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斎藤家の男達
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……疲れた。こんなに頭を使ったのは久しぶりだ。
いや、この時代の文字の読み書きを習いたいって言ったのは私なんだけどさ、思った以上に玄蕃君が鬼教師で……あー、ダメだ。眠くなってきた。
普段使ってない頭を酷使したせいだ、そうに違いない……取り敢えず、今日はもう寝よう。
もしかしたら、寝て起きたら元の現代に……
……うん。ちゃんと戦国時代のまんまだ。
まあ分かっていたよ、うん。
私は1度布団から体を起こしたが、すぐにまた体を寝かせて仰向けに倒れこんだ。
現実を受け入れた私はゆっくりと目を閉じ、少し前まで自分が暮らしていた21世紀の日本を思い浮かべようとする……けど、いつまでたっても瞼の裏には何も浮かんでこない。
……なんで? もしかして、もう忘れちゃったの?
自分の家も、学校も、家族も、友達も……上手く思い出せない。
お母さんを思いだそうとすると、小見の方の顔が思い浮かんでくるんだ。
確かに、あの人はこの世界での私のお母さんだけど……私の本物のお母さんは……
もう、なにがなんだか分からない。私が覚えていないだけで、お母さんの顔はああだったのかもしれない。
いや、そもそも私のお母さんははじめから小見の方で……今私が生きている世界こそが現実、21世紀の未来こそが夢だったのかも……
「……帰蝶。起きて下さい」
「……お母さ……母上様」
「……大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」
「……大丈夫です。それより、話とは……」
「朝食を食べ終わったら、私の元に来て下さい。大殿様……あなたの父親に会いにいきます」
私、帰蝶の父親は、美濃の蝮と恐れられる男、斎藤道三。
一介の油売りから親子2代で身を起こし、ついにはこの美濃の実質的なトップに君臨した下克上の体現者だ。
歴史上の人物としてはこれ以上ないくらいロマンに溢れていて、魅力的だけど……それが自分の父親となると、話が変わってくる。
だって蝮だよ? 毒蛇だよ? いかにも狡猾で、性格悪そうで……もう、会う前からストレスマッハ。
蝮の毒で胃に穴が開きそうだよ……
「……それでは、この部屋の中でしばらく大殿様を待ちましょう」
「……は、はい……」
ああ、蝮の顔を見る時が刻一刻と近づいている。
一体、本物の斎藤道三とはどんな人間なのやら……
小見さんが襖を開くと、既に部屋には先客がいた。
彼らは下座において部屋の左右に別れて向かい合う形で座っており、私と小見さんはその真ん中に座ることになった。
「………………」
「………………」
左右から、4人の男の視線が私に集中しているのをひしひしとかんじる。
自分の右手前には190cm近くはありそうな強面の大男が、その隣には豪快な髭を生やした粗暴そうな男がいる。
一方左手前には、整った顔立ちの好青年が座る。心なしか、目元が小見さんに似ているようにも見える。
そしてそのイケメンの隣には、性格悪そうな顔をした少年が座っていた。
……いやぁ、でも本当に性格悪そうな顔だなあ、蝮ってこの人を大人にしたような顔してるのかな……
「……おい帰蝶、何こちらをジロジロ見ている」
……やべ、気づかれた。てか帰蝶って呼び捨てにするってことは……この人、もしかして私の親族か?
「……喜平次、今は父上を静かに待つ時だぞ」
「むう……しかしだな兄上、帰蝶は昔っから兄である俺の顔を見ては悪人面だと小馬鹿にしてきて……」
「ハハッ、悪人面か。確かに間違ってないんじゃないですかい?」
悪人面、イケメンの次は髭男が立て続けに口を開いた。
つーか煩いな髭男。見た目通りの喋り方で安心するよ。
「……正義殿、口を慎め。あんたは俺達と違って父上の養子なんだ。いくら年上といっても、自分の立場を理解した発言をしてくれ」
「……立場ねぇ。一応俺は、関白の息子として大納言を名乗ってるわけだが?」
「自称だろうが。関白の息子ってのも、こんな田舎に捨てられた『庶子』じゃあとても息子とは名乗れないと思うがなあ?」
悪人面が『庶子』という言葉を強調して放った瞬間、この場の空気が凍りついた。
髭男の地雷ワードかと思いきや、その髭男はニヤニヤと受け流して余裕の笑みを浮かべている。
「……喜平次、もうその辺にしろ」
「はいはい、兄上はお優しいことだ。庶子や養子にも気遣いが出来るとは、次期当主に相応しい器ですな」
その言葉を最後に部屋は静寂に包まれた。
ああ、空気が重い! ただでさえ私の胃はストレスで穴が開きそうだったのに、もうとっくに胃液だだ漏れだよ! 何してくれてんだ、あの悪人面は!
