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感性神経の実験(1)
しおりを挟むプロジェクト会議の日以降、杏奈はアルフレッドと一緒に過ごすことが多くなった。
同じ講義を受ける時は隣に座り、大学内の図書館で一緒に勉強をしたり、食堂でご飯を食べたり、構内を一緒に歩いている姿がよく見かけられ、周囲は2人が付き合い始めたと話題にした。
アルフレッドはマルベリア出身だ。
整った顔立ちに黒髪の彼は、身長も高く筋肉質で、バランスの取れた体型である。
彼はファッションにも関心があるようで、上品で洗練された服装を好んでいる。
現在は大学3年生だが、大学卒業後は、マルベリア大学の修士課程に進む予定だ。
土曜日の午後1時。
学部のメインエントランスに着くと、アルフレッドの姿が見えた。
「アルー!」
杏奈の声にアルフレッドが振り向くと、太陽の光で眩しそうにしながら、杏奈へ微笑みを向ける。
簡単な挨拶をした後に、アルフレッドは「はい、これ。」と言って、持っていたペットボトルを差し出した。以前、杏奈が好きだと言ったお茶だ。
「ありがとう。」
他愛もない話をしながら教室へと向かっていると、「そういえば、」とアルフレッドが話し始めた。
「プロジェクト会議の日に、マーク教授からは手伝ってあげてって言われたけど、今日、杏奈が来なかったらどうしようかと思ったよ。」
「…不安がない、と言ったら嘘になるわ。でも、日本では行えない実験でしょ?それなら、やるべきと思ったのよ。」
「感性神経は人によって違うから、杏奈も興味を持つと思うよ。教室は…、ここだ。」
アルフレッドは、マークから借りていたカードを使って鍵を開けた。杏奈を中に入れると、そこにはまたドアがあり、今度は番号を入力して解錠した。
「なんだか、厳重ね。」
「過去に他学部の学生が侵入したらしい。それが原因でこうなったんだって。」
「ふぅーん。」
「さぁ、そこに座って。」
杏奈を席に座らせると、アルフレッドは、【同意書】と書かれた資料を机に置いた。
「前に口頭では少し話したと思うけど、この講義は、機微(センシティブ)情報に分類されるから、杏奈の同意署名が必要になるんだ。」
「OK。別の講義でも、同様の署名を求められたことがあるから、同意が必要になる意図は理解しているわ。」
目の前に置かれた同意書を読み進めていく杏奈。
不安と期待が入り混じった複雑な気分のまま、各項目にチェックマークを入れていく。
☑ 本同意書に署名した学生自身が被験者となり、感性神経の実験に参加することへの同意。
☑ 感性神経の実験データを、性神経科学のデータベース上へ共有することへの同意。なお、個人情報は匿名化される。
☑ 本学部の教授、および本講義を受講する性神経科学の学生による実験データの収集、保管、開示及び使用の同意。
☑ 別紙に記載される守秘義務の同意。
チェック項目はこれら以外に20項目あり、その他にも【細則】と書かれた別紙が15ページあった。
署名が終わると、アルフレッドは、その同意書と大学のIDカードを胸の前で持つように杏奈に指示をし、写真を撮った。
「講義開始前に、学部長に写真送付が必要なんだ。」
アルフレッドはそう言うと、大学用のメールにその写真を添付し、マークと杏奈に送信した。
「よしっ、お待たせ杏奈。それじゃあ、座学から始めようか。教科書とサンプルデータの情報を共有するよ。」
「ありがとう。」
アルフレッドは、持ってきた教科書を杏奈に見せ、各性行為段階(①前戯(愛撫)、②本番(挿入)、③後戯(ピロートーク))における脳の神経回路を説明した。
データ資料には、心理的安全度や身体的自由度のレベルが数値別に示されている。数字がゼロに近ければ、安全度や自由度がないということを指す。つまり、強姦と同等の意味だ。
教科書には、各段階・レベル別の性的興奮時における脳内の神経物質や、性感帯への刺激に対する反応がデータ情報として載っていた。
(今まで見たことないデータだわ。)
教科書の内容や、資料に載っているサンプルデータに関して、杏奈が疑問に思ったことを質問すると、アルフレッドは全てわかりやすく回答した。
ふと気付けば、お互い飲み物を一切口にしないまま2時間が経っていた。
「座学は一応これで終わり。少し休んでから実験に入ろうか。」
「アルフレッド教授、講義ありがとうございました。(笑)」
「教授!良い響きだ(笑)」
「ふふっ(笑)
ねぇ、それよりアル。その資料は何?」
