異世界に転生しても彼らはブレない

前世が蛍の人

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第1章

雪那救出大作戦!!①

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聖水に込められていた魔力が雪那の物だと分かった彼らは、早急に作戦内容を話し合う。

「今はまだ大事な商売道具としてセツを利用している筈だ。万が一、こちら側の思惑が知られれば、セツに危険が及ぶ。分かるな?」
一行は頷く。

「君たちの探し物なら僕は邪魔をしない。手伝うことがあったら言ってよ?」

「ラシュさん、ありがとうございます。雪那さんを安全に救出するために、王家か商会のどちらかに潜入しなければなりません。ここでビアンカさんの出番ですよ?」
クロードはビアンカに合図を送る。

「ええ、これ以上大事な雪ちゃんを穢させないためにも。あたしは相手さえ知っていれば<擬態>で完璧に演じて見せるわ。擬態した状態で中に潜入し、頃合いをみて<影移動>を使い何人かこちらに来る。潜入している間は行動が制限されるから後は任せたわよ。」

「了解した。ビアンカの合図でチャシャとアキが潜入を頼む。潜入後、任務を遂行しセツの居場所を突き止めてくれ。
俺とハル・ラシュで、裏ルートの把握とアジトの周辺を警戒する。奴等の行動を妨害し、被害を最小限に抑える。最後にクロードは、俺たちとビアンカたちの中立でサポートをお願いしたい。」

「分かりました、何かあれば援護もやりましょう。」
それぞれの役割分担が出来たところで、ビアンカが擬態するに適した敵を探しに行く。
因みに、部屋の隅で転がしておいた男2人は記憶操作を施した後テキトーな場所で解放したので問題ない。

しばらくして、ターゲットを発見。
クルーウィ商会の役員をしている女が出てくるタイミングを狙って、ビアンカは魅了で誘い込み気絶させる。
女…サーシャはアルバスの秘書兼補佐をしており、簡単にひっかかってくれた。うん、幸先がいい。

「気絶させたところで…<擬態>っと、ンンッ…、どう?声も見た目もそっくりでしょ?」
どこから見てもサーシャそっくりに擬態した姿にラシュは驚いた。

「わぉ、先程の女性と見分けがつかないね。君たちはどうやって見分けてるんだい?」

「「「「「鑑定スキルで」」」」」

「 …。」
結果、鑑定スキルを所持していないラシュのために通信用魔導具を渡す。これは、話したい相手に<念話>が出来るという魔法マジックアイテム。これで、ビアンカが擬態をしていても<念話>で確認する事が可能になった。なお、この魔導具には魔力察知妨害、所有者認定、自動翻訳が備え付けてある。制作者はハルとアキだ。

「ラシュ兄にはこれを渡しておくから、僕たちと連絡するのに使って。身に付けていれば、話したい時にいつでも連絡出来る優れ物だよ?大事に使ってね。」

「これは…、ありがとう。」
ラシュは受け取ると、首の留め具として装着する。見た目は蒼い小さなブローチなので邪魔にならない。

★★

「サーシャ」に化けたビアンカは、情報処理をして急ぎ商会へと潜入する。「サーシャ」のスケジュールによれば、後15分で会頭を交えた会議が始まってしまうのだ。
商会の地下へと足を進め、つきあたりを右に曲がって少し歩くと部屋が一つある場所に到着。
しかし、「サーシャ」はここに入らずに正面から見て左の壁を3回ノックする。すると、壁が揺れドアが出現した。
この先で会議が開かれる。「サーシャ」は緊張で速くなる鼓動を落ち着かせる。

(いよいよだわ…。緊張するけど、雪ちゃんのため雪ちゃんため雪ちゃんのため……よし。)

(大丈夫だ、お前の<擬態>は天下一品だろ。それくらい朝飯前だと思えばやってのける。)
突然、クレイの声が響いた。緊張が彼らに伝わったんだろう、しかし誰もビアンカを叱咤する者はいなかった。

(ふん、当たり前よ!あたしを誰だと思ってるの?ちょっと怖じ気づいただけ、平気よ。)
彼らの励ましにちょっと照れくさいが、勇気をもらった「サーシャ」は余裕の笑みを浮かべて前に進む。
既に席についていた王族の従者らしき男が2人と、商会の関係者である男が1人こちらを見た。

「5分前に到着とは、やはりサーシャ様は時間を大切にされている御方ですね。」
席について早々に声をかけてきたのは従者の1人だった。名前は確か…、

「いえ、ヨーデル様。大事な常連様をお待たせするのは商売をする者として失格でございます。それなのにも関わらず、我が商会の会頭は時間に疎いのですから…申し訳ありません。」

「こちらが無理を言ってお願いしているのです、どうか頭を下げないでください。」

「そういうのいいから、時間だし早く始めてくれない?あの人を待ってたら日が暮れるんだけど。あんたが司会をやって、さっさと終わらせよ。」
投げやりに答えてきたのは、もう1人の従者で態度の悪い男、イヴァンだ。

「イヴァンッ、仮にも王に仕える立場でありながらその態度はなんだ、態度と言葉を慎めッッ!!」

「イヴァン様の言う通りでございます。あの方を待っていたらこの会議が無駄になってしまいますし正直、時間がありません。では、先に例の商品をお渡しします。
こちらをどうぞ。」
ヨーデルをなだめつつ、聖水が入った箱を2人に渡す。

