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「おーっほっほっほ! 見なさい、この雲一つない青空を! まるで私の輝かしい暗黒時代の幕開けを祝福しているようですわ!」
ヴァルディア王国の王宮大広場。そこには、建国以来最大級の群衆が詰めかけておりました。
本日は、第二王子レオンハルト殿下と、公爵令嬢スイー・フォン・ランバートの「公式な婚約・求婚の儀」が執り行われる日です。
私は、これまでで最も豪華で、最も「毒々しい(と自分では思っている)」深紅と黒のドレスに身を包んでいました。
首元には、王妃様から下賜された、呪いの魔力が宿っていそうなほど巨大なブラッドルビー。
手には、鋭い装飾が施された漆黒の扇。
「いいですか、皆様! 今から私は、この国の王子を完全に私の『操り人形』にするための契約を結びますの! これからのヴァルディア王国は、私のワガママによって阿鼻叫喚の地獄……いえ、超健康的なホワイト国家へと変貌するのですわ!」
私はバルコニーから群衆を見下ろし、精一杯の「邪悪な微笑み」を振りまきました。
すると、広場を埋め尽くした数万の民衆から、大地を揺らすような大歓声が沸き起こりました。
「スイー様ー! 俺たちの女神様ーっ!」
「スイー様のワガママなら、喜んで下僕になりますわーっ!」
「おーっほっほっほ、をもっと聞かせてくれー!」
(……。……。……皆様、本当に私の話を聴いていますの!? 地獄に落ちると言ったのですわよ!?)
困惑する私の隣に、これまた眩しいばかりの白銀の礼服に身を包んだレオンハルト様が並びました。
彼は、湧き上がる民衆の声に満足げに頷くと、私の腰をそっと抱き寄せました。
「すごい人気だね、スイー。君が『悪政を敷く』と宣言するたびに、この国の支持率が上がっていくよ」
「……解せませんわ。……殿下、貴方が何か妙な工作をなさったのではありませんか?」
「まさか。僕はただ、君のありのままの言葉を、国中に魔法の拡声器で届けさせただけだよ」
レオンハルト様は不敵に微笑むと、私の前でゆっくりとその場に膝をつきました。
会場が一瞬で静まり返ります。
氷の王子と謳われた彼が、一人の女性の前で跪く。
それは、ヴァルディア王国の歴史において、伝説となる瞬間でした。
「スイー・フォン・ランバート公爵令嬢。……いや、僕の最愛の共犯者、スイー」
レオンハルト様が私の右手をとり、その指先に、誓いのキスを落としました。
彼の瞳は、もはや「氷」など微塵も感じさせない、熱く、甘い熱量で私を射抜いていました。
「君はかつて、愛されたかったと言ったね。……僕は今日、この国すべての民の前で誓おう。……君がどれほど自分を『悪役』だと称しても、僕は君が差し出す毒(健康茶)を飲み干し、君が築く魔窟(綺麗な街並み)を守り抜こう」
「……レ、レオンハルト殿下……」
「君のすべてのワガママは、僕の幸せだ。君のすべての高笑いは、僕の生きる糧だ。……一生、僕の隣で、世界一幸せな『悪役』として君臨してくれないか?」
彼は懐から、一点の曇りもない特大のダイヤモンドが嵌まった指輪を取り出しました。
それは、私の瞳の色と同じ、透き通った輝きを放っていました。
(……。……。……ああ、もう。……これでは、これではもう、逃げられませんわ)
私の心臓は、ダンスの時よりも激しく、誇らしげに鳴り響いていました。
悪役令嬢として、ここで「断る!」と叫ぶのが、美学というものかもしれません。
ですが……私の指は、吸い寄せられるように彼の手に重なっていました。
「……おーっほっほっほ! ……よろしいでしょう、殿下。……そこまで必死に乞われるのでしたら、この私が、貴方の生涯を『蹂躙』して差し上げますわ!」
私は、震える声を精一杯張り上げて宣言しました。
「ただし! 私のワガママは、高くつきますわよ! ……まずは、今日の披露宴のメインディッシュ! 私の特製『超絶地獄激辛ステーキ』を、殿下は一切の飲み物なしで完食していただきますわ!」
「……。……。……はは、受けて立とう。君と一緒なら、炎の中でも歩いていける」
レオンハルト様が指輪を私の左手薬指にはめると、広場は割れんばかりの拍手と、祝福の花吹雪に包まれました。
鐘の音が鳴り響き、小鳥たちが空を舞います。
「おめでとうございます、スイー様ーっ!」
「レオンハルト殿下、スイー様を泣かせたら承知しませんわよーっ!」
民衆の温かな声が、私の耳に心地よく響きます。
私は、隣で誇らしげに胸を張るレオンハルト様を見上げ、そして自分でも驚くほど穏やかな気持ちで、群衆に向かって扇を掲げました。
「いいですか、皆様! 今日から、この国は私の『悪の庭』ですわ! 不幸せな顔をしている者は、私が片っ端から『漆黒の嘆き』で健康にして差し上げますから、覚悟なさい!」
「おーっほっほっほ!」
私の高笑いは、どこまでも続く青空へと吸い込まれていきました。
悪役令嬢としての「敗北」。……それは、私にとって、世界で一番甘美な「勝利」の瞬間でもあったのです。
「……さて、スイー。儀式は終わった。……次は、僕たちの『内密な契約(披露宴)』の続きを始めようか」
レオンハルト様が私の耳元で囁きました。
その声に、私は顔を真っ赤にしながらも、「ええ、受けて立ちますわ!」と、力強く頷くのでした。
ヴァルディア王国の王宮大広場。そこには、建国以来最大級の群衆が詰めかけておりました。
本日は、第二王子レオンハルト殿下と、公爵令嬢スイー・フォン・ランバートの「公式な婚約・求婚の儀」が執り行われる日です。
私は、これまでで最も豪華で、最も「毒々しい(と自分では思っている)」深紅と黒のドレスに身を包んでいました。
首元には、王妃様から下賜された、呪いの魔力が宿っていそうなほど巨大なブラッドルビー。
手には、鋭い装飾が施された漆黒の扇。
「いいですか、皆様! 今から私は、この国の王子を完全に私の『操り人形』にするための契約を結びますの! これからのヴァルディア王国は、私のワガママによって阿鼻叫喚の地獄……いえ、超健康的なホワイト国家へと変貌するのですわ!」
私はバルコニーから群衆を見下ろし、精一杯の「邪悪な微笑み」を振りまきました。
すると、広場を埋め尽くした数万の民衆から、大地を揺らすような大歓声が沸き起こりました。
「スイー様ー! 俺たちの女神様ーっ!」
「スイー様のワガママなら、喜んで下僕になりますわーっ!」
「おーっほっほっほ、をもっと聞かせてくれー!」
(……。……。……皆様、本当に私の話を聴いていますの!? 地獄に落ちると言ったのですわよ!?)
