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41. クライスとゲイル(ゲイルside)
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見てはいけないものを見てしまったという事は、ものを知らない俺でもよくわかる。金色の髪の毛は王様とその家族だけだというのはこの国に住んでる人なら誰でも知っている。ターニャさんはカイルが言うようにすごい美人さんだったし昔のカティアよりも品があったけど、街から来た人だからだと思っていた。まさかお姫様がこんな所にいるだなんて思わないだろう?
エディさんもこの間宿で話した時とは全然違う。本当に殺されるかと思った。いや、クライスさんが止めてくれなかったら殺されてただろう。そう思うと足がすくんで小屋に入れなかった。俺が小屋に入れず入り口で立ちすくんでいると、クライスさんがこっちに向かってきた。
「ゲイル君、少し外で話しませんか」
クライスさんだけは宿で話していた時とあまり変わらなかった。それに少しほっとして頷き、クライスさんについて行く。雨は少し弱くなってきていて、外套を被れば気にならないくらいだった。
「すみません、こちらの落ち度です」
クライスさんは小屋から少しだけ離れた大きな木の下で足を止めると、振り返り俺に頭を下げた。
「えっ…いや…」
何で謝られているのかわからなくて変な声しか返せないでいると、クライスさんは顔を上げた。少しだけ困ったように笑っている。
「驚かれたでしょう」
「そりゃ驚きは…し、ました…」
クライスさんも貴族なんだろうと思うとどういう話し方をしたら良いかわからなくて下を向きながら返すと、肩をぽんと叩かれた。
「今までと同じで良いですよ」
「…わかった」
カティアみたいに丁寧な話し方なんて出来ないから、申し出はありがたく受け取った。
「さて、何から話しましょうか」
「話してくれるのか?」
てっきり今見たものは何も聞かずに黙っていろと言われるのだろうと思っていた。それは覚悟していたし、こんな事他の人に話すなんて出来ないだろうと思っていたから意外だ。
「まったく知らない相手という訳でもありませんし、ゲイル君だって気持ちがわるいでしょう。決して身分を隠していなければならないという事でもなくこちらの方が動きやすいからというだけでしたので。それに、カティアさんの事を心配しているのではないかと思いまして」
それは言われた通りだった。もしカティアが全部知ってるとしたら、この秘密をあいつ一人で抱えて、カイルも俺も、客にもバレないようにするのは大変だっただろう。知らなかったとしたらきっとショックを受けるだろう。
「カティアは、知ってるのか?」
「はい、お伝えして、協力していただいています」
後者じゃなくてまだ良かった。
「ですから、カティアさんにお話した事と同じ内容をゲイル君にもお話出来ます。でも、これはお願いになりますが、出来れば他の方には秘密にしておいていただけるとありがたいです」
「…カティアには俺が知ってる事を言ってもいいのか?」
出来れば俺も秘密を知っている者としてあいつの負担を軽くしてやりたい。そう告げると、クライスさんは笑った。
「はは、だからゲイル君は信用出来るんですよ」
信用、してくれてるのか。それは嬉しいけど笑い方が何だか褒められてる気がしないのは気の所為だろうか。
クライスさんの話によると、ターニャさんは王様からの命でここら辺の調査に来てるらしい。でもお姫様とわかると俺達に気を遣わせるし、本音も言わないだろうからカティアの宿を拠点に平民のフリをして話を聞いていたという話だ。
「あそこはここらの住民ていうより商人が多いけど、役に立ったのか?」
「えぇ、お陰様で気になる情報を手に入れまして、今こうして国境の村まで向かっているところです。情報の詳細もお話できますが…」
「いいよ、何か難しそうだ」
「そうですか」
俺の村に用があるんだったら覚悟するのに聞いておきたいけど、国境の村なら俺が聞いてもしょうがないだろう。相手がお姫様なんだったら、俺なんかが今更何をしても変わらない。これでこの話は終わりでいい。
「なぁ、クライスさん」
「はい」
ターニャさんの仕事はもう俺にとっては世界が違いすぎて関わる気にはならないけど、どうしても一つ気になる事がある。
「前に、カティアを連れて行くつもりだって言ってたよな?あの時は街に連れて行くんだと思ってたけど、お城に連れて行くって事になるのか?」
そう尋ねると、クライスさんはびっくりした顔をして、一度目を逸らしてしばらく考えるように目を瞑った後ふぅ、とため息を吐いた。
「…勢いに任せて話すものではないですね。私の落ち度から来る事で申し訳ないですが命令に近い形で言わせていただきます。忘れてください、これは当のカティアさんにも、姫様とエディにも話せない事ですので」
