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第1章

あ、最近フランス語にはまってます。

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あの日、一香は夕食を食べさせてもらった。
異世界の飯もかなり美味しい。
でも分かってはいたが、米がないのは辛い。
あと野菜のバリエーションも少なく感じた。
「ではイチカ様。風呂の場所を案内致しますのでついてきてください」
「お、おう。……あの~リズたん」
「はい、何でしょうか」
「あれは演技だったんだよな?」
「はい、そうですが?」
リズはキョトンとした顔をしている。
「そっか。そうだよな。アハハ……」
正直なところあれは賭けだった。
馬車に轢かれても無傷だったが、剣となればどうなるか分からない。
下手したら死んでいたかもしれない。
「そ、そう言えばリズたん。あのナイフとか剣で俺を切ったら俺って死んじゃうよな?」
「死なないですよ?」
「え?」
「そうでしたね。まだイチカ様には説明してなかったです」
リズが空中に手をかざすと青白くて半透明のナイフが現れた。
「あの剣やこのナイフは幻術です。なので実際に切られたり刺されたりすれば、それなりに痛いですが実際に傷つくことはありません」
「……なるほど。幻術だからやっぱり防具とか無視したりする?」
「はい、防具無視で攻撃できますよ」
「……なるほど。実戦だと本物の武器と織り交ぜて使えば結構強そうだな」
「イチカ様。着きましたよ」
それは少し大きめなドアだった。
「本館には女性しかいなかったので……脱衣室及び風呂は1つしかありません」
「ありがとうございます」
「え……えっ!?」
「え?あぁ。いや、普通に感謝の気持ちを伝えただけだよ」
「はぁ……本当によく分からないお方ですね」
「おう、照れるからそれぐらいにしてくれよ」
リズは「褒めてないですけど」と呟きドアを開ける。
「もう私やアルファイン様は既に入りましたのでたっぷりと使って大丈夫ですよ」
「サンキュー。そう言えばここは他にメイドとかいないのか?」
「……はい。いません」
「……へぇ。リズたんってかなり愛されてるパターンか。まぁいいや、じゃあ俺は風呂に入るから女性のリズたんは外に出てくれ」
リズは「お着替えは既に中に用意されていますので」と言って去っていった。
「さて、至高のひと時だな。ゆっくり浸かろう」

——風呂から出た後、部屋にリズが紅茶を持ってきてくれた。
どこかの主人公はお客のままグズグズしていて、殺されたことを思い出しリズに『俺もお前と同じことをやりたい』と伝えておいた。
きっと明日には執事生活が始まるに違いない。
そんなことに胸躍らせて一香はゆっくりと目を閉じた。
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