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それは前触れもなく突然に
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キーン…コーン…カーン…コーン……。
午後の授業の終わりを知らせる鐘が鳴った。
(あー…眠かった…。)
教師の楽しくもない雑談が途中で鐘に遮られチラホラと笑いが起こる中、自分はさっさと帰る支度を進める。
「また次の機会にこの話をするとしよっか、忘れずにノート提出しておけー。
クラス委員は集めてチェックしたら俺の机によろしくな。」
教師は担任と入れ替わりで教室を出ていく。
担任は明日の必要事項を話し解散。挨拶を済ませ昇降口に向かおうと鞄を持って行こうとすると、
「ま、待って…白澤さん!」
「ん、何か用?」
「えっ、あ…ノート提出してください…。」
「机の上に置いたから勝手に持っていってくれない?じゃ。」
「まだっ―」
「まだ何か?」
「あのこ…これっ、良かったら食べて…。」
可愛くラッピングされた袋に入っているクッキーを差し出された。
いや、はいって渡されても正直困る。
「貰っとく、ありがと。」
とりあえず貰えるなら貰っておこう主義なので有り難く頂く。
クッキーの入った袋をくわえ、昇降口へ急ぐ。後ろで「〇〇が倒れたっ。」とか何とか騒いでいたけど自分には関係ないよね。
靴を履き替え表門に着くと晃兄さんが待っていてくれた。
「糸、お疲れ。
冬二は先に帰らせて悠斗は打ち合わせで帰りが遅くなるってさ。スーパーで買い物するだろ?手伝うよ。」
然り気無く鞄を持って歩き出し、その後ろを着いていく。
(さっき貰ったクッキーを食べながら行こ。)
「アキ兄、これ食べる?」
「クッキーか、それどうしたんだ?」
「クラスの子に貰った。」
「まさか男か…?」
「女子だよ、女子。帰り際に貰った。」
般若になったアキ兄に否定しつつクッキーを口にいれてあげる。
アキ兄はこう見えて甘い物好き、甘い物に目がない。結局一つ食べた後アキ兄に全部あげてしまった。
スーパーで必要な食材を買ってお会計を済ませアキ兄は2つ、自分は1つ袋を持って来た道を並んで歩く。
「学校はどうだったんだ糸?」
「まぁまぁ…かな、可もなく不可もなくってとこ。」
「そうか。
嫌な事があったら俺に話せよ、そいつをぶん殴ってくるから安心しろ。」
「アハハッ、アキ兄がぶん殴ってどうすんのさっ。やられたら10倍返しでボコボコにするから安心してよ。」
アキ兄は優しい。
勿論、冬兄も悠兄も優しいけどそれとは違う。些細な事に気づいても自分が相談するまでなにも言わずに傍で待っていてくれる優しさ。
「アキ兄…ありがとう。」
「ん、どういたしまして。
帰ったらハンバーグ作るから手伝ってくれ。」
「りょーかい、玉ねぎは切ってあげ…る?」
今視界がグラッと揺れた気がした。
アキ兄はこっちを見て心配そうに聞く。
「糸…?大丈夫か??」
「よく分かんない…。ーーえ、何…あれ?」
アキ兄の後ろを指差す。
さっきまで誰も居なかったはず。
なのにそれはこっちを見ていた。
『―ミツケタ…サシダセ、ムトゥヤージャハワレノモノ……』
それは一歩ずつ向かってきた。
先に我に返った晃は糸の手を取り、を今来た道へと引き返す。
「糸走れっ!!」
「っ!!」
アキ兄の呼ぶ声に気づき、足がもつれそうになりながらもその手に掴まって必死で走った。
そんな自分を嘲笑うようにそれは自由を奪ってきた。
身体が地面に崩れる。
(体が動かないっ)
それは止まることなく近づいてくる。
「糸っ。
この野郎っ!ふざけた真似しやがって!!」
