胡蝶の夢 ~帰蝶転生記~

剣太郎

文字の大きさ
15 / 23

来るべき時

しおりを挟む
「……来たか、帰蝶よ」

 私は、再び斎藤道三と相見えた。
 目の前で私を見つめる蝮の眼からは、相変わらず人を縛りつける毒が流れている。

 蝮の毒に負けないように、私は必死に気持ちを強く持つ。
 顔はなんとか平静を保てているけど、下半身はもうガクガク震えているよ。

「……お前を儂が呼び寄せた理由、察しはつくな?」

「……大方は」

「ならばよい、早速本題に入るぞ」

 ……いよいよだ。いよいよ私は、あの織田信長のもとに嫁入り……

「お主を新たなる美濃守護、土岐頼純様のもとに嫁がせることが決まった。守護様の正室として、粗相のないように振る舞うのだぞ?」



 …………え、ゴメン、誰?
 土岐……なんて言った?

「……どうした、帰蝶。返事は?」

「……あっ、は、はい! 承知致しました!」

 と、とにかく! 誰が相手だろうがどうせ私に拒否権なんてないんだ!
 この場は道三に大人しく従っておいて、細かいことは後から考えろ!

「……しっかりしろよ、帰蝶。武家の嫁というものは過酷だぞ?」

「……はい。重々、承知しております」

「……それならばよい。……未来がどうなろうとも、気を強く持てよ」

 その時私は初めて、僅かながら道三に父性というものを感じた。
 今の彼からは目の前の相手に毒を垂れ流す蝮らしさは見られず、嫁入りする娘を心配する父親のようにも見えた。

「……話は終わりだ。後のことは小見に聞けい」

「は、はい……では、失礼致します」

 でも、未来がどうなろうともって……それってつまり、私の未来が暗いものになる可能性が、道三には見えているってことだよね?

 土岐ってのは確か美濃のお偉いさん……ザ・下克上の道三とは如何にも相性悪そうだ。
 昨日の夜、孫四郎兄さんは私の嫁入りを人質同然って言ってたし……今回の嫁入りの真意は、私を土岐への人質に出すことで、斎藤と土岐の間を取り持とうって考えなのかな?

 ……でも、あの道三が大人しく仲良くするなんて思えない。
 さっきの言葉も、いつか道三がまた土岐と戦争をするって意味なら……

 ……ヤバい、体が震えてきた。
 なんだよコレ、どう転んでも私の将来は真っ暗闇なのか?
 で、でも、私が帰蝶なら、いつかきっと織田信長と結婚できるはず……
 いや、私の振る舞いが不味かったせいで、本来の歴史とは運命が変わったらどうする?
 もしかしたら私は……信長に嫁ぐことなく、ここで死ぬのか?



「……顔色が悪いですよ、帰蝶」

「……母上様……」

 いつの間に……いや、私が気づかなかっただけだ。
 今の私はきっと、周りから見たら情けない姿に見られているんだろうな。

「……嫁入りを、不安に思っているのですか?」

「……はい。果たして私の未来は、どうなるんだろうって……」

 嫁入りではなく、人質。
 もう私の頭の中はその認識で凝り固まってしまい、いつ殺されるのかという不安しか考えられなくなっていた。

「……大丈夫ですよ。大殿様はまだ、親としての情を失っているわけではありません。あの方が今後どのような選択をとろうとも、まず第一にあなたの無事を考えるはずです」

 ……見透かされているのか、私の不安が、この人には全て。

「……父上は、私を見捨てずにいてくれるでしょうか?」

「ええ。あのお方は、なんだかんだ言いつつ肉親には情を持っています。目に入れても痛くないほど可愛い娘に試練は与えても、命を奪う真似はしません」

 ……そうだ。さっきの道三のあの顔……あれは、単純に私のことを案じてくれていたのか?
 私は、ほんの一瞬だけ見えたあの父性を信じてもいいのか?

「……信じて下さい、あなたの両親を」

 ……信じる、私は……

「……分かりました。父上のことも、母上様のことも、私の心の拠り所として信じます。……だから、裏切らないで下さい……」

 我ながらなんて弱々しい声だ。
 こんな弱さで、本当にこの戦国時代を生きていけるのか?
 「帰蝶」がちゃんと勤まるのか?

「……ええ。裏切るはずがないでしょう。親も、子も、裏切ってはならない存在なのですから」

 大丈夫……大丈夫。この人は私を裏切らない。
 だから私も、この人を裏切らないようにしなくちゃいけない。

 私は……斎藤家の「駒」として、立派に役目を果たしてみせる!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...