18 / 20
第1章
それは脆く、そして儚く散った ―帝国聖騎士団隊長side―①
しおりを挟む今、俺は生まれて初めて手も足も出ない屈辱を味わっている。
「ねぇ、今どんな気持ち~?」
ケラケラと、俺の横で笑う糞餓鬼にはらわたが煮えくりかえるが、今の俺は指一本動かすことさえ叶わなかった。
(どうしてこうなったんだ…。)
―時を遡る。
国王の勅命に従い、属国の兵士たちと聖騎士団は出陣する事が決定した。
作戦として、まず属国の兵の3分の1を囮に魔物を誘き寄せ奴らと戦わせる。囮に駆り出された兵に罪悪感が募るが、国王の命に逆らえないのが現状だった。
次に魔物との戦闘で疲弊した奴らの隙を狙う。安直な考えだが、魔物を上手く誘導出来なければこちら側の被害が拡大する恐れがある。
これ以上の犠牲を増やしてはならない。
(俺は、誰一人死なせないと豪語しておきながら結局囮の兵を守る力すらない。
…せめて囮の兵の分まで死ぬ気で戦い勝利をこの手に。)
十字架のネックレスに口づけ、誓いをたてる。出陣する日が決まった翌日から、いつもより倍にして鍛練に励んだ。
―とうとう、運命の日がやって来た。
俺は今、これから共に戦う1千万の仲間達の前に立っている。
「俺達は国王陛下に、国民に選ばれてこの場にいる。
いいか、この国を守れてこそ俺達の存在が許されていると思え。
―だから、死ぬ気で戦いに挑め。」
『『yes,us pleasure!!!』』』
広場に彼らの声が轟く。
この光景を、戦争に徴兵された者たちの家族、恋人、友人が嘆きながら見守っている。その中に、俺の息子と娘の姿があった。
(キサン…。メアリー……すまない。)
俺は見てみぬ振りをして通りすぎる。
「父さんっ、待ってよ!行かないで!!」
「お父しゃんっ。
置いていかないでっ、いやだぁああ!!!」
(駄目だ、今振り向けば…俺は……。
お願いだ、俺の決意を揺さぶらないでくれ。お前達を守るためにも。)
この時、ろくに会話をせずに2人の前から立ち去った事を酷く後悔した。
★★
2日間もぶっ通しで歩き続けた俺達は、戦いに備えて休憩をとる事にした。
点呼を終え兵士たちは班に分かれて行動するが、疲れからくる疲労に誰もが無言で野営の準備をしている。
(当たり前か…。魔物と一定の距離を置きながら2日も歩けば疲れるだろう。
いや、肉体的疲労より精神的疲労が強いか……。)
囮は、体力がない者から魔物に喰われていく。食い散らかされた肉片を何度も目にし今は食欲すら湧かない。
そんな時だった。
「大変だっ、魔物が1匹残らず消えた!」
見張りの兵士が慌ただしく俺に駆け寄ってきたのだ。理由を聞けば、魔物が城門に入るなり辺りが静かになったそうだ。
(おかしい…。まさか瞬殺されたのか?
いや、そんな事が成せる訳がない。
見張りは中まで入らずに確認をしたなら見間違いである可能性もある。)
「そうか、総員っ今すぐにここを発つぞ!
もし魔物が消えたならば相手に時間を与える事になる、急げっっ!!」
急ぎ支度を済ませると既に準備が整っている者から歩かせた。
★★
どれくらい歩いただろうか…。
城は遠くからでもよく見えていたせいか、近くにあるものだと錯覚をしてしまった。
今、俺の目の前にどでかい城が佇んでいる。ただの城であればさほど気にする事もなかったのだが、その城はどこを見ても氷だった。
呆気にとられていると後ろからボソボソと小隊らの声が聞こえてくる。
「おい、本当にここであっているのか?」
「全く、国王様の御言葉を信用出来ぬとは…実に嘆かわしい。」
「はいはい、お前のお小言は今いらん。
しっかし国王様がバケモンに喧嘩を売るとは驚いたぜ、戦うこっちの身にもなってほしいんだけど…。」
「それもそうだか、魔物は一体どこに行ったんだ?
戦闘した形跡も見当たらないぞ?」
俺は思わず怒鳴ってしまった。
「そこの小隊、言葉に注意しろ。
国王の名に恥じぬ行動をしてこそ、我ら聖騎士団の誇りだ。戦いたくないとほざく恥さらしはこの場で自害を命じるっ。」
俺の怒声に辺りはシーンと静まりかえる。
そんな時だった。
「ブフ…w」
場に似合わない音が俺をまた苛立たせた。
「誰だ、今屁をこいた大馬鹿者はっ!!」
「テメ、オレが笑い声を必死に抑えてんのに屁とか言うなやボケッ!!」
それは突然姿を現した。
そう、今俺達が通ろうとした城門の上に。
けれども俺は帝国の誇る聖騎士団の団長だ、ここで怯んでどうする。
「ふん。貴様らが国王を侮辱した不届き者かっ、この私が成敗してくれる!!」
俺は奴等に槍を真っ直ぐ向けた。
奴等は7人、黒いローブで全身を覆いフードは深く被っているせいで顔も見えないが女も混じっているようだ。
こちらを無視して何やら楽しそうに笑っている。
なんて奴等だっ、馬鹿にしやがって!!
「この糞餓鬼っ…!
聖騎士の戦いというものを知れっっ!!
第一部隊、双方を囲い込め!第二は遊撃を、第三は私と共に行くのだ!!」
威嚇のつもりで構えた槍を最初に笑った奴に向かってぶん投げた。
槍は一直線に飛んでいき顔を吹っ飛ばす…
予定だった。
「おっと、オレらがここで相手にするのは簡単なんだけどさぁ~?
オレ、弱い奴に興味ないし楽しめないわけでさぁ?コイツらと戦って勝った奴だけ挑んでこいよ。」
ケラケラと笑いながら槍をいとも簡単に受け止め、それを片手で折った。
(あれを受け止めただと!?
まさかあり得ないっ、支給品と言えど耐久度はそれなりにあったはずだぞ…!)
嫌な予感がよぎった。
しかし号令をかけた以上、突き進むしかない。奴等は何か言っていたが聞き取れないまま消え―
戦争が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる