜息を漏らした。
「ないってわけでもない、それなりの刺激成分や幻覚成分も入ってるからね」
「刺激成分?」
「簡単に言えば、全身を少しだけ麻痺させて、その効力によって立ってもいられなくなる、痛みと言うよりくすぐったい位の効果だけど」
「それを酩酊状態の時に感じる?」
「みたいね、私も飲んでないからわからないけど、飲んだ人の話だと全身に痺れが走った後に次に微睡みの世界へ連れてかれるんだって」
痛みも痒みもくすぐりも、紐解けば皮膚が感じる触覚だ、それを微睡みで和らげればやんわりとした居心地のいい刺激になる。それが快楽へと代わり中毒性が増す。
その結果、思考力、判断力、自立性等を失わせて壊していく。
そして、最後に残るのは、全てを失い、食欲だけが残った生ける屍。
それを生み出す錠剤だからGTと呼ばれている。
スリングは、全ての話を聞いて何か頭の奥底で引っかかっているのを感じた。
思い出せない、ゴルガンとGTこの2つに何らかの覚えがある筈なのに肝心な事が思い出せない、だがそれと関係があるのかわからないが、ある風景がスリングの頭の中を過ぎっていた。
「それで、これからどうするのさ?捜査するの?」
ルミスがスリングに対して訊くとスリングは、首を横に傾けた。
「正直、それだけでゴルガン夫妻が製造しているて確定したわけではないから、何とも言えないってのだが本音だけど、気になる」
「何が気になるのさ?」
「それがわからんのよ、だから少し調べに行きたいんだよね」
「調べに。どこに行く気?」
「ユーランド」
スリングの応えにルミスとニーナは呆気に取られた声を上げた。
「首都に行くって何を藪から棒に」
ルミスでもスリングの真意がわからないのか驚きながら訊くとそれに対してスリングは、肩を竦めった。
「多分そこに答えがある気がするから調べに行きたいんだ」
「それは、勘?」
「勘」
スリングがそう言い切るとルミスは、暫く考えたかと思うと納得した様に溜息を漏らして頷いた。
「えっじゃ私も」
「なんの為に行く気なのさ?」
「本屋巡り」
「却下」
ルミスの間髪入れない返答にニーナは不満の声を上げるが片手に集約した魔力に黙らされた。
それから話し合いが終わってからスリングは、自分の部屋に戻ると明後日からの任務に支障がないように作戦資料などを作成を始めた。
しかし、スリングの頭の中は、ゴルガン夫妻に感じた不信感だった。愛想もよく、スリングの訪問を戸惑いながらも受け入れた。本当なら断る事も出来た筈なのに、正直断られればここまでの不信感は抱かなかったかもしれない、薬剤師でこの街の薬屋を営んでもいる、だから土の魔術が使えても何の不思議ではない。気にはなるが脅威になるような事が見つからないのならそれ以上は、探る切っ掛けはなかった。だがあの夫妻は、受け入れた。何の為に、誤魔化す為かそれとも本当に親切だったのか、スリングはどうしてもそれが何かの合図の様な気がしてならない。
考えすぎなのか?
