異世界に転生しても彼らはブレない

前世が蛍の人

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第1章

アルブ・ローザ帝国の狙い

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クロードはクレイたちに<念話>を使って報告する。 

(クレイさん、こちらはクロードです。雪那さんの手がかりになりそうな情報かも知れないので報告を。)

(こちら、クレイ。何かあったのか?)

(はい、冒険者ギルドにてチャシャさんの兄上にあたる方と接触しました。
彼曰く、この国では裏取引で聖水を密売しているそうです。)

(チャシャの兄…?とりあえず後で説明を頼む。
俺たちも、裏で売買が行われている現場を一部始終見てきた。中身までは確認できなかったが、あれは聖水だったのか…。
今、クロードたちはどうしている?)

(戻って来たら説明をさせて頂きます。
チャシャさんとビアンカさんには一足先に、宿へ戻って待機してもらっています。
私とチャシャさんの兄上で引き続き情報を探ります。)

(了解した。俺たちは聖水の裏ルートとそれに関わっている商会を徹底的に調べる。)

(ええ、宜しく頼みます。)
クレイとの念話を止め、ラシュを見る。

「ラシュさん、その聖水はどこで手に入れましたか?」

「だいぶ前に買った時は、どこにでも売られていたよ。今はあまり見かけなくなったね。」
ラシュが聖水を買った時に比べ、今ではクルーウィ商会でしか聖水が買えない事が分かった。

「クルーウィ商会…。今から向かうとなると、宿に戻る前に日が落ちてしまいます。ここは一旦宿に行きましょう、焦ってもいい結果は出ませんから。」

「僕も宿に同行していいのかな?君たちのプライベートに土足で上がり込む、みたいな気分なんだけど。」

「もう既に我々の領域に片足突っ込んでいる方が、何を今更おっしゃっているんですか…。あなたの事は彼らに伝えましたので、安心して私についてきてください。」
万が一の事を考えて、2人は事前に話しを打ち合わせておいた。
クロードはラシュを連れて外に出る。
宿へ向かう途中で、

(もしもーし、クロード?聞こえてるか?)

(はい、どうしました?)

(あ、聞こえた。宿の周辺でウロウロしてる奴がいたかr(あたしが魅了しちゃった!テヘッ☆)オレの声に被せんなよっ!!)
クロードは思わず天を仰いだ。

(…。それで今、どうしていますか?)

(縄で縛って逆さづりにして、チャシャが幻覚?を見せてるわ。)

(そのままで結構ですから、それ以上やり過ぎないように。クレイさんたちに連絡は?)

(した。
そしたらアイツ…一言、生ぬるいってさ。
だからオプションで逆さづりを追加したんだけどさ、どう?。)

「…一刻も早く雪那さんに会わないと、私の身体がもちません(泣)。」
クロードは別の意味で、雪那に助けを求めたい気持ちでいっぱいになった。

「えっと…?よく分からないけど、クロード殿大丈夫かい??なんだか、顔色が悪い気が…」

「大丈夫ではないですが、早く宿に戻りましょう…。
でなければ、事態が悪化しそうです。」
2人は先程よりも早い足取りで宿に戻った。

★★

クロードたちが、宿の受付で1人分追加の宿泊代、銀貨4枚と銅貨6枚を支払い部屋に行く。

「2人共、戻りました。報告があった男は、今どちら…おや?1人ではなく、2人でしたか。」
部屋の隅には縄でぐるぐる巻きに縛られた男が2人、虚ろな目で放置されていた。
―逆さづりで。
クロードの声に反応したビアンカは妖艶な笑みを浮かべ、出迎える。

「あら♪お帰りなさい、クロード。」

「…?何か、良いことがありましたか?」

「フフッ、あれを魅了して色々と吐かせたの。そしたら、こ~んな物を隠し持っていたのよ。<鑑定>の結果――ビンゴ♪」
ビアンカは2人の前に聖水を出す。
それは香水などの液体を入れる小さな瓶にしか見えないため、鑑定しないと分からない。

