白の皇国物語

白沢戌亥

文字の大きさ
467 / 526
第四章:万世流転編

第二六話「嫁奪り」 その六

しおりを挟む

《現在、我らが故郷は航宙艦による武力攻撃を受けている。戦闘要員は所定の集団を形成後、各氏族の命に従い迎撃態勢を取れ。現在我々は侵略を受けている――》
《これは侵略ではない。彼らは我らに奪われたものを取り返しに来ただけだ。すぐに首謀者を捕らえ、彼らと交渉を行うべきだ。そのためにも、可能な限り武力の行使は避けろ。これ以上彼らの怒りを買うな。第九衛星と同じ目に遭うぞ》
《忠勇なる同胞諸君。これが我らの聖戦だ。忌まわしき堕神を討ち、我ら八洲の神々の汚点を雪ぐのだ。これは我らがこれからも生き残るために必要な聖戦である。我らを力なき神族へと貶めた堕神を許すな》
 ほぼ同時に、三つの通信が飛び交う。
 ひとつはこの事態を所定の規則に当て嵌め、その規定通りに収拾しようとする者たち。
 ひとつは現状をもっとも正しく把握し、それを元に状況の打破を行おうとする者たち。
 そして最後のひとつは、真子を捕らえ、これを討つことで八洲神群の緩やかな滅びを避けようとする者たちだ。
 いずれも〈天照〉による攻撃に動揺し、自分たちに同心するのがどの神であるのか分からず、こうして全方位に向かって通信を飛ばしていた。

「陛下、通信の逆探知が完了しました」
「ご苦労」
 レクティファールは巨大樹の頂点付近の枝に寄り掛かりながら、傍らに侍る剣闘精霊に答えた。彼女は他の二名に較べて探知機能に優れ、レクティファールの〈皇剣〉の機能を補助する端末としての役割を持っていた。
 或いは、彼女の方がレクティファールよりも〈皇剣〉を上手く扱えるかもしれない。レクティファールは仮面の下から自分を覗いているであろう先達から顔を背け、目的に向かって跳んだ。
「――各方面とも、大暴れね」
 追従するエリザベーティアの呟き。
 レクティファールは遥か遠くの森の中から姿を見せた『天翔戦船』に向けて誘導光弾を一〇二四発ほど放つと、それが織物を作り上げるような軌道を描いて飛翔する様を眺めた。
「暴れて貰わなければ困ります。そのために連れてきた」
「冷たいね」
「彼らが欲する優しさというのは、戦場を提供して放置することですよ。彼らは私に親しみを抱いてくれているでしょうが、それ以上に初代陛下に親しみを抱いている」
「まあ、気持ちは分かるよ。あの人たちにとって初代は戦友だもの。一緒に行軍して一緒に野営して一緒に娼館に行ったら、大抵のヒトは親近感抱くでしょ?」
 親友の子孫が困っているからひとつ助けてやろうというのが、悪童たちの参戦理由のもっとも大きな部分だ。
 国に対する愛情がないとは言わない。
 だが彼らにとって国とは建国され、初代皇王がこの世界から消滅した時点で過去のものになった。それ以上の価値を彼らが国に見出すことはないだろう。
「でも、彼らは本心からあなたに助力している。真子を助けようという意思も間違いない」
「分かっています。だから私も彼らを信じている」
 迎撃を潜り抜けた誘導光弾が次々と『天翔戦船』の船体に突入し、爆発を起こす。
 ふたりは前方の山陰から姿を見せた大型船に同時に剣先を向け、それぞれ蒼と赤の光軸を発射する。
 ふたつの光軸を捻れるように融合し、白い光となって大型船に接触。一瞬でその半身を蒸発させる。
 断末魔の如き破砕音を立てて落下していく大型船を尻目に、ふたりは彼方に姿を見せた八洲神族を悉く叩き落とした。中には目の前にいるのが〈皇剣〉だと気付いて戦意を失った者もいたが、レクティファールたちがそれを斟酌する理由はない。
 彼らにとって目の前にいるのは敵か、いずれ敵になる者かのどちらかだ。
「もっと優しいと思っていたのだけどね。少なくともいつものあなたなら、もう少し手心を加えていた」
「手心を加える意味があるならそうする」
「寝台の中でと同じように?」
「――そうしなければ機嫌が悪くなるだろう。加えすぎても機嫌が悪くなるし、機を誤っても機嫌が悪くなるし、何もしなくても機嫌は悪くなるが」
 レクティファールはエリザベーティアを一瞥する。
 いつの間にかレクティファールの趣味とされた戦闘装束だが、実際のところ彼女の好みが一番大きな影響を及ぼしている。
 戦いやすければ他人からどのように見えても気にしない。それがエリザベーティアという女だ。
「ああ、なるほど。今回の戦いもそれね」
「察しが良くて助かるよ」
 そう、この戦いもまた、レクティファールとその妃の探り合いの一環なのだ。
 相手はレクティファールが救いに来ることを確信しているだろう。だが、その時期と方法については査定対象であることは間違いない。
「変な助け方したら、今後一生ネタにされ続けるのね。――でもそうなら、わたしがこうして一緒にいるのは大丈夫なの?」
「真子は、少なくとも義理の姉妹の誰かなら一緒にいても怒らない。もうひとりの妻は、そうだな……君が妹である限りは多少理性を保つ」
「妹にみっともないところは見せられないから?」
「それは知らない。ただ、身内になればなるほど、強固な見栄が必要になるとは知っている」
 上空から飛来した八洲神族の一群が、レクティファールの姿を見付けて混乱しているのが見える。
 エリザベーティアは仰向けになると両手の剣を光の粒子に変え、鞭のようにしならせたそれで八洲の神々を打ち据えていく。
 抵抗しようとした者もいたが、エリザベーティアにとってのそれは自分の武技を盛り上げるための一助でしかない。彼らは自分たちが元皇王の錆を落とすための道具にされているとは気付かないに違いない。
「あ、見えてきた」
 エリザベーティアは前方遠くに滲み出てきた巨大な影を見て、頬を緩めた。
 かつての瑠子の座所――『神樹』だ。
「今度、あれに似せて後宮も改装してあげたらどう?」
「怒らせたときのご機嫌取りとして取っておくよ」
 嘆息したエリザベーティアは、そんな姑息な男を可愛いと思える種類の女だった。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。