「んっ?…あぁ。このサンプルの、ここのデータの内容に興味を持って、俺が色々調べたんだけど、、」
アルフレッドはそう言いながら、論文資料を出してきた。
マークや他の教授のものだけでなく、他大学の有名な教授の論文や、国際的に有名な科学雑誌が杏奈の目の前に置かれた。
パラパラとめくると、重要なポイントには蛍光ペンで線が引かれ、アルフレッドが書き込んだであろうコメントが残っている。
「さすが首席ね。」
「杏奈もやってるくせに。」
「いやぁ、アルには負けるわ。これだけ情報を集めて書いたあなたのレポートがとても興味深いわね。今度見せてくれない?」
「えぇ~、嫌だよ!(笑)この授業は1年の前期に受けたものだし、杏奈にレポート内容を見せるのは恥ずかしい。」
「お願い!今度ランチ奢るから!ねっ?」
「ほら、それよりも実験に入るよ!」
「あぁ~、話変えたわね。」
「わかったわかった。見つかったら共有するから。」
座学で使った教科書やデータ資料を片付け、奥の実験室へと向かう。
ドアの前に立つと、アルフレッドはカメラのようなものに目を近づけ、黒い窪みに人差し指を入れた。
虹彩認証と指紋認証だ。
ピー、ピピピピッ。……カチッ。
実験室は広々としているが、窓がなく、特殊技術が施された完全防音の部屋となっていた。
中に入ると、中央にはキングサイズのベッドが置かれ、壁側にはX字型の拘束器具があり、その手前には、取り外し可能な木馬とU字型の椅子が置かれている。
木馬型には、下に黒い固定器具が4つあり、U字型のものは、2つ設置されていた。
壁側の棚には、大人の玩具が新品のまま置かれており、移動式の大きな全身鏡まであった。
「………。す、すごいわね。」
「そう?これに似た部屋が、地下2階の教室にあと15あるよ。」
「………?!!」
「もし興味があったら今度連れて行くよ。さぁ、そこに座って。」
アルフレッドは中央のベッドに杏奈を誘導し、話を続けた。
「このボタンを押すと、この部屋の特殊な技術によって、杏奈の心拍数、身体の熱、脳の神経回路が全てデータ化される。
心理的安全度や身体的自由度のレベル設定については、これから行う実験のデータを分析した後に、決めていくんだ。」
「こ、これから行う実験って……?」
「俺が見ている前で自慰行為。」
「……………。」
杏奈はカァッと顔を熱くする。
「この実験の目的は、自身の性感帯を把握することなんだ。そして、蓄積されたデータベースから比較分析をして、杏奈自身が新たな性感帯を知るきっかけにもなる。」
不安げな表情の杏奈をどうにか安心させようと、アルフレッドは話を続けた。
「お…、俺に見られて恥ずかしいのはわかるけど、俺だって……ほら…色々と我慢しなきゃいけないんだから!」
「………ぷっ、あははっ(笑)何よそれ。」
「そりゃそうだろ!(笑)」
「はぁ~!アル、あなたって本当に面白い人ね。(笑)励ましてくれてありがとう(笑)
わかったわ。実験はやるけど、でも、お願いが2つあるの。いいかしら?」
要望に応じることができるかわからないけど、という前置きの後に、「なに?」と尋ねるアルフレッド。
「1つは、電気をもう少し暗くしてほしいわ。」
なんだそんなことか、と言わんばかりの表情をしつつ、アルフレッドは微笑を浮かべながら、リモコンで電気を調整した。
「……で、もう1つは?」
「あなたは、私の…、その……、…自慰行為を見るわけでしょ?私だけ恥ずかしい思いをするのは不公平だわ。
だから、私の後は、あなたの番ってことでいいかしら?」
「……っっ?!!な…なんでだよ!俺だって昔この実験をやったの。だから不公平ではない。そのリクエストは却下!」
「いじわる!私、今まで人前で自慰行為なんてしたことないのよ?こんな恥ずかしいこと、彼氏の前でもできないわ。」
「はいはい、わかったわかった。杏奈が俺をその気にさせてくれたら、まぁ、改めて検討してもいいけど。」
茶目っ気たっぷりに、イタズラっぽい笑みを浮かべながら、アルフレッドは座っている杏奈に近づいた。
ふてくされ顔の杏奈に微笑みながら、彼女の頭をポンポンした。
そして、頭を優しく撫でた後に、杏奈の耳朶を触ると、少し身をかがめた。
「杏奈、俺を楽しませて。」
そして、杏奈の耳にチュッとキスをする。
「……っっ!」
耳が敏感の杏奈は、その口づけだけで身体が妖しく火照りだした。
ボタンの方へと進むアルフレッド。
そして感性神経の実験は開始された。
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