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美濃の蝮
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この男が、斎藤道三……なんだろう、この男の眼を見ていると、得体の知れないものに体を支配されている気分になる。
一切の淀みもなくこちらをじっと見つめてくるあの眼に、吸い込まれそうになる。それが怖くて目を逸らしたいのに、蝮の毒のせいで体が動かない。
ダメだ。平和ボケした21世紀の人間では、戦国乱世の梟雄の存在は刺激が強すぎる!
「……小見よ。お前が言うには、帰蝶は記憶を失ったらしいのだな?」
「……はい。大殿だけでなく、新九郎殿達4人にもこのことは知ってもらおうと思い、ここに集まってもらった次第です」
「……記憶が、なんと……」
「……へぇ」
小見さんから私が記憶を失っていると聞いた時、イケメンと髭男はそれぞれ目を見開いて驚いたような声を上げる。
悪人面は道三の前だからか何も声には出さなかったが、パクパクしていた口からはきっと嫌味がこぼれていたんだろう。
大男は、相変わらず表情1つ崩さなかった。
「……フン、小見の言う通りのようだな。確かにこの帰蝶は、儂の知る帰蝶とは違う」
道三は上座からこちらに向かって降りてくると、そのままグイッと私に顔を近づけてきた。
……なんでそんなに顔を寄せてくるのよ。あんたのそのギョロリとした眼を見ているだけで、こっちは怖くて……
「……儂の知る帰蝶は、うつけうつけと蔑まれながらも、この儂相手に一歩も退かぬほどの胆力を持っていた。女にしておくには惜しいと思ったほどよ」
……言葉を発するな。あんたが私の近くで息を吸う度に、私の体から酸素が奪われていく気がする。
「だがこの帰蝶はどうだ? まるでか弱い女子のように儂に怯えるばかりだ。これでは話にならん」
道三はようやく私から顔を離すと、心底不満そうな顔をしながら再び上座に戻ってドシンと腰を下ろした。
「帰蝶は人が変わってしまった。しかし、別の人間になったわけではない。……たとえ娘とはいえ、儂が美人の顔を見間違えるわけがないからな」
「ええ。この子は正真正銘私の娘、帰蝶ですよ」
「うむ。記憶喪失と見る他あるまいな……よし、小見よ」
「なんでしょうか?」
「帰蝶はお主に任せる。記憶を無理に戻せとは言わんが、せめて他家に嫁がせて恥をかかん程度には育てておけ。……帰蝶を使う時期は、思ったよりも近そうだからな」
「ほう……では、戦が近いのですか?」
「ああ、尾張の織田がまたこちらを窺う動きを見せておる。織田にはあの阿呆守護がいる以上、必ずや近いうちに攻めてくるだろう」
戦の話が始まった途端、それまでねちっこい話し方をしていた道三の口調がハキハキとしたものに変わった。
道三は背筋を伸ばして立ち上がると、こちらを指すように広げた扇子を向けてきた。
「ここに集まっているのなら丁度いい。息子達よ、お主らも今のうちに戦の準備をしておけ。此度の戦はおそらく守勢に徹することになろうからな」
ああ、やっぱりここは戦国時代なんだ。いよいよ戦がはじまる。大勢の人が死ぬ、殺し合いが。
でも、私は女だから戦には出ない。だからか戦のことは少し他人事に感じられて、それよりも私は道三のある言葉の意味を考えていた。
道三は帰蝶を……私を『使う』といっていた。
この時代の女の使い道なんて、私には1つしか思い浮かばない。
それは政略結婚。もしかして、あの織田信長と私が結婚する日はそう遠くないのかもしれない。
一切の淀みもなくこちらをじっと見つめてくるあの眼に、吸い込まれそうになる。それが怖くて目を逸らしたいのに、蝮の毒のせいで体が動かない。
ダメだ。平和ボケした21世紀の人間では、戦国乱世の梟雄の存在は刺激が強すぎる!
「……小見よ。お前が言うには、帰蝶は記憶を失ったらしいのだな?」
「……はい。大殿だけでなく、新九郎殿達4人にもこのことは知ってもらおうと思い、ここに集まってもらった次第です」
「……記憶が、なんと……」
「……へぇ」
小見さんから私が記憶を失っていると聞いた時、イケメンと髭男はそれぞれ目を見開いて驚いたような声を上げる。
悪人面は道三の前だからか何も声には出さなかったが、パクパクしていた口からはきっと嫌味がこぼれていたんだろう。
大男は、相変わらず表情1つ崩さなかった。
「……フン、小見の言う通りのようだな。確かにこの帰蝶は、儂の知る帰蝶とは違う」
道三は上座からこちらに向かって降りてくると、そのままグイッと私に顔を近づけてきた。
……なんでそんなに顔を寄せてくるのよ。あんたのそのギョロリとした眼を見ているだけで、こっちは怖くて……
「……儂の知る帰蝶は、うつけうつけと蔑まれながらも、この儂相手に一歩も退かぬほどの胆力を持っていた。女にしておくには惜しいと思ったほどよ」
……言葉を発するな。あんたが私の近くで息を吸う度に、私の体から酸素が奪われていく気がする。
「だがこの帰蝶はどうだ? まるでか弱い女子のように儂に怯えるばかりだ。これでは話にならん」
道三はようやく私から顔を離すと、心底不満そうな顔をしながら再び上座に戻ってドシンと腰を下ろした。
「帰蝶は人が変わってしまった。しかし、別の人間になったわけではない。……たとえ娘とはいえ、儂が美人の顔を見間違えるわけがないからな」
「ええ。この子は正真正銘私の娘、帰蝶ですよ」
「うむ。記憶喪失と見る他あるまいな……よし、小見よ」
「なんでしょうか?」
「帰蝶はお主に任せる。記憶を無理に戻せとは言わんが、せめて他家に嫁がせて恥をかかん程度には育てておけ。……帰蝶を使う時期は、思ったよりも近そうだからな」
「ほう……では、戦が近いのですか?」
「ああ、尾張の織田がまたこちらを窺う動きを見せておる。織田にはあの阿呆守護がいる以上、必ずや近いうちに攻めてくるだろう」
戦の話が始まった途端、それまでねちっこい話し方をしていた道三の口調がハキハキとしたものに変わった。
道三は背筋を伸ばして立ち上がると、こちらを指すように広げた扇子を向けてきた。
「ここに集まっているのなら丁度いい。息子達よ、お主らも今のうちに戦の準備をしておけ。此度の戦はおそらく守勢に徹することになろうからな」
ああ、やっぱりここは戦国時代なんだ。いよいよ戦がはじまる。大勢の人が死ぬ、殺し合いが。
でも、私は女だから戦には出ない。だからか戦のことは少し他人事に感じられて、それよりも私は道三のある言葉の意味を考えていた。
道三は帰蝶を……私を『使う』といっていた。
この時代の女の使い道なんて、私には1つしか思い浮かばない。
それは政略結婚。もしかして、あの織田信長と私が結婚する日はそう遠くないのかもしれない。
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