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ドキドキさせてよ!(回顧録 中学生)

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「ふふっ! 大和君! これからお姉ちゃんと、二人きりでデートだよ!」

 真夏の日差しに負けない位の、眩しい笑顔の由佳ちゃんが抱きついてくる。舞ちゃんはワナワナと震えながら、引きつった笑みを浮かべている。

――舞ちゃんとのデートのはずなのに、何故こんな事に……

 舞ちゃんに頭を下げて謝っていると、私の手を由佳ちゃんがしっかりと握り引っ張るように歩き出す。

「大和君! 時間が無いんだよ! 早く泳ぎに行こうよ!」

 熱く焼けた白い砂浜の上を、由佳ちゃんに手を引かれながら歩き出す。足元の砂がサクサクと乾いた音を立てて、心地良い潮風が吹きぬける。やがて、人ごみがまばらになった所まで歩くと、由佳ちゃんの足がピタリと止まるのであった。

「あっ! 良いこと思いついちゃった! 先手必勝! 大和君を、お姉ちゃん色に染め上げれば良いんだよ! くすっ! 大和君、ちょっと待っててね!」

 一際、強く抱きついた後、名残惜しそうに由佳ちゃんが手を放す。人懐っこい笑顔を浮かべ、由佳ちゃんは手を振りながら海の家に向かって走り出すのであった。


「大和君! お待たせ!」

 息を弾ませて、由佳ちゃんが戻ってくる。顔にはうっすらと汗が浮かび、手にはビーチパラソルと波をイメージしたデザインの青いトートバッグが握られている。

 由佳ちゃんは荷物を置くと、前屈みの体勢で膝に手をつけて呼吸を整え始めた。私の目の前で、しっとりと汗ばんだ深い胸の谷間と、ビキニに包まれた豊麗の膨らみが、呼吸に合わせるようにプルンプルンと揺れたわんでいる。

 ついつい視線が行ってしまう蠱惑的な胸の谷間と弾む膨らみ。慌てて目を逸らすが、うっすらと頬を赤く染めた由佳ちゃんが、潤んだ瞳で見つめてくるのであった。 
 
「や、大和君! あのね、あのね! お姉ちゃん肌が弱いから――ひ、日焼け止め塗ってくれないかな~」
「えっ――! そ、それは……」
「ダメなのかな~」
「ダメじゃないけど……」
「大和君! お姉ちゃんの言う事を聞きなさい!!!」
「は、はいっ!」

 長い付き合いの間で、いつの間にか由佳ちゃんに刷り込まれてしまったようだ。彼女の命令に逆らえず、パブロフの犬の如く反応した私は、反射的に頷いてしまったのであった。

 私が、ビーチパラソルを立てている間に、由佳ちゃんはバッグからビーチマットを取り出し敷き始めた。彼女の顔は朱色に染まり、恥じらいの色が溢れている。

 しゅるり――目の前で、ビキニブラの結び目がほどかれる。片手でブラの上から胸元を押さえ、由佳ちゃんがビーチマットの上でうつ伏せになる。含羞がんしゅうの色で染め上がった由佳ちゃんは妙に艶やかで、少女とは思えないほどの色香を漂わせていた。