スリングがそう考えると同時に以前にツィンブリアから言われた言葉を思い出した。
「その直感を信じなさい、それはその目がもたらす、力の顕現」
その言葉は妙に頭の中に残り、今でも何かの行動する時の指標の一つにしている。
とりあえず、今は動くしかないのだ。
資料を作り合えると陽は、傾き夕飯の時間になり食堂に降りると階段降りたところでチダルとばったりと顔を合わせる事になった。
スリングが一声かけてから食堂に向かおうとするとチダルが何かを思い出したかの様にアッと声を上げ、スリングは反射的に振り返った。
「どうした?」
「いや、分隊長、この前ゴルガンさん家に行ったらしいですね」
その問いにスリングは、どう応えるか一瞬どう応えるか考えたが少しだけ何かを
思い出すかの様に視線を少しだけ上に向けた素振りを見せてからさも今思い出したかの様に声を上げた。
「あぁ確か奥さんが車椅子の老夫婦のお宅だよな」
その応えにチダルは、にこやかな笑顔を浮かべた。
「はい、良い人だったですよね」
「そうだな、朗らかな夫妻だったな」
スリングがそう答えるとチダルは、にこやかな笑顔で語り始めた。
チダルは、この街に来た時にモリスンが出かけている時に庭で車椅子が倒れて困っていたマリーを救った事が出会いだったらしい。
それを切っ掛けにモリスンが出掛ける時に何か事故がない様にチダルが車椅子のマリーの面倒を見るようになったらしい。
「モリスンさんが夜に?」
「はい、店は休業をしていますが薬剤師として夜に動く時があるんですよ」
「それは、本来医者の仕事だろ?」
「それでも薬が足りないとか配合させなきゃいけないとか色々あるらしいんですよね」
「そうなんだ」
スリングは、疑問を持ちながらもあえてそこの疑問を口にする事は、せずに食堂に向かった。
食事を終えてからの報告の時間でスリングが明後日から4日間休暇を取る事を知らせて、その日は解散となった。その後にダーナに声を掛け、チダルが夕飯を取らなかった日を覚えている限り教えてくれと頼むとダーナは、帳簿を取り出して教えてくれた。
日にち的には感覚が疎らで4日間の週もあれば1日もない週もあったりした。
しかし、おかしい事があるとすれば遅くても前日には、いらないという報告があったというのだ。
つまり、モリスンの夜を動く事が遅くても前日にはわかっていた事になる。
当番か何かで動いているならばもっと規則的な動きになるのだがそうでもない、つまり何らかの突発性の動きだ。
スリングは、ダーナに礼を告げてから自分の部屋に戻ると分隊本部の前に部屋の様子を伺う様に出入り口に立っているチールがいた。
「何してんだ?」
スリングが背後からそう声を掛けるとチールは肩をビクつかせながら振り返った。
「お疲れ様です、あの分隊長、4日間の休みにユーランドに行くって本当ですか?」
「どこからその話を聞いた?」
スリングがそう訊くとチールは何かを誤魔化す様に首を横に傾けた。
「まさか、お前盗聴器をここの通信機にも…」
そう訊くとチールは、慌てて首を横に振った。
「ニーナ副分隊長が鍛冶場で愚痴ってたんですよ~!!」
その返答にスリングは、あのバカと漏れそうになるのを溜息に変えて肩を竦めた。
「それで、それが何だ?」
「私も付いて行ってもいいですか?」
思いも寄らぬ申し出にスリングが、呆気に取られた声を上げるとチールは両手を合わせながら拝んできた。
「目的は、なんだ?」
「新作の魔導回路の40型の魔導機が出るんだよ」
40型の魔導機、それは手持ち武器の魔導機だ。
「それは、魔導銃か?」
「違う、近接武器」
「お前は、兵装班だろ」
「それは、それ、これはこれ、それにその基盤が改ゾ…改良に役に立つかもしれないじゃないですか~」
今確実に改造て行ったよなコイツ?
ドアールの一件以降、スリングに気を許したのかチールは、徐々にわがままを言う回数が増えてきている。
それに魔導機、魔導回路関連の腕前は、確かだ。それを踏まえるとこの話を無下に断るのも少し躊躇われる、実際のところで仕事と趣味が兼ね備えたそれは任務等で役に立っているのも事実だ。