「寛大なお心に感謝します。確かに受けとりました。さて、こちらからは…。」
ヨーデルがそう言うと、懐から手紙を出す。
「サーシャ」は内心、なんの事か分かっていないため素直に手紙を受け取り目を通す。

「!!」
あまりの衝撃に素で絶句してしまった。

「…?どうかしましたか?」

「い、いいえ、数の多さに驚いたのです。宜しいのですか?」

「ええ、構いませんよ。使い道のない商品など、野放しにしておくだけで害でしかありませんから…。例の商品の糧になるなら、本望でしょう。それに、国の一掃にもなるのです。」
ヨーデルの答えに「サーシャ」は内心、顔面に拳を食らわせたい衝動にかられたが、理性をフル活動させて抑えた。

(行き場のない子供たちを、こいつは!商品だと言い切ったわ!何が国の一掃よっ、あんたたちが一掃されてこいっ(怒)でも、今の私はサーシャ…。ここは笑え、絶対に。)

「まぁ…!ありがとうございます。ここまで商会を贔屓ひいきして頂けて我々は幸せ者です。」
感謝の言葉を口にしている時に部屋の扉が開いた。

「すまんの~。会合が長引いて~遅くなってしまった~。」
間延びした口調で部屋に入ってきた男―アルバスは、横に大きくなった体を左右に揺らしながら席につく。

「アルバス会頭、何故、会合が長引いたと分かった地点で遣いの者を送らないのですか?」
遅れてきたアルバスに「サーシャ」は怒り気味で問いかける。半分八つ当たりも含んでるけれど。

「さ、サーシャ様…、おおお叱りはあ、後にしましょう?」
震える声で「サーシャ」を止めに出たのは、同じくアルバス会頭の補佐を務める男―ラグ。

「はぁ、分かりました。ラグ、貴方も同罪ですよ?後で反省文を提出しなさい。」
その言葉に、ガーンと落ち込むラグ。

「アルバス会頭、例の商品の納入が完了しこちらも頂きました。次の方針を話し合いますので指揮をとってください。」

「ん~…。サーシャ君が指揮してくれ~、儂じゃ無理じゃよ~?」
アルバスはサーシャに今後の計画を丸投げしやがった。

(はぁ!?この男馬鹿なの!?いくら脳みそがカスカスだからって、なに丸ごと補佐に押し付けてんのよ!!)

(コイツ、の○太くん並みに頭悪いんじゃね?)

(おい、の○太少年をあの馬鹿野郎と比べたら失礼だ。頭が悪くとも、命ある者に心優しい立派な少年だ。雲泥の差にも程がある。)

(そ、そうか…!言われてみれば確かに。)

(の○太少年?その子も君たちの知り合い??)

(チャシャさん、クレイさん…何真面目な顔でぶっ飛んだ事を言っているのですか。ラシュさん、その少年はある意味で国民的アイドルですから忘れてください。)
それぞれ言いたい事を言ったら念話が途切れた。

「…畏まりました。では、アルバス会頭に代わってお話しさせて頂きます。」
話の内容はこうだ。
聖水に使われていた魔力を別の物に利用する事で、戦争で帝国が更に有利になるとふんだ。
戦争で使う物―そう、武器だ。
1つの武器に込められる魔力をギリギリまで付与し、これを王家に返す。ただし、気体化した魔力を長時間触れると内側から蝕まれ、苦しみながら死ぬ。そこで、王家から送られた子供たちを使って行うというのだ。

「良いんじゃない?こっちが損をしないなら。それで?こっちは何すればいい?」

「変更は特にございません。通常通りのルートで、武器をこちらにお持ちください。魔力を付与した後に王家に送らせて頂きます。」
従者2人は頷いた。

「お話は済んだ様ですし、私たちはこれで失礼します。いい結果を期待してますよ?」
ヨーデルは怪しい笑みを浮かべ、アルバスに言う。

「はい~、出来が良い物には~お金を上乗せして下さいよ~。」
会話後、2人は王宮へと帰っていった。
「サーシャ」はアルバスたちの説教を終えた後、裏ルートからラグと一緒にアジトへ向かった。裏ルートとアジトの場所を把握出来たところでクレイたちに情報を送る。

(裏ルートがかなり複雑なのと、王族も使用しているから見つからないよう行くのよ。)

(((((( 了解 。))))))
クロードとチャシャチームはその場で待機。
場所が特定出来たクレイチームは、アジト周辺で待機する。
スタンバイOKの様子が確認出来たので「サーシャ」は視察をしてから帰ることをラグに伝える。

「わ、分かりました。ぼぼ僕は、商品の調教をしなければいけませんのでし、失礼しますっ」
そう言うと、風の如く去っていった。
彼は、自分の弱気な性格にコンプレックスを抱いており、立場の強い者には文句も言えずに頭を下げて従う。そうしているうちに性格がねじ曲がり、自分より弱い奴を調教と称して日頃の鬱憤うっぷんやストレスを発散していた。

「そう、では行きなさい。反省文の提出も忘れずに。」
彼を見送り、「サーシャ」は中へどんどん進んでいく。中は想像以上に広いが、<索敵>があるので突然出くわすことは無い。行く先々でアジトの従業員は頭を下げる中、地下へ入っていく。
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