「大和君! 日焼け止めはバッグの中にあるから」
「う、うん!」

 私は、バッグから取り出した日焼け止めを手の平に出し、ゆっくりと由佳ちゃんの背中に触れた。

「ひゃあっ!? 冷たい!」

 由佳ちゃんの可愛らしい悲鳴が響き渡る。

「ゴメン! 由佳ちゃん!」

 今度は、手の平で馴染ませてから、緩やかに撫でるように触れてみる。

「んっ! あっ、あんっ! や、大和君! 触り方が、ちょっといやらしいよ! あっ、くぅぅんっ♡」

 由佳ちゃんの嬌声を聞いて、スケベな男達が遠巻きにして、こちらをチラチラと窺っている。彼女が側にいるのに由佳ちゃんに見惚れて、喧嘩になっているカップルもいる。

 改めて由佳ちゃんを見る。とても魅力的だ。すべすべで健康な美しい肌が、濡れて煽情的な光沢を放っている。うつ伏せになっているため、グニュンと押されて潰れた豊かな膨らみが、身体の端からこぼれ出ている。ドキドキしながら由佳ちゃんの背中に触れ、指に絡む日焼け止めを張りのある柔肌に万遍なく塗り広げていく。そして、手の平を肌にフィットさせるように、スラリと伸びた脚を太腿から足首まで丹念に塗りこんでいく。白く透き通るような肌が徐々に薄桃色に染まり、刺激に耐えられなくなった由佳ちゃんが熱い吐息を漏らしはじめた。甘く蕩けそうな表情の由佳ちゃんが身体をくねらせる。美しい曲線を描いた双臀がプリプリと揺れ動き、臀部に食い込んだショーツに、縦に伸びる谷間がくっきりと浮かび上がるのであった。

「や、大和君! 今度は前をお願い!」

 恥ずかしげに振り向き、ふんわりした胸元を両腕で抱きかかえるように押さえている。上目づかいに見つめてくる由佳ちゃんの瞳は、僅かに情欲的な色を帯びていた。

 由佳ちゃんの仕草に、バクバクと心臓が高鳴り続ける。頭に血が昇り、遠巻きに見ている男達の下卑た声や雑音にも気付かない。熱に浮かされたように由佳ちゃんに手を伸ばすと、真夏だというのに背筋も凍る冷たい声が背後から響くのであった。

「大和君! 何をしているんですか?」
「大和! お前という奴は、何て羨ましい事を……」

 我に返った私が恐る恐る後ろを振り向くと、そこには嫉妬と憤怒で身を震わせている舞ちゃんと、自慢の一眼レフカメラを携えながら、嫉妬に身を焦がしている慎二が仁王立ちしていたのであった。

「ま、舞ちゃん! こ、これは違うんだ!」

 弾かれるように立ち上がったが、足を滑らせつんのめる。結果として、由佳ちゃんに覆いかぶさるように倒れこむ。そして、反射的に伸ばした手の先は――。

 ふにゅん♡ 

 何度、触っても飽きない至高の感触。テンプレ、正に絵に描いたようなテンプレである。

「ご、ご、ゴメン! 由佳ちゃん!」

 てっきり、ビンタされると思って構えるが、赤みが差した顔を殊更に上気させた由佳ちゃんが、視線を逸らしてボソッと呟く。

「大和君のH!」 

――か、可愛すぎる!!!

 身体が熱を帯び、心拍数が上昇していく。

 愛しさと独占欲が絡み合ったような、不思議な感情に捕らわれる。

 視線がぶつかると、潤んだ由佳ちゃんの瞳がキュッと閉じられる。

 間近に感じる女の子特有の甘い香りと、悩ましげな吐息。

 そして……。


「ちょっと、大和君! 雰囲気に飲まれないで下さい!」

 背中に感じる小振りだが、張りのある柔らかな感触。由佳ちゃんから引き離そうと、舞ちゃんが背中からギュッと抱きついてきたのだ。

「舞ちゃん! それは、ルール違反だよ! まだ私のデート時間だよ!」
「分かっています! でも、こんなHな誘惑をするなんて……! ズルイです! 卑怯です! 反則です!」

 二人がギャーギャー言い争っているのをいいことに、アホの慎二が由佳ちゃんの艶姿を撮ろうとカメラを構える。慌ててカメラを取り上げたのだが、慎二に懲りた様子は無かった。

「まだだ、たかがメインカメラをやられただけだ!」

 どこぞで聞いたようなセリフを吐きながらリュックに素早く手を突っ込み、今度はインスタントカメラを取り出す慎二。根っからのスケベである。

「「うるさい!!」」

 バキッ!!

「あべし!!」

 鈍い音と共に、二人の投げたバッグが慎二の顔面に直撃する。二人の顰蹙ひんしゅくを買った慎二は、断末魔の声を上げながら、ぶっ倒れて動かなくなった。私は『おかしい人を亡くしてしまった』と呟き、彼の冥福を祈るのであった。
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