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第二章 再会
2-4 城壁
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王都をぐるりと環状に囲む城壁。
董星たちの一行がまずたどり着いたのは柏月門と呼ばれる西の北側に位置する城門だったが、門扉は閉ざされていた。
城壁の前で衛兵に聞くと、一昨日よりこの門は修復工事のため閉ざされている。急な話とも思ったが、何か深刻な状態が見つかったのであればそれもやむを得ないとみえた。
確かに周囲に行き交う人や牛馬車の姿はなく、代わりに、ところどころを柵で囲い、土石の類が積み上がっている。
馬車を乗り入れたいならば南側の赤影門へ行けと衛兵に言われたので、その通りに城壁に沿って道を進む。
途中、城壁の上部で肩に天秤棒をかつぎ足早に歩く人夫の姿がみえた。大掛かりな牽引具を使って、城門の外側で石材を引き上げるのも見える。
董星が水筒から水を飲もうと目線を上げると、城壁の上の人影がさっと動いて壁の内側に隠れた。そのとき董星たちの隊列は、馬車の前後を騎馬が守って、城壁沿いの道を前後に長く伸びて通っているところだった。辺りは不思議と静かで、董星はどこか違和感を感じた。
故意か事故か。
「危ない!」
董星は叫んで、馬の腹を隣を並んで進んでいた指揮官の女の馬にぶつけるように寄せた。馬は驚いていななき、城壁から離れるように大きく横にそれた。指揮官の女は強く手綱を引いて、
「何をする!」
と怒鳴ったが、はっとして一瞬前に自分たちがいた場所を見た。人の頭ほどの大きさの石が転がって、土煙を上げていた。
次の瞬間、董星たちのすぐ後ろで轟音と木が砕けるような音が響いた。何頭もの馬の鳴き声、駆ける音。辺りは土煙が上がり全く見通すことができない。
間もなく煙の中に馬車の影が浮かび上がった。馬車は中央の屋根部分から大きく裂けて潰れている。少し離れて巨大な石材も一部崩れて転がる。轟音はこの石材が城壁から落下した音だろうか。
隊列の騎馬が速歩で駆けて董星たちの方にやって来るのが見えたが、馬車の周りには車を引いていたはずの馬も、馭者をしていたはずの侍女の姿もなかった。
「蓉杏ー-!」
と、指揮官の女が絶叫した。が、それに対してはすぐに男の声が応えた。声は高人だった。
「無事です。止まらないで、赤影門まで駆けてください」
「承知!」
董星は高人を信用した。なおも後方を気に掛ける指揮官の女の馬を蹴った。馬は走り出した。
落石は続いていた。留まっているのは危険だった。二人は隊列の先頭に立って駆けた。
その時、閉ざされていたはずの柏月門が開き、中から一台の馬車が現れた。その馬車は董星たちを追うように、赤影門へと向かった。馬車の窓から人が顔を出し、持っていた布切れを振って見せると、不思議と落石がぴたりと止んだ。
董星たちの一行がまずたどり着いたのは柏月門と呼ばれる西の北側に位置する城門だったが、門扉は閉ざされていた。
城壁の前で衛兵に聞くと、一昨日よりこの門は修復工事のため閉ざされている。急な話とも思ったが、何か深刻な状態が見つかったのであればそれもやむを得ないとみえた。
確かに周囲に行き交う人や牛馬車の姿はなく、代わりに、ところどころを柵で囲い、土石の類が積み上がっている。
馬車を乗り入れたいならば南側の赤影門へ行けと衛兵に言われたので、その通りに城壁に沿って道を進む。
途中、城壁の上部で肩に天秤棒をかつぎ足早に歩く人夫の姿がみえた。大掛かりな牽引具を使って、城門の外側で石材を引き上げるのも見える。
董星が水筒から水を飲もうと目線を上げると、城壁の上の人影がさっと動いて壁の内側に隠れた。そのとき董星たちの隊列は、馬車の前後を騎馬が守って、城壁沿いの道を前後に長く伸びて通っているところだった。辺りは不思議と静かで、董星はどこか違和感を感じた。
故意か事故か。
「危ない!」
董星は叫んで、馬の腹を隣を並んで進んでいた指揮官の女の馬にぶつけるように寄せた。馬は驚いていななき、城壁から離れるように大きく横にそれた。指揮官の女は強く手綱を引いて、
「何をする!」
と怒鳴ったが、はっとして一瞬前に自分たちがいた場所を見た。人の頭ほどの大きさの石が転がって、土煙を上げていた。
次の瞬間、董星たちのすぐ後ろで轟音と木が砕けるような音が響いた。何頭もの馬の鳴き声、駆ける音。辺りは土煙が上がり全く見通すことができない。
間もなく煙の中に馬車の影が浮かび上がった。馬車は中央の屋根部分から大きく裂けて潰れている。少し離れて巨大な石材も一部崩れて転がる。轟音はこの石材が城壁から落下した音だろうか。
隊列の騎馬が速歩で駆けて董星たちの方にやって来るのが見えたが、馬車の周りには車を引いていたはずの馬も、馭者をしていたはずの侍女の姿もなかった。
「蓉杏ー-!」
と、指揮官の女が絶叫した。が、それに対してはすぐに男の声が応えた。声は高人だった。
「無事です。止まらないで、赤影門まで駆けてください」
「承知!」
董星は高人を信用した。なおも後方を気に掛ける指揮官の女の馬を蹴った。馬は走り出した。
落石は続いていた。留まっているのは危険だった。二人は隊列の先頭に立って駆けた。
その時、閉ざされていたはずの柏月門が開き、中から一台の馬車が現れた。その馬車は董星たちを追うように、赤影門へと向かった。馬車の窓から人が顔を出し、持っていた布切れを振って見せると、不思議と落石がぴたりと止んだ。
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