そう言うクライスさんの顔はカティアの事が命よりも大切だと言った時のものと同じで、ものすごく真剣な表情だった。カティア、お前は貴族様とどんな関係なんだ?カティアにも言えないって事は本人も知らないんだろうけど…。
「…わかった。本当に忘れるなんて出来ないけど誰にも言わないし、もちろんカティアにも言わない」
「ありがとうございます」
「でも、カティアが辛い目に合うなら俺はカティアの方につくからな」
「それはもちろん。そうならないように善処しますが」
優しく笑うその顔に、胸のあたりがちくりと痛んだ。
「…ゲイル君、もう一つお願いが」
いつの間にか雨が止んでいた森に日が射してきて、空を見ながら反射する光に目を細めてクライスさんは言った。
「我々が宿を離れている間、カティアさんといていただけませんか」
思ってもいなかった事を言われた。
「魔獣も出るようになりましたし、少し心配で」
「そう、だな…それにこの前宿に行った時はあんたたちとすごく自然に笑ってたから淋しがってると思う」
たぶん、エリザさんが亡くなって一人だった時も淋しかっただろうけど、いきなり3人もいなくなったら余計に宿が広く感じたり静かに感じたりするんだろう。でもきっとまた無理して平気なように振る舞うんだ。
「わかった。じいちゃんに話してすぐに向かう」
カティアはきっとまた村の方は大丈夫かとか心配するだろうけど、そしたらそれよりもカティアが心配だと伝えればいい。そう考えていると、クライスさんは大きな溜息を吐きながら手で顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ。
「…だ、大丈夫か?」
「いえ、すみません。ちょっと自己嫌悪に陥っただけです」
「自己嫌悪?」
何を言ってるのかわからなくて聞き返すと、顔を覆っていた手を半分だけずらして一度俺の方をちらりと見たかと思うと、またはぁ、と今度は小さくため息を吐いた。何なんだ。
「…私はゲイル君レベルにカティアさんを優先出来なかったんです。この状況でカティアさんが安心出来る環境を整えるにはゲイル君にお願いするのが一番だというのは最初から頭にありました。ですが、その考えに至ってから先程までずっと言うのを躊躇っていたんです。自分の感情を優先したんですよ。だってこの状況で君がカティアさんの側にいたら頼りにされるでしょうし、元々高い好感度が更に上がるに決まってるじゃないですか。くだらない嫉妬の方を優先したんです。情けないでしょう?」
街の人で品があって俺より大人でしっかりしてると思ってた実は貴族のクライスさんがじいちゃんに怒られていじけたカイルみたいな顔をしてぐちぐちと言い出し始めた。
「…まぁ、ちょっと女々しいとは思うけど、それだけカティアを好きって事だろ」
そう自分で言ってまた胸がちくちくとした。じゃあ俺はどうなんだ、と頭の中で誰かに問いかけられた気がした。その痛みに気づいていないフリをしてクライスさんの方を見ていると、眉間に皺を寄せてじとりと睨んできた。そんな顔をしていても男から見ても綺麗な顔だと思ってしまうのは腹が立つな。
「…君は本当に好青年ですね」
「それ、褒めてないだろ」
「そんな事はないですよ、心からの賛辞です。特にカティアさんの気持ち優先の徹底っぷりには憧れすらあります」
しゃがみながら頬杖をついたクライスさんはまたはぁ、とため息を吐いてぽそりと言った。
「自分の振る舞いに自信がないわけではないですが、君といると揺らぎます。カティアさんはゲイル君の側にいた方が幸せなんじゃないかと」
あぁそうか、さっきから胸がちくちくと痛かったのは俺もそう思っていたからか。クライスさんと一緒にいた方がカティアは幸せなんだろうって。俺は、カティアがクライスさんを選ぶなら、クライスさんならカティアをきっと守ってくれると思えるから、それなら良いと思ってしまった。クライスさんみたいに、何が何でも自分がカティアを幸せにしたいとは思えなかった。
「…何が幸せかなんてカティアが選ぶ事だろ。そもそも俺達どちらも選ばれない可能性もあるし」
思い至った瞬間、不思議と胸の痛みも不安も消えたが何となく悔しくてそう答えると、クライスさんはその通りだ、と軽く笑いながら言って立ち上がった。
「さて、小屋に戻りましょうか。エディも頭が冷えている頃でしょう」
頭と外套についた水滴を払って小屋の扉を開けると、床に正座しているエディさんが目に入った。何をしているんだ。
「ゲイルさん!」
俺の姿を目にしたターニャさんが駆け寄ってきた。もう髪の色は元に戻っている…いや、金色の方が元なのか。
「先程は本当に申し訳ありませんでした。エディには厳しく注意しておきましたのでどうかお許しいただけませんでしょうか」
「え、いや、俺の方こそいきなり藁なんて被せて悪かった。痛くなかったか?…ですか」
「ふふ、今までと同じ話し方で大丈夫ですよ」
ターニャさんはそう言ってくれたけど、また殺されそうになるのが怖くてエディさんの方を見ると、心なしかしょんぼりとした顔をしたエディさんがこくりと頷いてくれた。というかその正座はもしかして厳しく注意されたからなのか?
