最強の盾と最凶の矛~魔王の呪いを受けてパーティーを自主的に抜けたら最強になった~

剣太郎

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第5章 ヤン・オーウェン

第30話 弾丸

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 爆走する列車の中で、アレスとバレンの戦いは続いていた。
 列車の壁や天井は二人の攻撃によってあちこちに大穴が開いており、穴から吹き抜ける風が二人に突き刺さる。

「フフッ、やるじゃないの。中々楽しめているよ」

(……こいつ、まだ一度も魔法を使っていない。攻撃手段は殴る蹴るのみ。ただ、筋力やら、移動スピードやらの基礎スペックが異常に高い……!)

 ここまでのアレスとバレンの戦いは全くの互角。しかし、持てる力を全て出しているアレスに対して、バレンはまだ魔法を使わずに、体術のみでアレスと互角に立ち回っていた。

「……ん? どうした、もう余裕が無くなったのか?」

「……まさか、まだまともに攻撃食らってねぇよ!」

旋風波エア・ブラスト

 アレスは右ストレートからバレンに向かって竜巻を繰り出すが、バレンはそれを難なく回避する。

「おいおい、それしか芸がないの……」

「そうだけど文句あるか?」

 アレスはバレンの回避先を先読みして回り込み、顔面に一発を加えた。

「……なるほど。敢えて軌道を微妙にズラして、俺が避ける先を予測しやすくしたのか」

 しかし、バレンは顔の前で腕を構えて拳を受け止める。
 それでもアレスはすぐに体をひねり、今度は左フックを無防備なバレンの横顔に叩き込む。

「……!」

 バレンもこれを避けきることは出来ず、列車の壁を突き破って外へと吹き飛んで行った。

(……こんなあっさり終わりはしないよな?)

 アレスの嫌な予感は当たり、バレンは天井を突き破りながらアレスに向かって踵落としを決めてきた。

「……ぐふっ……!」

「……今のは割りと痛かったぜ、この野郎……!」

 予期せぬ方向からの攻撃を食らったアレスは体を地に叩きつけられる。
 バレンはアレスにマウントをとる形になると、そのままアレスの顔面に拳を入れた。

「……オラァッ!」

「……ガァッ!!!」

 体を上から押さえつけられているアレスはこれを避けることなど出来ず、モロに食らった攻撃を耐えることしか出来なかった。

「……それじゃ、お前の防御力ってのがどのくらいか確かめてみようか?」

 バレンは苦痛に耐えるアレスを見て嗤うと、そのまま一方的に彼を殴りはじめるのであった。





「……どうしよう、このままじゃアレスさんが!」

 ルカとハンスは一つ前の車両から二人の戦いを見ていたが、ルカはアレスのピンチを前にじっとはしていられず、弓を構えて後ろの車両に入ろうとする。

「……落ち着け、ルカ。お前が突っ込んで行っても殺されるだけだ」

「……でも、このままじゃアレスさんが殺される!」

「分かってる……だから、今俺達に出来る範囲で、最善を尽くすんだよ」

 ハンスは背中に背負っていた銃を手に構えると、撃鉄を起こしてから窓ガラス越しに銃口をバレンに向ける。

「……弾丸よし、火薬よし」

「……ハンス君?」

「……俺達は二人とも、遠距離の攻撃手段を持ってるんだ。何も、相手から見える場所で攻撃する必要はねぇよ」

 ハンスは片目を閉じ、目線を銃に合わせながら慎重に照準を合わせる。

(銃は音がデカい。一回撃てば居場所がバレる一発勝負だ……最初の一発に、全てを賭けろ……!)

 バレンはアレスを殴りつけることにだけ集中し、こちらには意識も興味も持っていない。不意をついて一撃を入れるなら、今しかない。

(……真正面からじゃなくても、俺は戦える! それを証明するんだ!)

 ハンスが引き金を引いた次の瞬間、轟音とともにバレンの頭からは血が吹き出した。

(……これは!)

 アレスはバレンの押さえつける力が弱まったことを感じると、力任せにバレンを掴んで投げつけた。

「……やったか!?」

「……いや、そうでもなさそうだ」

 壁際まで投げられたバレンは、血が吹き出す箇所を押さえながらもゆっくりと立ち上がる。
 その態度からはまだ余裕が感じられるが、バレンの一撃自体は効いていたのか、その顔は少し苦痛に歪んでいた。

「……なるほど。これが銃ってやつか? ……痛いじゃねぇの。これまでで一番な」

「……ハンス、聞こえるな? ……もうお前は」

「いや、俺も戦う。……後ろに退くことはあっても、戦うことを止めたりはしねぇ」

「……なら、後ろの車両からは出てくるな。それが戦いを許可する条件だ」

「……応よ」

「……っし、ここから更に気合い入れていくぞ」

 アレスは拳を、ハンスは銃を構えてバレンと相対する。
 ルカもハンスの隣で、弓を構えて自分に出来ることを必死に探していた。

(……やれやれ、こんな傷を負うのは想定外。呪いかけながら戦えるほど甘い相手じゃないってことか……ま、目的地まで後少しだし、もうちょっとの辛抱だな……)

 列車はなおもスピードを緩めずに進み続ける。その速度は緩むどころか徐々に加速しているようにも見えたが、それに気づけるだけの余裕を持った者はこの場にはいなかった。
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