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プロローグ
白日島と学園都市
しおりを挟むー夢を見た。もう何度目かわからない程の同じ夢を。
ーそれは思い出したくない過去の記憶。
ーけれど忘れることのできない記憶。
ー理由を聞いても返ってくる言葉はいつも同じ。
「あなたを守るためにはこうするしかないの」
ー目の前にいる彼女はそう告げるだけ。
ー薄れゆく意識の中彼女に向かって必死に手を伸ばす。
「ごめんね」
ー泣きながら呟く彼女を視界に捉えたのを最後に意識は現実へと戻っていく。
= = =
「またこれか…」
夢から覚めたオレは、ゆっくりとベッドから体を起こし気だるげに呟く。
「久しぶりに見たな、この夢」
ベッドから出ると、カーテンを開け差し込んできた太陽の光に目を細める。
目が光に慣れてきたところで、オレは軽く欠伸をしながら、意識を部屋の中へと向け身支度を始める。
(何度見ても気持ちいい物じゃないな)
そんなことを思いながらある程度の準備を終え、真新しい制服を身に纏ったところで改めて窓の外へ視界を向ける。
(なぁ、一体何処にいるんだ。柚乃……)
= = =
「よく来たねクソガキ」
「いきなりクソガキ呼ばわりとは失礼だなクソババァ」
自宅から(実際にはこれから通う学園の寮)を出たオレ、立花風夜が向かったのは、見るものを圧倒する大聖堂のような建物内にある学園長室だった。
「舐めた口来てるとこの島から追い出すよクソガキが」
「それは困ります。大変申し訳ありませんでした。クソババァ長様」
「誰がクソババァの長だい!」
俺と若干のしわがれた声で話す対面している女性は、見た目齢五十そこそこといったこの学園の長である轟景子学園長だ。
「まったく…で、どうだいこの学園の感想は。実際に見るのは初めてだろう?」
「ああ、軽く見て回ったけど素直に驚いたよ。本当に存在するというのも含めてな」
「そうだろう。この学園、というか他の学園都市ひいては島全体、金だけはかかってるからねぇ」
学園都市というだけあって、ここに来るまでの間だけでも、普通に生活する分には困らなそうな街並みが見てとれた。
「ここだけじゃなく他の学園の周りもこんな感じなのか?」
「そりゃそうさね。各学園それぞれ多少なりの特色と差異はあるがね」
オレがいるのは、それぞれに学園都市を持つ7つの大きな島が連なった、七角形状になっている大きな列島だ。その島は、陽の当たる島『白日島』と呼ばれている。
しかし、その島の性質上、一般には詳細な場所は厳重に秘匿されている上、表で普通に生活している分には、この島の情報を得ることはできない。
白日島は、日本を含めた世界各国の政府と、幾つかの財閥が主として財源を出し管理しているらしく、世間では何の為に存在しているかすらも公開されていない。中にはそんな島など存在しないという人もいる。後は精々『夢が叶うらしい島』という噂が広がっている程度だ。
「それであんたはどこまでこの島のことを理解しているんだい?」
という事情もあり、俺も今の状況の詳細までは理解できずにいた。
「迎えにきた使いの人からはオレのことをご指名らしいってのだけ。後は世間で出回っている噂程度かな」
「そうかい。まぁ途中入学なんてレアケースだからね。一つ言えるのは、基本的には内からは外部の情報が分からない」
「やっぱり外部から遮断されてるんだなこの島は」
外に情報が漏れないということは逆も然りだろう。
「そうさね。行き来できるとしたらほんの一握りの上層部だ。生徒は愚かあたしにだって迂闊に行き来はできない」
景子の言い回しに気になる部分を感じたが、今は然程重要な事柄ではない為一度横に置いて、別の質問を投げかける。
「ここに来る途中でどう見ても外人のような子もいたが、結構多いのか?」
見た感じ日系のような顔立ちの子の方が多く感じたが、外国籍のような見た目をしている子も違和感を感じないほどには認識できた。
「そもそもこの島はなんのために作られたと思う?」
質問に質問で返され、相手が景子だからこそ若干の不満を覚えたが、そのような場面ではない為、若干の時間思考を廻らせ、素直に意見を返す。
「なんだろうな、他国への対抗武力の育成…いや、自国防衛の方が意味合いとしては強そうか」
「そこまで察せるとはさすがだね。昨今は各国の牽制が強くなってきて何かと物騒だからね。表向きはそれがメインだ。後は自衛のために優秀な戦士を自分の管轄下に置こうとする富裕層から送り込まれた子とかもいるね。まぁそれらが全てではないが」