「姫様、エドアルド、ゲイル君にはカティアさんに初日にお話しした事と同じ様に説明しました。ゲイル君に話しても害はないと私が判断いたしました」
そうクライスさんが言うと、エディさんは立ち上がって俺に頭を下げて来た。
「ゲイル君、怖い思いをさせて申し訳なかった」
「エディはわたくしの護衛なので仕方のないところはあるのですが、それでもやりようはあるでしょう、と叱っておきました」
「俺もやりようはあったと思うよ。その、怖かったけどそれがエディさんの仕事なら仕方ないと思うし。お互い悪かったって事でこれで終わりじゃ駄目か?」
お姫様と貴族に立て続けに謝られたら俺の精神が保たない。
「そう…ですね、ゲイルさんさえよろしければ」
「俺は構わないよ。ケガしたとかでもないし」
そう返すとターニャさんとエディさんは安心したように笑ってくれた。またクライスさんに笑われそうだけど、カティアの為にもこの人達とは今までどおりにしていたい。
「では話がまとまったところで出発しましょうか」
「今夜は俺の村に泊まるのか?」
「はい、そのつもりです」
「なら俺んち泊まっていけばいいよ。カイルも知った顔だろうし、じいちゃんもきっと喜ぶ」
さっきみたいに予想外のトラブルがあったとしてもじいちゃんならうまくやってくれるだろう。俺の提案に3人は嬉しそうに頷いてくれた。
エディさんもこの間宿で話した時とは全然違う。本当に殺されるかと思った。いや、クライスさんが止めてくれなかったら殺されてただろう。そう思うと足がすくんで小屋に入れなかった。俺が小屋に入れず入り口で立ちすくんでいると、クライスさんがこっちに向かってきた。
「ゲイル君、少し外で話しませんか」
クライスさんだけは宿で話していた時とあまり変わらなかった。それに少しほっとして頷き、クライスさんについて行く。雨は少し弱くなってきていて、外套を被れば気にならないくらいだった。
「すみません、こちらの落ち度です」
クライスさんは小屋から少しだけ離れた大きな木の下で足を止めると、振り返り俺に頭を下げた。
「えっ…いや…」
何で謝られているのかわからなくて変な声しか返せないでいると、クライスさんは顔を上げた。少しだけ困ったように笑っている。
「驚かれたでしょう」
「そりゃ驚きは…し、ました…」
クライスさんも貴族なんだろうと思うとどういう話し方をしたら良いかわからなくて下を向きながら返すと、肩をぽんと叩かれた。
「今までと同じで良いですよ」
「…わかった」
カティアみたいに丁寧な話し方なんて出来ないから、申し出はありがたく受け取った。
「さて、何から話しましょうか」
「話してくれるのか?」
てっきり今見たものは何も聞かずに黙っていろと言われるのだろうと思っていた。それは覚悟していたし、こんな事他の人に話すなんて出来ないだろうと思っていたから意外だ。
「まったく知らない相手という訳でもありませんし、ゲイル君だって気持ちがわるいでしょう。決して身分を隠していなければならないという事でもなくこちらの方が動きやすいからというだけでしたので。それに、カティアさんの事を心配しているのではないかと思いまして」
それは言われた通りだった。もしカティアが全部知ってるとしたら、この秘密をあいつ一人で抱えて、カイルも俺も、客にもバレないようにするのは大変だっただろう。知らなかったとしたらきっとショックを受けるだろう。
「カティアは、知ってるのか?」
「はい、お伝えして、協力していただいています」
後者じゃなくてまだ良かった。
「ですから、カティアさんにお話した事と同じ内容をゲイル君にもお話出来ます。でも、これはお願いになりますが、出来れば他の方には秘密にしておいていただけるとありがたいです」
「…カティアには俺が知ってる事を言ってもいいのか?」
出来れば俺も秘密を知っている者としてあいつの負担を軽くしてやりたい。そう告げると、クライスさんは笑った。
「はは、だからゲイル君は信用出来るんですよ」
信用、してくれてるのか。それは嬉しいけど笑い方が何だか褒められてる気がしないのは気の所為だろうか。
