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ヴァルカ城の歴史において、これほどまでに白く、ふわふわとしたものが舞い散る日は後にも先ほどにもないだろう。
礼拝堂の扉が重厚な音を立てて開くと、そこに広がっていたのは、神聖な静寂……ではなく、数百匹の猫たちが一斉に鳴き声を上げる、圧倒的な「もふもふの聖歌」だった。
「さあ、皆様! 猫様たちの入場ですわよ!」
私の号令と共に、二十メートルのキャットウォークを、タキシード姿のクロとミケが先頭を切って走り出した。
その後ろには、王都から連れてきた精鋭たちと、辺境の野生味溢れる猫たちが、尻尾を高く掲げて行進する。
「おお……! なんと、なんと尊い光景だ。神よ、私は今、真の楽園を目の当たりにしております」
最前列に座る元審問官のマルファス様が、数珠の代わりに猫じゃらしを握りしめ、ボロボロと涙を流している。
私の父、オーシュ侯爵もまた、正装の胸ポケットに忍ばせた煮干しを猫たちに狙われながら、鼻の下を伸ばして喜んでいた。
私は、純白のウェディングドレスを翻し、祭壇へと歩みを進める。
そこには、銀髪を夜風になびかせ、凛々しい軍服を纏った……けれど、全身に子猫が鈴なりになっているレオナール様が待っていた。
「……ロゼル。遅かったな。俺の限界が近い。これ以上子猫が増えると、俺の肩の骨が外れてしまう」
「あら、レオナール様。なんて素晴らしい『猫の鎧』かしら! 貴方のその圧倒的なマタタビ・オーラ、今日も最高潮に輝いておりますわよ」
私は彼の隣に立ち、そっとその大きな手を取った。
子猫が一匹、私たちの繋いだ手の上に器用に乗っかる。
「レオナール様。私は貴方を、生涯の伴侶として、そして猫様を愛でる同志として、永遠に愛することを誓いますわ。例え貴方の服が毛だらけになろうとも、粘着ローラーは私が一生担当いたします!」
「……俺も誓おう。ロゼル、貴様が猫を追いかけて崖から落ちそうになっても、俺がこの氷の魔法で貴様を、そして猫を全力で受け止めると。……貴様という名の、世界一騒がしい飼い主と共に歩むことを、ここに誓う」
レオナール様が、少しだけ照れくさそうに、けれど真剣な眼差しで私を見つめた。
そして、運命の瞬間。
「リングベアラー」であるミケが、首から下げた指輪ケースと共に、レオナール様の足元へ飛び込んだ。
「ミケ、ナイスアプローチですわ! さあ、レオナール様。指輪を」
「……待て、ミケ! 指輪ケースを噛むな! それは食べ物ではない!」
祭壇の上で繰り広げられる、新郎と猫の真剣勝負。
参列者たちは、固唾を呑んで……というより、猫の可愛さに身悶えしながらその様子を見守った。
ようやく交換された指輪。
そして、誓いのキス。
レオナール様が私の腰を引き寄せ、顔を近づけてくる。
甘い、マタタビの香りと彼の熱が混ざり合う、至福の瞬間――。
「……ベロォォォォォン!!」
二人の唇が触れ合う寸前、巨大山猫の主様が背後から現れ、私たちの顔をまとめて巨大な舌で舐め上げた。
「きゃっ!? 顔がびしょ濡れですわ!」
「……ふっ、ははは! やはりこうなるか。主(ぬし)にまで祝福されるとは、俺たちらしいな、ロゼル」
レオナール様が顔を拭いながら、声を上げて笑った。
冷徹だった「氷の公爵」の面影はどこにもない。そこには、愛する女性と猫たちに囲まれた、一人の幸せな男の顔があった。
「おーっほっほ! 最高ですわ! 皆様、ご覧なさい! これが、私たちが築き上げる、もふもふの帝国の始まりですわよ!」
私の宣言と共に、礼拝堂中に大量の猫用おやつが(フラワーシャワーの代わりに)撒かれた。
猫たちは狂喜乱舞し、人間たちはそれを見て涙し、ヴァルカ城はかつてない幸福な混沌に包まれた。
それから、数年後。
ヴァルカ領は、世界中から猫好きが集まる「もふもふの聖地」として発展を遂げていた。
王都では、いまだにネズミの影に怯えるウィルフリード殿下の噂が時折聞こえてくるが、今の私には遠い異国の出来事のようにしか感じられない。
「レオナール様。見てください、あそこに新しい猫溜まりができていますわよ」
私は、庭園のベンチでレオナール様の膝に頭を預け、のんびりと空を眺めていた。
私たちの周りには、相変わらずミケやクロ、そして成長した子猫たちが、ひだまりのように丸まっている。
「ああ。……平和だな、ロゼル」
「ええ。婚約破棄されたあの日、私は人生が終わったと思いましたけれど……。今思えば、あれは猫様が授けてくださった、最高のギフトだったのですわね」
「……そうだな。俺も、貴様という名の嵐に巻き込まれて、本当によかったと思っている」
レオナール様が私の額に、優しく口づけを落とした。
今度は猫の邪魔も入らず、私たちは静かに、けれど深く、愛を確かめ合う。
猫と、公爵と、悪役令嬢。
