5 / 23
斎藤家の男達
しおりを挟む
……疲れた。こんなに頭を使ったのは久しぶりだ。
いや、この時代の文字の読み書きを習いたいって言ったのは私なんだけどさ、思った以上に玄蕃君が鬼教師で……あー、ダメだ。眠くなってきた。
普段使ってない頭を酷使したせいだ、そうに違いない……取り敢えず、今日はもう寝よう。
もしかしたら、寝て起きたら元の現代に……
……うん。ちゃんと戦国時代のまんまだ。
まあ分かっていたよ、うん。
私は1度布団から体を起こしたが、すぐにまた体を寝かせて仰向けに倒れこんだ。
現実を受け入れた私はゆっくりと目を閉じ、少し前まで自分が暮らしていた21世紀の日本を思い浮かべようとする……けど、いつまでたっても瞼の裏には何も浮かんでこない。
……なんで? もしかして、もう忘れちゃったの?
自分の家も、学校も、家族も、友達も……上手く思い出せない。
お母さんを思いだそうとすると、小見の方の顔が思い浮かんでくるんだ。
確かに、あの人はこの世界での私のお母さんだけど……私の本物のお母さんは……
もう、なにがなんだか分からない。私が覚えていないだけで、お母さんの顔はああだったのかもしれない。
いや、そもそも私のお母さんははじめから小見の方で……今私が生きている世界こそが現実、21世紀の未来こそが夢だったのかも……
「……帰蝶。起きて下さい」
「……お母さ……母上様」
「……大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」
「……大丈夫です。それより、話とは……」
「朝食を食べ終わったら、私の元に来て下さい。大殿様……あなたの父親に会いにいきます」
私、帰蝶の父親は、美濃の蝮と恐れられる男、斎藤道三。
一介の油売りから親子2代で身を起こし、ついにはこの美濃の実質的なトップに君臨した下克上の体現者だ。
歴史上の人物としてはこれ以上ないくらいロマンに溢れていて、魅力的だけど……それが自分の父親となると、話が変わってくる。
だって蝮だよ? 毒蛇だよ? いかにも狡猾で、性格悪そうで……もう、会う前からストレスマッハ。
蝮の毒で胃に穴が開きそうだよ……
「……それでは、この部屋の中でしばらく大殿様を待ちましょう」
「……は、はい……」
ああ、蝮の顔を見る時が刻一刻と近づいている。
一体、本物の斎藤道三とはどんな人間なのやら……
小見さんが襖を開くと、既に部屋には先客がいた。
彼らは下座において部屋の左右に別れて向かい合う形で座っており、私と小見さんはその真ん中に座ることになった。
「………………」
「………………」
左右から、4人の男の視線が私に集中しているのをひしひしとかんじる。
自分の右手前には190cm近くはありそうな強面の大男が、その隣には豪快な髭を生やした粗暴そうな男がいる。
一方左手前には、整った顔立ちの好青年が座る。心なしか、目元が小見さんに似ているようにも見える。
そしてそのイケメンの隣には、性格悪そうな顔をした少年が座っていた。
……いやぁ、でも本当に性格悪そうな顔だなあ、蝮ってこの人を大人にしたような顔してるのかな……
「……おい帰蝶、何こちらをジロジロ見ている」
……やべ、気づかれた。てか帰蝶って呼び捨てにするってことは……この人、もしかして私の親族か?
「……喜平次、今は父上を静かに待つ時だぞ」
「むう……しかしだな兄上、帰蝶は昔っから兄である俺の顔を見ては悪人面だと小馬鹿にしてきて……」
「ハハッ、悪人面か。確かに間違ってないんじゃないですかい?」
悪人面、イケメンの次は髭男が立て続けに口を開いた。
つーか煩いな髭男。見た目通りの喋り方で安心するよ。
「……正義殿、口を慎め。あんたは俺達と違って父上の養子なんだ。いくら年上といっても、自分の立場を理解した発言をしてくれ」
「……立場ねぇ。一応俺は、関白の息子として大納言を名乗ってるわけだが?」
「自称だろうが。関白の息子ってのも、こんな田舎に捨てられた『庶子』じゃあとても息子とは名乗れないと思うがなあ?」
悪人面が『庶子』という言葉を強調して放った瞬間、この場の空気が凍りついた。
髭男の地雷ワードかと思いきや、その髭男はニヤニヤと受け流して余裕の笑みを浮かべている。
「……喜平次、もうその辺にしろ」
「はいはい、兄上はお優しいことだ。庶子や養子にも気遣いが出来るとは、次期当主に相応しい器ですな」
その言葉を最後に部屋は静寂に包まれた。
ああ、空気が重い! ただでさえ私の胃はストレスで穴が開きそうだったのに、もうとっくに胃液だだ漏れだよ! 何してくれてんだ、あの悪人面は!
