異世界に転生しても彼らはブレない

前世が蛍の人

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第1章

それは脆く、そして儚く散った ―帝国聖騎士団隊長side―①

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今、俺は生まれて初めて手も足も出ない屈辱を味わっている。

「ねぇ、今どんな気持ち~?」
ケラケラと、俺の横で笑う糞餓鬼にはらわたが煮えくりかえるが、今の俺は指一本動かすことさえ叶わなかった。

(どうしてこうなったんだ…。)


―時を遡る。
国王の勅命に従い、属国の兵士たちと聖騎士団は出陣する事が決定した。
作戦として、まず属国の兵の3分の1を囮に魔物を誘き寄せ奴らと戦わせる。囮に駆り出された兵に罪悪感が募るが、国王の命に逆らえないのが現状だった。
次に魔物との戦闘で疲弊ひへいした奴らの隙を狙う。安直な考えだが、魔物を上手く誘導出来なければこちら側の被害が拡大する恐れがある。
これ以上の犠牲を増やしてはならない。

(俺は、誰一人死なせないと豪語しておきながら結局囮の兵を守る力すらない。
…せめて囮の兵の分まで死ぬ気で戦い勝利をこの手に。)
十字架のネックレスに口づけ、誓いをたてる。出陣する日が決まった翌日から、いつもより倍にして鍛練に励んだ。

―とうとう、運命の日がやって来た。
俺は今、これから共に戦う1千万の仲間達の前に立っている。

「俺達は国王陛下に、国民に選ばれてこの場にいる。
いいか、この国を守れてこそ俺達の存在が許されていると思え。
―だから、死ぬ気で戦いに挑め。」

『『yes,us pleasure御意、我らの悦び!!!』』』
広場に彼らの声がとどろく。
この光景を、戦争に徴兵された者たちの家族、恋人、友人が嘆きながら見守っている。その中に、俺の息子と娘の姿があった。

(キサン…。メアリー……すまない。)
俺は見てみぬ振りをして通りすぎる。

「父さんっ、待ってよ!行かないで!!」

「お父しゃんっ。
置いていかないでっ、いやだぁああ!!!」
(駄目だ、今振り向けば…俺は……。
お願いだ、俺の決意を揺さぶらないでくれ。お前達を守るためにも。)
この時、ろくに会話をせずに2人の前から立ち去った事を酷く後悔した。

★★

2日間もぶっ通しで歩き続けた俺達は、戦いに備えて休憩をとる事にした。
点呼を終え兵士たちは班に分かれて行動するが、疲れからくる疲労に誰もが無言で野営の準備をしている。

(当たり前か…。魔物と一定の距離を置きながら2日も歩けば疲れるだろう。
いや、肉体的疲労より精神的疲労が強いか……。)
囮は、体力がない者から魔物に喰われていく。食い散らかされた肉片を何度も目にし今は食欲すら湧かない。
そんな時だった。

「大変だっ、魔物が1匹残らず消えた!」
見張りの兵士が慌ただしく俺に駆け寄ってきたのだ。理由を聞けば、魔物が城門に入るなり辺りが静かになったそうだ。
(おかしい…。まさか瞬殺されたのか?
いや、そんな事が成せる訳がない。
見張りは中まで入らずに確認をしたなら見間違いである可能性もある。)

「そうか、総員っ今すぐにここを発つぞ!
もし魔物が消えたならば相手に時間を与える事になる、急げっっ!!」
急ぎ支度を済ませると既に準備が整っている者から歩かせた。

★★
どれくらい歩いただろうか…。
城は遠くからでもよく見えていたせいか、近くにあるものだと錯覚をしてしまった。
今、俺の目の前にどでかい城が佇んでいる。ただの城であればさほど気にする事もなかったのだが、その城はどこを見ても氷だった。
呆気にとられていると後ろからボソボソと小隊らの声が聞こえてくる。

「おい、本当にここであっているのか?」

「全く、国王様の御言葉を信用出来ぬとは…実に嘆かわしい。」

「はいはい、お前のお小言は今いらん。
しっかし国王様がバケモンに喧嘩を売るとは驚いたぜ、戦うこっちの身にもなってほしいんだけど…。」

「それもそうだか、魔物は一体どこに行ったんだ?
戦闘した形跡も見当たらないぞ?」

俺は思わず怒鳴ってしまった。
「そこの小隊、言葉に注意しろ。
国王の名に恥じぬ行動をしてこそ、我ら聖騎士団の誇りだ。戦いたくないとほざく恥さらしはこの場で自害を命じるっ。」
俺の怒声に辺りはシーンと静まりかえる。
そんな時だった。

「ブフ…w」

場に似合わない音が俺をまた苛立たせた。
「誰だ、今屁をこいた大馬鹿者はっ!!」

「テメ、オレが笑い声を必死に抑えてんのに屁とか言うなやボケッ!!」
それは突然姿を現した。
そう、今俺達が通ろうとした城門の上に。
けれども俺は帝国の誇る聖騎士団の団長だ、ここで怯んでどうする。

「ふん。貴様らが国王を侮辱した不届き者かっ、この私が成敗してくれる!!」
俺は奴等に槍を真っ直ぐ向けた。
奴等は7人、黒いローブで全身を覆いフードは深く被っているせいで顔も見えないが女も混じっているようだ。
こちらを無視して何やら楽しそうに笑っている。
なんて奴等だっ、馬鹿にしやがって!!

「この糞餓鬼っ…!
聖騎士の戦いというものを知れっっ!!
第一部隊、双方を囲い込め!第二は遊撃を、第三は私と共に行くのだ!!」
威嚇のつもりで構えた槍を最初に笑った奴に向かってぶん投げた。
槍は一直線に飛んでいき顔を吹っ飛ばす…
予定だった。

「おっと、オレらがここで相手にするのは簡単なんだけどさぁ~?
オレ、弱い奴に興味ないし楽しめないわけでさぁ?コイツらと戦って勝った奴だけ挑んでこいよ。」
ケラケラと笑いながら槍をいとも簡単に受け止め、それを片手で折った。

(あれを受け止めただと!?
まさかあり得ないっ、支給品と言えど耐久度はそれなりにあったはずだぞ…!)
嫌な予感がよぎった。
しかし号令をかけた以上、突き進むしかない。奴等は何か言っていたが聞き取れないまま消え―
戦争ワンサイドゲームが始まった。
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