異世界に転生しても彼らはブレない

前世が蛍の人

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第1章

それは脆く、そして儚く散った ―帝国聖騎士団隊長side―③

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躊躇なく扉を開けると、長身の男が優雅に長椅子に脚を組んでもたれかかっていた。

「貴方がここまでにかかった時間はトータルで2時間と14分、予想時間から25分程過ぎましたが概ね想定内ですかね。
―さて、私とちょっとしたゲームをしましょうか?」

「な、なん―」

「貴方に拒否権はございません。ここは私の縄張りテリトリー内ですから、悠長な事を言っていられませんよ…ねぇ?」
クロードは笑みを湛え天井を見つめた。
俺も釣られて体が強ばる。

「なっ…お、お前達っっ!!」

「ご理解頂けましたでしょうか?
では、簡単に説明を。こちらに用意しましたのは天井でぶら下がっている縄、つまり彼らの命綱…と申しましょうか。
これが44本、そのうちの12本を切れればゲームは終了ですから。」
「そうすれば次の階へ進めますよ?」と、
男が簡単に言ってやがる。

「くそっ…当てられなかったらどうすんだ。」

「皆死ぬだけです。」
俺を馬鹿にした表情で淡々と話す。
苛立ちを抑え用意されていたナイフを片手に縄を見る。
何処に繋がっているか分からないくらいに縄が複雑に絡み合っていた。

1本、縄を切る。
―何も起こらない。
2本目…何も起こらなかった。
3本目―「やめっ落ち、おちるっぁああああああ―…。」

「っ。―ぐっ…!」

「ああ、言い忘れてましたが制限時間を設けております。時間内に終わらなければ、
その地点で―」
クロードが手で首を斬る真似をする。
(外道風情が人間をもてあそびやがって!)
4本、5本、6本、7本―俺の勘が訴えている縄を切って切って切りまくった。
そして縄は12本全て切り終え脱力するのを見計らってか、
「思った程減らなかったですね。
では通って良いですよ、最上階まで無様に足掻いて這いつくばって…行ければいいですね?

さて、私はこれで失礼します。」
俺は立ち去る男を追いかけようと顔を上げれば既に姿が無かった。
(ん…?何だこの紙切れ。)
男が落としていった紙切れに、

「無知な貴方に一つ、良い事を教えて差し上げましょう。
44本のうち12本を引いたら…どんな答えが導かれるでしょうね?」

(44から12を引くと一体何だって言う…。)
32。
そう言えばこの部屋に入る前に見た数字も32と書かれていた。
(―ま、さか…っ生き残っている騎士達の数だと言いたいのか!?)
縄を切った時に聞いた悲鳴が脳裏に甦る。
震えが止まらない。止まらなかった。

「隊長…。」
部下が俺の手を握った。
「隊長は…っ何一つ悪くないです!
生き残った俺達を守ってくれたっ!死んでいった仲間達だって隊長のことを誇りに思っていました、だからっこんな所で立ち止まらないで下さいよぉ…っ。」
部下が男泣きしている姿を見て不覚にももらい泣きをしてしまった。

「す、ま…ないっ、俺は、俺はお前達を―」

「少なくとも俺は命を捨てる覚悟でここに
います。隊長の盾になって死ねたなら本望です。行きましょう!!」
気づけば震えが止まっていた。

「無様な姿を見せたな、さぁっ突撃開始だぁあ!」

★★

「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ…!」
最上階まで後…少し。
疲れきった体は満足に歩けず、視界が時折ぼやけていた。
それでもこの男は歩くことを止めない。
一歩…また一歩、確実に踏みしめて歩く。

「まだ、まだやれる、絶対に殺してやる!
一人でもいいっこの手で確実に、心の臓に突き刺してやる!!!」
手足の関節をへし折って罵った口に足を何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も突っ込んでやる…!
へし折った手の指で目玉をグリグリ抉ってどす黒い血で汚れろっ、その後はナイフで仮面の内側に潜んでる化物の皮を剥いで滅多刺しにしてやるっっ!
は生気を失っていなかった。
生気と言っても、狂気に刈られた復讐の目だが。

やがて男の前に厳かな門が表れる。
右側に悪魔、左側に天使と、変わった姿絵の扉がゆっくりと開かれ男は立ち止まる事なく進んでいく。
何故なら、目の前に白銀の髪をなびかせ王者の椅子に気だるそうな、悩ましい姿でもたれる美しい女がいたからだ。
「おまえをぉお、このてでぇえええ!」

「…。」

俺を見ても何一つ表情を変えない女は、回避しようともしない。まるで人形だ。
だかそんなのはどうでも良い。
俺がこの女を化物を元凶を殺せれば全てが報われる。あいつらの仇もこれで―…!?

ナイフを持った手が止まった。
いや、止まってしまったっ何故だっ!
こんな時に、あと少しで殺れるっ動け!動けよっ!!
頼むお願いだっ、動いてくれ…!

「ねぇ、今どんな気持ち~?」
(な……、ここは最初に入ってきた、入り…口?)
奴等は俺達がここへ足を踏み込んだ地点で負けが確定していたと、そう告げた。
嘘だ嘘に決まっている。
誰か、誰でもいい…。
俺に嘘だと言ってくれ。こんな事が許される訳ないだろっ?!
初めから最後まで奴等の手のひらで滑稽な見世物になっていたとでもいうのかっ?

けれど唯一動かせられた目だけが、彼に残酷な真実を見せる。
更に信じられない物を目にした。
人が、―凍っている。
まるで、初めからそこにあったかのような造形物がおびただしい量で部屋を埋め尽くしている…ようだ。

「もう一度聞くけどさ?
ねぇ、今どんな気持ち~?」
この糞餓鬼はニヤニヤと笑っている。
手も足も出ない俺は唯一動かせられる目で睨み付ける。
当然痛くも痒くもない奴等は俺を見て何か話していた。自業自得だと、自己満足だと言っているのが聞こえた。

(ふざけるなっ俺が、俺の思う正義を貫いて何が悪いのだ!!お前らみたいな残虐者には到底理解出来まい、平気な顔で人を殺せる狂った悪魔共っっ、神の怒りに触れて死ね!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!!)

「くだらない。」
そう言ったのは、玉座と呼ぶに相応しい椅子に気だるそうな姿で俺を見ていた女。
おもむろに立ち上がり、こちらに向かって歩いて来た。
せめて最後まで睨み付けてその綺麗な顔を歪ませてやる、目にありったけの力を込め女を凝視する。
真っ直ぐ歩いていき―、










―俺の横を通り過ぎた。
俺を見ていると思っていたその目は、俺を視界に映していなかった。
氷った造形物の一つ、いや…存在する事さえ許されていないような。
いるもいないも同じ。
そう、俺の存在価値を全否定された。
その事実に体の力が抜け、意識が遠退いていく…。

(こんな事なら…息子達とちゃんと別れを言うべきだったか。
俺は最低な父親だな―。)


意識が薄れていく中、最後に俺の目に映ったのはバラバラになった胴体だった。

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