婚約破棄?望むところですわ!悪役令嬢、高笑いで身を引いた先で過保護王子に捕まる

ツナ

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「おーっほっほっほ! カイル様、リリアンさん。お帰りの前に、このような『お別れ会』を開いてくださるなんて。……最後の最後まで、私を驚かせてくださるのね!」

カイル王子たちの滞在先で行われた、ささやかなガーデンパーティー。
私は、レオンハルト様と共に招待を受けておりました。
怪文書を叩き返した後のこのお誘い。……これこそ、窮鼠(きゅうそ)が猫を噛むための、絶体絶命の罠に違いありませんわ!

「あ、ああ……。スイー。君がこの国に染まりきってしまう前に、どうしても伝えたくてね。……リリアン、例のものを」

カイル様は顔を引きつらせながら、リリアンさんに合図を送りました。
リリアンさんは震える手で、一際豪華な装飾が施されたグラスを私に差し出しました。

「スイー様。……これは、私の故郷で『真実の愛を呼び覚ます』と言われている特別な果実酒です。……どうか、召し上がってくださいな」

(……真実の愛を呼び覚ます? おーっほっほっほ! 甘いですわ、リリアンさん!)

私はグラスを手に取り、その中身を透かして見ました。
一見、ただのピンク色の美酒ですが、微かにゆらりと、不自然な澱(おり)が見えます。
これは間違いなく、飲んだ瞬間に理性を失わせ、カイル王子に縋り付かせるための『禁断の惚れ薬』!
あるいは、一瞬で意識を刈り取る『暗黒の毒薬』ですわね!

「……スイー、その香りは少し強すぎる気がするが。僕が毒見を……」

レオンハルト様が私の肩に手を置き、鋭い視線をリリアンさんに向けました。

「いいえ、殿下! これは私への『挑戦』ですのよ! 私がこれを飲み干して、なおも気高く笑っていられるか……リリアンさんはそれを試していらっしゃるのですわ!」

私はレオンハルト様を制し、グラスを高く掲げました。
リリアンさんの顔が、期待と恐怖で青白くなっています。

「さあ、見ていなさい! これが、悪役令嬢スイーの真髄ですわ!」

私は一切の躊躇なく、その怪しげな液体を一気に飲み干しました。
ゴクリ、と喉を鳴らして飲み込んだ瞬間。

「…………ッ!!!」

胃のあたりが、カッと熱くなりました。
そして喉を焼くような、それでいて目が覚めるような、強烈な刺激!
(……これは、……なんですの!? この暴力的なまでの刺激は!)

「……ひ、ひぃっ! ……ど、どうですか、スイー様!? 急にカイル様が恋しくなったり……その、頭がぼーっとしたりしませんこと!?」

リリアンさんが、身を乗り出すように尋ねてきました。

「……リリアンさん。……貴女……」

「は、はいっ!」

「……貴女、なんて素晴らしいスパイスを見つけましたの! この『痺れるような辛味』と『鼻を抜ける芳香』! 惚れ薬どころか、これは最高級の滋養強壮薬ではありませんか!」

「……はぁ?」

私は頬を紅潮させ、拳を握りしめました。
全身の血の巡りが劇的に良くなり、先ほどまでの疲れが嘘のように吹き飛んでいます。
視界は驚くほどクリアになり、頭脳はフル回転!

「おーっほっほっほ! 最高ですわ! この液体、もっとありませんの!? これを飲めば、三日三晩不眠不休で『悪の計画』を練り続けられますわ!」

「……そ、そんな……。……あれは、禁忌の魔術師から大金で買った、人格を破壊するほどの『情欲の毒』のはずですのに……!」

リリアンさんは、ガクガクと膝をついてその場に崩れ落ちました。
どうやら、彼女が掴まされた「毒」は、あまりに成分が濃縮されすぎていたせいで、私のような「激辛耐性MAX」かつ「健康体」の人間には、ただの超強力なサプリメントとして作用してしまったようです。

「スイー、顔色がすごくいいな。……いや、良すぎて少し怖いぞ」

レオンハルト様が、ドン引きした様子で私を見つめています。

「殿下! 見てください、このエネルギー! 今なら、この庭園の木々をすべて素手で引き抜いて、迷路を作り替えられそうですわ!」

「……落ち着け。君が暴れると、この国が物理的に壊れる」

レオンハルト様は私の腰を抱き止め、暴走しかけた「強化型悪役令嬢」をなんとか抑え込みました。

「……カイル殿下。君の連れが用意したこの『飲み物』、素晴らしい効果だ。……ぜひ、その魔術師の連絡先を教えてもらいたいものだね。我が国の騎士団の常備薬として採用したい」

「……ば、化け物だ。……二人とも、人間じゃない……!」

カイル様は、もはや恐怖を通り越して虚無の表情を浮かべていました。
自分の愛する女が用意した秘策を、笑顔で飲み干し、さらには「サプリメント」として称賛される。
彼のプライドは、ここに完膚なきまでに叩き潰されたのでした。

「おーっほっほっほ! リリアンさん、ご馳走様でしたわ! お礼に、私が今感じているこの『みなぎる邪悪な活力』を、少しだけお裾分けして差し上げますわ!」

私は有り余るパワーで、リリアンさんを抱き抱え、そのまま彼女を空中高く放り投げ……かけましたが、レオンハルト様に全力で止められました。

結局、カイル様とリリアンさんは、翌朝の予定を早めて、逃げるように国へと帰っていきました。
彼らの馬車を見送る私の背後には、なぜか後光が差していたと言います。

「……ふう。……殿下、なんだか私、眠気が全く来ませんわ。……今夜は朝まで、新しい『毒入りお菓子』の試作をしてもよろしいかしら?」

「…………付き合うよ。ただし、僕が倒れない程度にね」

レオンハルト様は諦めたように笑い、私の頭を撫でました。
私の「悪役」としての体力は、リリアンの自爆攻撃によって、また一つ人間離れしたレベルへと到達してしまったのでした。
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