「……皆、頭を下げろ」
その時、ずっと黙っていた大男がはじめて声を発した。
大男が上座に向かって頭を下げると、他の面々もそれに追従する。
私も周りの動きをみてから、最後に皆の真似をして頭を下げた。
「……さて、これだけの子供達が集まるのは、いつ以来だったかな?」
足音と共に、壮年の声が聞こえてくる。
……なんだ、この耳にまとわりついてくる声は。
音が中々右から左に抜けていかない。たったこれだけの言葉が、いつまでたっても私の耳に絡み付く。
「……表を上げい。……フフッ、お前の顔を見るのはいつ以来だったかな、帰蝶?」
声に促されて顔を上げた私の視界に写ったのは、蛇のように鋭く、不気味な眼光をした男だった。
「……フフ、やはりお前は母親に似ているな」
……そう、この男が私の父親、斎藤道三だ。
いや、この時代の文字の読み書きを習いたいって言ったのは私なんだけどさ、思った以上に玄蕃君が鬼教師で……あー、ダメだ。眠くなってきた。
普段使ってない頭を酷使したせいだ、そうに違いない……取り敢えず、今日はもう寝よう。
もしかしたら、寝て起きたら元の現代に……
……うん。ちゃんと戦国時代のまんまだ。
まあ分かっていたよ、うん。
私は1度布団から体を起こしたが、すぐにまた体を寝かせて仰向けに倒れこんだ。
現実を受け入れた私はゆっくりと目を閉じ、少し前まで自分が暮らしていた21世紀の日本を思い浮かべようとする……けど、いつまでたっても瞼の裏には何も浮かんでこない。
……なんで? もしかして、もう忘れちゃったの?
自分の家も、学校も、家族も、友達も……上手く思い出せない。
お母さんを思いだそうとすると、小見の方の顔が思い浮かんでくるんだ。
確かに、あの人はこの世界での私のお母さんだけど……私の本物のお母さんは……
もう、なにがなんだか分からない。私が覚えていないだけで、お母さんの顔はああだったのかもしれない。
いや、そもそも私のお母さんははじめから小見の方で……今私が生きている世界こそが現実、21世紀の未来こそが夢だったのかも……
「……帰蝶。起きて下さい」
「……お母さ……母上様」
「……大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」
「……大丈夫です。それより、話とは……」
「朝食を食べ終わったら、私の元に来て下さい。大殿様……あなたの父親に会いにいきます」
私、帰蝶の父親は、美濃の蝮と恐れられる男、斎藤道三。
一介の油売りから親子2代で身を起こし、ついにはこの美濃の実質的なトップに君臨した下克上の体現者だ。
歴史上の人物としてはこれ以上ないくらいロマンに溢れていて、魅力的だけど……それが自分の父親となると、話が変わってくる。
だって蝮だよ? 毒蛇だよ? いかにも狡猾で、性格悪そうで……もう、会う前からストレスマッハ。
蝮の毒で胃に穴が開きそうだよ……
「……それでは、この部屋の中でしばらく大殿様を待ちましょう」
「……は、はい……」
ああ、蝮の顔を見る時が刻一刻と近づいている。
一体、本物の斎藤道三とはどんな人間なのやら……
小見さんが襖を開くと、既に部屋には先客がいた。
彼らは下座において部屋の左右に別れて向かい合う形で座っており、私と小見さんはその真ん中に座ることになった。
「………………」
「………………」
左右から、4人の男の視線が私に集中しているのをひしひしとかんじる。
自分の右手前には190cm近くはありそうな強面の大男が、その隣には豪快な髭を生やした粗暴そうな男がいる。
一方左手前には、整った顔立ちの好青年が座る。心なしか、目元が小見さんに似ているようにも見える。
そしてそのイケメンの隣には、性格悪そうな顔をした少年が座っていた。
……いやぁ、でも本当に性格悪そうな顔だなあ、蝮ってこの人を大人にしたような顔してるのかな……
「……おい帰蝶、何こちらをジロジロ見ている」
……やべ、気づかれた。てか帰蝶って呼び捨てにするってことは……この人、もしかして私の親族か?
「……喜平次、今は父上を静かに待つ時だぞ」
「むう……しかしだな兄上、帰蝶は昔っから兄である俺の顔を見ては悪人面だと小馬鹿にしてきて……」
「ハハッ、悪人面か。確かに間違ってないんじゃないですかい?」
悪人面、イケメンの次は髭男が立て続けに口を開いた。
つーか煩いな髭男。見た目通りの喋り方で安心するよ。
「……正義殿、口を慎め。あんたは俺達と違って父上の養子なんだ。いくら年上といっても、自分の立場を理解した発言をしてくれ」
「……立場ねぇ。一応俺は、関白の息子として大納言を名乗ってるわけだが?」
「自称だろうが。関白の息子ってのも、こんな田舎に捨てられた『庶子』じゃあとても息子とは名乗れないと思うがなあ?」
悪人面が『庶子』という言葉を強調して放った瞬間、この場の空気が凍りついた。
髭男の地雷ワードかと思いきや、その髭男はニヤニヤと受け流して余裕の笑みを浮かべている。
「……喜平次、もうその辺にしろ」
「はいはい、兄上はお優しいことだ。庶子や養子にも気遣いが出来るとは、次期当主に相応しい器ですな」
その言葉を最後に部屋は静寂に包まれた。
ああ、空気が重い! ただでさえ私の胃はストレスで穴が開きそうだったのに、もうとっくに胃液だだ漏れだよ! 何してくれてんだ、あの悪人面は!
「……皆、頭を下げろ」
その時、ずっと黙っていた大男がはじめて声を発した。
大男が上座に向かって頭を下げると、他の面々もそれに追従する。
私も周りの動きをみてから、最後に皆の真似をして頭を下げた。
「……さて、これだけの子供達が集まるのは、いつ以来だったかな?」
足音と共に、壮年の声が聞こえてくる。
……なんだ、この耳にまとわりついてくる声は。
音が中々右から左に抜けていかない。たったこれだけの言葉が、いつまでたっても私の耳に絡み付く。
「……表を上げい。……フフッ、お前の顔を見るのはいつ以来だったかな、帰蝶?」
声に促されて顔を上げた私の視界に写ったのは、蛇のように鋭く、不気味な眼光をした男だった。
「……フフ、やはりお前は母親に似ているな」
……そう、この男が私の父親、斎藤道三だ。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる