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第四章
らいぶ・らいふ。1
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誰もが予想し望んだ通りに、好天に恵まれた当日。
会場になっている公園の近くを巡回しているバスに、和泉と酒寄は揺られていた。
自転車で来られる場所なのだが、酒寄が自転車に乗れないことが発覚し、だったら、とバスになったのだ。
バスの中は、同じく公園の鬼さまゲリラライブ目当ての若い女の子が多かった。「事前にこんだけわかってたら、ゲリラじゃないよね~」ときゃらきゃらと笑っているのが聞こえて、心の中で和泉は深く頷いていた。
その和泉はグレーのTシャツにポケットの多い多機能ベストを着ている。ポケットごとに札など詰め込んだおかげで、手ぶらで身軽だ。足元は靴底が厚めのスポーツシューズを選んである。
そして酒寄の方は、白いシャツに白いジーンズという真っ白な出で立ちで、妙に浮いていた。
「もうちょい色つきにすれば良かったのに……途中では変えられねぇの?」
「白が落ち着くんですねぇ。地の色だからですかねぇ」
のんびりと返す酒寄は足元のスニーカーも白だ。公園みたいなところではすぐに土の色がついてしまいそうだが、気にしてはいまい。実際、公園の地面は雨上がりでところどころに緩いところがあり、ぬめっているので、立ち入ってすぐにスニーカーは歴戦の勇士のような色合いになってしまうのだが、それは後の話である。
「それよりぃ、こういうのは気持ち……精神的に強い方が有利なんですよぅ。本来の和泉くんは、怖がりさんですからぁ、びくついたらやられますからねぇ?」
ゆっくり、言葉に力を込め、人差し指を口元に添えて戒める。和泉も、わかってる、と目に力を入れて頷いた。
窓の外は住宅街を抜けて田畑が見え隠れし始めた。ここを過ぎれば会場となっている公園だ。酒寄は相変わらずのペースで、バスの移動が珍しく楽しいらしく、目を煌めかせて外を見ている。そして和泉は何度も深呼吸を繰り返し、どうにかなるどうにかなる、とぶつぶつ呟いていた。
とにかく、鬼さまの正体を知りたい。
どうしてオレにああいう態度を取ったのか。
もしかして、酒寄に呪いをかけた側の関係筋じゃないんだろうか。
だったら、解き方も知っているんじゃないか。
でも、山での態度からするに、知っていても教えてくれるか怪しいし、それどころか危害を加えてきたら……。
楽しそうな乗客たちと、深刻な顔つきの和泉にマイペースの酒寄を乗せたバスは、墓地との共有駐車場前で止まった。
下りるときにイヤでも目に入った「市営墓地はこちら」の看板。
目から光が消えていく和泉の背を、ぽんぽんと酒寄は押した。
会場になっている公園のステージへと向かう若い女の子たちに紛れても、どことなく違和感が漂うふたり連れは、彼女たちの格好の餌でもあった。それなりのルックスは持ち合わせている和泉と、少し浮世離れしている感のある酒寄という組み合わせである。いったいどんな関係?とある種の期待を持って見つめられたり、或いは、鬼さまの関係者かしらんと憧れを含んだ視線を送られたりで、微妙に居心地がよろしくなかった。
「な、なぁ、酒寄……ちょっとばかり、考えなしすぎたかな……」
「なにがですかぁ、もしかしてさっきの看板でびびっちゃったんですかぁ?」
「ちっ、ちげぇしっ、てか、酒寄、お前鈍感すぎ……」
はぁ、とため息を漏らす和泉だったが、おかげで少しリラックス出来たことには気がついていない。
と、そこへ、ステージになっている方から、大音量の音楽が聞こえてきた。
嬌声を上げたり、どよめいたりしつつ、女の子たちは足早になった。
「やだっ、もう始まっちゃう? 早くない?」
「え~? 始まるまでまだ余裕のはずだよ?」
「あれ、ただのリハーサルじゃないの?」
どうやら、いつも動画のイントロで流れている音楽のようだ。確かになんとなく聞き覚えがあった。
足早にステージに向かう女の子たちに反して、和泉の歩みは遅くなり、ぞくりと背を震わせて足を止めた。
なんだよ、この威圧感。
音だけじゃなくて……なんか、殴りつけてくる感じ……。
和泉は助けを求めるように酒寄を見た。