困惑する私の隣に、これまた眩しいばかりの白銀の礼服に身を包んだレオンハルト様が並びました。
彼は、湧き上がる民衆の声に満足げに頷くと、私の腰をそっと抱き寄せました。
「すごい人気だね、スイー。君が『悪政を敷く』と宣言するたびに、この国の支持率が上がっていくよ」
「……解せませんわ。……殿下、貴方が何か妙な工作をなさったのではありませんか?」
「まさか。僕はただ、君のありのままの言葉を、国中に魔法の拡声器で届けさせただけだよ」
レオンハルト様は不敵に微笑むと、私の前でゆっくりとその場に膝をつきました。
会場が一瞬で静まり返ります。
氷の王子と謳われた彼が、一人の女性の前で跪く。
それは、ヴァルディア王国の歴史において、伝説となる瞬間でした。
「スイー・フォン・ランバート公爵令嬢。……いや、僕の最愛の共犯者、スイー」
レオンハルト様が私の右手をとり、その指先に、誓いのキスを落としました。
彼の瞳は、もはや「氷」など微塵も感じさせない、熱く、甘い熱量で私を射抜いていました。
「君はかつて、愛されたかったと言ったね。……僕は今日、この国すべての民の前で誓おう。……君がどれほど自分を『悪役』だと称しても、僕は君が差し出す毒(健康茶)を飲み干し、君が築く魔窟(綺麗な街並み)を守り抜こう」
「……レ、レオンハルト殿下……」
「君のすべてのワガママは、僕の幸せだ。君のすべての高笑いは、僕の生きる糧だ。……一生、僕の隣で、世界一幸せな『悪役』として君臨してくれないか?」
彼は懐から、一点の曇りもない特大のダイヤモンドが嵌まった指輪を取り出しました。
それは、私の瞳の色と同じ、透き通った輝きを放っていました。
(……。……。……ああ、もう。……これでは、これではもう、逃げられませんわ)
私の心臓は、ダンスの時よりも激しく、誇らしげに鳴り響いていました。
悪役令嬢として、ここで「断る!」と叫ぶのが、美学というものかもしれません。
ですが……私の指は、吸い寄せられるように彼の手に重なっていました。
「……おーっほっほっほ! ……よろしいでしょう、殿下。……そこまで必死に乞われるのでしたら、この私が、貴方の生涯を『蹂躙』して差し上げますわ!」
私は、震える声を精一杯張り上げて宣言しました。
「ただし! 私のワガママは、高くつきますわよ! ……まずは、今日の披露宴のメインディッシュ! 私の特製『超絶地獄激辛ステーキ』を、殿下は一切の飲み物なしで完食していただきますわ!」
「……。……。……はは、受けて立とう。君と一緒なら、炎の中でも歩いていける」
レオンハルト様が指輪を私の左手薬指にはめると、広場は割れんばかりの拍手と、祝福の花吹雪に包まれました。
鐘の音が鳴り響き、小鳥たちが空を舞います。
「おめでとうございます、スイー様ーっ!」
「レオンハルト殿下、スイー様を泣かせたら承知しませんわよーっ!」
民衆の温かな声が、私の耳に心地よく響きます。
私は、隣で誇らしげに胸を張るレオンハルト様を見上げ、そして自分でも驚くほど穏やかな気持ちで、群衆に向かって扇を掲げました。
「いいですか、皆様! 今日から、この国は私の『悪の庭』ですわ! 不幸せな顔をしている者は、私が片っ端から『漆黒の嘆き』で健康にして差し上げますから、覚悟なさい!」
「おーっほっほっほ!」
私の高笑いは、どこまでも続く青空へと吸い込まれていきました。
悪役令嬢としての「敗北」。……それは、私にとって、世界で一番甘美な「勝利」の瞬間でもあったのです。
「……さて、スイー。儀式は終わった。……次は、僕たちの『内密な契約(披露宴)』の続きを始めようか」
レオンハルト様が私の耳元で囁きました。
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