クライスさんの話によると、ターニャさんは王様からの命でここら辺の調査に来てるらしい。でもお姫様とわかると俺達に気を遣わせるし、本音も言わないだろうからカティアの宿を拠点に平民のフリをして話を聞いていたという話だ。
「あそこはここらの住民ていうより商人が多いけど、役に立ったのか?」
「えぇ、お陰様で気になる情報を手に入れまして、今こうして国境の村まで向かっているところです。情報の詳細もお話できますが…」
「いいよ、何か難しそうだ」
「そうですか」
俺の村に用があるんだったら覚悟するのに聞いておきたいけど、国境の村なら俺が聞いてもしょうがないだろう。相手がお姫様なんだったら、俺なんかが今更何をしても変わらない。これでこの話は終わりでいい。
「なぁ、クライスさん」
「はい」
ターニャさんの仕事はもう俺にとっては世界が違いすぎて関わる気にはならないけど、どうしても一つ気になる事がある。
「前に、カティアを連れて行くつもりだって言ってたよな?あの時は街に連れて行くんだと思ってたけど、お城に連れて行くって事になるのか?」
そう尋ねると、クライスさんはびっくりした顔をして、一度目を逸らしてしばらく考えるように目を瞑った後ふぅ、とため息を吐いた。
「…勢いに任せて話すものではないですね。私の落ち度から来る事で申し訳ないですが命令に近い形で言わせていただきます。忘れてください、これは当のカティアさんにも、姫様とエディにも話せない事ですので」
そう言うクライスさんの顔はカティアの事が命よりも大切だと言った時のものと同じで、ものすごく真剣な表情だった。カティア、お前は貴族様とどんな関係なんだ?カティアにも言えないって事は本人も知らないんだろうけど…。
「…わかった。本当に忘れるなんて出来ないけど誰にも言わないし、もちろんカティアにも言わない」
「ありがとうございます」
「でも、カティアが辛い目に合うなら俺はカティアの方につくからな」
「それはもちろん。そうならないように善処しますが」
優しく笑うその顔に、胸のあたりがちくりと痛んだ。
「…ゲイル君、もう一つお願いが」
いつの間にか雨が止んでいた森に日が射してきて、空を見ながら反射する光に目を細めてクライスさんは言った。
「我々が宿を離れている間、カティアさんといていただけませんか」
思ってもいなかった事を言われた。
「魔獣も出るようになりましたし、少し心配で」
「そう、だな…それにこの前宿に行った時はあんたたちとすごく自然に笑ってたから淋しがってると思う」
たぶん、エリザさんが亡くなって一人だった時も淋しかっただろうけど、いきなり3人もいなくなったら余計に宿が広く感じたり静かに感じたりするんだろう。でもきっとまた無理して平気なように振る舞うんだ。
「わかった。じいちゃんに話してすぐに向かう」
カティアはきっとまた村の方は大丈夫かとか心配するだろうけど、そしたらそれよりもカティアが心配だと伝えればいい。そう考えていると、クライスさんは大きな溜息を吐きながら手で顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ。
「…だ、大丈夫か?」
「いえ、すみません。ちょっと自己嫌悪に陥っただけです」
「自己嫌悪?」
何を言ってるのかわからなくて聞き返すと、顔を覆っていた手を半分だけずらして一度俺の方をちらりと見たかと思うと、またはぁ、と今度は小さくため息を吐いた。何なんだ。
「…私はゲイル君レベルにカティアさんを優先出来なかったんです。この状況でカティアさんが安心出来る環境を整えるにはゲイル君にお願いするのが一番だというのは最初から頭にありました。ですが、その考えに至ってから先程までずっと言うのを躊躇っていたんです。自分の感情を優先したんですよ。だってこの状況で君がカティアさんの側にいたら頼りにされるでしょうし、元々高い好感度が更に上がるに決まってるじゃないですか。くだらない嫉妬の方を優先したんです。情けないでしょう?」
街の人で品があって俺より大人でしっかりしてると思ってた実は貴族のクライスさんがじいちゃんに怒られていじけたカイルみたいな顔をしてぐちぐちと言い出し始めた。