確かに数年ほど前は紛争のニュースが多かったが、最近ではそのような内容は目にしなくなっていると、思い返して気づいた。
「国規模じゃなく個人を守る戦力…なるほどお偉いさんたちのSPの候補達もいるわけか」
「その通り。勿論入学すること自体の難易度は高いがね。それなりの額は貰っている上厳しい審査もある。だがその手間を掛けるだけの環境がこの島にはある。どうだいワクワクしてきたろう?」
「ワクワクなんかするか。基礎身体能力が違う外人相手にするの考えるだけで憂鬱だよ。それに表向きの理由だけ話されても相手が景子じゃなかったら信用に値しない」
今の内容だけでも世間的には極秘事項なのだろう。この場所に入学させられる理由には十分だし、実際そういった部分が大きいのも確かだろう。しかし、それだけで各国の争い、戦争や紛争が音沙汰もなく消えるとは思えない。何か裏があるのだろうと俺は確信していた。
すると景子は一つため息をつきながら、
「相変わらず鋭いやつだね。あんたの考えてることはそう遠くないだろう。だが悪いけど答え合わせは出来ないよ」
と言った。しない、ではなく出来ないと言ったのだ。それだけで俺には十分だった。
「それで?俺はここで何をすれば良い?」
これ以上有益な情報を得ることはないだろうと思った俺はひとまず目的を明確にすることにした。
すんなりと引き下がったオレを見た景子は、一瞬不満を覚えたような表情を見せたが、すぐに引っ込めた。
「まずはここがどんな場所か話そうか。ここは強さこそが物を言う島さ。願いが叶う島?強ければあながち間違いでもないね。簡単に言えば、この学園内の実績で主席で卒業すれば、管理部がどんな手段を用いてもどんな願いも叶えてくれる」
オレの質問に対しての答えではなかったが、無駄話ではないこととその内容に素直に驚いた。
「まさか本当に叶えてくれるのか。ということはこの島で主席で卒業しろと?」
恐らくオレと景子の目的は一致しているだろう。だからオレをここに呼び寄せた。となれば至ってシンプルな目的かと思ったが景子は不満そうに頬杖をついた。
「それが出来れば一番早いんだろうけどね。何せよあんたは高等部二年からの編入だ。ここでの実績は高等部四年間の総合ポイントで決まる。主席を狙うのは不可能ではないがハンデがあるのは間違いないね」
卒業までの総合ポイントか。それだと二年から編入するオレには丸一年分のハンデがあることになる。
なぜもっと早く呼ばなかったのか問いただそうと思ったが、この島のことを考えれば、そもそもこの編入自体が無理をした行動なのだろう。
「ちなみに何をしたらポイントが増えるんだ?それと主席で卒業した奴らの平均ポイントと同年代でトップのポイント数を教えてくれ」
ならその目的を叶えるためにオレに出来ることをやるだけだ。
「ポイントを増やすのは各イベントだね。学園内の対抗戦、学園間の対抗戦等の貢献度、もちろん貢献度が低ければポイントは減るさね。後はイベントじゃなくても決闘システムがある。決闘は日常的に行われ、戦って勝てば相手から負ければ相手にポイントが譲渡される。至ってシンプルだ。大きなイベント程ポイントが多く増減するわけではないがね」
…そういえば、毎日血飛沫飛び交うみたいな噂も飛び交っていたような気もするな。
「後は主席のポイント平均はあたしが着任してからのここ3年間でこの学園内に限れば大体1万7000ポイントくらいがボーダーかね」
このポイントが多いか少ないか判断しかねるが、一年間戦ってきたポイントのトップを聞けばある程度予測が立つだろうと思いつつ景子に続きを促す。
すると景子は苦い顔になり、
「我が学園第二学年のトップは現在1万5027ポイントだ」
ーと若干早口で告げた。なんと卒業する頃にはおおよそ6万ポイントだ。
「転校します。今までありがとうございました」
お辞儀をして景子に背を向け部屋を後にしようとする。
「何言ってんだい!転校なんか余程の事がないと出来ないよ!戻りな!」
慌てた声で引き留める景子に向き直り話を続ける。
「じゃあなにか?オレが今からそんな最強を倒して主席になれるとでも?」
「そうは言ってないだろう。いくらあんたでもここからの主席は難しい。本題はここからだ」
どちらかというとそうと言ってほしかったオレは、続く景子の言葉に耳を疑った。
「この島に柚乃がいた形跡がある」
「な…」
「詳しいことは喋れないし見せれないけどね。けど確かな情報だ。だがどこかの学園に在籍しているデータはない。かといってこの島から簡単に出られる訳もない。確かに柚乃はこの島にいて、姿を消したあの出来事からの時系列も一致する」
「なんで…」