かといって素直に連れて行くのもどうなのかとも考えている、ここで特別扱いすれば他の隊員達の指揮にも関わって来る。
こういう場合の判断は、自分で行うより信頼できる人物に委託と言う名の丸投げする方が正解を導いてくれる。
「とりあえず、姐さんに訊いてみろ、許可貰えたら好きにしろ」
恐らく反対するだろうと判断しての提案だったがチールは、目を光らせて普段見せる事のない速さでルミスの部屋に向かっていった。
スリングは、自室に戻ると再びチールが部屋を訪れてきた。
てっきり反対されたとの報告に来たのだと思っていたが満面の笑みでOKを貰えたと伝えてきた。
思いも寄らぬ応えにスリングが驚いたが姐さんがOK出した以上、もう何も言える事無くスリングは、諦めて頷く事しか出来なかった。
次の日、概ね何も問題なく仕事を済ませているとムステルが分隊本部に顔を出してきた。
「分隊長、明日からユーランドに向かうて本当ですか?」
「今度は誰から聞いた?」
スリングが呆れながら応えるとどうもチールの話をクロバル経由で訊いたらしい。
こうなれば毒を食らわば皿までだ、ムステルもまた休暇を取れるなら付いて来てもいいと伝えるとムステルもまた直ぐに向かうと満面の笑みで帰ってきた。
その表情だけで了承を貰えてのだけは理解できた。
おかしな事があったのは、それだけじゃない、任務後の模擬戦の訓練の相手が今日はニーナが名乗りを上げてきた事だった。
「どういう風の吹き回しだ?」
スリングの言葉に弦の張りを確認しながらニーナは一睨みを向けてきた。
「向こうで遊べねぇ体にしてやる」
「だから、遊びに行くんじゃねぇって言ってんだろ」
完全な逆恨みだ。
呆れるが纏っている魔力は本気でやる気満々なのが良く分かった。
審判には、ルミスが名乗りを上げ、他の隊員達は、見学となっていた。
ルールは、いたってシンプルだ、スリングは木刀、ニーナは木製の弓に練習用の矢を使用するタイマン方式だ。
「2人共準備は、いいね?」
ルミスがそう問いかけるとスリングとニーナは軽く手を上げた。
2人の合図にルミスは、一息つくと目を瞑った。
「始め!!」
ルミスの合図と共に間髪い入れずに3本の矢がスリングに向かい走る。
風の魔力が纏われているそれは、普通の射撃よりも速い。
だが、スリングにとってそれは慣れた攻撃でもあった、2本は、躱す。その先に少し間を置いて放たれた3本目を木刀で弾く。
これは、全部陽動だ。本当のニーナの目的は、接近、スリングが躱していると同時に4本目、5本目の矢が放たれる。
躱して、弾く、ニーナの矢は、全部で20本、もう少しで半分に向かう本数は、問題じゃない。
5本目を弾いた、一瞬、スリングの視界からニーナが消えた。
来る!スリングは、反射的に全身から力を抜く。
気配は、上と下、速さ的に下から来る気なのは、わかる。なら、上の気配は?
思考を回すがそれを遮断する様に何かが足に絡む。
それが滑り込んできたニーナだと知った瞬間、スリングは、片膝を地面に落とされていた。
もう片方の足は、何とか踏ん張ったが確実に動きを封じられる。
コイツ、そういう事か。
スリングは、その場に寝転がるとグルグルと地面を転びながら絡みつく足を外して転んだ勢いのまま立ち上がると風の魔力をまとった刀身で空中を斬った。
スリングに向かい、落下してくる6本目の矢は、スリングが放った風の斬撃によって落とされ、体勢を戻したニーナは、弓を構えると弦を引いていた。
そこに矢は、ない。
「テメェ、マジかよ!!」
「くたばりな」
ニーナがそう言うと弦から指を外し、それと同時にスリングに向かい、風の渦が横方向に放たれた。
正面から当たればその渦がスリングの腹に埋まる。
外傷的ダメージは、ないが衝撃波による内部ダメージが大きく、以前何も知らずに受けた時は、それから3日間まともに飯を食べれない地獄を味わった。
そっちがその気ならこっちもやったる!