「和泉くん。だいじょうぶですよぅ。あたしがついてますからねぇ」
そういう酒寄の目は、もう笑っていなかった。
会場になっている公園の近くを巡回しているバスに、和泉と酒寄は揺られていた。
自転車で来られる場所なのだが、酒寄が自転車に乗れないことが発覚し、だったら、とバスになったのだ。
バスの中は、同じく公園の鬼さまゲリラライブ目当ての若い女の子が多かった。「事前にこんだけわかってたら、ゲリラじゃないよね~」ときゃらきゃらと笑っているのが聞こえて、心の中で和泉は深く頷いていた。
その和泉はグレーのTシャツにポケットの多い多機能ベストを着ている。ポケットごとに札など詰め込んだおかげで、手ぶらで身軽だ。足元は靴底が厚めのスポーツシューズを選んである。
そして酒寄の方は、白いシャツに白いジーンズという真っ白な出で立ちで、妙に浮いていた。
「もうちょい色つきにすれば良かったのに……途中では変えられねぇの?」
「白が落ち着くんですねぇ。地の色だからですかねぇ」
のんびりと返す酒寄は足元のスニーカーも白だ。公園みたいなところではすぐに土の色がついてしまいそうだが、気にしてはいまい。実際、公園の地面は雨上がりでところどころに緩いところがあり、ぬめっているので、立ち入ってすぐにスニーカーは歴戦の勇士のような色合いになってしまうのだが、それは後の話である。
「それよりぃ、こういうのは気持ち……精神的に強い方が有利なんですよぅ。本来の和泉くんは、怖がりさんですからぁ、びくついたらやられますからねぇ?」
ゆっくり、言葉に力を込め、人差し指を口元に添えて戒める。和泉も、わかってる、と目に力を入れて頷いた。
窓の外は住宅街を抜けて田畑が見え隠れし始めた。ここを過ぎれば会場となっている公園だ。酒寄は相変わらずのペースで、バスの移動が珍しく楽しいらしく、目を煌めかせて外を見ている。そして和泉は何度も深呼吸を繰り返し、どうにかなるどうにかなる、とぶつぶつ呟いていた。
とにかく、鬼さまの正体を知りたい。
どうしてオレにああいう態度を取ったのか。
もしかして、酒寄に呪いをかけた側の関係筋じゃないんだろうか。
だったら、解き方も知っているんじゃないか。
でも、山での態度からするに、知っていても教えてくれるか怪しいし、それどころか危害を加えてきたら……。
楽しそうな乗客たちと、深刻な顔つきの和泉にマイペースの酒寄を乗せたバスは、墓地との共有駐車場前で止まった。
下りるときにイヤでも目に入った「市営墓地はこちら」の看板。
目から光が消えていく和泉の背を、ぽんぽんと酒寄は押した。
会場になっている公園のステージへと向かう若い女の子たちに紛れても、どことなく違和感が漂うふたり連れは、彼女たちの格好の餌でもあった。それなりのルックスは持ち合わせている和泉と、少し浮世離れしている感のある酒寄という組み合わせである。いったいどんな関係?とある種の期待を持って見つめられたり、或いは、鬼さまの関係者かしらんと憧れを含んだ視線を送られたりで、微妙に居心地がよろしくなかった。
「な、なぁ、酒寄……ちょっとばかり、考えなしすぎたかな……」
「なにがですかぁ、もしかしてさっきの看板でびびっちゃったんですかぁ?」
「ちっ、ちげぇしっ、てか、酒寄、お前鈍感すぎ……」
はぁ、とため息を漏らす和泉だったが、おかげで少しリラックス出来たことには気がついていない。
と、そこへ、ステージになっている方から、大音量の音楽が聞こえてきた。
嬌声を上げたり、どよめいたりしつつ、女の子たちは足早になった。
「やだっ、もう始まっちゃう? 早くない?」
「え~? 始まるまでまだ余裕のはずだよ?」
「あれ、ただのリハーサルじゃないの?」
どうやら、いつも動画のイントロで流れている音楽のようだ。確かになんとなく聞き覚えがあった。
足早にステージに向かう女の子たちに反して、和泉の歩みは遅くなり、ぞくりと背を震わせて足を止めた。
なんだよ、この威圧感。
音だけじゃなくて……なんか、殴りつけてくる感じ……。
和泉は助けを求めるように酒寄を見た。
「和泉くん。だいじょうぶですよぅ。あたしがついてますからねぇ」
そういう酒寄の目は、もう笑っていなかった。
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