大好きな彼に殺されるための計画

蒼井あざらし

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2 天使を拾った日

 ある冬の日、当時八歳だったロザリンドは城下町の裏路地で瀕死状態の少年を見付けた。同い年くらいの少年を見捨てられなかったロザリンドがクルス伯爵邸にその少年を連れて帰ると、両親は「自身で最後まで責任を持て」とロザリンド自身でその少年の世話をすることを命じた。ロザリンドは不慣れながらも泥と埃に塗れたその少年を自ら風呂に入れ、毎日懸命に看病をした。ロザリンドは毎夜高熱にうなされる少年が今にも死んでしまうのではないかと不安で堪らない気持ちで、眠る時も食事の時もずっと彼の傍にいた。

 二カ月が経つ頃にはかなり少年の状態も良くなり、歩いたり会話をしたりすることが出来るようになっていた。そして、泥にまみれやせ細った少年の変わりように、屋敷の誰もが驚いた。埃と泥にまみれていた髪は天然のプラチナブロンドであり、生気のなかった瞳は透き通ったスカイブルーの宝石のように輝いている。薔薇色の頬は天井画に描かれている天使のように愛らしく、子供ながらにぞっとするほど美しい容姿をしていた。

「君は天使だったんだね」

 ロザリンドの言葉に、彼は一瞬驚いたように目を見開いたがすぐに柔らかい微笑みを浮かべた。その大人びた笑みが余りにも綺麗で、同性でまだ幼かったロザリンドもつい顔を赤くしてしまった。

 それ以来、ルイと名乗ったその少年とロザリンドはよく一緒に遊ぶようになった。一人っ子だったロザリンドは幼い頃から厳しい当主教育を受けており、菓子類の禁止や父の選んだ友人としか遊べないという様々な制限があった。そのため、何のしがらみもないルイはロザリンドにとって理想の遊び相手だったのだ。

 それから程なくして、ロザリンドは両親にルイを自分の従者にしたいと頼み込んだ。両親は最初身元の分からない少年を屋敷に置くことに難色を示したが、ルイの類まれなる容姿と聡明さを知ると渋々ながら了承してくれた。両親はあくまでロザリンドに教育の一環としてルイの世話を命じたようで、ここまでロザリンドがルイを気に入るとは思っていなかったようだ。

 それ以来、ロザリンドとルイは主従として共に時間を過ごすようになった。だが主従とは言いつつも実際は友人のような関係であり、ロザリンドの願いでルイが使用人のように畏まるような態度をとることもなかった。また、ロザリンドの両親はロザリンドに恩義を感じているルイを利用できると判断したらしく、十三歳になった時には伯爵家の計らいで二人そろって王立学園に通うことになった。

 ルイは年を経るにつれてその容姿端麗さも聡明さもますます磨きがかかり、十五歳になる頃には非の打ち所がない完璧な人間だと周囲に言われるほどになっていた。彫刻のように鍛えられた長身に、長いまつ毛に囲われた切れ長の瞳。そして、陽光を透かすプラチナブロンドは見る者をことごとく魅了した。更に、彼は剣技の才能を開花させ、大陸で最高峰と言われる剣技大会を最年少で制覇してしまうほどになっていた。貴族や富裕層の子弟が多く通う王立学園の中でも、従者という身分を気にせずルイに好意を寄せる人間が山ほどいた。だが当のルイは家でも学園でもロザリンドの傍を決して離れようとしなかったし、誰かと特別親しくするようなこともなかった。

「ロザリーと一緒にいたいんだ」

 それがルイの口癖だった。造り物のように美しく、誰よりも強く、孤高のように見えて自分にだけ親し気に接してくる。そんなルイに、ロザリンドが惚れてしまうのはごく自然な流れだった。だが、ルイが拾われた恩義を返すためにロザリンドに尽くしているということは、ロザリンドが誰よりも一番よく分かっていた。だからこそ、ロザリンドはその恋心を封印し、ルイにとっていい友人でありいいご主人様であり続けようと、ずっとそう思っていた。

 だが、そんなロザリンドの想いは十六歳の時に大きく変わることになった。
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