オレは言葉を失っていた。主席になり、その願いで柚乃を見つけることこそが、目的だと思いこんでいたからだ。
「理由はわからない。だがあたしが3年前にこの学園の学園長を引き受けたのもそれが理由だ。あの時は事情も言えずあんたには申し訳ないことをしたがね。ただ、学園長という立場もあって表立っては動けなかった。権限を使ってデータベースを調べても尻尾も掴めなかった。」
ドンッ!と悔しそうに景子は机を叩く。
「3年…無事なのか…?いや、そもそももうこの島にはいないんじゃ…」
「それがね、この島は性質上、入島した以上は亡くなった場合と島から出ていった場合はデータとして残るんだ。どんな悪党でも善人でもね。そこに上がってなかった以上ここに柚乃はいる。しかしあたし一人では限界がある。だからあんたに白羽の矢を向けたんだ。理由は違えど同じく柚乃を探してるあんたにね」
「そうか…」
実はこの景子はオレが探している、榊柚乃の義理の母親である。とある事件によって両親を失って柚乃はこの景子に幼い頃から本当の娘のようにして育てられてきた。そしてそれは柚乃と幼馴染であり、早くに母を亡くしたオレも同じだった。
実際、景子には感謝しても仕切れない部分がある為、軽口をきいてはいるが、頭が上がらないのが本音である。
こういった背景があるため俺たち三人は家族以上の絆で結ばれていたと思う。あんな出来事が起こるまでは。
「わかった。ならオレはポイントを稼ぎつつ柚乃の手がかりを探せばいいんだな。まずはこの学園に慣れるのが最優先だろうけど」
「相変わらず話と理解が早くて助かるよ。可愛くはないけどね。あんたもわかってるだろうが、柚乃は強い。早々簡単にやられる子ではないが早めに探し出したい」
「わかってる。俺もそこは心配してない。オレはオレでやってみるよ。話はこれだけ?」
目的は明確になったが、この島に慣れるまでは行動の起こしようもないだろう。悠長に待ってはいられないが、最低でも1~2年はかかるかもしれない。
「待ちな。これを渡しておく」
帰ろうとした俺にヒュッと景子から投げ渡されたものは時計のような物だった。
「これは?」
「学園内でのポイントや決闘システムなどの管理、後は生徒同士の連絡いろいろ出来る端末さね。起動してごらん」
ピッと液晶をタッチするとホログラムのようなものが投影された。
「すげえな…」
ここにいなければ見ることの出来なさそうな技術力に素直に感嘆した。
「そこで色々操作できる。詳しい操作はクラスメイトにでも聞きな。あんまり知りすぎて、ここの関係を疑われたくない。くれぐれも内密にするんだね。目立ちすぎる行動も避けること」
「わかってるババァ」
「…あんたの事この島に呼ぶのどれだけ大変だったと思ってるんだい。少しは感謝してほしいね…」
「悪いな。シリアス過ぎる空気が苦手なもので」
後から聞いた話だが、この島には基本的に編入制度が無く、そもそも入学することすら適性がなければ門前払いである。編入するには相当な特例がないと認められなく、それすらも適性がなければ弾かれるらしい。そもそも途中からでは先に話したようなポイントのハンデがある為編入希望すら全体で1人いれば珍しいことだとか。
だからこそ学園長の私的な理由で編入したのがバレれば他学園や上層部からのバッシングは避けられないのだろう。
俺と学園長が仲が良いと周囲に疑われてしまえば、厄介なことになるのは目に見えている。
恐らくだが、島を永久追放とかでは済まなそうだ。そんなめんどくさくなるような自体はオレも避けたい。
そしてそんなリスクを背負ってまで柚乃を探す機会を与えてくれた景子にも感謝している。
軽口を叩きながらも俺は改めて景子をみる。
「あ、そうそうこの島の人達は強者揃いだ。簡単にポイント稼げると思わないことさね。気を引き締めてかかりな」
「だろうな、今の俺じゃどうにもならないかもしれないけどまぁやれるだけやってみるよ」
主席を目指す必要が薄いとはいえ、ポイントは念の為に集めておきたい。
「それとこれだけの規模の島だ、中には良くないことを企む奴らも存在している。そんな大胆なことしてくる奴はこれまで見たことないが忠告しておく。色々と頼んだよ」
「へいへい」
後ろ向きで右手を振りながら、そう言い残しオレは学園長室を後にする。
パタンと扉を閉めたところであることに気づく。
世間の噂って馬鹿に出来ないんだなぁ…
= = =
風夜が学園長室を確認してから景子は呟く。
「負けるんじゃないよ…なんてのは、いらない心配かねぇ」
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