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第5章 ヤン・オーウェン
第29話 地獄行き特急列車
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目の前の光景は、まるで地獄だった。
ついさっきまで列車の旅を楽しんでいた人々は一瞬で肉塊となり、床や壁は真っ赤な血で染められている。
「 ……ひ、ひいぃぃっ!!!」
間一髪、アレスの防壁によって守られた人々は、少しでも殺戮の犯人から遠ざかるために前の車両に向かって我先にと駆け出す。
……しかし、ここは逃げ場のない列車の中。
力無き人々に出来ることは、限られた空間の中で逃げ回ることしか無かった。
「……50点かな。俺も、お前も」
アレス達と相対する魔族、バレンは、自分の手にこびりついた血を舐めながらそう呟く。
彼の放つ圧倒的な負のオーラが、三人の肌にビリビリとした感触を与える。
「……アレス、こいつはヤベェぞ。同族だから分かる」
「ああ……ルカ、ハンス。お前達は下がってろ」
「……でも、アレスさん……!」
「こいつは、俺の相手だ。お前らは自分の命を一番に考えろ」
一切ルカの方向を見ようとせずにそう言うアレスの顔を見ると、今までにないほどの冷や汗が流れていた。
これまでの敵とは格が違う相手。この二人の間の命のやり取りに割って入る自信は、今のルカには無かった。
「……ルカ、悔しいがここはアレスの言う通りだ。俺達には、他にすべきことがある」
「……ごめんなさい、アレスさん」
ルカとハンスは一つ前の車両へと逃げて行くが、それをバレンがみすみす見逃すはずが無かった。
「……おいおい、そう簡単に逃げようとするなよ」
バレンは二人を追いかけようとするが、アレスの防壁がそれを阻んだ。
『何人も通さぬ防御壁』
「……むうっ、ここから先は一歩も通さないってか?」
「当たり前だ。お前にこれ以上、人は殺させない」
「俺が、ねぇ……ま、それは事実だけどさ」
バレンは意地の悪い笑みを浮かべながら、その体から発せられるオーラの力を徐々に強めていく。
(……来るか)
「殺せるといいねぇ、お互いにさ」
まばたき一つの間に、バレンはアレスの目前まで迫ってきた。
「……っ!」
「まずは小手調べッ!!!」
バレンの拳が、アレスの顔面にクリーンヒットする。
光の速さで繰り出された拳は、常人まともに食らえば一発で首が吹き飛ぶほどの重さを誇る。
「……軽いな。その程度か?」
しかし常人離れした防御力を持つアレスにとっては、軽いジャブ程度の威力にしか感じられなかった。
「お返しだぜっ!!!」
力任せに繰り出されるアレスのフックを、バレンはスレスレで回避する。
(力任せなだけか。これなら……)
「避けたつもりか?」
アレスが振るった拳によって起こった風が、そのまま刃のようにバレンに向かって襲いかかる。
『旋風刃』
「おっとぉっ!?」
バレンは体勢を崩しながらも風の刃を受け流す。
かすり傷こそ体のあちこちにつけられたが、一つも致命傷にまでは至ることなく、バレンは余裕の笑みを浮かべ続ける。
「ウェンディに似た魔法か。なるほど、こりゃ強いや」
「そう思ってる顔には見えねぇぞ!」
アレスはもう一度拳を振りかぶり、バレンに向かって拳を振るう。
『旋風波』
アレスの拳から放たれた竜巻は、車両の屋根を吹き飛ばして空の彼方まで飛んで行った。
「……ヒュウ、凄いね。でも、人間の作ったものをブッ壊してもいいの?」
「人が死ぬよりはマシさ。弁償くらいできるしな」
「金持ちだねぇ……ムカつくわ」
その頃、カナリアのいる前方車両では……
「た、大変だ! 速く逃げるぞ!」
「逃げるってどこに!? 列車から飛び降りろって言うのか!?」
「魔族が襲ってくるなんて……もうおしまいだぁ……」
突然の魔族の襲撃に大パニックになる人々を見て、カナリアは精一杯現状の把握につとめていた。
(……魔族が襲撃してきた!? 後ろの車両ってことは、アレス君達が……)
「おいっ! 速く奥に進め!」
「押さないで! 潰れちゃう!」
乗客達は前へ前へと逃げて行く。
一人一人が、自分だけでもどうにかして生き残ろうと必死になった結果、車内は阿鼻叫喚の図になっていた。
(……この状況をどうにかして静めないと! まずは、操縦室まで行ってこの列車を止めてもらうように伝えなくちゃ……!)
カナリアは窓から列車の屋根に登ると、煙突から出る煙を掻き分けながら前方の操縦室に辿り着く。
「操縦士さん! 大変です、後ろで……!」
しかし操縦室でカナリアが見たものは、明らかに正気を失った操縦士の姿であった。
「あ、ああぁ……」
「……呪い……!」
(人を操る呪い……これを使える魔族はほんの一握りしかいないはずなのに……ってことは)
「……アレス君っ!」
カナリアはこの場で呪いを解くことを早々に諦め、呪いをかけた主と戦っているであろうアレスの元へと向かうことを決めた。
(……とにかく、少しでも速く魔族を倒す! それがみんなを助けるための方法だ!)