「……皆、頭を下げろ」
その時、ずっと黙っていた大男がはじめて声を発した。
大男が上座に向かって頭を下げると、他の面々もそれに追従する。
私も周りの動きをみてから、最後に皆の真似をして頭を下げた。
「……さて、これだけの子供達が集まるのは、いつ以来だったかな?」
足音と共に、壮年の声が聞こえてくる。
……なんだ、この耳にまとわりついてくる声は。
音が中々右から左に抜けていかない。たったこれだけの言葉が、いつまでたっても私の耳に絡み付く。
「……表を上げい。……フフッ、お前の顔を見るのはいつ以来だったかな、帰蝶?」
声に促されて顔を上げた私の視界に写ったのは、蛇のように鋭く、不気味な眼光をした男だった。
「……フフ、やはりお前は母親に似ているな」
……そう、この男が私の父親、斎藤道三だ。
いや、この時代の文字の読み書きを習いたいって言ったのは私なんだけどさ、思った以上に玄蕃君が鬼教師で……あー、ダメだ。眠くなってきた。
普段使ってない頭を酷使したせいだ、そうに違いない……取り敢えず、今日はもう寝よう。
もしかしたら、寝て起きたら元の現代に……
……うん。ちゃんと戦国時代のまんまだ。
まあ分かっていたよ、うん。
私は1度布団から体を起こしたが、すぐにまた体を寝かせて仰向けに倒れこんだ。
現実を受け入れた私はゆっくりと目を閉じ、少し前まで自分が暮らしていた21世紀の日本を思い浮かべようとする……けど、いつまでたっても瞼の裏には何も浮かんでこない。
……なんで? もしかして、もう忘れちゃったの?
自分の家も、学校も、家族も、友達も……上手く思い出せない。
お母さんを思いだそうとすると、小見の方の顔が思い浮かんでくるんだ。
確かに、あの人はこの世界での私のお母さんだけど……私の本物のお母さんは……
もう、なにがなんだか分からない。私が覚えていないだけで、お母さんの顔はああだったのかもしれない。
いや、そもそも私のお母さんははじめから小見の方で……今私が生きている世界こそが現実、21世紀の未来こそが夢だったのかも……
「……帰蝶。起きて下さい」
「……お母さ……母上様」
「……大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」
「……大丈夫です。それより、話とは……」
「朝食を食べ終わったら、私の元に来て下さい。大殿様……あなたの父親に会いにいきます」
私、帰蝶の父親は、美濃の蝮と恐れられる男、斎藤道三。
一介の油売りから親子2代で身を起こし、ついにはこの美濃の実質的なトップに君臨した下克上の体現者だ。
歴史上の人物としてはこれ以上ないくらいロマンに溢れていて、魅力的だけど……それが自分の父親となると、話が変わってくる。
だって蝮だよ? 毒蛇だよ? いかにも狡猾で、性格悪そうで……もう、会う前からストレスマッハ。
蝮の毒で胃に穴が開きそうだよ……
「……それでは、この部屋の中でしばらく大殿様を待ちましょう」
「……は、はい……」
ああ、蝮の顔を見る時が刻一刻と近づいている。
一体、本物の斎藤道三とはどんな人間なのやら……
小見さんが襖を開くと、既に部屋には先客がいた。
彼らは下座において部屋の左右に別れて向かい合う形で座っており、私と小見さんはその真ん中に座ることになった。
「………………」
「………………」
左右から、4人の男の視線が私に集中しているのをひしひしとかんじる。
自分の右手前には190cm近くはありそうな強面の大男が、その隣には豪快な髭を生やした粗暴そうな男がいる。
一方左手前には、整った顔立ちの好青年が座る。心なしか、目元が小見さんに似ているようにも見える。
そしてそのイケメンの隣には、性格悪そうな顔をした少年が座っていた。
……いやぁ、でも本当に性格悪そうな顔だなあ、蝮ってこの人を大人にしたような顔してるのかな……
「……おい帰蝶、何こちらをジロジロ見ている」
……やべ、気づかれた。てか帰蝶って呼び捨てにするってことは……この人、もしかして私の親族か?
「……喜平次、今は父上を静かに待つ時だぞ」
「むう……しかしだな兄上、帰蝶は昔っから兄である俺の顔を見ては悪人面だと小馬鹿にしてきて……」
「ハハッ、悪人面か。確かに間違ってないんじゃないですかい?」
悪人面、イケメンの次は髭男が立て続けに口を開いた。
つーか煩いな髭男。見た目通りの喋り方で安心するよ。
「……正義殿、口を慎め。あんたは俺達と違って父上の養子なんだ。いくら年上といっても、自分の立場を理解した発言をしてくれ」
「……立場ねぇ。一応俺は、関白の息子として大納言を名乗ってるわけだが?」
「自称だろうが。関白の息子ってのも、こんな田舎に捨てられた『庶子』じゃあとても息子とは名乗れないと思うがなあ?」
悪人面が『庶子』という言葉を強調して放った瞬間、この場の空気が凍りついた。
髭男の地雷ワードかと思いきや、その髭男はニヤニヤと受け流して余裕の笑みを浮かべている。
「……喜平次、もうその辺にしろ」
「はいはい、兄上はお優しいことだ。庶子や養子にも気遣いが出来るとは、次期当主に相応しい器ですな」
その言葉を最後に部屋は静寂に包まれた。
ああ、空気が重い! ただでさえ私の胃はストレスで穴が開きそうだったのに、もうとっくに胃液だだ漏れだよ! 何してくれてんだ、あの悪人面は!
「……皆、頭を下げろ」
その時、ずっと黙っていた大男がはじめて声を発した。
大男が上座に向かって頭を下げると、他の面々もそれに追従する。
私も周りの動きをみてから、最後に皆の真似をして頭を下げた。
「……さて、これだけの子供達が集まるのは、いつ以来だったかな?」
足音と共に、壮年の声が聞こえてくる。
……なんだ、この耳にまとわりついてくる声は。
音が中々右から左に抜けていかない。たったこれだけの言葉が、いつまでたっても私の耳に絡み付く。
「……表を上げい。……フフッ、お前の顔を見るのはいつ以来だったかな、帰蝶?」
声に促されて顔を上げた私の視界に写ったのは、蛇のように鋭く、不気味な眼光をした男だった。
「……フフ、やはりお前は母親に似ているな」
……そう、この男が私の父親、斎藤道三だ。
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