魔法使いの生首が異世界への架け橋でした。

桐谷雪矢

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激動の一日。

2.お前は誰だと訊かれても

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 アパートに戻ったオレは、自転車を抱えて玄関を潜った。三軒並ぶメゾネットタイプのアパートの右端がオレの部屋だ。一応、ポストには名字だけ「緋川ひかわ」と雑にマジックでプレートに書いて貼ってある。男でも未成年の一人暮らしだからフルネーム書くのはやめとけよ、とクラスメイトにからかい半分に言われたからだ。自転車はよく盗られるんで玄関の中に入れて立てかけている。そこの前籠からバッグを引き出して、あれ?と小さな違和感に気付いた。

 コレ、オレのじゃなくない?

 オレのバッグん中は体操服と水筒と……そんなに重いモノ入れてない。しかしコレ。なんだかずっしり感がすごいんだけど。教科書間違えて入れて来ちゃった……はずはない。
 あれ? もしかして、アレか、さっきぶつかった時に間違って持って来ちまったとかいう、お約束なヤツ?
 どうしよう、この重さ、開けたら札束とか非合法なブツだったりしたら、オレ、ヤバくない? でも、持ち主の特定はできるかも知れないし……じゃない、向こうがオレのバッグを持っているなら、ここはもうバレてるも同然だ。生徒手帳、あの中だ。住所がわかるモノはないハズだけど、名前と学校、バレバレだ。
 やべぇとか呟きながら、焦ったオレは勢いでバッグを開けてしまった。
 そこには……。

「っぷはぁああああっ、やっと出られ……て、お前、誰?」

 バッグの中には、人がいた。いや、厳密には、人の頭らしきモノが入っていた。ソレが、こちらを見て、喋っている。
 これは……ええっと、コレは、いわゆる生首っぽいんだけど?
 でも、こっち睨んで喋ってるんだけど?
 首しかないんだけど?
 生首って生きている首って意味じゃなかったと思うんだけど?
 オレの頭は真っ白に弾け飛んで、再び反射的にバッグのファスナーを閉めた。

「……やっぱ、オレ、疲れてんだな、うん。いろいろあったしな。コレは明日、拾ったビルに置いてこよう、そうしよう」

 なんだかバッグが動くような気がするけど気のせいだろう。シャワーを浴びたら、空になったままの浴槽に放り込んでおけばいい。とにかく寝よう。朝になったら……。



 結果から言うと、空いている段ボール箱に入れ養生テープで閉じて、二階の洗濯物がちょっと干せる程度のベランダスペースに放置した。部屋の中に入れておくのも怖いというか気持ち悪かったのだ。そこに面した二階の部屋が寝室兼自室なのだが、階下でシャワーを浴びて、そのままリビングのソファで寝るコトにした。

 そして朝。
 見事に生首のコトは忘れていた。目にしたのは一瞬でもあったし、寝坊していたからだ。
 取り急ぎ冷蔵庫の牛乳パックを直飲みし、バナナをもぐもぐ、スマホの通知欄だけはチェックする。毎朝の最低限の日課だ。
 しかし、とにかく急いで学校へ……と、支度をしかけてすぐに思い出した。そう、通学に使っているスポーツバッグがない、そこには一応は参考書的な本やノートが入っているわけで、バッグとその中身を思い出さないわけにはいかなかったのだ。

「ああああ、どうしよう、学校行けないじゃん、考えてみたら、授業困るじゃん」

 帰宅部ではあっても、それなりに真面目な高校生なのだ。
 取り返さないと。そうなると、アレ、どうしよう……。
 開けるのも怖いし、昨日のヤクザみたいな黒いヤツと交換出来たとしても、知らなかったフリが通じるとも思えない。そもそももう会いたくもない。
 ネットで相談してみようか。いやいや、生首拾いました、喋りました、なんて怪しすぎる。そんなの見てもオレだったら、はいはいワロスワロス、でスルーする。
 どうしよう。
 オレは困ってベランダへの窓を開けた。その音に気付いたのか、段ボール箱がはげしく揺れ出した。

「そこっ、さっきのヤツ、いるんだろぉっ、開けろぉっ、出せぇええっ」

 中のヤツが大声で騒ぎ始めた。ちょっと待て、下を歩くゴミ捨てに出たおばさんが変な顔して見上げてるじゃねぇか。オレは慌てて手にしていたスマホを見えるように持つ。それを見て、納得したような顔をして通り過ぎていった。ほっとしたのも束の間、すぐにまた「出せぇっ」と騒がれ、オレは腹をくくった。

「出す、出すからちょっと静かにしてくれっ。これじゃあオレ、不審者だからっ」

 バッグに詰められ、さらに段ボールに入れられてる割には、よく通る声だった。口調はガラが悪いけど、むさ苦しい男の声ではない。でも、女の声かと言われたら、それは違う気がする。アニメで成人男性キャラをハスキーボイスで低い声の女性が演じている、みたいな感じもする。なんにしても、バッグと段ボール箱越しにちょっと聞いただけなので、あくまでも第一印象だが。
 オレは箱を持って部屋に戻り、おそるおそる養生テープを剥がした。段ボール箱を開けると、バッグがわさわさ動いているのがわかる。

「出~せ~っ、ここから出~せ~っ」
「わぁった、わかったから、静かにしてくれ、山の中の一軒家じゃねえんだからっ」

 おそるおそるバッグのファスナーを開ける……と、やっぱり中には、生首としか言いようのない、首から上しかない頭がこちらを向いて睨んできた。普通は生首というのは死んでいるんだろうが、コレは肌艶よさそうだし血色もいい。髪は身体があるなら肩の下くらいの長さだろうか。黒くて艶やかなさらさら髪。
 そして、思わず怖いモノ見たさで見てしまった首の先。これが、なんというか、認識できないのだ。空間にぼかしが入っているような。目が霞んでいるみたいだ。

「おい。いつまでじろじろ見てんだ、気色悪いな、てめぇ」
「……首しかないのに……態度でか……」
「わぁるかったなぁああっ、首しかなくてっ」
「……殴っても切り刻んでも抵抗できなさそうなのに、態度でか……」
「……っ、てめぇっ、きたねぇなぁっ」
「……うわぁ……」
「……………………」

 首から下がないコトは、スマートフォンのビデオチャットみたいだと思えばいいかも。そうやって切り替えてしまうと、単にこいつの態度が気に入らない。つい売り言葉に買い言葉で言い返してしまっていたが、冷静に考えれば考えるほどこの首の存在は理不尽すぎた。
 どうして、生首。
 なんで喋る。
 夢……じゃない。

 落ち着こうと深く溜め息をついたところで、スマートフォンが鳴った。
 メッセージを開くと、クラスの連中からいくつかメッセージが届いている。

 ───今日は休みか?
 ───どうした? 夏風邪は馬鹿がひくもんだぞ? あ、馬鹿だっけか。

 そんな文面を見て時計に目を向けたオレは、学校はもう休もう、と肩を落とした。

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