カナリアは懐からハンドガンを取り出し、戦闘の準備を整えるのであった。
ついさっきまで列車の旅を楽しんでいた人々は一瞬で肉塊となり、床や壁は真っ赤な血で染められている。
「 ……ひ、ひいぃぃっ!!!」
間一髪、アレスの防壁によって守られた人々は、少しでも殺戮の犯人から遠ざかるために前の車両に向かって我先にと駆け出す。
……しかし、ここは逃げ場のない列車の中。
力無き人々に出来ることは、限られた空間の中で逃げ回ることしか無かった。
「……50点かな。俺も、お前も」
アレス達と相対する魔族、バレンは、自分の手にこびりついた血を舐めながらそう呟く。
彼の放つ圧倒的な負のオーラが、三人の肌にビリビリとした感触を与える。
「……アレス、こいつはヤベェぞ。同族だから分かる」
「ああ……ルカ、ハンス。お前達は下がってろ」
「……でも、アレスさん……!」
「こいつは、俺の相手だ。お前らは自分の命を一番に考えろ」
一切ルカの方向を見ようとせずにそう言うアレスの顔を見ると、今までにないほどの冷や汗が流れていた。
これまでの敵とは格が違う相手。この二人の間の命のやり取りに割って入る自信は、今のルカには無かった。
「……ルカ、悔しいがここはアレスの言う通りだ。俺達には、他にすべきことがある」
「……ごめんなさい、アレスさん」
ルカとハンスは一つ前の車両へと逃げて行くが、それをバレンがみすみす見逃すはずが無かった。
「……おいおい、そう簡単に逃げようとするなよ」
バレンは二人を追いかけようとするが、アレスの防壁がそれを阻んだ。
『何人も通さぬ防御壁』
「……むうっ、ここから先は一歩も通さないってか?」
「当たり前だ。お前にこれ以上、人は殺させない」
「俺が、ねぇ……ま、それは事実だけどさ」
バレンは意地の悪い笑みを浮かべながら、その体から発せられるオーラの力を徐々に強めていく。
(……来るか)
「殺せるといいねぇ、お互いにさ」
まばたき一つの間に、バレンはアレスの目前まで迫ってきた。
「……っ!」
「まずは小手調べッ!!!」
バレンの拳が、アレスの顔面にクリーンヒットする。
光の速さで繰り出された拳は、常人まともに食らえば一発で首が吹き飛ぶほどの重さを誇る。
「……軽いな。その程度か?」
しかし常人離れした防御力を持つアレスにとっては、軽いジャブ程度の威力にしか感じられなかった。
「お返しだぜっ!!!」
力任せに繰り出されるアレスのフックを、バレンはスレスレで回避する。
(力任せなだけか。これなら……)
「避けたつもりか?」
アレスが振るった拳によって起こった風が、そのまま刃のようにバレンに向かって襲いかかる。
『旋風刃』
「おっとぉっ!?」
バレンは体勢を崩しながらも風の刃を受け流す。
かすり傷こそ体のあちこちにつけられたが、一つも致命傷にまでは至ることなく、バレンは余裕の笑みを浮かべ続ける。
「ウェンディに似た魔法か。なるほど、こりゃ強いや」
「そう思ってる顔には見えねぇぞ!」
アレスはもう一度拳を振りかぶり、バレンに向かって拳を振るう。
『旋風波』
アレスの拳から放たれた竜巻は、車両の屋根を吹き飛ばして空の彼方まで飛んで行った。
「……ヒュウ、凄いね。でも、人間の作ったものをブッ壊してもいいの?」
「人が死ぬよりはマシさ。弁償くらいできるしな」
「金持ちだねぇ……ムカつくわ」
その頃、カナリアのいる前方車両では……
「た、大変だ! 速く逃げるぞ!」
「逃げるってどこに!? 列車から飛び降りろって言うのか!?」
「魔族が襲ってくるなんて……もうおしまいだぁ……」
突然の魔族の襲撃に大パニックになる人々を見て、カナリアは精一杯現状の把握につとめていた。
(……魔族が襲撃してきた!? 後ろの車両ってことは、アレス君達が……)
「おいっ! 速く奥に進め!」
「押さないで! 潰れちゃう!」
乗客達は前へ前へと逃げて行く。
一人一人が、自分だけでもどうにかして生き残ろうと必死になった結果、車内は阿鼻叫喚の図になっていた。
(……この状況をどうにかして静めないと! まずは、操縦室まで行ってこの列車を止めてもらうように伝えなくちゃ……!)
カナリアは窓から列車の屋根に登ると、煙突から出る煙を掻き分けながら前方の操縦室に辿り着く。
「操縦士さん! 大変です、後ろで……!」
しかし操縦室でカナリアが見たものは、明らかに正気を失った操縦士の姿であった。
「あ、ああぁ……」
「……呪い……!」
(人を操る呪い……これを使える魔族はほんの一握りしかいないはずなのに……ってことは)
「……アレス君っ!」
カナリアはこの場で呪いを解くことを早々に諦め、呪いをかけた主と戦っているであろうアレスの元へと向かうことを決めた。
(……とにかく、少しでも速く魔族を倒す! それがみんなを助けるための方法だ!)
カナリアは懐からハンドガンを取り出し、戦闘の準備を整えるのであった。
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