晃がそれに立ち向かう姿がぼんやり見える。
(駄目…だ。力が……抜け…て―)
ここで意識が途切れた。
午後の授業の終わりを知らせる鐘が鳴った。
(あー…眠かった…。)
教師の楽しくもない雑談が途中で鐘に遮られチラホラと笑いが起こる中、自分はさっさと帰る支度を進める。
「また次の機会にこの話をするとしよっか、忘れずにノート提出しておけー。
クラス委員は集めてチェックしたら俺の机によろしくな。」
教師は担任と入れ替わりで教室を出ていく。
担任は明日の必要事項を話し解散。挨拶を済ませ昇降口に向かおうと鞄を持って行こうとすると、
「ま、待って…白澤さん!」
「ん、何か用?」
「えっ、あ…ノート提出してください…。」
「机の上に置いたから勝手に持っていってくれない?じゃ。」
「まだっ―」
「まだ何か?」
「あのこ…これっ、良かったら食べて…。」
可愛くラッピングされた袋に入っているクッキーを差し出された。
いや、はいって渡されても正直困る。
「貰っとく、ありがと。」
とりあえず貰えるなら貰っておこう主義なので有り難く頂く。
クッキーの入った袋をくわえ、昇降口へ急ぐ。後ろで「〇〇が倒れたっ。」とか何とか騒いでいたけど自分には関係ないよね。
靴を履き替え表門に着くと晃兄さんが待っていてくれた。
「糸、お疲れ。
冬二は先に帰らせて悠斗は打ち合わせで帰りが遅くなるってさ。スーパーで買い物するだろ?手伝うよ。」
然り気無く鞄を持って歩き出し、その後ろを着いていく。
(さっき貰ったクッキーを食べながら行こ。)
「アキ兄、これ食べる?」
「クッキーか、それどうしたんだ?」
「クラスの子に貰った。」
「まさか男か…?」
「女子だよ、女子。帰り際に貰った。」
般若になったアキ兄に否定しつつクッキーを口にいれてあげる。
アキ兄はこう見えて甘い物好き、甘い物に目がない。結局一つ食べた後アキ兄に全部あげてしまった。
スーパーで必要な食材を買ってお会計を済ませアキ兄は2つ、自分は1つ袋を持って来た道を並んで歩く。
「学校はどうだったんだ糸?」
「まぁまぁ…かな、可もなく不可もなくってとこ。」
「そうか。
嫌な事があったら俺に話せよ、そいつをぶん殴ってくるから安心しろ。」
「アハハッ、アキ兄がぶん殴ってどうすんのさっ。やられたら10倍返しでボコボコにするから安心してよ。」
アキ兄は優しい。
勿論、冬兄も悠兄も優しいけどそれとは違う。些細な事に気づいても自分が相談するまでなにも言わずに傍で待っていてくれる優しさ。
「アキ兄…ありがとう。」
「ん、どういたしまして。
帰ったらハンバーグ作るから手伝ってくれ。」
「りょーかい、玉ねぎは切ってあげ…る?」
今視界がグラッと揺れた気がした。
アキ兄はこっちを見て心配そうに聞く。
「糸…?大丈夫か??」
「よく分かんない…。ーーえ、何…あれ?」
アキ兄の後ろを指差す。
さっきまで誰も居なかったはず。
なのにそれはこっちを見ていた。
『―ミツケタ…サシダセ、ムトゥヤージャハワレノモノ……』
それは一歩ずつ向かってきた。
先に我に返った晃は糸の手を取り、を今来た道へと引き返す。
「糸走れっ!!」
「っ!!」
アキ兄の呼ぶ声に気づき、足がもつれそうになりながらもその手に掴まって必死で走った。
そんな自分を嘲笑うようにそれは自由を奪ってきた。
身体が地面に崩れる。
(体が動かないっ)
それは止まることなく近づいてくる。
「糸っ。
この野郎っ!ふざけた真似しやがって!!」
晃がそれに立ち向かう姿がぼんやり見える。
(駄目…だ。力が……抜け…て―)
ここで意識が途切れた。
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