婚約破棄?望むところですわ!悪役令嬢、高笑いで身を引いた先で過保護王子に捕まる

ツナ

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「……スイー、また君は何を作っているんだい?」

離宮の私室に足を踏み入れたレオンハルト様が、部屋の惨状を見て足を止めました。
そこには、毒々しい紫色の布地や、鋭利な棘がついた装飾品、そしてなぜか大量の黒い羽根が散乱しています。

「おーっほっほっほ! 見てくださいまし! これこそが、私の『真の邪悪』を表現するための戦闘服ですわ!」

私は、出来上がったばかりの「呪いのドレス(自称)」を掲げて見せました。
あまりに奇抜で、夜道で会えば悲鳴を上げて逃げ出すレベルの代物です。
これなら、聖女だの美の女神だのという誤解を、一気に払拭できるはずですわ!

「……戦闘服? 明日の夜会は、ただの親睦会だと言ったはずだが」

「いいえ! 私にとっては戦場ですわ! なんでも、隣国の公爵令嬢であるセラフィナ様が、私に『ご挨拶』をしたいと仰っているのでしょう?」

セラフィナ・ド・ルージュ。
このヴァルディア王国でも指折りの高慢令嬢として知られる彼女は、突如現れて王子の寵愛(?)を受ける私を、敵視しているという噂です。
素晴らしい。ようやく本物の「敵役」の登場ですわ!

「彼女はかなり気性が激しい。君を追い出そうと、何か卑劣な罠を仕掛けてくるかもしれない。……僕がそばにいた方がいいかな?」

「いいえ! 結構ですわ! 罠なんて、悪役令嬢にとっては最高のスパイス。彼女が私をいじめればいじめるほど、私の悪役としての格が上がるのですから!」

私は拳を握りしめ、明日の対決に胸を躍らせました。

そして迎えた夜会の夜。
王宮の広間は、煌びやかな衣装に身を包んだ貴族たちで埋め尽くされていました。
そこへ、真っ黒な羽根を背負い、棘だらけのドレスを着た私が入場したのです。

会場が一瞬で静まり返りました。
(ふふふ、恐怖していますわね! この禍々しさに、言葉を失っていますわ!)

「……あら。貴女が、カイル王子に捨てられて、こちらのレオンハルト様に拾われたという『おこぼれ令嬢』ですの?」

扇をパチンと閉じ、一人の令嬢が私の前に立ちはだかりました。
燃えるような赤髪を高く結い上げ、傲慢な笑みを浮かべた美女――セラフィナ様です。

「おーっほっほっほ! おこぼれとは失礼な。私は自ら、より邪悪な環境を求めてこちらへ参ったのですわ、セラフィナ様!」

「ふん、強がりを。……見てなさい、その異様な格好。貴女、正気ですの? まるでカラスの化身ではありませんか」

「カラス! 最高の褒め言葉ですわ! 闇夜に紛れ、不幸を運ぶ鳥……。私の美学を理解してくださるなんて、貴女、なかなか筋が良いですわね!」

「……はぁ?」

セラフィナ様が、毒を吐くのも忘れてポカンと口を開けました。
周囲の令嬢たちも、「えっ、喜んでるの?」「あの格好、もしかして最先端……?」とザワつき始めます。

「貴女、馬鹿にしているのですか? ……いいわ、これを見なさい!」

セラフィナ様が合図を送ると、給仕が大きなトレイを運んできました。
そこには、真っ赤なソースがたっぷりとかかった、何やら不気味な料理が乗っています。

「これは、我が領地で採れる『炎の魔椒』をふんだんに使った激辛料理ですわ。……貴女、これを完食できなければ、今すぐこの国から立ち去っていただきます!」

会場から「そんな!」「あまりに無慈悲な……!」という声が上がります。
この『炎の魔椒』は、一口食べれば気絶するとまで言われる殺人的なスパイスなのです。

しかし、私の目は輝きました。

「まあ! なんて素敵な贈り物ですの! これ、私がずっと欲しかった激辛食材ではありませんか!」

「……なんですって?」

私は優雅にフォークを手に取り、その真っ赤な塊を迷わず口に運びました。
口の中で爆発するような激痛……いえ、快感!

「……っ、ふふ、ふふふふ! 素晴らしい! 喉が焼けるようですわ! これこそ、悪の晩餐にふさわしい衝撃!」

私は悶絶……するどころか、満面の笑みで次々と料理を平らげていきました。
公爵家で禁じられていた激辛料理を、これほど堂々と食べられるなんて!

「あ、ありえない……。私の必殺の罠を、笑顔で食べるなんて……。この女、怪物ですわ!」

セラフィナ様が、恐怖で後ずさります。
その時でした。

「おーっほっほっほ! お返しですわ、セラフィナ様! これを召し上がれ!」

私は懐から、あの『漆黒の嘆き(出涸らし泥パック用粉末入り)』を取り出し、彼女のグラスにドボドボと注ぎました。

「な、何ですの、この不気味な粉は……っ!」

「私の友情の印ですわ。……まさか、私の勧めを断るなんて言いませんわよね?」

私が凄んで見せると、彼女は震えながらその「毒水」を飲み干しました。
その瞬間。

「……ッ!? ……っあ、あら……?」

彼女の顔から、みるみるうちに余計なむくみが消え、肌に陶器のような透明感が宿ったのです。
激辛料理の血行促進効果と、私の薬草粉末が化学反応を起こしたのですわ。

「……何かしら、これ。体が、ものすごく軽い。それに、私……今までで一番、綺麗に見えませんこと!?」

「……。……えっ?」

「スイー様……! 貴女、私を美しくするために、あえて私の攻撃を受け入れ、この魔法の粉を……! なんて寛大な、なんて崇高なライバルなの……!」

セラフィナ様は感極まったように私の手を取り、跪きました。

「私、貴女を誤解していました! 貴女こそ、真の『高貴なる悪(という名のカリスマ)』ですわ! 今日から、私を貴女の一番弟子にしてくださいまし!」

「……。……ちょっと待ってください。弟子? 何のですか!?」

「悪役令嬢道の極意ですわ!」

会場中から、鳴り止まない拍手が巻き起こりました。
「素晴らしい対決だった!」「敵をも救うスイー様、万歳!」

私は、遠くで見守っていたレオンハルト様を見ました。
彼はもう、笑いすぎて柱に頭を預けて崩れ落ちていました。

(……悪役の座を賭けたはずが、なぜかファンクラブが拡大してしまいましたわ……!)

私の「悪」の評判は、またしてもあらぬ方向へと加速していくのでした。
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