スリングは、刀身に風の魔力を纏わせると切っ先を地面に刺して、一気に振り上げる。
狙いは、中心より右側を当てて左側に逸らして躱す。
ニーナは、それもわかっている筈だ、スリングが横に躱すと同時に既に弓を構えていたが魔力の集約がまだ出来ていない。これならスリングの魔力集約の方が早い、スリングは再び刀身に風の魔力を纏わせるとニーナに向けて風の斬撃を飛ばした。ニーナはその斬撃をギリギリで躱すが大雑把に集約した風の斬撃は、斬り裂く鋭さよりも周辺を巻き込む突風でその衝撃にニーナの体幹が揺らぐ、その一瞬の隙でスリングは、足に風と火の魔力を集約させると一気に発散させる。
風の魔力で補強し足の裏にエネルギーの発散である火の魔力を集約し発散させる事で一気にその距離を詰めた。
ニーナは、弓術使い、下手な攻撃は命取りになる。
両手を前に鍔迫り合いの構えをしながら接近するとニーナは、握りの近くの弓幹で受けるがお互い考えている事が同じなのかお互いが風の魔力を武器に纏わせて相手に放出した。
お互いの魔力がぶつかり合い、吹き飛ばされる。
それは、ニーナの狙い通りだがスリングの狙いでもあった。ニーナの魔力はスリングと違い魔力の集約は精密でないと意味がなさない。そこが勝機だ、スリングは刀身に再び風の魔力を纏わせて風の斬撃を放った。ここでその風に乗るか耐えるかに寄って戦術が変わる。スリングの中での割合は、6対4で飛ぶだが、ニーナは飛ぶことを選ばず身を低くして耐えた。
そう来るか、スングは腰ひねり突きの構えを見せた。
ニーナは、弓に風の魔力を集約して風の矢を作り上げて、弦を引き、スリングに向かい照準を合わせていた。
弦から指が離され、風の矢がスリングに向けて放たれる、矢は周囲の風を纏いひとつの渦となってスリングに向かってくる。狙うは、中心の矢、スリングはその矢の動きに合わせて突きを放ち、風の刀身が真っ直ぐに飛ぶ。
「ったく、お前らは…」
呆れるルミスの声と共に風の矢と風の突きがぶつかる瞬間に空中に水玉が現れると矢と突きの軌道を反転させた。
ニーナには、風の矢がスリングには、風の突きが返ってきて、2人とも反射的にそれを躱した。
お互いが放ったそれは、木の表面を抉ると霧散して消えた。
「あっぶねぇ~」
スリングが間の抜けた声を上げるとニーナも同じ様な表情を浮かべながら水の玉を出した張本人のルミスへと抗議の視線を向けていた。
「もう少しぐらい大丈夫でしょ?」
ニーナがそう言うとルミスは、盛大な溜息を漏らし、顎を動かした。周りを見ろ、そう言っているのだろうと思って視線を向けると観戦者として見ていた全員が目の前の光景に呆気にとられていた。
「もうちょい、加減をしろ、これじゃあ刺激が強すぎでしょうが」
そう言われ、スリングとニーナは、苦笑いを零すしかなかった。
「すいません」
そんな3人の会話にハセルが手を挙げて割り込んだ。
スリングが首を傾けて応えると少しオドオドとしながら口を開いた。
「これまだ本気じゃないんですか?」
その問いに3人同時で頷き返すとハセルが表情を顰めた。
「これなら今までの怪物をもっと簡単に倒せなのでは……」
「いんや、無理よ」
その問いにスリングは、スッパリと応える。
「怪物の反射神経や魔力感知は、人より鋭敏に出来てる、それに関しては、緑肌大猿なんかがそうだし、次に体躯の大きな地走竜なんかは、暴れられたらそれこそ今の戦い方だとこっちがやり込められる」
そう説明しながらスリングは、木刀を腰元にしまい煙草を燻らせる。
「怪物討伐だけを目的としたら不可能ではないけど、街や森に甚大な被害が及んでしまうし、それを毎度できるほどの持続力もない、出来るだけ簡潔に被害少なく討伐するには、この戦い方は、向かないんだよ」
その答えにハセルは、あぁ、というと何度か頷いてから何かを考えているのか空を見たかと思うと再びコチラに視線を向けた。
「これが俺達も出来るようになったらどうでしょうか?」
「そりゃあ、よりやりやすくは、なるけど、それが出来るなら魔導師隊なんか組まれないからな」
「確かに、ここまでの能力は不可能かもしれないですけどもう少し抑えた形ならどうにかなるのでは?」
「不可能ではない。だけどハードルは、高い」
スリングがそう言い切るとハセルの視線は自然とルミスに向いた。
「姐さんと訓練すればどうにかなります?」
「ならん」
その発言にルミスは、スッパリと否定するとその視線は自然とスリングに戻った。
「訓練方法が違う、これは、そうだな~戦闘でどうこうなるのもいればそうじゃないのも居るし、人によって方法が変わる、とにかくまずは魔力の操作の基礎をしっかりする事だな、開花は人によって違うから」
スリングは、苦笑いをしながらそう応えるとハセルは、真っ直ぐに頷いた。
そして、訓練が終わり夕食を済ませ、ユーランドへと向かう朝が来た。
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