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第二章 再会

2-3 道連れ

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 あまりじろじろと見過ぎたせいか、董星とうせいの視線に指揮官の女は気を悪くしたようだ。
 董星は悪びれずに言った。
「では、車輪のみを貸しましょうか」
「車軸の幅が合いましょうか」
 董星の提案に指揮官の女は懐疑的だった。そこに高人こうじんが口を出した。
「見た所、同じです。合うかと存じます」
 これには董星も驚いて高人を見た。
 会話を聞いていた侍女の目がぎらりと光って、一瞬、高人との間に火花が散った。だがこれには当人同士以外、気づいた者はなかった。

 董星に向かって高人は言った。
円了えんりょうにやらせてみましょう」
 円了というのは、出自は知れないが器用な男で、今は董星の腹心の部下だった。彼ならばと、董星は高人の言葉にうなずいた。


 董星たちの隊列にも事情が伝えられた。

 董星たちの車から外された車輪が、女たちの車に付け替えられた。高人の言う通り、車輪は別の車の車軸にもぴたりとはまった。まるであつらえたようだった。
 円了はあり合わせの道具で、器用に車輪の留め具を固定した。手際の良さを董星が褒めると、円了はにこりともせず、董星の耳元でつぶやいた。
 「この馬車は、空だ。人は乗っておらん」

 人が乗っていない。どういうことだろう。
 自分とて同じ状況であることを棚に上げて董星は不審に思った。
 では、馬車に乗るべき賓客は、隊列の中にいるということだ。それはいったい誰だ?
 さらに、人が乗らないのなら、この馬車でなければと固執する理由は何だ?
 
「おかげさまで助かった」
 いつのまにか董星の隣に指揮官の女が並んでいた。
 馬車が直った安心も手伝って、指揮官の女はわずかに微笑んだ。董星も笑みを返し、尋ねた。
「この道は王都へ続く。向かう先が同じなら、同行しても?」
「構わない」
 指揮官の女は言葉少なく答えた。指揮官の女が傍らにいる侍女を振り返ると、侍女は深々と頭を下げて恭順の意を示した。 

 董星たちは隊列を二つに分けた。
 董星、高人、円了の三騎が女たちと同行する。残り部隊は、来た道を離宮まで戻るか、あるいは途中の村で車輪を調達するかして、車の修理が済み次第、三人の後を追う。
 女たちの隊列の先頭には指揮官の女と董星が馬を並べた。そのすぐ後ろの騎馬の列に円了が、馬車の御者は侍女がつとめ、馬車の後方には高人が続いた。

 話を聞くと、女たちも出立は昨日の予定だったのが、雨天のため今日にずれこんだとのことだった。
 道中、董星と指揮官の女は言葉を交わしたが、自分たちは何者で、どこから来たのか、どこへ行くのか。二人とも肝心のことは話そうとしなかった。

 一行は間もなく、王都を囲む城壁に差し掛かろうとしていた。



 
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