私たちの「もふもふ」な物語は、これからも終わることなく、喉を鳴らす幸せな音と共に続いていくのである。
礼拝堂の扉が重厚な音を立てて開くと、そこに広がっていたのは、神聖な静寂……ではなく、数百匹の猫たちが一斉に鳴き声を上げる、圧倒的な「もふもふの聖歌」だった。
「さあ、皆様! 猫様たちの入場ですわよ!」
私の号令と共に、二十メートルのキャットウォークを、タキシード姿のクロとミケが先頭を切って走り出した。
その後ろには、王都から連れてきた精鋭たちと、辺境の野生味溢れる猫たちが、尻尾を高く掲げて行進する。
「おお……! なんと、なんと尊い光景だ。神よ、私は今、真の楽園を目の当たりにしております」
最前列に座る元審問官のマルファス様が、数珠の代わりに猫じゃらしを握りしめ、ボロボロと涙を流している。
私の父、オーシュ侯爵もまた、正装の胸ポケットに忍ばせた煮干しを猫たちに狙われながら、鼻の下を伸ばして喜んでいた。
私は、純白のウェディングドレスを翻し、祭壇へと歩みを進める。
そこには、銀髪を夜風になびかせ、凛々しい軍服を纏った……けれど、全身に子猫が鈴なりになっているレオナール様が待っていた。
「……ロゼル。遅かったな。俺の限界が近い。これ以上子猫が増えると、俺の肩の骨が外れてしまう」
「あら、レオナール様。なんて素晴らしい『猫の鎧』かしら! 貴方のその圧倒的なマタタビ・オーラ、今日も最高潮に輝いておりますわよ」
私は彼の隣に立ち、そっとその大きな手を取った。
子猫が一匹、私たちの繋いだ手の上に器用に乗っかる。
「レオナール様。私は貴方を、生涯の伴侶として、そして猫様を愛でる同志として、永遠に愛することを誓いますわ。例え貴方の服が毛だらけになろうとも、粘着ローラーは私が一生担当いたします!」
「……俺も誓おう。ロゼル、貴様が猫を追いかけて崖から落ちそうになっても、俺がこの氷の魔法で貴様を、そして猫を全力で受け止めると。……貴様という名の、世界一騒がしい飼い主と共に歩むことを、ここに誓う」
レオナール様が、少しだけ照れくさそうに、けれど真剣な眼差しで私を見つめた。
そして、運命の瞬間。
「リングベアラー」であるミケが、首から下げた指輪ケースと共に、レオナール様の足元へ飛び込んだ。
「ミケ、ナイスアプローチですわ! さあ、レオナール様。指輪を」
「……待て、ミケ! 指輪ケースを噛むな! それは食べ物ではない!」
祭壇の上で繰り広げられる、新郎と猫の真剣勝負。
参列者たちは、固唾を呑んで……というより、猫の可愛さに身悶えしながらその様子を見守った。
ようやく交換された指輪。
そして、誓いのキス。
レオナール様が私の腰を引き寄せ、顔を近づけてくる。
甘い、マタタビの香りと彼の熱が混ざり合う、至福の瞬間――。
「……ベロォォォォォン!!」
二人の唇が触れ合う寸前、巨大山猫の主様が背後から現れ、私たちの顔をまとめて巨大な舌で舐め上げた。
「きゃっ!? 顔がびしょ濡れですわ!」
「……ふっ、ははは! やはりこうなるか。主(ぬし)にまで祝福されるとは、俺たちらしいな、ロゼル」
レオナール様が顔を拭いながら、声を上げて笑った。
冷徹だった「氷の公爵」の面影はどこにもない。そこには、愛する女性と猫たちに囲まれた、一人の幸せな男の顔があった。
「おーっほっほ! 最高ですわ! 皆様、ご覧なさい! これが、私たちが築き上げる、もふもふの帝国の始まりですわよ!」
私の宣言と共に、礼拝堂中に大量の猫用おやつが(フラワーシャワーの代わりに)撒かれた。
猫たちは狂喜乱舞し、人間たちはそれを見て涙し、ヴァルカ城はかつてない幸福な混沌に包まれた。
それから、数年後。
ヴァルカ領は、世界中から猫好きが集まる「もふもふの聖地」として発展を遂げていた。
王都では、いまだにネズミの影に怯えるウィルフリード殿下の噂が時折聞こえてくるが、今の私には遠い異国の出来事のようにしか感じられない。
「レオナール様。見てください、あそこに新しい猫溜まりができていますわよ」
私は、庭園のベンチでレオナール様の膝に頭を預け、のんびりと空を眺めていた。
私たちの周りには、相変わらずミケやクロ、そして成長した子猫たちが、ひだまりのように丸まっている。
「ああ。……平和だな、ロゼル」
「ええ。婚約破棄されたあの日、私は人生が終わったと思いましたけれど……。今思えば、あれは猫様が授けてくださった、最高のギフトだったのですわね」
「……そうだな。俺も、貴様という名の嵐に巻き込まれて、本当によかったと思っている」
レオナール様が私の額に、優しく口づけを落とした。
今度は猫の邪魔も入らず、私たちは静かに、けれど深く、愛を確かめ合う。
猫と、公爵と、悪役令嬢。
私たちの「もふもふ」な物語は、これからも終わることなく、喉を鳴らす幸せな音と共に続いていくのである。
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