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第二章 再会
2-5 合流
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赤影門で騎馬の隊列は合流した。全員の顔が揃った。ただし馬車を除いて。
破壊された馬車は、柏月門と赤影門との間にとり残されたままだった。
そういえば円了は、車輪の修理をしたとき、この馬車には誰も乗っていない、と言っていた。それならば捨ててきたところで実害はないのだろうと董星は思った。
今は馬車よりも気になることが董星にはあった。馬車を引いていた侍女の名前だ。
確か、蓉杏、と言った。ただの偶然かもしれないが、その名前に聞き覚えがあった。
侍女は馬車の馭者をしていたのだが、馬車を失い、今は高人の馬に共に乗っていた。
円了が空の馬を引いて高人の馬の隣に並んだ。侍女は馬上で器用に立ち上がると、円了が引いてきた馬に跳び移った。左右で、高人と円了が手を貸してそれを助けた。
侍女は自分の馬を得ると指揮官の女の隣に来た。
「蓉杏」
と、指揮官の女はもう一度彼女の名を呼び、馬上で二人は抱き合ってお互いの無事を確認した。
「董星様、ご無事で」
董星の隣にも高人が馬を寄せた。
「高人、何ともないか」
「奇跡的に。馬車以外は無傷です」
無傷だと言ったが、高人の左肩は着物が裂け、その場所に傷を負っているようだった。
高人は自分のことについてはいつも過小に表現する。あとで忘れないように手当をしなければ、と董星は思った。
董星は抱き合っている女二人を指し示して聞いた。
「彼女には何があった? 馬車の馭者をしていたはずだが」
この時、董星が指さした女二人も、董星と高人との会話を聞きとがめ、彼らの様子を注視していた。しかし董星は彼女たちの視線に気づかなかった。高人は一瞬だけ女二人をみて、それから董星に目線を戻した。
「落石が直撃する寸前に馭者台から飛び降りたのです。それで難を逃れた。私と円了とで馬を失った彼女を拾い上げました」
高人に言われて円了もうなずいた。
「そうか、大事ないなら、よかった。それと彼女たちのことなんだが……」
董星が質問を言いかけたとき、後方から馬車が到着した。それに伴い、半分だけ開いていた赤影門が音をたてて大きく内側に開いた。
馬車は閉じていたはずの柏月門から出発した馬車で、見事な装飾の馬車だった。
一斉に衛兵たちが跪いて頭を下げ、董星たちにも馬から降りろと命じた。董星にも一応王の息子という身分があり、状況が状況ならば頭を下げて出迎えを受けるのは彼のはずなのだが、彼は抵抗する気もなく素直にそれに従った。横目で見ると、高人もおとなしく膝を折って頭を下げている。
「出迎え、大義である」
豪奢な馬車から若い男が降りて言った。堂々とした声だった。
破壊された馬車は、柏月門と赤影門との間にとり残されたままだった。
そういえば円了は、車輪の修理をしたとき、この馬車には誰も乗っていない、と言っていた。それならば捨ててきたところで実害はないのだろうと董星は思った。
今は馬車よりも気になることが董星にはあった。馬車を引いていた侍女の名前だ。
確か、蓉杏、と言った。ただの偶然かもしれないが、その名前に聞き覚えがあった。
侍女は馬車の馭者をしていたのだが、馬車を失い、今は高人の馬に共に乗っていた。
円了が空の馬を引いて高人の馬の隣に並んだ。侍女は馬上で器用に立ち上がると、円了が引いてきた馬に跳び移った。左右で、高人と円了が手を貸してそれを助けた。
侍女は自分の馬を得ると指揮官の女の隣に来た。
「蓉杏」
と、指揮官の女はもう一度彼女の名を呼び、馬上で二人は抱き合ってお互いの無事を確認した。
「董星様、ご無事で」
董星の隣にも高人が馬を寄せた。
「高人、何ともないか」
「奇跡的に。馬車以外は無傷です」
無傷だと言ったが、高人の左肩は着物が裂け、その場所に傷を負っているようだった。
高人は自分のことについてはいつも過小に表現する。あとで忘れないように手当をしなければ、と董星は思った。
董星は抱き合っている女二人を指し示して聞いた。
「彼女には何があった? 馬車の馭者をしていたはずだが」
この時、董星が指さした女二人も、董星と高人との会話を聞きとがめ、彼らの様子を注視していた。しかし董星は彼女たちの視線に気づかなかった。高人は一瞬だけ女二人をみて、それから董星に目線を戻した。
「落石が直撃する寸前に馭者台から飛び降りたのです。それで難を逃れた。私と円了とで馬を失った彼女を拾い上げました」
高人に言われて円了もうなずいた。
「そうか、大事ないなら、よかった。それと彼女たちのことなんだが……」
董星が質問を言いかけたとき、後方から馬車が到着した。それに伴い、半分だけ開いていた赤影門が音をたてて大きく内側に開いた。
馬車は閉じていたはずの柏月門から出発した馬車で、見事な装飾の馬車だった。
一斉に衛兵たちが跪いて頭を下げ、董星たちにも馬から降りろと命じた。董星にも一応王の息子という身分があり、状況が状況ならば頭を下げて出迎えを受けるのは彼のはずなのだが、彼は抵抗する気もなく素直にそれに従った。横目で見ると、高人もおとなしく膝を折って頭を下げている。
「出迎え、大義である」
豪奢な馬車から若い男が降りて言った。堂々とした声だった。
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