人間やめますか?

桐谷雪矢

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18.隣。

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 将のクラスは比較的すぐに平穏を取り戻していた。
 問題は、隣の良太のクラスだ。
 香奈はもちろん、ケイがいる。
 カイは動画の差しかえもする程度には、美鶴の洗脳めいた術が効いて完全に忘れている。
 しかし、ケイにはどういうわけか効きが弱いようで、ずっと怪訝な顔をしていた。
 それはおそらく、もっと気に掛かる事案が出来てしまったせいかも知れない。
 席について指を軽く組んだ拳を口元に当てて、宙を見つめている。

「おはよう……ケイちゃん、どうしたの?」

 きゅるんっと首を傾げてケイの正面に回り、前の席の椅子を借りて座る。

「……ケイちゃん?」

 すぐに反応しないケイに、やや力の入った声音で問いかける。
 はっ、と視線を下ろして香奈に気付くと、ぶるるっと頭を振って指を解いた手でぱんぱんっと自分の頬をはたいた。

「ごめんごめん、ちょっと考え事してただけっ。あ、そうだ、うちにおいでって言ったの、ちょっと待っててね。なんかちょっと兄がばたばたしてて落ち着かないのよ。来週になれば大丈夫だと思うから」
「ううん、いいの。急がないし。それよりも、なにがあったの?」
「……んんん、ごめんね、あんまり話したくないコトなんだ……っと、そうだ、あいつはどうしてる?」
「あいつ……?」
「ほら、あのチビ助。さすがに懲りたでしょうよ」

 あ、やっぱりダメだわ、と内心でため息を漏らす。
 元々関心が薄い層には、知らなかったよね、と言えば、うんうん知らない、と思わせて終わる程度の暗示なのだが、深く関わっている相手やそれより強い関心に囚われていたりすると、直接しっかり暗示が必要だった。

「どうして彼が気になるの?」
「どうしてって……香奈にちょっかいかけてくるからに決まってるでしょ。香奈は気にしなくていいのよ。あたしが変なのから護ってあげるからね」
「ありがと、ケイちゃん。でも、ケイちゃんになにかあったら、あたしが悲しくなっちゃうから、気をつけてね?」

 その香奈のセリフにケイは頬を赤らめて破顔した。

 ……使えるかと思ってたけど、適当にあしらわないと……。

 その様子をにこやかに見ながら、やりすぎたかしら、と心の中で香奈はちろりと舌を出していた。

 そもそも最初に声を掛けてきたのは、ケイの方だった。
 入学式の日。
 じっと見られている視線に振り返ると、ほわっとした目つきで、香奈を見詰めていた。
 その視線の意図するところは、なんとなくわかってはいたけれど、面倒なので放っておいた。
 香奈が気にしているのは、将のコトだけだったから。

 クラスが同じになり、気がつくとケイはいつも傍にいるようになっていたが、香奈には香奈の思惑があったようだった。
 他のクラスメイトからは、凸凹コンビだのあれこれ言われているが、だから?とお互いも意に介していなかった。
 まさか、将に嫉妬するようになるなどと、考えてもいない。

 ふと、とある考えが脳裏に浮かんだが、まさかねぇ、と、香奈は緩く頭を振った。

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