「これは!チャシャさん、ビアンカさんありがとうございます。
2人のお陰で、クルーウィ商会に顔を出さずに済みました。」

「だろ(ドヤァ…)。コレが聖水って分かった地点でクレイたちに報告したから。
アイツら、もうここに向かってるぜ。」
宿にクレイたちが戻り、改めて作戦会議を始めるが、その前にラシュの事を説明する。

「はじめまして、ラシュと呼んでほしい。クロード殿から事前に紹介があったと思うけど、僕はナージュ改め、チャシャの2番目の兄だ。
今は冒険者…守護者ガーディアンを生業としている。図々しいとは思うが、僕もこの計画に参加させてほしいんだ。 雑用でも使い捨ての駒でも構わないから。」
ラシュはそう言うと、頭を下げた。

「…俺たちは遊びでやってるんじゃない。
生半可な気持ちで、計画に加われば死ぬ。
それでもやるか?」
クレイは、ラシュを真っ正面から睨み警告する。

「冒険者になった時から死ぬ覚悟はできている。
僕は知りたいんだ、帝国の裏に隠された真実を…、この目で確かめたい。」
その答えに、クレイは目を閉じる。

「ラシュ兄、良かったね。認めてくれたよ。」

「クレイの兄貴がOKだって。良かったね。」
双子の言葉に彼は胸を撫で下ろす。

「ありがとう。誠心誠意やらせてもらうよ。」
ラシュが仲間に加わり、会議は再開する。

クレイの調査によると、クルーウィ商会の会頭であるアルバス・クルーンが独自の裏ルートで聖水を開発し、帝国に賄賂として送っているとの事。帝国は、その見返りにアルバスへ報酬としてお金と市場の一部の独裁権を与え、聖水を受け取っていた。
聖水に込められている魔素の純度が高く、
一瓶で完全に体力・魔力・状態異常を治せると密売人は太鼓判を押していた。
帝国の現王はこの聖水を使い、再び近隣国と戦争をしようと企んでおり、今はその準備の段階だという。

「「帝国の王様は、今の国の大きさじゃ物足りないの?」」

「広くても人が住めない土地が沢山あるんだよ、この国にはね。だから、豊かな土地を求めようとする。
今の現状をなんとかしようなんてこれっぽっちも考えてないね…。」

「ラシュの言う通りだ。この国の表で生活できない奴は、裏で貧しい生活を余儀なくされている。
にも関わらず、王は無関心だ。」

「ぶっちゃけ治安悪いし、物騒だし。おまけにこの国の住民も裏事情を隠そうと必死だし。
こりゃ手遅れだな。」
それだけ価値が高い聖水を、どうやってアルバスは作っているのか?

「隅で放置されている男は、お世辞でも綺麗な身なりをしているとは言えません。ですが、白銀貨2枚もする聖水を持っていた。
男を一味の下っぱと見ていいでしょう。」

「じゃ、聖水を調べてみるか…。鑑定だけじゃイマイチなんだよなー。スキルもさ、実際に体験しないと分からない事まで載せといてくれたら助かるのによ。」
ブツブツ文句を言っているチャシャは、聖水を指に垂らし舐めてみる。

「味はただの水…。んー、旨くないな。」

「怪我とかで、体力や魔力が減っていた状態で試したらどうなるかしら?…エィッ☆」
―ビアンカがチャシャに攻撃!
―チャシャは9のダメージを受けた!

「痛ってェェーーーっ!?何すんだy*¢@§£☆§§£※!?」
体力が減ったと同じに、聖水に込められていた魔力がチャシャの体を包む。
その光景に一行(ラシュを除く)は別の意味で唖然とした。

「…ねぇ。今、今の魔力って、、あたしの思い違いよね??」
ビアンカは泣きそうな声で皆に尋ねる。

「ビアンカさんが感じた嫌な予感とは、まさか、このことだったのでしょうか…。」

「「今の魔力、あの魔法陣の時に感じた魔力と同じだと思う。

この魔力ってユキ姉のだよね?」」
聖水に込められていた魔力―。
雪那の手がかりになると思った聖水が、まさか彼女に直結するとは思ってもなかった。
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