「…まぁ、ちょっと女々しいとは思うけど、それだけカティアを好きって事だろ」
そう自分で言ってまた胸がちくちくとした。じゃあ俺はどうなんだ、と頭の中で誰かに問いかけられた気がした。その痛みに気づいていないフリをしてクライスさんの方を見ていると、眉間に皺を寄せてじとりと睨んできた。そんな顔をしていても男から見ても綺麗な顔だと思ってしまうのは腹が立つな。
「…君は本当に好青年ですね」
「それ、褒めてないだろ」
「そんな事はないですよ、心からの賛辞です。特にカティアさんの気持ち優先の徹底っぷりには憧れすらあります」
しゃがみながら頬杖をついたクライスさんはまたはぁ、とため息を吐いてぽそりと言った。
「自分の振る舞いに自信がないわけではないですが、君といると揺らぎます。カティアさんはゲイル君の側にいた方が幸せなんじゃないかと」
あぁそうか、さっきから胸がちくちくと痛かったのは俺もそう思っていたからか。クライスさんと一緒にいた方がカティアは幸せなんだろうって。俺は、カティアがクライスさんを選ぶなら、クライスさんならカティアをきっと守ってくれると思えるから、それなら良いと思ってしまった。クライスさんみたいに、何が何でも自分がカティアを幸せにしたいとは思えなかった。
「…何が幸せかなんてカティアが選ぶ事だろ。そもそも俺達どちらも選ばれない可能性もあるし」
思い至った瞬間、不思議と胸の痛みも不安も消えたが何となく悔しくてそう答えると、クライスさんはその通りだ、と軽く笑いながら言って立ち上がった。
「さて、小屋に戻りましょうか。エディも頭が冷えている頃でしょう」
頭と外套についた水滴を払って小屋の扉を開けると、床に正座しているエディさんが目に入った。何をしているんだ。
「ゲイルさん!」
俺の姿を目にしたターニャさんが駆け寄ってきた。もう髪の色は元に戻っている…いや、金色の方が元なのか。
「先程は本当に申し訳ありませんでした。エディには厳しく注意しておきましたのでどうかお許しいただけませんでしょうか」
「え、いや、俺の方こそいきなり藁なんて被せて悪かった。痛くなかったか?…ですか」
「ふふ、今までと同じ話し方で大丈夫ですよ」
ターニャさんはそう言ってくれたけど、また殺されそうになるのが怖くてエディさんの方を見ると、心なしかしょんぼりとした顔をしたエディさんがこくりと頷いてくれた。というかその正座はもしかして厳しく注意されたからなのか?
「姫様、エドアルド、ゲイル君にはカティアさんに初日にお話しした事と同じ様に説明しました。ゲイル君に話しても害はないと私が判断いたしました」
そうクライスさんが言うと、エディさんは立ち上がって俺に頭を下げて来た。
「ゲイル君、怖い思いをさせて申し訳なかった」
「エディはわたくしの護衛なので仕方のないところはあるのですが、それでもやりようはあるでしょう、と叱っておきました」
「俺もやりようはあったと思うよ。その、怖かったけどそれがエディさんの仕事なら仕方ないと思うし。お互い悪かったって事でこれで終わりじゃ駄目か?」
お姫様と貴族に立て続けに謝られたら俺の精神が保たない。
「そう…ですね、ゲイルさんさえよろしければ」
「俺は構わないよ。ケガしたとかでもないし」
そう返すとターニャさんとエディさんは安心したように笑ってくれた。またクライスさんに笑われそうだけど、カティアの為にもこの人達とは今までどおりにしていたい。
「では話がまとまったところで出発しましょうか」
「今夜は俺の村に泊まるのか?」
「はい、そのつもりです」
「なら俺んち泊まっていけばいいよ。カイルも知った顔だろうし、じいちゃんもきっと喜ぶ」
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表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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